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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
一章【監禁編】
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忘れ去られた施設

回想シーンが終了し、現在に戻ります。

そして、まあ、なんやかんやあって十年経ちました。


「いやー。こう考えると、随分経ちましたでございますねセンティーレ」

「キュウ」


あれから十年も経つのか、そりゃ羽も育つ。体格も成長したが、同時に私の背中の羽も成長して逞しくなり、以前のキューピーぽさはなくなり羽より翼!って感じになった。


もう、広げると人が一人両手を広げたくらいの大きさになっちゃったよ。まさか、こんなにでかくなるとは思わなかったよ翼。


しみじみしながら部屋から出ると……。


「相変わらず早いな我が歌姫よ」

「……(眠い)」


目の前の談話ホールには、もはや定番化した冥界主従がいた。


談話ホールに最初から置かれていた、高価なソファーに座っているのは気怠げな冥王様。


脚を優雅に組み、新聞紙を読みながら香ばしい珈琲を飲んでいる姿は相変わらずお麗しい。


ベージュのスラックスを穿いて、白いシャツの上から黄緑色のカーディガンを羽織る姿に、寝起きの色気を感じてウハウハウハウハ!!


「ふ……当たり前ではないか」


……もう心を読まれるのは慣れた。少し照れた冥王様を見れたから良しとしよう。


「………」


その横で、チビチビとマグカップに入ったホットミルクを飲んでいるのは死神様。


相変わらず、フード付きコートを着た姿だ。


この間作製して贈呈させて頂いた着ぐるみパジャマ(怪獣)を着てくれていないのだろうか?



デザインが気に入らないのなら、【猫】【ニワトリ】【ヒヨコ】等の他のデザインを作るのに!


等と心の中で絶叫していたら、ビクンッと震えた死神様は必死に首をプルプルと振っていた。


ウフフフ……ハッキリ言って貰わないとカリダ分からなーい。


あまりにも怯えるので、死神様専用菓子をあげたら嬉しそうにしていた。だが、速攻、冥王様にとられていた。大丈夫!予想どうりです!きちんと予備菓子がありますから!だからプルプル震えないで!泣かないで!


「………」

「美味である」


涙目の死神様の視線の先には、満足そうにモシャモシャと羊羹を食べる冥王様。


パワハラに悩む死神様が可哀相なこの頃。


「それで我が歌姫よ、私の物にならぬか?」

「断るでございます。センティーレ醤油を取って下さいまし」

「キュ」

「相変わらず連れぬな。む……この出し巻き卵美味である。腕を上げたな!我が歌姫よ!」

「……(ズビシ!)」



談話スペースの脇にある部屋には簡単な調理スペースがある。袋小路に調理機具をぶち込んだような場所で、システムキッチンのように機能的な設計だが、普通の台所より狭い。


そこで朝食を作っていた時の会話だ。


「神様なんだし、つまみ食いすんな!でございます!」


なんか誇らしげに、親指を立てて卵焼きを食べている二柱にツッコむ。お前らは鼠か。


あと、此処狭いんだから来るな!成人男性二人に竜でいっぱいいっぱいなんだから!


ちなみに、死神様は体を透かす事ができるからノーカン。冥王様もできるはずなのにしない。


どうやらプライドが許さないらしい。え?何その理由?


センティーレでさえ、調味料を取ったり食材を魔術で炒めたりして、料理を手伝ってくれるんだから神様達も何かしんさい!


「……」


死神様は相変わらず腑に落ちない顔で味噌を見つめている。毎回言ってるが、食べ物だから!コレがあんなに美味くなるのが理解出来ないって?


褒めてくれてありがとう!


あっこら!生で食べちゃ駄目!


「……!?(悶絶)」


「お茶でございます。飲んで下さいまし」

「ふっ!馬鹿め!」

「あー!邪魔でございます」

「キュー」(梅干し持って来た)


ギュウギュウ詰めの中でギャアギャア言いながら料理をする。


本日の朝食は和食だ。


塩鮭を焼き、上に紫蘇を刻んだ大根おろしを置き、隠元豆の胡麻和えに出し巻き卵に味噌汁の純日本の朝ご飯!!


味噌や醤油やらは神様達に必死に説明したら、何処からか持って来てくれた。正解までの道が長かったけどな!


醤油だと思って舐めた、甘くクドイ液体は原材料は何だったんだろう?物凄い魚臭かったけど……。


私はオーブンの火加減を摘みで調整しながら鮭を見る。


使用しているのは、前世の物にも負けず劣らずの機能を持つオーブンだ。


此処にはコンロや小さなオーブンもあるが、ガスや電気があるのではなく、これは魔法陣技術の結晶である。


魔法陣とは、チョークや染料で描かれたり、書き込む媒体に直接刻まれた陣に魔力を流す事で、魔術の行使や結界の設置や呪いなど様々な効果を得る物だ。これは一度書いたら消えるまで効果が持続し、魔力を増幅するので、僅かな魔力で高位魔術を使用できる。


