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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
二章【再会編】
37/64

千里眼の先

「しかしながら、あれから十七年も経つんですね」

「そうだな……」


頷きあったフォルテスとサナエルは、しみじみと隊員達を見ていた。


隊員達は研究所から助け出された者が殆どだ。


当時の救出された者の中には、身元不明者や帰られない者がいた。


フォルテスとサナエルは、そんな子供達の中で最年長だった。自然と二人がリーダー役となり、身寄りのない子供達を引っ張って行ったのだ。


彼等は救出したギルドによって保護されていたが、彼等に何時までも頼る訳にはいかなかった。


人数は数十人に及び、世話だけでかなりの金額になる。また、救出したギルドは彼等の事を国に報告していなかったから、何も援助を受けられない。

当時、彼等に人体実験を施していた組織は正体不明だった。正体不明な組織に改造されて常人より優れた戦闘力を持つ、身寄りのない子供達。


いくらガンダリュートが善政をひく国だとしても、国は国だ。薄暗い部分もあるのだ。


このように都合の良い子供達が、どんな扱いを受けるかは予想がつかない。最悪、ガンダリュートの国営研究所に子供達が囚われる可能性がある。


二度目の囚われの生活は、恐らく子供達の心を、今度こそ完膚なきまでに壊すだろう。だから、ギルドは子供達の存在を報告しない事に決めたのだ。そのような非合法組織の存在は報告したが。


そして、何もしない子供達を養える程、この世界は甘くない。子供達は自分達で働いた。ギルドの人々の助けはあったが、子供達は必死に働き、金の計算や世間を知り生きる術を学んで生き抜いた。


その間に、王子と知り合ったり、戦争が起こったり様々な事があった。友や仲間を失って泣いたこともあった。


そうして十七年の年月が経った。そう、十七年だ。短くない年月である。


沢山の人々と駆け抜け、その度に探し尋ねた。フォルテスが探す人物、フォルテスの対であり、捕われた少年。


どんなに傷付いても、どんなに騒いでも、どんなに楽しんでいても、どんなに夢中になっても、彼が探す事を忘れたことはない。


フォルテスの中に刻まれた、硝子筒の中の少年への渇望。


彼が求めるのはただ一つ、少年だ。


それは、時には異様な執着とも言える純粋な想い。


もし、これほど求める人物が、この世に存在しなかったら。命を落としていたらどうなるのか、心配になるくらい。


「フォルテス、まだ彼は見付かりませんね」

「……ああ」


一瞬だけ黙ったフォルテスは、度数の高い蒸留酒を瓶に直接、口をつけて一気にあおった。


彼の喉仏が上下して、中身が急激になくなっていく。


「おー」


棒読みの感嘆の声を上げたサナエルがパチパチと手を叩く。


こんなに急速に飲んだら倒れるレベルの酒なのだが、中身を飲み干したフォルテスは、何事も無かったように瓶を机の上に置いた。




「長い間探して、まだ見付からない。だが、俺はこの命が尽きるまで探し続け、必ず見付けだす。見付ける事が出来れば何も求めない」

「ほう」

「まあ、欲を言うならば、命が尽きるその瞬間までに、彼と会話出来れば……幸せだな」


少し照れたようなフォルテスの言葉に苦笑するサナエル。


「随分と無欲ですね」

「ククク。俺の望むことなんて、こんなもんさ。彼は俺を生かすコレをくれたんだ。その恩を考えたら強欲な方さ」


そう言ったフォルテスが「ツール」と呟くと、彼の目の前に半透明の画面が現れた。可視化を施してたソレにはフォルテスのステータスが表示されていた。


■■■■■■■■■■■■


【種族】

人工生命体(戦闘特化)

【名前】

フォルテス・パクス

【称号】

曲がらぬ魂・授かりし者・剣士・武道家・鋼を捨てし者・兄への渇望・対への純愛・最強生命体・怪獣・馬並み・戦神の被害者ストーカー

【スキル】

飛行・不屈の精神・ツール(継承)・回復力上昇(継承)・運動能力強化(継承)・腕力(継承)・守備力増大(継承)・成長率倍増(継承)・理解力増強(継承)・記憶力増強(継承)・精神汚染耐性(継承)・薬物耐性(継承)・隠匿(継承)・・鑑定眼(継承)・加速・引換による倍増・無限回復・剣聖・拳聖・見切り・剣術効果大・打撃効果大・攻撃力強・無刀術・剣拳術・耐性無効・打撃無効・分け隔てない攻撃・斬撃波・気合


