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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
二章【再会編】
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歌声丘の事件2

「好きです付き合って下さいだべ!」


白と青の花弁を持つ花樹に覆われた丘の上で、一人の男が告白した。


「!」


彼を見つめた白翼を持った青年は、暫くの間の後、ビシィッと両手で大きくバッテンマークを作った。ジトーとした目線付きで……。


「のふぉ!?」


ガビーンと衝撃を受けた男性はカクンと崩れ落ちた。


「兄ちゃん、姉ちゃんに振られたからって、そりゃないべー」


その脇では、物凄い冷たい目付きをしたリオが男性が見下ろし、彼を玩具の剣でつっついていた。


美しい丘の上に、何時までも惨めな泣き声が響く。


■■■■■■■■■■■■


あれから三日が経った。


私は、リオ君の村であるチャラポラ村で暫く過ごした。チャランポランではない、チャラポラ村だ。


それを知った時、私は目茶苦茶ツッコミたかったが、本人は気にしていないみたいなので何もしなかった。もし話せたら、村の名前の由来を問いただしただろう。


初日、私は案内された村長さんの家の中に引きこもった。


いやー、久しぶりに人間に出会って、いきなり不気味ダンス。人間怖いと、最初はプルプル震えておりましたよ。


だけども、村人さんは良い人だし面白い。


翌朝、日課のラジオ体操をしていたら、いつの間にか村人総出で踊ってて面白かった。愉快なのでパラパラを教えたら一糸乱れぬチームワークで踊っていた。


村人さん達が話していたが、聞こえなくなった歌声の代わりに、天使のダンスとして売り出すそうな。気合い入れて、あの変態衣装を手入れしているのを見て複雑な心境。


村人さん達の話しを聞いて判明したんだが、どうやら私の歌声が地下の隙間に反響して、村の近くの丘まで響いていたらしい。


村長さんの家に案内された私は、平身低頭でお礼を言ってくる村長さんと長老さんを慌てて立ち上がらせた。


「ありがとうだべ」


しつこく礼を言う村長さん達をなんとか黙らせ、私は尋ねた。


「……」


そうだ、話せないんだった。


私は貰った羊皮紙にペンを走らせる。記憶の中の少年を思い出しながら、黒い肌に黒髪、山羊のような黒い角を持つ男を描く。


あまりリアルに描かず、特徴だけしか描かないのは現在の姿が分からないからだ。


私と同じ構造で作られたのなら、恐らく人間と同じような成長を辿っているであろう彼。昔みたいに少年ではなく、今は青年になっていると思われる。


私の弟、フォルテス・パクス


私が描いた絵を見た長老さん達はビビっていた。


「悪魔だべ!?」

「恐ろしやー。天使様はコイツを退治するべ?」



カリダは知らなかったが、この村は辺境+秘境にある為、村人達は兵器の被害に会った事はなく、フォルテスの噂も聞いたことはなかった。よって彼等が言う悪魔とは、世間一般にいわれている悪さをする伝説の存在の事だ。


「……」


私は慌てて手を交差してバッテンマークを作り、首をブンブンと左右に振る。


「退治するんじゃないべ?」

「捕まえるっべ?」

「分かった毛を剥ぐんだべー」

「おっかねーべな」

「しかども、毛はあんまりねーから、皮を剥いだ方が良いべよ?」

「ならば、水筒にすれば高値で売れるべなー」

「んだんだ」

「……!?」


生々しいことを何気なく呟く大老達に、青ざめるてアワアワと慌てふためく。此処で変な噂が広がれば、あの子に迷惑がかかるかもしれない。


ただでさえ、自分達には翼という異常な点があるのだ。もしかしたら、自分の流してしまった噂でトラブルに巻き込まれるかもしれない。


「!」


よし!閃いた!手をチョイチョイと振って二人を呼ぶ。


「「なんだべ?なんだべ?」」


私は、先程自分が書き込んでいた紙を二人に突き出した。二人の顔スレスレに紙を突きつけると、指差して絵の男をしきりにアピールする。


「をー?」

「悪魔がどうしたべ?」


そして、十分二人が見たと判断すると、その紙を胸元に引き寄せて、ギューと抱き着く。


「なんと!?」


困惑する二人に、駄目押しとばかりに紙にチュッチュッと啄むようなキスを繰り返す。


これでどうだ!


