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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
一章【監禁編】
27/64

神々の決定

【不具合は解消されました。非正規な改変を除去致しました】


「さあ、おしまいだよ」


現れた銀髪美少年が手をパンッと二度叩くと、私を繭のように覆いユックリと回っていた光が収束して消えた。


「お…おぉ…。体が元に戻ったでございますー」

「キュー!」


立ち上がって試すように体を動かすと、思い通りに動く。今まで勝手に動いたのが嘘みたいだ。


あれから、美少年に腕を捕まれたと思ったら、一瞬でとある部屋に移動していた。テレポートにありがちな不快感は全くなく、ストンとした階段を踏み損ねたような感覚がするだけだ。


私とセンティーレが運ばれたのは保健室のような部屋。パイプ製の白いベッドが、左右に二十個ずつあり、カルテが積まれた粗末な机があり消毒と薬が混ざった匂いが鼻をついた。


少年が説明してくれたのだが、此処は施設の一室らしい。


此処には美少年と従者の男性、私とセンティーレだけがいた。何故か神様達がいないが、美少年は気にせずに私に手招きした。


近寄ると、あるベッドの上に従者の男性が布を敷いていた。


綺麗な布は艶やかで、多分絹だと思う。そこには精緻な図形がビッシリ描かれていた。


「今から君を治療するからね。ヘイスケお願い」

「承りました」


従者の男性に抱えられ、その布の上に横たえられ、私は光の壁に囲まれた。手で叩いてみると、コンコンと硝子を叩いたような音がした。


見ず知らずの少年に何をされるか正直ビビったが、神様達の知り合いみたいだし、どうやら私の体を治してくれるそうだから、されるがままにしておいた。


私の頭の中に命令された【暗殺命令】をどうにかして欲しかったからだ。


少年が外見年齢のわりに、まるで爺のような深い知識を湛えた優しげな瞳をしていて、人じゃない事も理由の一つだ。



私が大人しくしていると、視界が真っ白になり何も見えなくなるが、声だけはボンヤリと聞こえてきた。


「あー大分弄られてるね。ヘイスケ、眼鏡とって」

「はい」

「さーて、やるよー!」


今からハイキングに行くような軽い気合いの声が響くと、キュイーンドガガガという音が響いて、光の壁が回り始める。


「フヤヤヤ」


体がゴロンゴロンと、まるで洗濯機の中に入れられたように揉みくちゃにされる。


「あー此処が盗られてる。隙間があるから、穴埋めしないといけないね。ねえカリダちゃん、聞こえてる?」

「はい?」


何故、私の名前を知っているのだろうか?


「君の中身が幾つか抜かれて、替わりに別の物が詰め込まれてるんだ。コレを抜かないといけないんだけど、隙間が空いたままだと、頭の中がお花畑になっちゃう。だから、今から僕の力を替わりに埋め込んで良い?多分何か副作用があると思うけど……」

「何ですと!?」

「んーあー。まあ、それ以外やりようがないし面倒臭いから入れちゃうね!大丈夫!大丈夫!多分、大事(おおごと)にはならないから!」


妙に明るい声がしたと思ったら、何だか暖かい物が体の中に入って膨れた。


「ちょ!?ぎゃー!何か入って来たぁぁぁでございます!キブ!ギブアップ!らめぇぇぇ!溢れちゃうぅぅ」

「うん辛いねー辛くても止められないから、ごめんねー」


体の中で何かが膨れ上がる違和感に悲鳴を上げたが、まるで歯医者さんに痛いと訴えた時みたいな反応をされたし!


それからウニョンウニョンされたり、くすぐったくて爆笑したりして、私の修理は終わった。


フフフ……、実はフラフラですよ。


だがしかし、センティーレを殺す事はなくなったから安心する。何せ神様の知り合いが治してくれたのだ!


多分大丈夫でしょ!


