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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
プロローグ
3/64

生まれました!

主人公の設定が全く違います!お気に入り登録して頂いた方々誠に申し訳ありません!

風光明媚な幽山が立ち並ぶ山脈。人里から遥かに離れた山奥に、岩をくり抜いた洞窟を改造した家屋があった。


家屋に入ってすぐ目に入るのは本だ。雑多に本が積まれて塔のようになった物が、所狭しに置かれた広い部屋。



掃除はいったい何ヶ月していないのだろうか?岩面が剥き出しの底冷えするような室内には、盛大に埃が積もっていた。


人が住めるのか疑問が浮かぶ場所だ…。


椅子や机等の家具の上には、もれなく書類や本が雑多に置かれ各所で雪崩を起こし、用途がなされていない。


剥き出しの岩面に申し訳程度に設置された台所。無骨なステンレスのような素材で出来た洗面台やコンロは油や水垢でこれでもかと汚れ、洗われていない食器が突っ込まれたり積まれていて、互いに支え合い危ういバランスでなんとか保っていた。


食べ残しが腐っているのか、悪臭が室内には篭り小バエが飛び回っている。部屋の隅に置かれた、穀物保存ようの箱からはガサゴソと不穏な音が聞こえて恐怖である。


そんな腐海を横切り左側の扉を開くと、そこには本棚の迷路が広がっていたが、先程の部屋と比べると清潔に保たれていた。だがしかし、比べ物にならない質量が猛烈な圧迫感を演出していた。


そこには一人の老人が調べ物をしていた。高い脚立にチョコンと座る小さな小さな老人は辞書のように分厚い本を抱えて熱心に見つめていた。


「何故だ…何故目覚めんのだ。既に成体になっている。臓器も揃っている脳内の信号も発生し生命活動も自律している。何故だ…」


ブツブツと呟きながら本をしまい床に降りる老人。彼は部屋の端に隠すように設置された、壁と同素材の三十センチ程の小さな扉を開き中に入った。


これは雑菌や外からの刺激を必要最低限にするための措置だ。


老人が入ったソコな小さな部屋。部屋の四方にはビー玉のような輝く石が嵌め込まれている。


彼は手を翳して不可解な言葉を呟いた。すると、空中に放電されたような音が響き、光りの壁のような物がビー玉を基点として発生する。


老人は躊躇せずに壁に向かって歩みだす。壁は老人を弾く事なく浮かびつづけ、彼はすり壁を抜けてしまった。


すり抜けた瞬間、彼の体からパチパチと何かが弾けて炭となって落ちる。先程と比べて清潔になったように見える老人は、杖を突きながら向かい側にある扉に手をかけた。


先程とは違う普通の大きさの扉を開くと、そこには複雑な機械に覆われた部屋があった。


様々な数値が書かれた方眼紙が壁に貼られ、不思議な液体が入ったビーカーが規則正しく棚に並べられていた。整然とした様子のそれに反するように部屋の床には様々な本や機械の工具が散乱し、机の上には資料が所狭しと積まれていた。


そんな暗い室内には淡い燐光を発する物があった。


透明度が高い硝子の巨大な円柱。その中には半透明の液体が満ちていてボンヤリと光り輝いていた。その中身を見上げる老人は苛立だしげに呟いた。


「さっさと起きろ」


老人が怒りを隠しもせずに杖で硝子をガンガン叩く。すると、コポコポと誰かが水中で息を吐いた。


老人が見上げる先。


そこには管に繋がれた少年が硝子の中でたゆたっていた。



------------------------

それは、才能に嫉妬した者達に陥れられ、免罪によって幽山に幽閉された天才魔術師が作りだした人工生命体。天才的頭脳故に人嫌いである彼であったが、人の性か長きにわたる孤独に耐えきれなかった。


そして彼は作り出す。


理性も知性も心を持つ人形。いや…人工的なヒトを。


理性や知性を湛える外側(肉体)は用意された。後は心だけ。


今日も魔術師は癇癪を起こして眠りにつく。眠り薬替わりの酒の味にも飽きた。


ブツブツ文句を言いながら、老人は衣服が積まれて窮屈なソファーの上で眠りにつく。


いびきを響かせ鼻提灯を膨らませる小さな老人。そんな彼の頭上を通り、とある存在が駆け抜ける。


存在は片手で恭しく掲げたソレを円柱の中の少年に押し付けた。胸の辺りに押し付けたソレは、まるで以前から居たように自然に少年と一体化した。


存在は胸に手を当て一礼すると、フワリと消え去った。


【私が関与するは此処まで。後は全て貴方様次第、頑張って下さいませ---様】


------------------------


ドシャリ


痛い…。


私は放り出された衝撃で意識が覚醒した。目を開くと、中々視点が合わない。目を擦る為に片手を上げるが、何故か動かしにくい。


どうにか動かして瞳を擦り、何とかマトモに見えるようになった。周りを見ると、私が居る部屋は薄暗い部屋だった。


沢山のメーターやパイプが張り巡らされ、天井をぶち抜くような巨大な機械が置かれている。書類にまみれた机の上には、訳が分からない液体に満たされたメスシリンダーやビーカーが置かれている。


