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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
二章【再会編】
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歌声丘の事件6

兵器の残骸を前に佇むカリダ。彼が望んだ為、センティーレが広くした結界によって、兵器は結界の中にあった。


粗末な衣服に身を包みながらも、豊かな金髪を風にたなびかせて物悲しげに兵器を見詰めている。バタ臭い顔立ちだが、しなやかに佇む様子はエルフのように気品に溢れ、まるで絵のようである。


背中にある白翼が神秘さを足していたが、その翼の片方には、包帯と添え木が巻かれている。


その脇では……。


「ギュワァァ!!」(この馬鹿ぁぁ!!)

「すまない、つってんだろ!」

「キュ!」(許すかぁぁ!)

「はっ!相変わらず間抜けな顔しやがって!十年ぶりの再会を祝して殴り合いでもするかぁ!?」

「ギュア?ギュー!」(ああん?受けてたつ!)

「いっってぇ!」


ドグォ! バギィ!

ガブゥゥゥゥ!


そこには、センティーレに噛み付かれて、青筋を浮かべながら怒鳴るフォルテスがいた。


センティーレの鱗の色は何故か黒くなっている。


瞳を赤く光らせて怒ったセンティーレがカプーとフォルテスに噛み付き、フォルテスはセンティーレの細長い首を掴み床に叩き付ける、といった応酬が繰り返されている。


話している内容は緊張感がないが、牛程度の大きさの竜と巨体の男が目を血走らせながら、ガチ喧嘩をしているのだ。暴れる度に地響きが響き、大地が揺れ、光り輝く。


凄まじい迫力である。


カリダは冷や汗を流しながら、あえて無視する。何か爆音が聞こえるが無視する。何故彼等が知り合いなのかは分からないが、あえて無視する。


「ななな何だべー!!」

「イケメンだけどおっかない兄ちゃんが来たべぇぇ」

「怖いべー!」

「竜様ブチ切れてるべー」


村人達が新たな驚異に、洒落じゃない位怯えている。何人かはカリダに抱き着いて、子供達はカリダの体に登って、頭や手足にしがみついて泣いていた。


「パクス殿、貴方様の側にいるその人物は兵器で」

「ああん!?」

「ギュアアン!?」(ああん!?)


目の前を、フォルテス達に話しかけた軍人が、悲鳴を上げながらぶっ飛ばされた。


彼は、そのまま仲間達の上に倒れる。そこには、フォルテスに気絶させられた軍人達が、山のように積み重なっていた。


殴り合う悪魔と竜。

抱き着いて泣く村人。

呻きながら積み上げられた十人の軍人達。

周りにはゴキブリの集団。

生々しい柘榴ちっくな断面を覗かせた兵器。



カリダは空を見て思った……。


カオス!!


■■■■■■■■■■■■


フォルテスが斬新な登場をした後、居合わせた人物達の中で直ぐさま行動したのは軍人達だった。


フォルテスの腕の中から降り、村人達に駆け寄ったカリダを見た瞬間、瞳の色を変えた軍人達が刃を片手に鋭く動いた。


「キュウウゥゥ!」(何をしとるんじゃぁぁ!)

「「ぐわぁぁ!」」


彼等がカリダに刃を向けた瞬間、センティーレのブレス(弱雷)が軍人を飲み込んだのだ。先程、一緒に戦った戦友への容赦ない一撃。


「どっどうしたんだべ? 竜様!?」

「軍人様がぁぁ!!」


村人の訴えを無視したセンティーレは、プンプン怒りながら尻尾を使い、軍人達を積み重ねた。積む度に「グエ」「おごぉ」と呻き声が響くが、これまた無視したセンティーレ。


「キュー」(ふうー)


満足そうに鳴きながら、爽やかに流れた汗を前足で拭いていると……。


「て……天使様ぁぁぁ!」

「天使様の翼がぁぁ!」


悲鳴があがった。


センティーレが振り向くと、そこには翼を押さえて苦痛に呻くカリダ。その周りで悲鳴をあげて、ムンクのような顔になっている村人達。アワワーアワワーと真っ裸の村人が慌てて走り、軍人達の衣服を裂いて包帯替わりにして治療をしていた。


村人の中には獣医のような仕事をしていた者がいた為、翼は的確に治療される。


「キュ?」


カリダの白翼が、だらりと不自然に垂れ下がり、治療で骨を動かされてカリダが苦しむのを見た瞬間。


ゴォ!!


