お早うございます!
二章開始です!!
とある場所に施設があった。
そこは研究所と工場が併設された施設で、敵にばれないように山を丸ごとくり抜いて中に隠していた。
かっては沢山の人々が働き、それ以上の人々が死に絶えた施設。止まぬ怨嗟と哀願の声が響いていた施設は、今は深い静寂に満ちている。
まるでSF映画のようなツルツルとした素材で作られた施設内部は、まるで迷路のように枝別れし、しかも何層も重なっている為に訪れた者を迷わせる。
通路の所々には動力がまだ生きているのか、ゴルフボール大の照明器具が淡く光り輝いている。だがしかし、施設内は広大な為、長い廊下の先や室内の隅は暗闇が満ちていた。
耳が痛くなるくらいの静寂に満ちた空間は、もし人間がいたら恐ろしい妄想を抱いてしまうだろう。
その施設のとあるエリア。
柔らかいクリーム色の壁紙が貼られ、木製の家具が置かれ絵画が飾られていて、他と比べると生活感がある事から生活エリアのようだ。
そのエリアに健やかな寝息が響いていた。
寝息を辿って向かうと、それはとある一室から発生していた。
その部屋は沢山の編物やキルトに飾られた部屋だった。粗末な家具にはオレンジ色とクリーム色のカバーが掛けられ、部屋の真ん中にある丸い絨毯は毛足が長い深い臙脂色の生地で、とても手触りが良い。
絨毯の上には幾つものクッションが置かれ、そのどれもが一抱えはありそうな大きさだ。無造作に積まれたクッションの上には温かそうな毛布が掛けられている。
その脇にある小さな机の上にはペン立てが置かれ、そこには編み棒や造花、鉛筆や棒付き飴が入れられている。他には、手の平大の編みぐるみやビーズ細工等の小さなチマチマした物が置かれている。
そのどれもが手作りだと思われ、作り手の丁寧な仕事を伝えていた。
室内は清潔で、そんな可愛いらしい縫いぐるみやビーズ細工が飾られている様子は、まるで町の雑貨屋のような雰囲気だ。
そんな部屋の隅にシンプルなベッドがあった。明るい色の木枠に白いシーツが映えるベッドの上には、一人の青年が鼻提灯をプコープコーと膨らませながら眠っていた。
柔らかい毛布に包まりながら幸せそうに眠る青年の頭の下には、竜の体があった。
まるで牛のような大きさだが、細身な為に鈍重な印象はない。あくまでも優美なフォルムの彼は我々から見ると、胴の短い龍だ。
爬虫類としての美しさに満ちた顔は、目を閉じても穏やかな雰囲気が分かる。
フサフサと豊かな純白の鬣が生え、頭からは水晶のような透明度が高い角も生えている。
鹿のような形状の角は先端にいく程透明になり、根元になる程白くなっている。
これは晶竜と呼ばれる種族の特徴である。晶竜は吸い取る魔力の質に応じて、体の色が変わる。竜は体の色で種族を判断する為に、色が千差万別な晶竜は角で判断するのだ。
普通なら単色な晶竜。火の魔力が高い土地で住めば赤色に、水の魔力が高い土地で住めば青色に染まるのだが、この竜の体は見事な七色に輝いていた。
そんな珍しい虹色の竜は、仰向けになって腹を丸見えにして寝ている。大きな竜も、鼻から大きな鼻提灯をプコープコーと膨らませていた。
ノビーンと伸びている竜の腹を枕にして眠る青年は、一見すると普通の人間に見える。
そう、その背中から生える豊かな白い翼がなければ……。
【六時です。起床の時間です】
青年は精確な体内時計に従い目を覚ます。
多目的に使えるツールは、目覚まし機能もある。何時に起きたいかを設定すると、自動で目が覚める。
目が開くと、澄んだ透明な青い瞳が覗く。深い海底の青ではなく、秋の空を何処までも突き抜ける透明感のある青だ。
瞳を瞬かせると、長い下睫毛がバサリと動く。
「う…ふあああー」
瞳に涙を浮かべながら寝汚く欠伸をする青年は、ベッドの上で両手を伸ばしてストレッチをする。
