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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
一章【監禁編】
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「そういえば我が歌姫よ。もうすぐ期限だな」


朝食を食べていた最中にかけられた言葉に手を止めた。


「まだ……一ヶ月ございます」

「フフフそうねん。まだそれだけあるのよねぇ。わたくし達には一瞬だけど……」

「九年間誰も来なかった此処に、今更誰かがくるとは思えぬが。まあ良い、最後まで足掻きたまえ」

「……」


意地悪く笑う三柱の神様達を睨みながら、思わず胸元の首飾りを握る。


シャラリと首飾りの鎖が鳴った。


最初は無期限だった主選び。その後、とある力を得る為に私は冥王様、呪神様、死神様、そして最近浮気中でいない戦神様(他にお気に入りを見付けたそうだ)と新たに契約をした。


その対価が此処にいる間は神様に求められるままに歌を捧げる事、神様が用意した教師に歌舞を習う事。そして、十年経っても此処から出られなければ、主を選び神の世界の住人になるのだ。


私が望んだ力が無駄になる条件だが仕方ない。そもそも、あんな力を、神様から直接手に入れるには破格な条件である。


贅沢を言える立場ではない私は、条件を飲んで頷いた。


そして歳月が経った。


先程十年経ったと言ったが、正確には違う。あれから九年十一ヶ月。


あの日、私が一人の少女を殺してから、そんなに月日が経った。


私は意地悪な神様達と別れると、少女の墓に花を供えに行った。


この研究所には様々な施設があり、植物を地下で育てる施設もある。そこで育てた可憐な白い花を彼女の墓前に置く。


墓と言っても簡単な物だ。恐らく研究員達の憩いの場と思われる、床に土が敷き詰められ大樹が生えて花が生い茂る一室。天井には幻影の魔術にて青空が映し出され、スプリンクラーを利用した雨も時々降る巨大な箱庭。


その大樹の前に剣が一本刺さっていた。


それは木製の玩具の剣。冒険者に憧れていた、幼い少女の大切な剣。


「おはようございますアリス。今日も良い天気でございますね」


墓の前で一礼すると、朝の発生練習がてら歌を歌う。


偽物の森に放された小鳥達が鳴くのを止めて私の歌に聞き惚れた。


私が少女を殺して神様達と再び契約した後、脱出する為に出来ることは全てした。


だがしかし、分かった事は中から出る事は無理だという事実だ。此処の結界は魔力を閉鎖しているのだ。


魔術を使うには不可欠な精霊だが、世界に満ちる生命の息吹である魔力も必要不可欠である。空気中にも魔力は満ちているのだが、その流れをほぼ完全に施設内で循環させてしまっているのだ。


そうなると、結界内は一種の異界や聖地となる。


歪んだ空間である結界の中でどれだけ魔術を使用しても、結界も含めた外に干渉できなくなるのだ。


魔術が結界より外側に影響しないから結界を壊す事は無理だし、結界の魔術式を操作しようとしても、それには魔力が必要なので無理だ。


また、魔力の遮断にて他人が施設を感知することを困難にしている。


当然、このような結界は多大な資金を必要とするし、労力も半端ない。しかも、下手をすると中にいる人物は一生閉じ込められる。


正直、正気じゃない。これの目的は、たった一つ。


私達を逃がさない為。


童話の中の妖精達の世界のような此処には、恐らく無垢な幼子だけが出入り出来る。


幼子には境を越える力を、大なり小なり持っているからだ。


センティーレもどうする事も出来ず、出れもせず時間を持て余していた私には、歌と踊りの稽古はちょうど良かった。だが……。


稽古は鵺王様の部下様達に習ったが、目茶苦茶だった!