それなら、魔術師の間で魔法陣を利用した魔術が主流になると思われるが、現在は呪文を演唱する魔術が主流だ。


何故なら、魔法陣を使用するのは、とんでもなく面倒臭いのだ。


魔法陣は、かなり複雑な構造で尚且つ知識も技術も必要だ。何千何百の図形や文字を目的に合わせて組み合わせる作業は、精神的にも肉体的にも重労働である。


蝋燭を点す程度の、小さな魔術を行使する魔法陣を制作するだけでも、魔術師は徹夜しないといけない。それに、記号の配列を僅かにでも違えば暴発する繊細な物でもある。


特に召喚術では、魔法陣を書き間違えれば召喚物に殺されてしまうこともあるのだ。


また、当然魔法陣の質はそのまま術者の質に繋がるのも問題だ。


つまり、高位魔術を使用するには、高位の魔術師が書かないといけないのだ。だがしかし、ここで問題が発生する。


高位魔術を使用できるような魔術師は大体がプライドが高い。そんな辛い重労働は好んでやらない。


よって魔法陣魔術は主流ではなくなり、その開発技術はかなりマイナーなオタク技術とされていた。


シレービュではその魔法陣の簡易化に成功。戦闘時には相変わらず演唱魔術が主流だが、日常では魔法陣魔術を利用するようになった。


魔法陣の量産により、一般家庭にすら魔法陣を利用した魔道具が広がり、それが国が富んだ要因の一つとなる。


話は戻るが、私が料理をしている此処は、以前は紅茶や茶菓子を用意されていた場所だ。だが、センティーレに研究員が全員殺された今は、私の台所として使用させてもらっている。


十年前に研究施設を探検した時に見た、監視カメラの映像を思い出す。


どす黒く変色したセンティーレ(愛する者を失った竜がむかえる狂化と呼ばれる状態らしい)がゴーレムを操り研究員達を殺す映像。


凄惨な光景に一瞬怯えたが、その後に研究資料用の動画を見て、研究員達に対する同情は霧散した。


奴らは自分達が人々にやっていた事を、センティーレにされただけだ。逆にセンティーレは一発で殺していたから甘い方だ。


映像の中では、研究員達は、ジックリと時間をかけてデータを計測していた。


特に、同一の構造を持つ双子に対する実験は非道につきた。比較データをとる為に、様々な延命処置を施しながら人間とは思えない所業を行っていた。


映像の中で、珍しい男女の双子の子供にはしゃぐ、研究員達の無邪気な歓声に吐き気がした。だってアイツら、血まみれの赤ん坊を前に普通に話しているんだ。


半狂乱の母親の前で、注射の太い針先を、ふっくらして柔らかい子供の首筋にゾブリと突き刺しながら、飲み会の約束をしているんだ。


人間を人間と生命を生命と思っていない。只の化学反応の塊と考えている姿。


確かに前世では薬品を開発する為に動物実験はあった。私自身もその恩恵に預かっていた。


だがしかし、動物実験には厳格な規定が決められ、必要以上の苦痛を与えないようにされていた。


日本の大学病院で、論文を見に来た外の学者が、実験動物の慰霊碑を見て感動したのは有名な話だ。


動物虐待とか様々な議論はあったが、対する研究者は実験による失われる命を【尊い犠牲】として敬意を払っていた。


それは人間のエゴだろう。実験動物にとっては堪ったものではない。だがしかし、その心構えは絶対に必要な物だったのだと理解できた。


私が見る映像には、そのエゴが取り払われ、加速する知的好奇心の行き着く果ての光景があったから。



嗚呼……マトモな精神じゃない。涙すらも出ない。



映像を見ていたらセンティーレが、私を怯えながら見つめていた。


私は恐ろしい顔をしていたようだ。人間を虐殺する自分の姿を私に見られ、私に嫌わたと思ったのだろう。


私はセンティーレを撫でながら笑った。


「大丈夫。センティーレは間違っていないでございます。センティーレ、彼等の無念を晴らしてくれて、ありがとうございます」


私がセンティーレにお礼を言った時、ちょうど画面に映し出された映像は、撮影者を睨みながら死に絶える母親の姿であった。


■■■■■■■■■■■■


お洒落なティーカップに麦茶を注ぎ、繊細な模様が描かれた陶磁器に塩鮭と卵焼きを盛る。


談話スペースに出ると、神様が増えてた。


「あ゛ー頭が痛いわぁ」

「相変わらず悩ましいでございますね」

「やん。惚れちゃ駄目よぉ歌姫ちゃん」


四人がけの大きなソファーに座っていたのは呪神様。体には比喩ではなく布を巻いただけの姿だ。しかも透け透け桃色で、布を通して肉感的な呪神様の体の質感が丸分かりで悩ましさ満点だ。


男ならドキッとするだろうが、十年前から知っている私としては、ときめかない。どちらかと言うと、親戚のだらし無いネーチャンを見て仕方ないなーという感覚になる。


呪神様の体を見ていると、その素晴ら尻を枕にして寝てみたくなった。桃尻だから寝心地が良さそうだ。


「良いわよぉ。おいでなさい歌姫ちゃん。優しく挟んであげるわぁ。ちなみに、私の所に来ればぁ、巫女ちゃん達が温めてくれるわよぉ。ポヨンポヨンの酒池肉林よぉ」

「結構でごさいます」

「やあん。冷たいわぁ」


硝子製の背が低い、四脚の机の上に朝食を用意しながら、絡み付いてくる呪神様を引き離す。


プウと拗ねた呪神様がソファーの上に、のの字を書いているが無視だ無視。だがしかし、このまま冷たくするとマジで怒るので、抹茶アイスを用意する。


「キャアン!歌姫ちゃん大好き!」


途端に機嫌が良くなる呪神様。本当に手間が掛かる神様だ。


「ウフフフ。そうよぉ、わたくしって、手がかかる女なのよぅ」

「ハイハイ」


ソファーは神様達に占領されているので、私は脚立のように折り畳みできる木製の椅子に座り手を合わせる。


「いただきます」

「キュー」


座って挨拶。ちなみに、神様達は既に食べ始めている。おい!神様てめーら!


「相変わらず自然にメシ食ってやがりますが、神様は必要ないのでは?」

「状況による」

「……」

「そうよねぇ」


アイスやらご飯やらを食べている神様は、相変わらず適当な感じである。


私の朝は大体こんな感じである。監禁されて十年経つが、なんだかんだ平和な日常である。

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