■■■■■■■■■■■■

【体力】12000/12000

【魔力】120/120

【攻撃力】7000

【守備力】8300

【魔法攻撃力】60

【魔法守備力】80

【器用】50

【素早さ】4000


■■■■■■■■■■■■


ツールによる無限の知識と、ステータスの把握。(フォルテスに鑑定のスキルがある為、他人のステータスも見る事が出来る)そして、反則的なスキル量。それがフォルテスを最強の名に相応しい力を与えていた。


もちろん、沢山のスキルを持っていても使いこなせていなければ無意味だ。彼の強さはフォルテス自身の鍛練の賜物であるが、スキルの貢献も多大だ。


そして、(継承)と表示されたスキルは、フォルテスの対の少年から与えられた物である。それ以外は、彼の努力で習得したスキルだ。


「相変わらず凄まじいスキル量ですね。普通なら、十あれば天才扱いですよ?」

「良いだろ?彼からの贈り物だ」


デヘデヘと、だらし無い顔で笑いながら画面を撫でるフォルテス。


「剣聖と拳聖の元になった、剣技と拳技はセンティーレから貰ったんでしょ?」

「ふん。剣技と拳技をスキルアップさせて、剣聖と拳聖にしたのは俺だ。勝手に付き纏って勝手にいなくなった馬鹿竜なんて知らない」


フォルテスの顔が途端に不機嫌になる。


スキルは、鍛練を繰り返して経験を積めば、スキルアップという、ランクが高い物に変化する現象がおこる。フォルテスは、剣技と拳技をスキルアップさせて、剣聖と拳聖にしたのだ。


その剣技と拳技をフォルテスに渡したのが、センティーレという名の竜である。


センティーレは、研究所から逃げる途中の山中で出会った狂竜だ。何故かフォルテスに纏わり付き、フォルテスに二つのスキルを渡した。


それ以降、フォルテスが蹴ろうが殴ろうが、執念深く追いて来た。戦争時には一緒に戦っていたのだが、ある日突然消えたのだ。


シレービュに討ち取られたという情報はない。忽然と、センティーレはいなくなったのだ。


それ以来、あの竜は行方不明である。


「アイツは、何だかんだいってしぶといです。いつか帰ってきますよ」

「けっ」


舌打ちするフォルテス。


一見するとウザがっているように見えたが、センティーレを可愛いがっていたフォルテス。口ではけなしていても、落ち込んでいた。


大規模な戦闘前だったので、探す事ができなかったのだが、戦争が終わった後に彼が何度か探しに行った事を知っている。


センティーレが好きだった肉を片手に……。センティーレ、罪な竜である。


「あ!フォル兄ちゃん!」


隊長副隊長が、しみじみと酒を飲んでいると、メシ屋の看板娘がやって来た。


藍色の髪をツインテールにしてソバカスが可愛いらしい少女。ウエイトレスの制服越しにも、盛り上がった大きな胸が分かる彼女は、メシ屋夫婦の一人娘で名前はソフィーである。