それから、少年の指示に従って軽い運動をしたり質問に答えて不具合がないか確認した。


これは、マスターに産まれた時にされた事と同じだ。


「あー、やっぱり体の一部が形質変化をおこしちゃったかー」

「?」

「爪が変化しちゃったね」


言われて爪を見たら、なんとソコが金色に変わっていた。


「おぉ!?」

「んー見た限り、色が変わった程度の変化しかないから大丈夫。良かったね!片手や片目に闇の力が宿ったり、破壊の衝動に飢えた第二の人格が発生しなくて」


怖っ!?何その副作用!?


ただでさえ白羽付き男子という茨の道なのに、羽+邪気眼とか羽+二重人格とか痛すぎですから!


「ちなみにー、他にも異様に黒い服を好む、邪竜や魔剣にキュンとくる、二刀流や刀にキュンとする、アニメの技名を叫ぶ、自作の技に名前をつける、権力者にむやみやたらに反抗する、カッコイイポーズを考えるとかの副作用があるよ。良かったね、爪の色が変わる程度で」


だから、さっきの質問で変な技名を叫ばされたりとかしたのか!?


肉体年齢は十歳程度だけども、中身は一応成人なみの分別はあるから、【光刃神斬】(ライトグランデスソード)とか叫んで決めポーズは目茶苦茶恥ずかしかったよ!?


てゆーか過去にそんな人居たのか?後ろの従者さんが、そこはかとなく心にダメージを受けてますけど、まさか!


……うん、触れないであげよう。


まあ、爪以外は大丈夫だったようで、頷いた美少年は私にニッコリ笑いかけた。


「うん、もう大丈夫。それじゃ、自己紹介もなしに、いきなりゴメンね。君を治療することが大切だったから、そちらを優先したんだ。僕の名前は鵺王。冥王に呼ばれて、この世界の外から来た存在だよ。こっちは僕の可愛いヘイスケ。彼は人間だよ」


銀髪美少年の後ろにいた男性が一礼した。黒いスーツを着た彼は、落ち着いた雰囲気の二十歳程度の男性。スーツを乱れなくカッチリ着ていて、少し癖のある黒髪を撫で付けてオールバックにし、細い黒い瞳は穏やかな光を湛えている。キビキビとした動作も合間って、堅物な男前といった感じだ。


そんな外見なのに、なんか一々色気がある。溢れ出す色気というか、服の上から分かる均整のとれた逞しい体なのに、その耳には女物と思われる華美なピアスが沢山嵌められている。


無骨なスーツとの対比が、いやらしいですなぁ!!


ハアハアハア!


私が大好きな堅物系色気男子!


「僕……なんだか君と仲良くなれそうな気がする!!」




サラっと心を読まれた!?だが、それより気になる事がある。


「まさか!この素晴らしいコーディネートは貴方様が!?」

「うん!エロいでしょ?」

「はい!着衣エロですね!」

「そう!着衣ってエロいよね!でも、ヘイスケは僕のだから変なことしたら駄目だよ!」

「チッ!」


グワシッと手を繋ぐ私達。テンションが上がる!だがしかし、釘を刺されて少し萎えた。


チッ…、後で無邪気を装って服をなんとか脱がそうと思ったのに。


多分、子供好きっぽい。さっきから私がフラフラしているのを見て、心配そうに私を見ているし。


同じ男だし、「カリダ一人でお風呂入れなーい」とか言えば…ウヘヘヘ。


「僕は心が読めるんだよ」


ギリギリギリ


「痛いー!!」


ちなみに、神様すらを黙らす強者相手ではセンティーレは助けてくれなかった。


「ぐおぉぉ頭大丈夫でしょうか…確認して下さいまし」

「……キュー」


あー、歪むかと思った。


頭を撫でながら、そう言えば今は何年なのか確認出来なかった事を思い出す。


ツールも正常に動いているし、早速確認してみよう。


■■■■■■■■■■■■【現在日時】キルク暦239年 冥王月18日


■■■■■■■■■■■■


【種族】

人工生物(家事特化・改)【名前】

カリダ・アーエル


【称号】

囚われし者、黒旋律の歌姫

【状態】

正常、暗殺指示【取消】


【スキル】



気難し屋耐性、賢者の知識、飛行、

歌姫[冥王の加護][死神の加護][呪神の加護][戦神の加護]、

色気(癒し系)


