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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
二章【再会編】
39/64

歌声丘の事件

「「「ウボウボウボウボ」」」


ドンドンパフパフ


「「「ウボウボウボウボ」」」


ドンドンパフパフ


「「「ウボウボウボウボ」」」


ドンドンパフパフ


「「「ウボウボウボウボ」」」


ドンドンパフパフ


「「「ウボウボウボウボ」」」


ドンドンパフパフ


「「「ウボウボウボウボ」」」


ドンドンパフパフ


「ファイアァァァー!!」

「アチッ!!熱いべ!」


とある夜の丘。その中央では巨大な篝火が焚かれ、それを囲むように半裸の男性達が踊り狂っていた。


小柄な彼等は、平均百四十センチ程度の背丈。小柄だが、体には濃い体毛が生い茂り、顎にはフサフサとした髭が生えている。腰には何故か白いシフォンを重ねた、フワフワな腰蓑スカートのような物をまとい、ピチピチの上着と靴下のみを纏っていた。


上着は派手な黄色で、かろうじて乳首を隠す程度の丈。ミニスカ程度の長さしかない腰蓑から、すね毛だらけのぶっとい足が悪戯っぽく覗きリズムを軽快に刻む。その足には、虹色のニーハイのような履物。


そんな男性達が、篝火の前に座っている私を取り囲み、奇声をあげて踊り狂っていた。更にその周りでは、座った男達が太鼓や笛を鳴らしていた。


「「「ウボウボウボウボ」」」


ドンドンパフパフ



ハロー皆様お久しぶり!(わたくし)皆様に言いたい事があります。


助けて……。


「………(怯)」


オッサン達と目が合わないように、視線を反らしながらプルプル震える。


わ……私は、ガチムチやムキムキの裸やお色気衣装を着たマッチョ。オッサンの女装は大好物だけど、変態衣装を着たオッサンの群れは許容範囲外です!


そもそも、生まれてから十三年。会った人間はマスターのみ。前世も殆ど病院に居たから、こんな半裸の男性達に囲まれて普通でいられません!


てゆーか!!パソコンの画面越しの全裸画像は大好きだけど、生は嫌!生だけに生々しいよ!


オッサン達怖いぃぃぃ。


狂ったように踊り狂うオッサン達の乱舞が、飛び散る汗が、立ち上る熱気が恐ろしい。


いやぁぁぁぁ!!腰カクカクしないでぇぇ!!


「キュ」


あ……センティーレ。


私が地面に敷かれた茣蓙の上で頭を抱えていると、センティーレがスタスタと前に出た。


「ウボ?」

「キュ?」


見つめ合うセンティーレとオッサン達。


静かにオッサン達が左右に移動し、オッサン達の輪に隙間が出来る。


隙間に入るセンティーレは二足歩行をすると、がに股になり小刻みに足を動かして移動し始めた。オッサン達も真似して、擦り足で動き再び篝火の周りを回り始めた。


「キュボボボボボ」

「「「ウボボボボ」」」


ドンドンパフパフ


!?


センティーレがオッサン達と何か分かり合った!駄目!行かないで踊らないで!腰カクカクしないで!オッサン達と共鳴しないで!


