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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
二章【再会編】
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歌声丘の事件5

カサカサカサカサ

カサカサカサカサ


昆虫がざわめく音が無数に響く。まるで森の木々のざわめきのようだが、感じるのは森の木々とは違い、嫌悪感のみだった。


リオ達は、目の前をうねる黒い波を見つめ怯えていた。


小さな彼等は裸にされ、体の上には何故か塩や砂糖等の香辛料を塗られて、(まだら)になっている。中には敏感な部分にマスタードを塗られた者がいて、奇声をあげながら悶絶していた。


不自然に開けた広場にて、かたまって抱き合う彼等の目線の先には化け物がいた。


「弱火弱火、内臓とって骨抜いて蒸し焼き直火焼き、トローリジューシー!うひゃ!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


村を焼いて笑い狂っているのは、醜悪な三メートルはある肉の塊だった。


ブクブクと太った体は不健康に青白く、肉の襞が重なって波打って濃い体毛が渦巻いている。肉の襞は顔にもあり、瞼や鼻、唇が襞に埋もれて潰れている。


息をする度に、ブシュルルブシュルルと息苦しそうな呼吸音がしていた。顔肉の隙間からは、唾液とも鼻水とも涙とも知れない液体がダラダラと垂れ、肉の襞を伝い体を濡らしていた。


体には不釣り合いなオレンジ色のエプロンを纏い、頭には三角巾を着けている。エプロンを不格好に突き上げているのは、化け物の巨大な性器。その先端が滲み布の色が変わっていた。


化け物が上機嫌に足踏みすると、その肉の襞と性器がブルンブルンと揺れる。


「キャハ!!キャハハハ」


化け物が甲高く笑う。


笑う度に体の襞が所々パックリと開き、そこから舌がベロベロベロと飛び出た。


片手には斧を、片手には血が滴る真っ赤なズタ袋を握っている。


化け物の周りには、ゴキブリがたむろしてカサカサと蠢いていた。人程度の大きさのゴキブリに、人間の手を背中に一直線に生やしたような様相である。


彼等は村をビッチリと覆い、炎が燃えている場所以外は真っ黒に染まっていた。ゴキブリ達が蠢くと、まるで黒い湖面が波打つようだった。


彼等は石造りの鍋を運んでいた。それは、この三日の間に化け物達が岩をかじって作った物。


それを、火事になった家屋に据え置くように置くゴキブリ達。


我が物顔で一面を覆うゴキブリ達だが、「キュー」と鳴き声が響く度に、駆け抜ける光線に貫かれて蒸発した。


それは、センティーレが吐くブレスだった。


村人達の前に立ち、ブレスを吐いて害虫を駆除しているの竜は唸りながら化け物、いや兵器を睨んでいた。


センティーレのブレスによってポッカリと穴が空くが、すぐさま黒い波に覆われる。


村人達はあの後、兵器が操る分身達に捕まり裸にされて下拵えされそうになった。


リオの目の前で、抵抗したために分身達に噛み付かれて、知り合いの青年が流血して倒れた。怯えた村人達を捕らえ、子供達の臓物を兵器が抜こうとした。


絶叫が響いた瞬間、センティーレがやって来て、ブレスで兵器の腕を撃ち抜き救ったのだ。すぐに兵器の腕は回復してしまったが、センティーレは子供達を背に乗せて駆け抜けた。


その後、トンと一緒に村人を救ったセンティーレは、魔法陣にて結界を作りそこに避難させたのだ。


彼等が逃げ込んだのは、集会場でもある村長の家だったのだが、村長の藁葺き屋根の粗末な家は、ゴキブリ達に綺麗に食べられて今は跡形もない。


かっては村長の家や花壇があった場所は、今は不自然な広場になっている。


材料を確保する為に、暫くは斧を叩きつけて結界を壊そうとした兵器だが、今は諦めて鍋に袋の中身を入れて何やらやっている。


「おっいしぃーダシ! ダシ! 味にふかっ深みぃぃぃ。おぉおいしいっいっいっ」


首をブブブと小刻みに震わせながら歌っている内容から、恐らくダシをとっているらしい。袋から出した大量の何かの目玉や、何かの舌を大量に入れ、グツグツと煮ただせている。