【体力】80/80

【魔力】320/320

【攻撃力】58

【守備力】246

【魔法攻撃力】50

【魔法守備力】300

【器用】430

【素早さ】90



■■■■■■■■■■■■

「な……何じゃこりゃああああああ!?」


時間が二十年近く経ってるんですが!?それに、何か知らない物があるんですけど?【黒旋律の歌姫】って何?


■■■■■■■■■■■■


【黒旋律の歌姫】…二体以上の闇の神と契約した歌姫に与えられる称号。闇の神や眷属達の加護を得て贔屓される。闇属性の魔法はほぼ無効化となる。


その一方で、光の神の加護を受け難くなる。(闇の神が邪魔する)


■■■■■■■■■■■■


「な…ななな何で!?ステータスが!スキルが!称号が!」


パニックになる。体が成長してないのは、あの液体に入っていたせいだろう。私の保存液は、中に入ると肉体的成長を停止させる作用がある。


だが!それ以外が分からん!


いつの間に闇の神と契約してるんだ!?


ちなみに、この世界の神は二つの勢力に別けられる。


一つは太陽神を頂点にした天界。

一つは冥王神を頂点にした冥界。


二柱を中心にして様々な神が存在しているのだ。天界に属する神は光の神、冥界に属する神は闇の神と呼ばれる。


光の神には豊饒神や牧羊神、回復や知識の神等の神がいる。闇の神には呪神や死神、爛れ神等の物騒な神が多くキワモノ揃い。


歌姫は人の為になる力を奮う、アイドルみたいな華やかな職業だから、基本的に光の神としか契約しない。お花を綺麗に咲かせたり、お天気を操って収穫を手助けする歌姫の中、他人を呪い殺したり爛れ殺したりする力を操っても忌避される。


闇の神と契約するような歌姫は暗殺業だったり、他人に誇れないような信仰を持つ者だ。


特に冥界の主である冥王はえり好みが激しく、下手な歌姫が契約を求めたら瞬殺される。だから、何時からか冥王と契約することは不可能と言われるようになったのだ。


表示される情報に、顔色が悪くなるのが分かる。私は本当に、そんな神達と契約していた。


「うーん。多分弄られた時に無理矢理歌わせて、契約を結ばされたんじゃない?それっぽいのが、さっき抜いた魔法陣の中にあったしね」

「そんな事が可能なのでございますか!?気付かれませんか?」

「まあ、最近まで大規模な戦闘があったからね。神界が大忙しで大変な時の、どさくさに紛れたんじゃない?あの子達って脳筋な所があるからね」


おおう、今気付いたが、マジで豊饒神様の名前が無くなってる。


本当に冥王様に叩き出されたのか…。豊饒神様マジ不憫。

「あの……直せないんでございますか?」

「契約解除はあの子達じゃなきゃ無理」


と鵺王様が天井を指差した瞬間。


無機質な白い天井が、まるで液体になったようにグニャリと歪み、そこから冥王様と呪神様と戦神様が落ちてきた。


お三方が落ちると、天井は元に戻った。


「な…中々やるでは…ないか」

「あ…貴方達ぃ…女…相手に…容赦なさすぎよぅ…」「フハ!フハハハハ!たの……楽しいな!」


三柱達はまさにボロボロだった。居ない居ないと思っていたら、どうやら今まで喧嘩という魂の話し合いをしていたらしい。


冥王様のスーツは右腕がとれて、中に着た白いシャツが剥き出しになっているし、ピシッと整えられていた髪はボサボサに乱れ、顔中が引っ掻き傷だらけである。片手に杖を構えたまま、血走った瞳で二柱を睨んでいる。