「竜様ぁぁぁ!?」

「クアアアア!!」(カリダ傷付けた奴誰だぁぁぁ!!)


センティーレの鱗が一瞬で鱗がドス黒く染まり、目が赤くなる。


村人達が怯える中、暗黒オーラがゴゴゴと滲み出すセンティーレはギロリと軍人を見た。


何と無くセンティーレは、カリダの怪我は軍人に原因があると感じていた。先程、問答無用で襲い掛かったから仕方ないが……。


グルルと唸るセンティーレが軍人を睨むと、四肢に力を込め、牙を剥き出しにして襲い掛かった。凄まじい形相。


「グルァァ!!」

「「ギャアアアア!!」」


軍人達の悲鳴が響き、センティーレが噛み付こうとした直前。


「センティーレェェェ!」


センティーレの腹部に、フォルテスのドロップキックが突き刺さった。


「ぐぴゃああ!?」

「お前ぇぇ。やっぱりあの竜ってお前だったか!! 俺より早く兄さんに出会ってんじゃねーよ!」


撃墜されたセンティーレの首を、大きな手が握ってガクガクと前後に揺さ振る。


「俺でもまだ、兄さんに撫でて貰ってないんだぞコンチクショー!」

「キュア!?」(フォルテス!?)

「抜け駆けしやがって!」


それから一人と一匹の闘いが続いている。最初は混乱していたセンティーレだが、戦うにつれて事情を理解し冷静になり、現在は自分の苦労を無駄にされて怒っていた。


それを横目に兵器に近付くカリダ。


「兄さん、近付くな危ないぞ」


慌てて告げるフォルテスを無視して近付くカリダ。村人達は、空気を読んで彼から離れた。彼は兵器の前で立ち止まってしゃがみ、兵器の醜い顔を撫でた。彼が両手を持ち上げると、その手には小さな小さな光が握られていた。


