カリダ君の冒険2
部屋から出ようとしたのだが、扉から覗くと無機質な廊下にはロボットが歩き回っていた。
パタン
扉を閉めた私は焦りまくった。何事!?
改めて扉の隙間からのぞき見すると、ソコには細長い円柱に蟹のような足がついたロボットが廊下を行き来していた。
大きさは恐らく私と同じ位。灰色の本体の上部には不気味に光る単眼ぽいガラスが嵌められ、不気味な赤い光を発していた。
ツールで検索をかけると、【清掃兼警備ゴーレム壱型】と出た。主に研究施設にて清掃業務に従事し、蟹の足のような掃除専用アームを使い掃除するが、一度侵入者を発見すると獰猛な警備員へと変貌する金属ゴーレム。
ばれた瞬間、猛烈に仲間を呼ぶので注意と書かれていた。
ホワイ!?
何故に!?何故そんなゴツイ物が徘徊してるんだ?何か赤い物を、モップになっている腕でゴシゴシ拭いてるんですけど!
怖さ倍増だよ!?
棒を構えるが、ヤベ泣きそうになる。
どうしようどうしよう。ゴーレムまじ怖い。でも此処に居るのももっと怖いし…。
等と涙目になって恐れ戦いていたが、簡単に解決した。
ポンポン
「ん?」
「キュキュキュー」(任せろ)
肩を叩かれて後ろを振り向くと、誇らしげに胸を張ったセンティーレが、扉からシャナリシャナリと勿体振って出ていった。
「ちょっ!待って下さいましセンティーレ」
「□@★☆▽£□@?」
「ギャー!?センティーレ来ましたですよ!逃げて下さいまし」
「キュ!」(大丈夫!)
電子音を響かせながらギュロリとセンティーレを見たゴーレムは、猛烈な勢いで蟹足を動かして近付いてきた。
ちょ!?キモッ!
ワシャワシャと動く様子はまるでゴキブリだ。
「□@★☆▽£□@!」
ゴキブリゴーレムがセンティーレに襲い掛かると思った瞬間。
「キュー!」
センティーレが可愛いらしく鳴いた。その鳴き声を聞いた瞬間、ゴーレムはいきなり動きを止めた。
そして……。
コロン
ロボットがコロンと転がった。腹?を剥き出しに仰向けになった、いわゆる服従ポーズだ。
「へ?」
近付いても動かない。パイプでツンツンつっついても反応なし。恐る恐るゴーレムの上に乗っても動かない。
「この!この!でございます」
跳びはねても反応なし。足踏みしても言わずもがな。
何だかよく分からないが。
「勝ったどーでございますー!」
ゴーレムの上で拳を突き上げる、白い羽が生えたスッポンポンの美少年。
イヤン恥ずかしい。
そんなこんなで勝ち誇りながら高笑いをしていたら、遠くからガシャガシャと金属音が近付いて来た。
「ん?」
「□@★☆▽£□@!」
「ギャー!また来たであります!逃げるでございます」
振り向いたら新たなゴーレムが現れた!数は十体!!
すみません!調子に乗りました!
「逃げる、逃げるでございますよ!」
センティーレに抱き着いて、頭を掴んで左右にブンブン振り訴える。だがしかし、早く逃げろと訴えてもセンティーレは自信満々にゴーレムを見ているだけだ。
「キュー!」
センティーレが鳴いた瞬間、現れたゴーレム達は一斉に転がり腹?を見せて、また服従ポーズをした。
十体のゴーレムが一斉に服従ポーズするのは圧巻だ。センティーレに抱き着いたまま棒でつっつくが、また動かなくなった。
意味が分からないが、とりあえず……。
「ウンショウンショ。よし…!勝ったどー!でございます」
「キュー!」
ゴーレム達の上に乗り、再び勝利宣言をするとセンティーレも勝鬨を上げた。
どうやら、センティーレはゴーレムを操る事ができるそうだ。センティーレが鳴く度に、整然と並んでクルクルとブレイクダンスをするゴーレム達を見て判断する。
ちなみに、その中心では、誇らしげに両手を天に突き出し、ポーズをビシィとキメるセンティーレがいた。いつの間にか、ゴーレムが持って来たミラーボールが天井で回っている。
「キュー!」
「オォー」
キラキラと輝く七色の光りの中、見事なダンスを見てパチパチ拍手をしていたが、ハッ!?と気付いた。こんな事をする暇はない!