フォルテス達とは幼い頃からの知り合いだ。十年前に、ギルドが乱立する町【ガランド】から、王都に引っ越して店を開いた【頑固親父亭】


まだガランドで開業していた頃、冒険者として働いていた隊員達は店の常連だった。


戦災で店を失った一家は、心機一転、リュートに引っ越したのだ。


引っ越した後も、顔なじみの隊員達は、相変わらず店を利用していた。看板娘も、まだ七歳の頃からの知り合いで、隊員の事を兄ちゃん姉ちゃんと呼んでいた。


お盆を抱えてフォルテスの横の椅子に座った少女は、彼の腕に抱き着いて彼を見上げた。大きな茶色の瞳が、悪戯っぽくキラキラ輝いている。


「何だ?チビジャリ」

「フォル兄ちゃん。あのねあのね!今日はフォル兄ちゃんに会わせたい子がいるの!」


ソフィーの言葉に首を傾げるフォルテス達。


立ち上がったソフィーに手招きされて、メシ屋の移住スペースに続く扉から、小柄な少女がやって来た。


眉をヘニョンと下げた少女は、見るからに気弱そうだ。


「フォル兄ちゃんって、探してる恋人がいるでしょ?」

「いや、あれは「いいの!話してくれなかった事は気にしてないわ。だってフォル兄ちゃんって、イロイロあるから仕方ないもんね。男が秘密を持つことは仕方ないって、母ちゃんが言ってた。でもね、私もフォル兄ちゃんの手助けしたいの。その話しを聞いた時から、友達と役に立つ事を探してたんだよ!そしたら、隣の区にね噂があったから探しにいったら、これがとんでもない(以下略)という訳なの!」

「……そうか」

「……手間をお掛けして申し訳ありません」


少女のマシンガントークに、頷くフォルテスとサナエル。十代女子の勢いに、疲れる二十代後半組。


「そこで出会ったのが、このサミィちゃんなの!」

「は……はじ……初めまして!」

「何々?」

「隊長?この子誰?」

「!?」


何かをやっている四人に興味が湧いたのか、隊員達が集まってきた。化け物退治の英雄達に見詰められた少女は、怯えてソフィーの後ろに隠れた。


「サミィちゃんはね、泣く子も黙る千里眼スキルの持ち主なの!人呼んで千里眼のサミィちゃんとは、この子のことよ!」


「へー珍しい。千里眼っていったら、レアスキルじゃない」


千里眼とはランダムに発生するスキルで、滅多にいない。過去未来現在、場所や距離が関係なく見る事が出来る能力だ。


強力なスキルだが、癖が強い事でも有名だ。


個人によって、発動条件や威力がかなり違う。中には、動物しか見えなかったり知り合いしか見えないという縛りがあったり、意志とは関係なく見えてしまい対人関係に悩む者がいる。