古今東西様々な歌と踊りをマスターさせられたよ!ガラスの仮面もビックリなスパルタだよ!過酷な音楽漬けの日々に、なんか様々なスキルが花開き、「うわー……」と我ながらドン引いた。


ちなみに、現在の私のステータスは以下の通り。


■■■■■■■■■■■■


【種族】

人工生物(家事特化・改)


【名前】

カリダ・アーエル


【称号】

囚われし者、賢者の遺児、黒旋律の歌姫、歌謡を極めし者、比類なき美声、プリマドンナ、トップダンサー、至高のストリッパー、舞姫、お色気ダンサー、天然泡姫


【スキル】

気難し屋耐性、賢者の知識、飛行(高)、

歌姫[冥王の加護][死神の加護][呪神の加護][戦神の加護]、

色気(癒し系大)、絶対音感、リズム感、痩せ型、美声、詩情、神界の気品、繊細な感受性、ロマンチスト、ド根性、舞の鬼、軽やかな脚、記憶力増大、家事の鬼、闇属性無効、呪い無効、勝負強さ、闇視、闇神達の加護、鵺王の加護、[(ピー)]……以下略。


【体力】300/300

【魔力】1020/1020

【攻撃力】68

【守備力】276

【魔法攻撃力】150

【魔法守備力】6000

【器用】540

【素早さ】890



■■■■■■■■■■■■


フフフ……今の私はオペラからポールダンスまで完璧だ。ってゆーか、習ったダンス、お色気系が多過ぎたんだけど!?私、今男だよ!?


確かにヘイスケさんが踊ってたのは凄くて、思わずオヒネリ投げたけど!凄い色気だよ、腰の捻りがえげつないよ!水が滴るところか洪水レベルだよ。


違う、話を戻そう。そのせいで、称号が大変な事になってる。


つか、【称号:天然泡姫】【スキル:(ピー)】ってなんだよ!?身に覚えないんだけど!(ピー)ってなんだよ、なんで規制が入ってんだよ!


詳細見てやる。


……………………。



うぎゃぁぁぁぁ!?説明欄が、ほぼ官能小説に!なんで?私の体って、どうなってんの!?こりゃR15じゃ(ピー)になるよ!


「ふー頑張った甲斐があったよ」

「鵺王様!何だか訳が分からないスキルや称号が!」

「その為に育てたんだもん当然さ!!意識しない部分での潜在意識への刷り込みやら、日頃のお手入れやら、様々な部分で影で努力しました!」


振り向くと、ソコには誇らしげに胸を張る鵺王様と、スーツを纏った部下様達。彼等はイエーイと手を打ち合わせて、はしゃいでいる。


何やってくれてんじゃぁぁ!!私はお水の世界で直ぐさまNo.1になれそうなスキルなんていらねーんだよぉぉぉ!!


「カリダちゃん。僕……世界にエロが増えれば、もっと平和になると思うんだ……」

「馬鹿!?」


腕を背中で組みながら、遠い目で天井を眺める鵺王様。その後ろでは、部下の皆様が感動した瞳で主を見つめている。


この方達は、何を馬鹿な事を言っているのか?清々しいなこの野郎!


「あ……ついでに、えい!!」

「……あ!?」


馬鹿騒ぎをしていたら、いきなり鵺王様のしなやかな人差し指で喉を突かれた。


トンッと衝撃がした瞬間、喉の奥から何かがシュッと抜けた感覚がした。


「……」


何をと言おうとした瞬間、私の喉は何も奏でなくなった。


「んーゴメン。ちょっと君の声を貰うよ」

「!?」

「大丈夫。一ヶ月くらい後にかえすから!」


血の気が引く。


私は毎日、外に向かって歌っていた。それは、少しでも誰かに気付かれる可能性を上げようとする為の足掻きだ。


外に聞こえているか分からないが、ソレが唯一の出来る事だった。


なのに、歌声を奪われたら何も出来無くなる。それに、歌わなければ冥王様達との契約を果たせなくなる。


「大丈夫。皆には話したから。それじゃあ、またねー」

「……!?」


伸ばした手は空気を掻き乱すだけで、何も触れなかった。


何時も通り鵺王様は溶けるように掻き消えて、気付くと部下様達もいなくなった。

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