オッサン達の輪に入って、腰蓑を着けて同化したセンティーレ。それを見て、私はガックリと地面に手をついた。


「天使様喜んでるべー」

「天使様が喜ばれておるのじゃ!」


そんな私を見て無邪気に喜ぶ、リオ君と長老様。


私は只今、丘の上の篝火の前に座っている。地面には茣蓙が敷かれ、目の前には果物や料理が積まれていた。


横には百歳以上ありそうな、とても小柄なお爺ちゃんが座っている。顔が皺くちゃ過ぎて、目が何処にあるか分からなくて梅干しみたいだ。


この可愛いお爺ちゃんは、リオ君の村の長老ちゃんだそうだ。


長老さんは私を見て、満足そうにウンウンと頷いている。リオ君も腕を組んで長老さんの横で頷いていた。


何故このような事になったか説明致しますと。


あの後、私達が研究所から脱出した場所は、なんと山だった。あの研究所は、標高の高い岩山が、地下まで丸ごとくり抜かれて作られていたようだ。


十年ぶりの空。


私は目一杯はしゃいだ。山に居た時は、翼が幼くて自由に飛べなかった。研究所に居た時は、実験用の広い部屋で練習していたが、それは人工物の中だ。


今だ。今、初めて大空を飛んでいる。


夜風は冷たいが、私の体を支えてくれる。風には流れがあり、まるで川の中を泳いでいるような感覚。


私は魚になったんだ。空を泳ぐ魚。


声が出ない喉で笑った。


「ひぃぃぃ」

「……!」


風の流れに慣れない私は、上下にヘロヘロ、左右にフラフラと上手く飛べない。腕の中の少年が悲鳴を上げるが、私はそれすらも嬉しい。


閉塞された研究所ではない、私は限りない大空にいるのだと感じる事が出来るからだ。


飛び方を教えるように先導するセンティーレ。センティーレの後ろについて飛ぶと、風が私を導いて押し上げてくれるような動きをして飛びやすい。


私はリオと名乗った少年に案内されて彼の村に向かった。途中で墜落の危機があったが、なんとか大丈夫。リオ君が大絶叫していた。


スマン、翼がつって体力なくなった。


あれだね、今までリハビリでしか歩いたことが無い人が、いきなりマラソンに参加した感じ?嬉しくて夢中で飛んでいたけど、カクンと体が動かなくなったよ。


「キュ」(おバカ)


センティーレに助けられた。センティーレまじ天使。


その後、私は少年を抱き抱えたままセンティーレに跨がって移動した。ゴツゴツとした岩肌が眼下で進み、次第に緑が多くなった。


凄い……凄い凄い!


光景を見た私は、思わず両手を広げた。翼を伸ばすと、流れる風を感じた。私の翼で気流が乱され、センティーレが不満げに鳴いたが無視する。


なだらかな丘隆地帯が広がっていた。山岳地帯を抜けた私の目の前には、永遠と続く大地と地平線が広がる。満月に照らされ、丘隆地帯の潅木についた夜露がキラキラと光っている。


闇の精霊達が笑いながら、月と星の光に触れて、更に煌々と輝かせてくれていた。



風と精霊達に弄ばれて、髪が風にたなびくのが分かる。


ああ……これが世界。

私が生まれた世界なんだ。


この世に生を受けて十三年。やっと私は世界を見た。



私はいつの間にか涙を流していた。その広大な美しさに、胸から感情が込み上げる。


思わず喉を震わすが何もでなかった。


歌いたい。この想いを歌声にしたいのに、出来ない悲しみは、素晴らしい気分に黒い点を残した。


それから私達はリオ君の村に着いた。


村では、行方不明のリオ君達を探し回っていたようだ。上空から見下ろすと、沢山の松明が村中を動き回り、特に農業用の水路や溜め池を重点的に探しているようだった。


風に乗って「リオ」と少年の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「母ちゃーん父ちゃーん」


腕の中のリオ君が両手を振って、バタバタと暴れた。するとこちらに気付いたのか、下にいる人々が大騒ぎし始めた。


ってゆーか、目が良いな!こっちからは、地面の人々は豆粒にしか見えない。しかも、月が眩しいからって夜だぜ?


「リオの声だべ!」

「空を飛んでるべ!?」

「りりり竜だぁ!」

「誘拐事件だべ!」

「コンチクショウ!リオを返すべ!!この!この!」


松明が慌てたようにアワアワと左右に動くと、間抜けな怒鳴り声と同時に、ビュンビュンとツブテが飛んで来た。


「!」

「て……天使様!た…大変だべべべべべ」


ヘロヘローと投げ付けられた小石が、額にコツンと当たった。痛みは全くなかったんだけど、傷口からタラーと一筋の血が流れた。


傷口は本当に浅く、擦り傷みたいな物だ。グシグシと手の平で額を擦ると、直ぐに血は出なくなった。


手の平の血を見つめてみると、リオ君は目と口をアングリと開いてワナワナと震え始めた。


何か「べべべべ」と呟いて震え続けているので、頭をガッと掴んでみると、黙って震えが止まった。手の平を外すと、再び「べべべべ」と呟き始めた。


掴むと黙り、外すと再び「べべべべ」と呟き震える。


「……ギュウ」(……小賢しい)


面白いから、掴んだり離したりして遊んでいると、センティーレから不穏な鳴き声がした。


見てみると、センティーレの鱗が少し黒っぽくなってるよーな?瞳が赤くなっているよーな?


目付きがイッテいるセンティーレがパカッと口を開くと、キイイインと音がした。


ヤバイ!センティーレの必殺技の口からビーム……じゃなくてブレスだ!


