【閑話】死に際の竜
「キュウゥゥ…キュワァァ」
炎に包まれた室内に竜の微かな悲鳴が響く。
「ギュアアア」
やめて連れてかないでよ
痛い熱い
カリダ熱いよ
オイチャン熱いよ
体が熱いんだよ
いつもみたいに治して
オイチャン撫でて
「キュウー」
オイチャン火が付いてるよ
燃えちゃうよ
何で助けてくれないの?
オイチャン助けて
カリダが連れ去られたよ
痛いこと沢山されたよ
カリダ可哀相
可哀相だよカリダ
「キュウァ」
ヤダヤダ、カリダ返して
連れてかないで
アイツ等悪い奴
カリダ返して
アイツ等嫌い
カリダを返さないと
アイツ等食い殺す
カリダを戻さないと
アイツ等潰す
カリダを傷付けたら
アイツ等切り裂く
ガラガラと棚が崩れ、小さな体を押し潰す。燃え移った炎がセンティーレの純白の体を溶かすのだった。
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……。
……………。
『おい…い…ば…か…竜』
……?
『起きんか馬鹿竜!』
キュッ!?
目を覚ますと、そこには
オイチャン!?
何だよオイチャン!元気じゃんオイチャン!良かった!良かった!流石オイチャン!オイチャン凄い!
あれ?体も軽くなった!
オイチャンが治してくれたんだね?
そうだ!カリダが悪いアイツ等達に連れ去られたよ!一緒に助けに行こうよ!
アイツ等丸かじり
アイツ等食べちゃお
キュ?どうしたのオイチャン。何で泣いてんの?もしかしてまだ痛いの?
オイチャン痛い?
何処が痛いの?
『すまない。あれの本心を見抜けなかったワシのせいじゃ…』
キュー!
オイチャン悪くないよ!アイツが悪いんだ!
『いや、この状況を作り出したのはワシの責任じゃ。孤独に負けてカリダを作ってしまった』
え?オイチャン、カリダ嫌いになっちゃった?カリダ嫌い?
『んな訳無かろう馬鹿が。カリダもお前も大切な家族じゃ。反省はしても後悔せんのがワシの信条じゃ。じゃがしかし、ワシの至らなさでカリダをあのままにし、お主も道連れにはできぬ」
どーゆー意味?訳わかんない。それよりもカリダと新しい子を助けに行こうよ!オイチャンが居れば最強だからすぐだ!
『落ち着け馬鹿!』
ギャウン!?
『よく聞け。管理人を怒鳴って了解させた』
管理人?
『まあ、こっちの話じゃ。ワシの全ての魔力を全て、ねこそぎやろう。魔力は肉体に依存するが、死んだ今なら可能だ』
キュ?キュ?
『ワシの魔力と知識の一部をお主にやる。晶竜ならばそれで命を繋ぎとめ、力を手に入れるじゃろう。それで生き残れ』
オイチャンは?
『ワシは逝く。此処で話すのも無理言っているんじゃ、一人で生きて一人で成人しろ』
ヤダヤダ!オイチャンも一緒に行こうよ。また、カリダとオイチャンとオイラの三人で暮らそうよ!!あっ!新しい子がいるから四人か!四人で暮らせば楽しいよ!皆幸せだよ!
『すまんな…。センティーレ、一人にするお前に酷な事じゃが頼みたい事がある。カリダとフォルテスを助けてやってくれ』
オイチャン?
何処行くの?
待ってよオイラも行くから
待って待って
オイチャン早いよ
何?その白い光は何?
『すまんのセンティーレ。じゃが、ワシにはお主しかおらぬのじゃ。勝手をするワシを憎んでくれ』
白い光!お前、オイチャンを連れてく悪い奴だな!
オイチャン待って
白い光をオイラが倒して助けるから
オイチャン行かないで
オイチャン
オイラを一人にしないでよ
一人じゃ無理だよ
オイチャン
オイチャン
オイチャン見えないよ
オイチャン暗いよ
寒いよ
カリダ
オイチャン
何で誰もいないの?誰か来て
一人は嫌だよ
また一人ぼっち
辛いよ
冷たいよ
悲しいよ
苦しいよ
一人ぼっちは嫌だよ
オイチャン連れてって
オイラも行くよ
だから待って
一緒に連れてって
おねがいだから
痛い頭が痛い
流れ込んでくる
辛いよ
冷たいよ
悲しいよ
苦しいよ
全部アイツ等のせいだ
アイツ等が憎い憎い憎い憎い憎い憎い悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい
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竜とは孤高の生物だ。縄張り意識が強く、成人した竜で一生を孤独に過ごす個体も多い。だが、同時に非常に情の厚い種族である。
一度愛した者は何があろうと離れず愛し続ける。その愛には垣根はない。
魔物だろうと人間だろうと、美しかろうと醜かろうと、幼かろうと老いていようと、愛した者を深く一途に守り慕う。
その深さは凄まじく。一匹の醜いゴブリンの死によって、誇り高い竜が自ら命を断つ程だ。
そんな悲しみを子竜は柔らかい心に刻まれた。その辛さを賢者は理解していた。そんな子竜に残酷な事をする。
だがしかし、山の中は魔物も多い。今までは自分の術により守られていたが、その守護も失われてしまう。そんな中、傷付いた子竜が生きるにはこれしかなかった。
すまないと何度も謝る賢者から幼い竜に、知識と魔力が流れ込む。
「キュァァアアア!?」
流れ込む感覚に悲鳴をあげる小さな竜。
膨大な魔力と知識、そして自らの悲しみが混じり合い、冷たいそれに覆われて、子竜は何も見えなくなった。
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「クオオオーン」
数日後、今だ燻る焼け落ちた廃墟の中から、一体の竜が飛び出た。
竜の白い鱗が変化して、鱗の中で七色の魔力が輝くが、直ぐさま変化した。
瞳から、まるで血液のような粘度の高い血液がドロリと流れ出る。瞳から流れた赤黒い液体が広がると、まるで感染するように、七色に輝いていた鱗が赤黒く染まった。
「クアアアア!」
【悲しい悲しい悲しい辛い辛い辛い辛い寂しい寂しい寂しい寂しい】
翼を動かすセンティーレ。悲しげに叫び空に飛び上がる彼の瞳は、哀しみと怒りで我を失っていた。
嘆きの叫びを響かせながら彼は叫ぶ。
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何時からか、とある狂竜が出没するようになった。
赤黒い鱗の竜は人間を襲い、何故か金髪碧眼の人間と老人をさらった。さらわれた人間は暫く竜の巣に連れ去られたが、暫くすると無傷で解放された。
彼等は口々に言っていた。竜は「違う」と言っていたと……。
不可解な竜は、まるで泣いているように赤い液体を瞳から流す様子から、何時しか【嘆きの竜】と呼ばれた。
悲しみと孤独に訳が分からなくなった竜は、その後も小さな少年と老人を探しつづける。
カリダ、ドコ?
オイチャン、ドコ?
カナシイヨカナシイヨ
サビシイヨサビシイヨ
管理人は色んな意味で号泣「毎回毎回……この魂ヤダ」
 




