表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒旋律の歌姫  作者: 梔子
閑話
19/64

【閑話】ゆめのおわり

「くそ!?何故こんな出荷したばかりの今日に!」

「第二フロアに侵入されました!!ゴーレム間に合いません!」

「彼の起動はまだか!?」

「!?まさか、彼を戦闘用に改造したのですか!室長がこれを聞いたら!」

「煩い!今は私が室長だ!数年掛けて、やっと変更された忌ま忌ましい術式を解けたんだ!彼を兵器に転用すれば、【試作品】よりも高機能の個体になる!そうすれば、あの【悪魔】を倒し、戦況を一変させる事ができる」

「あ……あぁ……」

「もうすぐだ…歌姫の強制契約は終えた。あとは意識を目覚めさせるだけだ。プロテクトの緩和術式はできた。多少壊れても兵器として活用できれば良い!早く起動しろ!」

「しつちょ…びぐ!?」


ビチャビチャ


「クオオオン!」

「な…狂竜?」

「何故だ!?悪魔と前線にいるはず!」


ガゴゴガゴ


「室長!ゴーレムが暴走を!グガ!?」

「ヒィィ」

「ギャアアア」

「グ!」


ガキガキ


「クアアアア!」

「何故だ…何故たかが竜が魔法陣を、そんなに高度に操作できる!?命令術式の書き換えでゴーレムを操るだと!ありえない…ありえない!ありえない!」


■■■■■■■■■■■■


一体の竜が、とある研究室に佇んでいた。賢者の部屋と違い、無機質な白い部屋には何もない。必要な計器の殆どは壁の中に埋め込まれているらしく、操作板であると思われる長方形の透明な機械が、数個設置されてガランとしている。


部屋は広く、普通の二階建て位の高さだ。そして天井から床までを繋げるように、部屋の中央に硝子筒があった。パイプが壁から伸びて、硝子の下部に取り付けられた機械に繋がり、調整用の液体を注入していた。


竜は、そんな硝子筒の前で筒の中身を見つめていた。


行儀の良い犬のように座っている竜が見つめるのは、懐かしい……懐かし過ぎる少年の姿。


巨大な硝子筒の中には透明な液体が満たされ、そこに一人な少年が一糸纏わない姿で揺らめいていた。


一見すると死体のようだが、少年の胸は緩やかに上下し、口からは泡がこぼれて頭上に浮き上がっていた。


少年の周りには様々な素材や太さで出来たチューブや、訳の分からない機械が液体の中をフワフワ漂っている。これは先程まで少年の体を戒めていた物だ。


それらを全て解除した竜は、小さく鳴いた。


「ク…ア…クアア…」


狂竜の、我を忘れて悲しみに染まっている瞳に理性が輝く。


あの日からずっと探していた。

同じような匂いの少年と出会い賢者からの預かり物を渡したが、黒翼の少年は目の前の少年の代わりにはならなかった。


ずっと会いたかった……会いたかったよカリダ。


瞳から透明な雫がしたたる。


ポロリ


一つ雫が鱗に落ちると、キンと澄んだ音が響き、数枚の鱗が光り、それが治まると鱗は美しく七色に光り輝いていた。


鱗の色が変わる度に、悲しみに染まった竜の頭が冴えていく。憎しみに染まっていた人格が、本来あるべき姿に戻っていく。


「クア…ク…ク」


狂竜が鳴き、腕で空中を掻きながら魔力を動かす。すると、非常に複雑な精緻な魔法陣が浮かぶ。


「キュッ!」


狂竜が魔法陣をソウと押すように触れる。魔法陣は滑るように一人でに動き、それは少年の胸の中に解けて一体化した。


コポコポ


竜が縋るように見つめる中、少年の口から泡が激しく溢れた。泡と同時に光の砂のような物が発生し、輝きながら少年の体を覆い、まるで生きているように舞った。


「キューキュア」


狂竜の体も変わる。涙が幾筋も幾筋も流れ、自身の体を更に浄化させていく。


そして…。


「センティ……レ?」


筒の一部が開き、そこから排出された少年が見たのは、七色に輝く竜だった。見た目が変わったが、その顔付きは彼の可愛いがっていた竜そのものだ。


「生きてたでございますか?」


少年の大きなアイスブルーの瞳に涙が滲む。感動の再会かと思った瞬間。


「キュ…!キューンキューン!」

「うぎゃ!?」


ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ


感激して飛び付いたセンティーレが、猛烈な勢いで顔を舐める。


遠慮一切なし、犬もドン引きする位のヨダレ攻撃。


少年は抵抗するが、牛程度の大きさの竜に押し倒されてヨダレだらけになる。


「この!おバカさん!」

「ギュゴ!?」


唾液滴る良い少年になった少年は、竜の頭を拳で殴り止めせる。


痛みに頭を押さえてうずくまる竜を見て、初めてその変化に気付いたらしい。少年は、記憶の中より大きくなっている竜に首を傾げた。


「センティーレ、何故大きくなっているんでございますか?それに此処は何処でございますか?」


とある隠された施設でカリダは呟いた。


カリダは知らない。


沢山の死体がゴーレムによって清掃されている事を

この施設で何が製造されていたか

この施設に保管された自身の研究資料を

施設の警備システムが起動して、厳重な結界が施設を覆った事を


自分の体の変化を



彼は、まだ何も知らない。


それから十年。

彼は囚われ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