「!!」

「駄目だべぇぇ!」


慌ててセンティーレの顎を掴んで引っ張り、口を閉じさせる。気付いたリオ君も、センティーレの腹をゲシゲシ蹴る。


ブレス発射直前に顎を閉じて、腹を蹴ったのが悪かったのか、センティーレの口の中からボフンとした爆発音がした。


プシューと、白煙が鼻と耳から出て来る。センティーレの鱗と瞳の色は戻ったが、同時に瞳から光りが失われ、最後には瞼が閉じた。


センティーレ気絶。


「わ…わぎゃぁぁぁぁ死ぬぅぅぅ!!」

「!!」


ユックリと落下するセンティーレ。二人でセンティーレの鼻の穴や瞼を引っ張って起こそうとするが、口から白煙を吐き出すセンティーレはピクリとしない。


「父ちゃーん母ちゃーん助けてぇぇぇぇ!!」

「!」


絶叫しながら落ちていると、ボフンと村人が広げてくれていた布に着地した。


「おおおお!?」

「何じゃこりゃ!?」

「ふぉぉぉ!」


私達は村の真ん中の広場に落ちた。石畳もない、ただ空き地を均してベンチを置いただけの広場だ。そこで私達を見た村人達が、大声で驚愕する。


私達を囲んで鍬とか鎌を構えている村人達は、随分と小柄だ。大体、140センチ前後だろう。皆、素朴な布の服とベストを着ており、それには色鮮やかな刺繍を施されていて、とても可愛いらしい。


女性はスカーフを頭に巻き、男性はチョコンと小さな帽子を被っていた。


武器を向けられているが、皆が小さくて、逆に私に怯えているから全く怖くない。


涙目だし。


試しに翼をバッサリ動かしてみると、皆さんビックウと体を震わせた。


「リオ!無事だべか!今、父ちゃんが助けるべべべべべ!」

「か、母ちゃんも頑張るべべべべ!」


リオ君のように「べべべべ」と呟きながら、プルプル震えている中年の男女が、人混みから出て来た。


揉み上げが立派な金髪の男性は、丸鼻の女性にグイグイ背中を押されて私の前に出たが、足がカクカクと左右に震えていた。


「父ちゃん母ちゃん心配しないでぐれだべ!良い人だべ!」

「だ!騙されないべ!」

「そうだべ!怪しいべ!」


そりゃそうだ。


いきなり翼が生えた男が竜と一緒に現れたら怪しいに決まっている。失敗したたな……。


リオ君を別の場所に降ろして、センティーレと立ち去れば良かった。今更ながらに後悔して、センティーレの前に立つ。


「何か言うべ!」

「この人喋れないんだべ!」

「まずまず怪しいっべ!」

「怪しくないべ天使様だべ!」

「天使なんて大昔に全滅したからいないっべ!」


リオ君と村人達が言い争う。何人かが私達に近付いて来た。こら!センティーレをつっつくな!鱗をとっちゃ駄目!


無言で睨みながら翼を膨らませて威嚇するが、村人達はキャーと逃げながらも、「鱗一枚取れだべー」「売って大儲けだべ」「宴会だべ」とはしゃいでいる。お前達、本気で怖がってんのか!!


しかし、やはりセンティーレの鱗は高値で売れるのか…。覚えとこ。


「静かにせい!」

「「長老!?」」


大騒ぎしていたら、女の人に支えられて一人の老人が現れた。皺くちゃ過ぎて性別が分からないが、どさくさに紛れて女性の尻を触ろうとして、頭を叩かれていたので恐らくお爺ちゃんだ。


お爺ちゃんは私の目の前に来ると、ズイと体を突き出して来た。お爺ちゃんが顔を近付けると、長い眉と皺に隠れた鋭い瞳が私を見つめた。


近い近い近い!!


ぬひっ!?


つ……翼、しかも付け根部分を触られたぁぁぁ!そこは敏感なんだぞ!この!スケベ!


「フム……、偽物じゃないみたいじゃな」

「……!」(当たり前じゃああああ!)

「ぶごふ!?」


バチィィーン


その日の平手打ちは音速を超えた。華麗に吹っ飛んだ長老。


「「「ち……長老ー」」」


トサッと妙に生々しい音がして、長老が広場の床に着地した。ビクビクと体を震わせてヤバイ感じだが、反省しても後悔はしない。


翼はアカン。翼の付け根を触ったら私でも怒っちゃうよ。人間に例えるなら、脇の下や尻を触られるようなもんだよ。


知らない人にされたら怒るよ!


