カリダ君の冒険3
ガキーン
「ぐう!」
悲鳴は殴られたセンティーレからではなく、私の口から出た。
「キュキュ!?」
いきなり殴られたセンティーレは驚いているがピンシャンしている。
成長したセンティーレは、しなやかな筋肉と鱗に覆われ、私程度の腕力で叩き付けても衝撃すら感じでいないようだ。叩いた棒はセンティーレの鱗に弾かれ、反対に反動で手が痺れた。
私の力ではいくら攻撃しても無駄だ。だがしかし……。
ガツン
ガツン
ガツン
体はそんな事を理解もせずに力任せに棒を叩きつけ、センティーレを傷付けようとする。
「い…たい」
「キュー!?」
「センティーレ近付くなでございます!」
小さな体は、自分の体力や強度を気遣う様子もなく、ひたすら機械的にセンティーレを殴りつける。結構体中が痛い。
ガツン
「キュ」
ガツン
「キュ」
ガツン
「キュ」
ガツン
「……いい加減飽きたでございます」
「キュー」
呆れたように呟くと、同意するようにセンティーレは頷いた。
体は相変わらずセンティーレを殴っている。だが、この自動制御は頭が悪いみたいで、ひたすらセンティーレを棒で叩くだけ。
最初は焦っていたセンティーレも今は困り果てている。全く痛くないらしいが、叩く度にキュと小さく鳴いて抗議している。
皆様、私が随分と冷静だと思うだろ?
「ふ…うぐ」
違うんだぜ。結構いっぱいいっぱいなんだぜぇ。限界すぎて、パニクる暇がなかっただけなんだぜぇ。
マスターが死んで、閉じ込められて、次は体が勝手に動いてセンティーレを殺そうとしている。
そんな状況で冷静になれる訳がない。
ガツン
ガツン
「フゥゥ……嫌でございます……嫌でございます……マスター…マスターマスターマスター!」
「ふむ、呼んだか?」
「へ?」
年甲斐もなくフエエーンと泣きながら、ひたすら棒を振っていたら唐突に声がした。
「フ?」
「クッ。随分と不細工な顔だな」
振り向くと、そこには一人の男性がいた。
全く物音がしなかった。
いつの間にか現れ、通路の柱にもたれ掛かるように立っている男性は、愉快な物を見るようにニヤニヤ蛇のような笑みを浮かべていた。
「フ……フオォォォォ!」
男性を見た瞬間、私は興奮のあまり奇声を発していた。男性がビクンッとビックリしていたけど気にしない!
その男性は、近未来的な周りの風景に似つかわしくない姿をしていた。
見るからに高価な生地のグレーのスーツと濃グレーのロングコートを着て、首には鮮やかな緑色のショールのような布を掛けている。スラリと長い指の手には黒革の手袋を嵌めてステッキを携えている。
まるで、どこかのパーティー帰りの貴族のような姿だ。
緩やかなウェーブが掛かった艶やかな長髪は肩まであり、壮絶な切れ長の瞳は素晴らしい翡翠色。面長な顔は青白いがそれが逆に神秘的な魅力を演出している。
だがしかし、せっかく美しい顔立ちなのに、底意地の悪そうな表情が全ての点数を下げている。
でも!
それが良い!
小悪党っぽさが素敵!
小物な感じが最高!
まるで魔法学校の教授に、聖杯戦争の貴族を足して、神兄弟の弟を掛けたような外見!
まさに私の理想の受けがここに!
素敵!素敵だよ!ハアハアハア!ヤベ鼻血が垂れてきた!ああ!自動制御で体が勝手に動くから、鼻血を拭けれない。流血で顔が真っ赤だよ!
ガツン
「キュ」
ガツン
「キュ」
ガツン
「キュ」
そして相変わらずセンティーレを叩きつける私の体。
鼻血を流しながら奇声を上げる私と、相変わらず叩かれて鳴くセンティーレ。
プチカオスである。
呆れたように半眼で私達を見ていた男性は、暫くすると溜息をついてステッキの先で床をコンコンと叩いた。
素敵ぃぃぃ!長い指を額に添えて物憂げに眉をひそめる姿にフォーリンラブ!
「フウ…。とりあえず落ち着け我が歌姫よ」
「?」
誰が誰の歌姫だって?