「のほ〜!」


その様子を見た長老さんが奇声を上げる。そして、フムフムと頷きながら、顔を赤くして笑った。


「どうしたべ?何だべ?」

「おめー分からねーべか?馬鹿だべな。だからお前さん、嫁に尻に敷かれるんだべさ」

「?」

「だから……チュッチュッで……ラブラブで……」

「……お?……おお!?」


部屋の隅に移動した村長さんと長老さんは、頭を寄せてヒソヒソと話していた。そして、突然ニヨニヨし始めた。


「なるほど、お熱いべな。デュフフフ」

「種族を超えた愛だべ。デュフフフ」


何だか盛大に勘違いしている二人だ。慌てて否定したが、私は喋れないし二人とも文字は少ししか読められない。誤解を解く術はなく、逆に深まり、最終的には一大スペクタクル恋愛談が出来上がっていた。


「敵対する種族の壁を乗り越えた愛」

「残った道はただひとつ。それは駆け落ちだべ」

「しかし!来襲するケロベロスの群れ!二人は離ればなれに……」

「天使様も苦労してんだべな」


キャッキャッと女子のように盛り上がる二人を見ながら、力無く椅子に座り、粗末な机に力尽きてもたれ掛かっていた。


何だかどうでもいい……。


「しかし、見たことも聞いた事もないべさ」


その言葉にショボーンと落ち込むと、慌てたように村長が話し掛けてきた。


「落ち込まないでけろ。そうだ!街に行くべ、ならばきっと手掛かりがみつかるべさ!」

「んだんだ。案内の者も用意させるべさ」

「だったら金も用意せねば」


私は首を振って遠慮した。頑なに何度も断る私を見て、村長さん達は少し困り果てながら、逆にたしなめられてしまった。


「天使様、此処で遠慮するのは逆に失礼というものだべ。こういったらなんだが、オラ達は貴方様の歌声で懐が大分潤ったべさ」

「んだ。金が全てとは言わねーべが、世の中では金は大切だ。なかったら、マンマも食べれねーべ」

「恋人さんを本当に探したいなら、貰える物は貰わないといけないべ」


長老さんはウンウンと頷いている。


「それに必要最低限の金も渡さずに、貴方様を村から出すという事は、オラ達に恩知らずと恥をかかせる事になるんだべ?」

「……」


村長さん達に静かに諭されて黙る。確かにそうだ、せっかくの親切を断るのは失礼だろうし、今後の事を考えたら金を貰った方が良いだろう。


私には、本気さもお金の重要さの認識も足りなかったのだ。


自分の世間知らずを自覚して落ち込む。翼が脱力して、床にヘニョンと垂れる。


落ち込む私の手を村長さんは優しく掴んで、その上に小さな革袋が置かれた。


「落ち込む必要ないべさ。ようは、オラ達は天使様に感謝してるから金を渡したいってことだべ。これは正当な報酬ってやつだべ」



「少ないべが、これを使って恋人さんを探してけろ。きっと街では情報が手に入るべさ」


ニパッと笑う二人に肩を撫でられ、私は気を取り直す。


そうだよね!落ち込む必要なんてないよね。何か被害が出る前に気付かせてもらったんだから、喜ぶところだよ!


ありがとう村長さん達!


ウホーやる気出て来た!おじいちゃん達にハグして、翼で包んであげるよ!


「ふ……ふわふわだべ」

「も……モフモフだべ」


ウフフ、良いでしょう?私のフワフワの羽毛。私の必殺技だよ!神様たちでさえ虜にした魔性の翼。一度、冥王様に枕にされかけましたからね。


私は恍惚の表情の爺ちゃん達に微笑んだ。


その後、迎えに来たリオ君と一緒に彼の家に向かった。私はリオ君の家に暫くお世話になることになったのだ。


リオ君は私と一緒にセンティーレに乗ってご機嫌だ。翼が邪魔な為、私の前に座った彼はフンフン鼻歌を歌っている。


ちょうど良い位置にあるリオ君の髪を撫でる。手入れされていない髪はゴワゴワで、柴犬みたいな感覚だ。


グシャグシャに撫でて、ヨーシャヨシャとムツゴロウさんのような気分。


リオ君の頭を撫でながら、舗装がされてない畦道を進む。


「天使様、機嫌が良いべー」

「……!」


ウンウンと頷いていると、道先に膝を抱えて座っている男性がいた。


「?」

「ああ……、あれは憐れな残骸だべ」


■■■■■■■■■■■■


そこに居たのは、リオが頑張ったのに俺が頑張らなくてどうするべ!と勇んで告白して見事に玉砕した男の憐れな姿だった。


■■■■■■■■■■■■


擦れ違いざま、チラッと見たら、男の人と目が合った。反射的にニコッと笑い、挨拶代わりに翼をパタパタと動かした。


何処からかドキューンと不思議な音がした。


「キュ?」(なんじゃ?)