食材の確保は分身であるゴキブリに任せ、下準備を先にすることにしたらしい。今はゴキブリ達が結界に体当たりしている。


羽音を響かせて羽根を羽ばたかせながら、結界に突っ込んでくるゴキブリ達を見てセンティーレは目線を鋭くする。


先程合流した軍人達やトン達がゴキブリ達の数を減らそうとしているが、倒しても倒しても減らない。


死んだゴキブリから湧くように、新たなゴキブリが発生するのだ。


だからといって殺さなければ、交尾を繰り返し、それ以上の早さで増える。


このゴキブリ達の材料は脂肪。個々の性能を落とす代わりに、「増殖」の力を付与されている。扱える魔術は「牙硬化」一つだが、数の暴力は圧倒的だ。


スライム以上の増殖力に嫌気がさす。


「皆ー!頑張るべ!」

「「おぉー!」」


センティーレの結界は中からの攻撃は透過するため、戦える者は鍬やスコップで必死に潰している。


だが、所詮付け焼き刃だ。ゴキブリの数は減らない。そして、それがセンティーレが決定打を撃てない理由でもあった。


センティーレは強い。だから、たかが一体の兵器をブレスで殺すことなど簡単だ。だがしかし、それをしたら、この辺り一帯は壊滅してしまうのだ。


分身は兵器の統率下にあると以前言ったが、分身と兵器は別個体である。だから、本体である兵器を倒しても、分身達が都合良く消えたり活動停止したりはしない。


それが厄介なのだ。兵器がいれば秩序だって集まっている分身達が、統制がなくなり、てんでんばらばらに活動し始める。


普通の分身程度なら追って殺せば大丈夫だが、「増殖」のスキルを持つ大量のゴキブリ達が解き放たれれば、必ず討ち漏らしが出て来るだろう。


一匹でも逃がせば、一気に百匹程に増える。増殖したゴキブリ達は一帯を食い尽くすだろう。


討伐隊が派遣されても、これほど繁殖力の高い分身が野放しになったならば、打つ手がない。


一度焼き払って浄化するしかないだろう。


そうなれば、当然、大量の人々が故郷を失い、難民が出るだろう。村人も田畑を捨てなければいけない。


「キュー!」(諦めない!)


センティーレはそうならない為に、ゴキブリを減らそうとする。


三日間だけでも分かる、人が良く、間抜けな彼等が笑顔でいる故郷を守る為。


「竜様に任せてばかりじゃいられねーべ!男衆、踏ん張って害虫駆除だべ!」

「うおおお!農民馬鹿にすんでねーぞ!」

「非常事態だ、魔術師達は火力を上げて魔術をぶち込め!」

「はっ!」

「村人の援護も忘れるなよ!」

「はっ!」


村人達は互いを励ましあい、巨大なゴキブリと果敢に戦っている。軍人達も、戦い慣れない村人をフォローしながら勇敢に戦っていた。



それが功をそうしたか、軍人が半分自棄で発動した、大規模殺虫魔術(農業魔術)が効いたのか、次第に数が減るゴキブリ達。


その場の者達の表情が明るくなった。だがしかし、そんな彼達の思いを無視する者が上空から現れた。


「センティーレェェェ!見付けたぞ、この野郎がぁぁ!ん?気色悪っ!?兄さんが怖がるだろゴルァ!失せろや!」

「ふごっ!?」


悪魔が絶叫しながら、大地に降り立った。


そして、兵器達に怯える兄を見た瞬間、彼は兵器を吹っ飛ばしてしまった。


兵器が目茶苦茶キモいので、直接攻撃はせず、離れた場所から攻撃した。


神速を超えて動く指から放たれた小さな鉄球。いわゆる指弾という物だが、ヒュゴ!と有り得ない速度で発射された鉄球は、兵器の頭をパーンと呆気なく打ち砕いた。


「「「ええええ!?」」」

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