「センティーレ!遊んでないで行くでございますよ!」
「キューァ?」(えー)
腰をフリフリ振りながら嫌がるセンティーレを急かして走り出す。センティーレは渋々ダンスを止めてついて来た。
ガシャガシャ
「こら!ゴーレムは置いてきなさいでございます!」
「キューキュー」(ブーブー)
文句を言うセンティーレを黙らして、脱走を再開した。
■■■■■■■■■■■■
ガシャガシャガシャガシャ
「こっちが出口でございますか?」
「キュー!」
よく考えたら、ゴーレムは敵に遭遇した時に戦力になる。多いと目立つ為に、一体だけ引き連れて走る。
私はゴーレムの平らな頭の上に跨がっている。体が小さい私では、ゴーレムや大きくなったセンティーレに追いつけなかったからだ。
奴ら歩幅を合わせる事すらしねぇ。
そんなこんなで暗い通路を走る。通路は見たことのないツルツルとした素材でできていて、継ぎ目がない。
通路は広くて、ロボットとセンティーレが並んでも余裕がある。
かなり長い間走っている。途中の部屋にあったテーブルクロスを体に巻き付けた私は、周りを警戒しながら首を傾げる。
先程から人影がない。こんなに広い施設なのに一切見えず、時々ゴーレムと擦れ違うだけだ。
ゴーレム達はずっと何かを掃除しているようだ。
チラリとゴーレムの影に何か赤い物が見えた気がして、覗き込もうとしたらセンティーレが鳴いた。
「キュ!!」
前を向きなおると、そこには出口らしき大きな扉があった。銀色の金属でできた扉は、まるでシャッターのような形状だ。
「出口でございますー!」
「キュー!」
ゴーレムに乗ったままシャッターに近付くが…。
キイイイン!
「ぐはっ!?」
「ギュハ!!」
「▲☆★@#&◇!!」
甲高い耳鳴りのような音がしたと思ったら、ゴーレムと一緒に弾き飛ばされた。顔から床に着地して尻を高く上げた姿勢になる。
脇を見るとセンティーレもゴーレムも同じような態勢で倒れていた。
「こりゃ何でございますか?」
棒でシャッターを叩くと、シャッターに触れる前に棒は弾き飛ばされてしまう。よくよく見てみると、シャッターに透明な膜が掛かっていた。
まるで、それは何かを中に閉じ込めようとしているように感じた。
そして数時間後、私はシャッターを見上げながら呆れたように呟いていた。
「ダメでございますねセンティーレ、ロボ君」
「キュー」
「◇&#@★☆ー」
シャッターの前で座り込む私と竜とゴーレム。あれからシャッターの前の膜を棒で叩いたり、ゴーレムが電動鋸みたいなアームで削ったり各自できる事をやったのだ。
最終的にはセンティーレが口からビームを出したのだが、それでも膜はびくともしなかった。マジでビビった。目からビームならぬ口からビームとは、なんだか惜しい気がする。
失敗したセンティーレが目茶苦茶落ち込んでいたので、アレはセンティーレの必殺技的な物だったらしい。ただ今、廊下の隅で物凄くいじけている。
ちなみに、私としてはゴーレム達が集合してロボットみたいに合体したのには、結構興奮した。
「ロボ君。何とかできませんか?」
「☆★@#&◇」
私を乗せてってくれたゴーレムに愛着が湧いたので、ロボ君と命名したのだが、そのゴーレムに尋ねた。
ロボ君はシュンと落ち込み、単眼を暗い青色にして申し訳なさそうに電子音を響かせた。ロボ君も分からないらしい。
くそーう
「開けー開けー開いて下さいましー」
ロボ君に跨がりながら膜をゲシゲシ蹴る。
逃走中なのに随分と脳天気だと思われると思うが、実は理由がある。
先程、出れない事を認識すると一先ず研究所の中に何かないか探索しに行ったのだ。正確には、センティーレによって操られたゴーレム達を使って探索したのだが、ゴーレム達から送られた画像情報によると、この研究所は誰もいなかった。
通信機も使用不能で、外界との交流は絶望的な感じがする。
それを理解すると、私達は再びシャッターの前に戻って、見つかる心配のない今は全力で膜に攻撃をくわえたのだ。
だが、結果は惨敗。
センティーレのビームを受けても、ロボット化したゴーレム達のミサイルパンチを受けても、私の棒アタックを受けてもびくともしなかった。
フッ……、私の棒を弾くとは中々やるな。褒めてやろう!フワハハハハハ!
「フハハハハハハ!」
何だか自棄になって爆笑してみる。ロボ君が心配そうに電子音を響かせながら、私を乗せたままクルクル回っているが気にしない。
何だか悲しくなってくる。このまま閉じ込められるのだろうか?
気分がネガティブになっていると。
【任務実行時間です。実行して下さい】
「へ?」
いきなり聞き慣れないアナウンスが、ツールよりもたらされた。
脳裏に電光掲示板のような文字で示された任務内容とやらに冷汗がでる。何だこれは……。
慌てて【拒否】するが、それは弾かれてしまう。【No】の文字が虚しく表示される。
「え?え?え?」
【拒否】
【No】
【拒否】
【No】
【拒否】
【No】
【拒否】
【No】
【本体の精神状況が不安定です。任務執行を拒否したため自動制御に移行します】
【イリーガルな命令術式認識。非正規な操作が実行される可能性がございます】
【拒否】
【No】
【拒否】
【No】
【自動制御移行中】
【このまま動作が実行されれば制御不能に陥る可能性がございます。修正作業中………修正作業失敗いたしました】
【自動制御移行完了・任務実行】
浮かび上がる文字の意味を理解した瞬間、意思に関係なく私の体は棒を叩き付けていた。
悲鳴が広い研究所に響く。