首を傾げたセンティーレが、キョロキョロと周りを見回す。


私を見た男性の顔が、異様な程真っ赤になる。


後方で「なんだべ?このトキメキは!?フオオー!燃え上がるべー!」と騒いでいた。危ない人だ、係わり合いにならないようにしよう。


その後、私の付添人選手権が始まったり、何故か告白されたり、横領していた悪い会計係を懲らしめたりして三日を村で過ごした。


そして、とある朝。


私は一人の村人と一緒に馬車に乗り、村の入口で手を振っていた。センティーレは荷台の上の干し草の中に紛れている。


今日、農家のトンさんが干し草を運ぶのについて行って街まで運んでもらうのだ。


現在の私は、冥王様から貰った衣装を脱ぎ、農民が着る麻の粗末なズボンと半袖の服を着て、その上からマントを被っている。


冥王様から貰った衣装は良い生地で作られているから、高値で売れるそうだ。しめしめ……高値で売ってやるぜ。


また、マントは翼を見た人々が大騒ぎにならないようにとの配慮だ。


「天使様ー頑張るんだべ」

「恋人さんによろしくなー」

「何かあれば村にこればエエ」

「ウオオー!別れろぉ」

「ピード何言ってるべ!」

「また来てけろー」


私は村人さん達の声に応え、手を振る皆に手を振り返して村を出発した。


「キュー」(埃っぽいー)


■■■■■■■■■■■■


立ち去るカリダを見送った後、村人達は彼の安全を願いながら日常に戻る。


「あー!?忘れてたべー」


小さな子供が何やら大騒ぎして、一人の男が「フフフ、リア充は滅びろ」と暗い事を呟いている以外は平凡な日常。


アワアワと慌てて、出掛ける準備している一家の横に居た青年が、家の屋根を指差した。


「あれ何だべ?」


村人達が見上げる先。


そこには……。


「肉…肉肉肉肉肉肉肉肉!ララララーラーン。キヒャキヒャアアアア!し……ししし下拵え!」


化け物がいた。


カシャーンカシャーンと、包丁が擦りつける音が長閑な村に響く。


「天使様……」


悲鳴があがり、広がる血溜まりを見たリオが母に抱き着きながら呟いた。


■■■■■■■■■■■■


【数刻後】


小高い丘。


青と白の花弁が美しい花樹が美しい丘。そこから遠目に、激しく燃え上がる村が見えた。丘の上には、軍人達が倒れ伏していた。


「いい加減に聞き入れろ」


黒翼の青年が睨む先には、唯一戦闘可能である双子がいた。兄は殴られた頬を撫で、血が交じった唾を吐きながら青年を睨む。


「兄貴、落ち着け」


弟の言葉に舌打ちした兄は、青年の腕の中の男を睨んだ。


それは豊かな金髪の男だ。歳は若く、恐らく二十歳程度だろう。


抜けるような白い肌の青年で、粗末な衣服に身を包んでいるが、佇まいには気品が溢れていた。


身に纏う雰囲気が、まるで幽玄のように人外じみた儚い彼。


その首と両手首には、武骨な鎖が巻き付き、彼の身体を締め付けていた。彼の背中から生えている翼は、左の翼が不自然にダラリと下がって広がっている。


青年は折られた翼を押さえながら、こちらを見ていた。


涙を流して震える青い瞳。


その怯えた顔を、澄んだ瞳を見て苛立ちが走る。まるで人間のような表情で、英雄をたぶらかした化け物にヘドが出る。


「いい加減にしろ。ぶっ殺すぞ」


傷付いた白翼の青年を抱きしめた黒翼の青年の言葉に、双子は武器を構える。


「それはこちらの言葉だ」「ソレを明け渡せ」


怯えて体をすくませる青年を抱きしめて、フォルテスは言い放った。


「俺の兄さんを物扱いするんじゃねーよ」



自分の腕の中の熱を抱きしめて撫でる。すると、人物はヒシッと自分に寄り添い抱き着いてくる。


自分に縋る人物に、覚悟を新たにする。


もう離さない。


例え国に追われる事になっても。


「大丈夫だよ兄さん」


二人の有翼の青年達の胸元で、よく似たネックレスが煌めいた。

すみません、チラ出しで(焦)何があったか次回にて詳細を……。

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