村人達がアワアワと慌てて右往左往していると、震えながら立ち上がった長老。意外と頑丈だな長老。




ガクガク震えながら振り向いた長老は、ビシッと親指を突き出した。


「う……うむ!この鋭い平手打ちは、確かに天使様じゃあ!」

「「「な…何だってぇぇぇ!?」」」

「天使様のおなりじゃ!宴の用意じゃ!」


そして今に至る。


テンションが上がる村人達に、必死に首を振って否定したのにスルーされた。盛大な祝いの宴を開かれているが、何故か不気味な踊り付き。


有り難いけど、正直遠慮したいです。


「「「ウボー!!」」」

「キュボー」

「……!?」


近付くなー!助けを求めてリオ君を探すが、リオ君は他の子供達と硝子玉で遊んでいた。


綺麗だね!その硝子玉。


宴はまだまだ終わらない。


■■■■■■■■■■■■


「本っっ当にド田舎だよな此処。騎馬で三日もかかるなんてどんだけだよ」


騎馬から降りた双子の弟が、部下達に休憩の指示を出しながら呟く。


彼等の馬は魔物である水陸両用のケルピーだ。凶暴な性質だが、馴れればこれ以上の名馬はない。一日に千里を駆ける彼等が三日も掛かった理由は只一つ、道が整備されていない。


石畳もなく、通る者も少ないのか雑草が生い茂り獣道一歩手前だ。道自体も金と労力を掛けない為か、川があれば迂回し、山があれば迂回し、森があれば迂回しているためウネウネと蛇行していて遠回りしている。


当然、近くに騎獣を休める宿場なんてあるわけがなく、獣も人間も野宿である。


双子とケルピーなら、休まずに踏破する事は可能だが、魔物を騎獣にしている者は少ない。殆どが馬を用いている為、そんな事をすれば潰れてしまうだろう。


馬は繊細な生き物なのだ。多少手荒に扱っても大丈夫な人間と魔物とは違う。


部下達に野営の準備を命じながら、双子達は話し合いを行っていた。


「もう直ぐだが大丈夫か?」

「大丈夫だーて。対象の特徴はちゃんと頭の中にあるよ兄貴」

「それなら良いけどさ、人間に良く似た外見らしいから間違えるなよ」

「大丈夫だって、翼が生えた人間なんてウチのパクス君以外そうそういないって」

「ばーか。念には念をだ。はい、特徴とついでに任務内容を言ってみろよ隊長」

「OKー。


我が隊が与えられた任務は二つ。


まず一つはシレービュの遺産である新兵器の試作品の確認。対象は今までの兵器とは違い、非常に人間に類似した外見を持ち、理性を持つような行動パターンを与えられている。


対パクス氏を念頭に開発された為か、有翼の成人男性という外見である。長い金髪に碧眼。背丈は180センチ前後で痩せ型。白翼を背中に有す。


新兵器の試作品といえども、実力は危険域にあり警戒が必要。人間のように振る舞うように製造されている為、その挙動に惑わされないように厳に対応するべし。


二つ目の任務は兵器の捕縛。以後の対兵器の研究の為に【無傷】での無効化に努めよ」



「そうだ、【無傷】だからな。壊すなよ」

「チッ胸糞悪い。兵器なんて壊してなんぼだろ?」

「仕方ねーだろ。上からの御達示だ。我慢しろ。いつもみたいに散らかしたりするなよ」

「あー!やる気出ねーな」

「大丈夫だ。治癒術師を連れてきたから、多少は痛めつける事はできるぞ」

「おっ本当か?」

「だが、切断とか内臓かっさばくのはダメだぜ。爪剥ぐとか程度だ」

「大丈ー夫!大丈ー夫!それくらいなら問題なし!」


彼等の言動は残酷だが、それを異常と思う者はいない。


勘違いされる者が多いが、あくまで人間を材料にした兵器なのだ。兵器は改造された人間ではない。バラバラにされた人間の死体が培養され、人工物とくっつけられた、いわば人形と同じ存在なのだ。


正常な魂を持たない兵器は、それに命はない。感情があって喋っても、過去の記憶を持っていても、それはは命や生命を持たないのだ。


例えるならアンドロイド。仮そめの動く物達は、唯の物と考えた方が良い。


そして、十年前の戦で仲間達を狂気の兵器に惨殺された者も多い。双子達も大切な仲間を兵器に殺され、顔に消えない傷痕を残された。


だから、誰も異を唱えない。只の人形を壊すことで過去の鬱憤や怨みを発散して、何か問題があるのだろうか?


相手は命も何もない存在なのだから。

再会を期待された方、申し訳ありません(焦)再会は次回にて。

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