「サミィちゃんの千里眼さえあれば、きっと探してる人も見付かるよ!」

「が……頑張ります!」


自身満々なソフィーと、小さくガッツポーズをするサミィ。


「あー」

「困ったな……」

「お前が言えよ」

「えー?」


微笑ましい二人だが、彼女達を見た隊員達が微妙な顔をしていた。何か呟きながら、互いをつっつき合っている。彼等は何故か、ウンザリとした表情になっている。


「何?皆!言いたい事があるなら言ってよね!」


隊員達の微妙な態度にソフィーが怒ると、フォルテスが片手で彼女を制した。


「待て待て。コイツらに悪気はないんだ、すまない。だが、その話しは断らせてもらう」

「え!?何で?」


フォルテスは肩を竦めて少女に答える。


「俺が【千里眼】に目をつけないと思ってるのか?大分前に見てもらったよ。当代一番の【千里眼】の持ち主である【遠見姫】にな」

「え!?」


「他にも、預言や霊視のスキルを持った奴に見てもらったが無理だった」

「でも、サミィは凄くよく見える子なの!きっと見えるよ!」

「悪いが、女の子の中で評判レベルの【千里眼】が分かるとは思えねえ。こちとら、国すらを相手にしたプロだぞ?」

「う……」

「今まで、お前達みたいな奴らは何人もいた。悪いが、俺を助けるって身内で盛り上がって来たんなら帰ってくんな」


このような事は、探し人の存在を王子が暴露してから、よくあったのだ。


人探し関連のスキルを持っている者で、何を勘違いしたのか、探し人を探し出すのは自分しかいないと勘違いしたり、周りから持て囃されたりしてしまう。


特に夢見がちな少年少女に多く、勇猛果敢な英雄を助けてやろうといった使命感に、彼等は燃えているらしい。


隊の宿舎には、連日、そのような内容の手紙が来る。フォルテス自身も、占星術に凝った貴族の奥方から、ありがたい言葉を承ったことがある。


……小一時間程度。危なかった……王室に縁がある、しかも老齢の女性じゃなかったら切れてた。


フォルテスは聞きたい。たかが、学生や温室育ちの奥方が調べる事が出来る内容を、何故自分が知らない分からないと思うのかと。


以上のことがあり、今回もその手の事だと思ったのだ。


確かにソフィーが自分を心配して行動したのは分かるが、これはフォルテスにとって重大な問題なのだ。軽い気持ちで、勝手に調べられたりして良いものではない。


それに、一度盛り上がった子供を止めるには、諌める程度では逆に活気づく。少し厳しいが、キツイ言い方で納得してもらう。


「これは俺の大切な問題なんだ。ソフィーが思ってしてくれた事はありがたいが、横槍を入れられたら迷惑だ」

「……」

「分かったかソフィー?」


フォルテスがソフィーを諭していると、唇を噛み締めて黙ったソフィーの前にサミィが立った。


「あの、パ…パクス様!」

「様は止めてくんな嬢ちゃん。んな柄じゃねーよ」

「は…はい!えと……パクスさん。私の話を聞いて頂いて宜しいですか?」




どもりながらも、フォルテスをしっかりと見詰めての言葉。足がガタガタ、肩がフルフルと震えているのに、健気にもフォルテスから視線を外さない。


その様子に、フォルテスは訝しげに片眉を上げながらも、頷いて了承の意を伝えた。


「ありがとうございます!あの、今回は私のせいで不快な思いをさせて、本当にすみません」

「違うよ!私が先走ったから!」


慌てて否定するソフィーに、首を振るサミィ。


「ううん、違うよフィーちゃん。今回は私も考えがあって此処に来たんだよ」


そう答えたサミィは、再びフォルテスに向かい合う。


「私は【千里眼】で商売をしているのですが、悩んでいました。以前、一度だけ間違った物を見てしまったんです。千里眼の先生が言うには思い込みのせいだと言われました」


未熟な千里眼の持ち主が時々なるのだが、依頼者の強い感情に引きずられ、見てない物を【見た】と思い込んでしまうのだ。


希少だが、信頼度が高い千里眼所有者のもとに来るのはやはり切実な事情の者が多い。例えば、行方不明になった幼い子供を持つ母親に相対した時に、その感情に引きずられて「生きてる」と【見て】しまうのだ。


これは、千里眼の者が必ず一度は通る道らしい。心優しい者ほど見易い。


だがしかし、それを言われた者は堪ったものではない。糠喜びさせられた分、絶望は大きい。


サミィが偽りを話したのは、幼い娘が行方不明になった父親だった。疲れ果てた様子の彼に生きてると言うと、彼は泣いて喜び何度も礼を言った。


数日後に、近所の使われていない水路から死体が上がったのだ。少女が死んで、既に一週間はたっていた。


サミィの先生は、その依頼者の非難を全てサミィに聞かせた。自分達が語る事の重さを、サミィに理解させる為だ。


非難と言ったが、父親は殆ど話さなかった。既に先生から説明されていた父親は、言葉少なに、娘が死んでどれだけ家族が悲しんだかを淡々と語った。


様々な感情がないまぜになった瞳で、ジッと見詰められるのが辛かった。


それ以来、サミィは何かを【見る】事が怖くてしかたなかった。今まで、優秀な千里眼見習いとして自信があった。


その驕りのせいで、一つの家族を苦しませてしまったと悩んだ。


先生に、気持ちが整理できるまで休めと言われ、隙を持て余していた時にソフィーに出会ったのだ。


近所の子供達の厄介事に巻き込まれていたソフィーと出会い、一緒に解決してく内に自信を取り戻していった。


そして、ソフィーから今回の話を聞いた時に、良い機会だと思ったのだ。


有名な英雄を見る事は、責任も想いも強いだろう。それに引きずられずに【見る】事が出来れば、自分は大丈夫だと胸を張って復帰できる。


「だから、お願いします。私に【見させ】て下さい」


サミィは断られるのは覚悟のうえだった。迷惑だと言った相手に、更に自分の都合を押し付けているのだ。勝手過ぎる。


震える少女を見るフォルテスは無言だったが、暫くすると感心したようにニヤリと笑った。


「良いぜ」

「「え!?」」


予想外の返事に驚くサミィとソフィー。


「今までは、来る奴ら全員が口を揃えて「俺の為」「俺の為」と同じ事を言っていた。そんな理由より嬢ちゃんの理由の方が、俺は好きだ。それに、自分の弱い部分に突き進む根性、気に入った」


ニカッと笑ったフォルテスは、少女に手を伸ばす。


「物は試しだ、【見て】くれ」

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