呪神様は、殴られたのか顔が紫色に腫れている。尚且つ、服がビリビリに破けて片乳が出ているのに気にしない男前な態度だ。歯を剥き出しにして威嚇しながら、鼻血を手の甲でグイッと拭く姿は大変豪気である。


一方、一番武装している戦神様が一番重傷に見え、所々焼け爛れ、体と鎧の隙間からブスブスと嫌な煙りが出ているが、全く気にしていない。ただ、楽しそうに笑っているのがバトルジャンキーぽくて怖い。


「フハ…フハハハハ!フハハハハハハハ!」

「やれ、またなのぉ?」

「相変わらず戦いに関してはオカシクなるな」


訂正。


バトルジャンキーだった。


ちなみに、何故かいつの間にか私の背後に現れた死神様は、あらぬ方向を見て黄昏れていた。


何だか服が乱れて隙間から覗く肌にイヤンな鬱血跡があるし、物凄く落ち込んでいるし、一体何が有った?正確には何された?



「おい歌姫!厳正なる話し合いの結果お前の処遇が決まったぞ!」

「とゆーか、偉大な父神様にゲンコツくらって、言い付けられたんですがな」

「わたくし達の誰にぃ、着いて行くか歌姫ちゃんが決めなさーい」


神様達の説明だとこうだ。


四柱……しかも、戦闘能力が優れている闇の神が本気で戦えば世界に支障がでる。よって、争奪戦を禁止し、歌姫は四人共有の物にする。


普通なら複数の神が歌姫と契約しても光の神なら仲良く共有するのだが、闇の神は独占欲が高いので、この決定には不満タラタラだ。


だから父神は、戦利品自身に自分の主人を決めさせる事にしたらしい。


主人に選ばれた以外の三柱は、歌姫の使用権を持つが、第一の主人は選ばれた者である。


つまり、一人が私を連れ帰ることができて主人になり、それ以外は私を使用できるけど、主人に許可を貰わないといけないという事らしい。


それならプライドが高い神様達も自尊心を満たされ、他の神様は当然不満だが一応は私を所有できて干渉できるので納得する。


まあ、妥当な解決方法だ。私、完璧物扱いだがな!!


私の意志は何処にある!


「嫌です!!私は誰にもついて行きません」


言い放つと、てっきり怒ると思っていた冥王様が不敵に笑った。


イヤン!その意地悪そうな笑み素敵!……じゃなくて!


何?何かされる?目茶苦茶、不安なんですけど!


「ほう……なら仕方ないな。神である私達は特別な場合しか現世に干渉できん。誰の物にならぬのなら、お前を此処から助ける事はできん」

「此処に張られている結界は強力だからぁ、歌姫ちゃんの力では出るのは無理よん」

「主を決めれば出してやろうと思っていたが、いや残念残念。可哀相だが、淋しい此処に取り残されるのか」


ええ!あれほど暴れて今更!?


思わず見上げると、四柱達はニヤニヤ笑いながら空中に浮き上がっていた。畜生!私に「うん」と言わせる為に軟禁するつもりだな。

これみよがしに「仕方ない」と呟くな!とゆーか、決めたら決めたで、直ぐさま自分達の神の世界に連れ去るつもりのくせに!


「まあ、考える為に余計な情報はない方が良いしな。好都合と言えば好都合だ。なぁに、時間はたっぷりある。選ぶか選ばないか、誰が自分に得になるかならないか、考えるだけ考えたまえよ。判断材料は私達から十分あげよう」

「ふふふ、必ず口説き落とすわよぉ。わたくしの巫女ちゃん達にプレゼント用意させましょぉ」

「フハハハハ!それでは某は……うーん。何をしようか、さっぱりだ!」

「………」


口々に呟きながらニヤニヤ笑う顔は、外道を紛れも無く表現していた。


ヤッパリ闇の神だよ、この人達ぃぃぃ!

監禁決定しました。

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