それは、実体のない小さな蛍の光が集まったような物で、怯えるようにフルフルと震えていた。


カリダが慰めるように両手で覆ってソッと包むと、光は安心したように震えるのを止めた。


「兄さん、それは?」


フォルテスが尋ねるとカリダはフッと視線を俯かせる。光はフォルテスに怯えて震え、カリダは庇うように光を胸に抱えた。


彼は顔を上げて何度か口をパクパクと開閉したが、喉からは微かな呼吸音が漏れるのみ。


「兄さん?」


その必死な様子に、フォルテスは困惑の表情を浮かべる。相変わらず声が出ない事に肩を落としたカリダは、何かを訴えるようにフォルテスを見つめる。


「兄さんどうしたんだ?哀しいのか?」


その悲しげな震える瞳に、フォルテスが手を差し延べようとした瞬間。


ザワワ


結界の外の分身達がざわめいた。統制を無くしたゴキブリ達が、まるで蜘蛛の子を散らすように引く。


恐れていた事が起こったのだ。このままでは、被害が近隣の村にも及ぶ。


「キュ!」

「分かったよ。自分のケツは自分で拭く」


責めるようなセンティーレの目線に、フォルテスは肩を竦める。


十年ぶりに出会ったことを感じさせないような、二人のやり取り。


それを不思議そうに見つめるカリダ。


フォルテスは、懐から手の平大の短剣を出す。柄もない、鞘も白木のままのシンプルな物だが、鞘から抜いて剥き出しになった刀身は濡れるような輝きを持っていた。


彼は服の袖を捲り、それを剥き出しになった右手に当てると、一気に引いた。


ブシャ


「!?」

「大丈夫だよ兄さん」



逞しい二の腕から滴る赤い色。鉄の臭いが辺りに満ちる。


フォルテスは、滴る血液を自分の服に塗ると直ぐさま止血する。すると、数分もかからずに血は止まった。


「兵器は基本的に俺を狙うように作られている。こんな風に血の匂いを撒き散らせば、必ず俺に寄ってくる」


そう、それがフォルテスが英雄となった理由の一つでもあった。


十年前。


兵器がフォルテスを狙う事で、フォルテスは兵器との絶ゆまない闘いを強制されたのだ。


それはすなわち、彼が兵器を呼び寄せる事を意味する。


疫病神として周りから排斥され、無関係な者を巻き込む可能性がある。


フォルテスは、あえてそれを利用した。狙われるという事は、兵器達の動きをある程度操る事ができるという事だ。



兵器の群れの中に特攻をして常に兵器との戦場の中に身を起き、兵器を殲滅する。


戦場から戦場を駆け巡り、血を垂らしたフォルテスが、行動が予測不能な兵器達の進路を限定させ、兵器に襲われる村があれば自らが囮となって引き付ける。


常に危険な場所に身を置きつづけ、人を救う。


兵器が少なくなった今では、そのような事は少なくなったが、この間起こった兵器の大進攻では、彼は躊躇せずに囮となって、兵器に襲われそうになった村を救った。


フォルテスは自分の血の匂いを嗅ぎ付け、戻ってきた分身達を見詰めて獰猛な笑みを浮かべる。


「センティーレ、支援頼むぜ」

「キュ!!」


自分を狙って殺到するゴキブリ達に向かい、結界から出ようと足を踏み出す。


だが、その歩みがとまる。


「っっ!!」

「うおっ!?」


フォルテスの髪をカリダが掴んだのだ。フォルテスが振り返ると、青白い顔をしたカリダがいて、彼の前に立ち塞がり首を振っていた。


「兄さんどうした?」


首を振るカリダ。


「もしかして心配してくれているのか?」


首を縦に振るカリダ。彼の目線は、血が止まっても生々しい傷を覗かせるフォルテスの二の腕に向いていた。


「ありがとう兄さん」


微笑むフォルテスだが、彼は優しくカリダを退かせる。


「でも大丈夫。俺は強いから、俺が兄さんを守るよ」


フォルテスはカリダにニカッと笑う。


強がりでも何でもない。これは彼が十年前から行っている仕事なのだ。一切の虚構はなく、この程度でセンティーレの援護があるなら、五体満足で倒す自信はある。


だがしかし、カリダは嫌だった。


血に塗れて、一人で分身達を睨む姿に悲壮さはなく、その背中は広く強く頼りがいがある。百人が彼を見たら、百人が目の前の絶望を倒してくれると安心するだろう。


だけど嫌だった。

怖かった。


訳の分からない恐怖が胸を掻き回す。黒い群れに飛び込む血まみれの弟の姿に、守ると誇らしげに笑う弟の姿に、言いようのない感覚を感じた。


光が慰めるように彼の頬を撫でる。カリダが光に微笑みながら、涙をポロリと落とした時、その声がした。


「天使様ぁぁぁ!ごべんなざいだべぇぇ!オラ、返ずの忘れてたぁぁぁ!!」


涙と鼻水でグチョグチョのリオが駆け寄ってきた。真っ裸で走り、鼻水やらイヤンな場所やらをブラブラさせている。


カリダの前にたどり着いた彼が、ギュッと握っていた手の平を開くと、そこには美しい硝子玉が輝いていた。



そして、歌声丘に歴代最も優れた歌姫の歌声が響く。


■■■■■■■■■■■■


オラが町は果物の町

爺ちゃも婆ちゃも甘い物好き

青い屋根の家があってさ

皆でジャムを作ってた

丸い真ん丸葡萄の木

つまみ食いしてたら母ちゃんに叱られた



ある日料理屋に弟子入りし

とんとん拍子村一番

オラの作る料理は一番だべ

悠々と独り立ち

鍋と包丁携えて

目指すは都会

一旗あげること


だども都会の風は冷たいべ

田舎者と罵られ誰もオラを雇ってくれない

酒場で酒を飲んでめげそうになった時


出会ったのは可愛い子ちゃん

葡萄みたいな真ん丸お目目にボンキュバン

ニッコリわらう可愛い笑顔にフォーリンラブ


愛すべき可愛い子ちゃんにアピールアピール

可愛い子ちゃんの為なら頑張んべ

仕事も決めて薔薇の花束でお出迎え

可愛い子ちゃんは笑ってくれて夫婦になって子供二人


頑張り踏ん張り十数年

オラは宿のコックだべ

皆オラの料理たべてけろ

お勧めは特製ジャムを挟んだケーキ


オラの店は甘いお菓子のある店だ

子供も大人も食べれば頬っぺた落ちる

美味しいもんが沢山あるべ

オラの店は素敵な青い屋根のある宿

皆笑って食べてけろ

それは悲しい歌。

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