「あ゛あ゛ー」
親父臭い呻き声を出す青年。顔をゴシゴシ擦りながら、首をグルグル回している。すると、まるで光を濃縮したような、緩やかな癖がある金髪が顔にかかりボサボサになる。
口の端から唾液を垂らしながらの色気も素っ気もない動作だが、欠伸をする度に漏れる声の美しさは、寝起きでも変わっていない。
人の鼓膜を擽って撫でるような、低く甘い声は蜂蜜を濃縮したような艶がある。溢れ出る言葉は滑らかで、例えるなら琥珀のようだ。
一度聞いたら忘れられないような麗しい美声。経験のない令嬢が、耳元で甘い言葉を囁かれるだけで顔を赤くしてしまうだろう。
そんな彼は眼下の竜を見ると、不機嫌に金色の眉を吊り上げた。
「さっさと起きやがれでございます」
ドゴス
「キュビョ!?」
相変わらず鼻提灯を膨らませて寝ている竜に苛ついた青年は、ベッドの上に座ったままの不安定な姿勢で踵落しをくらわせる。
「キュオーキュオー」(痛ぇー痛ぇー)
眉間に容赦なしの踵落しをくらった竜が室内を、ゴロゴロと転がって泣き叫ぶ。
それを華麗に無視した青年は、空中に浮かぶ画面に触れ、ツールによってセットした起床時間をリセットしながら立ち上がった。
「外は相変わらず見えないけど良い朝でございます」
体の筋を伸ばす為に背伸びした青年の背では、彼の身長を超える大きさの翼がバサリと羽ばたいた。
そのまま、「一、二、一、二」とラジオ体操を始め、やっと起きた竜も彼の横で始める。
いっちょ前に二足歩行をして屈伸運動とかしている。
だがしかし、竜としては細身であっても牛程の大きさのある竜が立ち上がると、物凄い迫力だ。
竜ジャンプするとズンズン地響きがして、竜の鹿のような角が天井に引っ掛かりそうだ。だが、青年は「相変わらずうるさいでございますねー」と煩わしそうに呟くだけで、全く気にしていない。
第二体操まで終えた彼は、寝間着を脱ぎながら洋服箪笥に向かう。
彼の名はカリダ・アーエル
十年間、この施設に幽閉されている。
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さあさあ皆様お久しぶり。いや……誰に呟いているんだとか言われてるけど、気にしないで。
そうそう!
私カリダ・アーエルは皆様に報告したいことがあります!なんと!私は美少年を卒業致しました。
イェェェイ!!信用してたよ管理官!私が萌える理想像だよ!ハアハアハアハア!
クルクル回りながら部屋に設置されている全身鏡に体を映すと、そこには整ってはいるが美形ではない青年がいた。
整っているのに美形じゃなく三枚目っぽい絶妙なバランス!素晴らしい!
ああ…。バタ臭い雰囲気の顔立ちは、垂れ目やバッサバサな下睫毛もあいまってナルシストっぽさ満点!ボーとした瞳は、何考えているか分からない雰囲気で、動物に例えるならイグアナですね!
ぷまいですハアハア!
背も伸び大体180センチ程度になり、体は痩せて細身だが、しっかりと男の骨格で筋肉もついている。
背の低い受けは苦手だ。いや否定はしないけど、小さくて女と見間違う外見なら普通に女でよくね?と思う。
男らしいのをアンアン言わせるのが醍醐味なんだゴラァ!
肌も不健康に青白くて良いね良いね。いや、本当にご飯食べたら透けそうなくらい白い。十年間も日光に当たっていないから、元々白い肌が、尚更白さが増して人外じみた。
人外だけどな!オー人外ジョークよ!HAHAHAHAHA!
「キュー」
「分かっていますでございますセンティーレ。自分のテンションが高い自覚はございますから、そのような目で見ないで下さいまし!」
鏡の前で全裸のまま高笑いをしていたら、センティーレに可哀相な物をみる瞳で見つめられた。
何だか目茶苦茶落ち込んだ。