生活必需品は見当たらずに、科学の授業に使用するような物しか見えない為、此処は研究室か実験を目的とした部屋に見えた。


「う…あ?」


後ろを振り向くと、そこには透明な硝子で出来た円柱があり、一部が扉のように開きそこから半透明なとろみのある液体が流れている。


それは私の体を濡らしている物と同じであるから、私はどうやら此処から出たようだ。


一先ず、私は四つん這いになった状態のままだったので立ち上がろうとした。だがしかし、ビンと引っ張られて再び尻餅をついてしまった。


体のバランスがおかしい。


体を見てみると、何故か全身には点滴の管のような物が刺さっている。痛みはないが不快だ…。


管が気になって仕方がない。恐る恐る管を引き抜くとヌルリと抜けて、抜けた部分の肌は僅かに赤くなっているだけで傷跡らしい物はなく全く痛くなかった。


私は覚悟を決めて次々と抜いていく。


全てを抜くと、私は力を入れて立ち上がる。足に力が入らなくてプルプルする。


自分の足を見ると、見事に足はプルプル小鹿のように震えている。


「ん?」見た足は随分と細くて小さな物だった。見てみると、スラリと長くて肉付きが良くてプニプニしている。ひざ小僧がピンク色の可愛いらしい物だ。


視線をあげて股間の間を見つめると、小さな可愛いらしい物が揺れていた。


イヤン


手も見てみると子供のような手だ。私は鏡を探して周りを見る。


「これでいっか」


呟く声も甲高くて可愛いらしい。


鏡はなくて、棚の隙間に突っ込まれていた銀色の板を引きずり出した。滑らかな表面は周りの光景を映し出す。


板に顔を映す。すると、そこにはユルフワ金髪に澄んだアイスブルーの大きな瞳を持つ、可愛いらしい少年が居た。


髪の毛なんてサッラサラ、瞳は垂れ気味で大きくて、睫毛はバッサバサ、小さなピンクの唇はプルンプルン。白い肌は抜けるようで手触りOK!まさに美形。KING OF 正統派美少年。


その美少年ぶりに、私は何だぁ、とガッカリする。特典は何の意味があったのか…。予想と全然違う。


私はこんな美少年は好きではない。どちらかというと受けとは無縁そうな青年が好きなのだ。このような受けでございと、あからさまな外見は嫌いだ。


私は青年受け萌えなんだ。大人になりたい。



まあ、考えてみたら当然か…。生まれてすぐ成人している訳ではない。他の転生主人公達は子供からやり直していた事を考えると、赤ん坊からやり直さないだけ感謝だ。


それに、成人したら私の求めていた外見になる可能性は大きい。子供の頃は美少年、大人になったら不細工はよくある話だ。


特に外人さんは、小さな頃は美少年で、成人したらゴリマッチョや貧弱外見に詐欺レベルで変わる事がよくある。パッと見は黄色人種に見えないから期待はできる。


きっと!年取れば根暗や神経質、平安顔とかの言葉が似合う素敵な貧相男子になると信じてる!


だけどなー美少年かー嫌だなー。舌打ちしていると、板にチラリと白い物が見えた。


「ん?」


振り返っても何もない。再び板を見ると、再び白い物がチラリと見えた。


私は板に顔を近付ける。板はあまり鮮明に映さないから白い物が良く見えない。


私が目を凝らしていると…。


ムズムズ


「ん?痒い?」


ムズムズ


何かが背中で動いた…。背中を触ろうと手を捻って伸ばした瞬間。


ビービービービー


「!?」


突然ブザーが鳴った。まるで非常事態を告げるような凄まじい騒音。


ガンガンとブザーが鳴り響く室内に恐怖がつのる。いったい何が始まるんだろう。訳が分からない。


怯えていると、誰かが凄まじい勢いでやって来るのが分かった。


それに体をビクンと震わせる。叩き付けるように開かれた扉。そこには一人の老人が立っていた。


はげ上がった頭に小麦色に焼けた肌。瞳は深黒で、知性的に鋭い。非情に小柄な体格で、恐らく低学年小学生くらいだ。それにローブを纏って杖を持っている姿は、まるでスターなウォーズのあの人のよう。


弱々しさは全くなく、周りからジジイと呼ばれてそうな印象だ。


老人は私を見ると、その禿頭にビキッと青筋を浮かべた。


「何やっとるかぁぁぁ!」

「ごふぅ!?」


この世界に生まれた瞬間。私を迎えたのは祝福の声ではなく老人とは思えない威力のあるアッパーカットだった。

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