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黒旋律の歌姫  作者: 梔子
プロローグ
11/64

「さーて、どうしましょー」


私には自分の部屋はないが、マスターに頼んで台所の壁にベッド一つ分のスペースを掘って頂き、そこに布団を敷いて寝ている。


粗末だと思われるだろうが、高い位置に掘った棚には綺麗な布を敷いて本や小物を置いて居心地良いものにしている。


折り畳み式の机も収納されていたりする。私は布団を折り畳み座布団代わりにして、机に向かっていた。


家事が全て終わり、マスターが眠ったので今日の仕事は終りだ。マスターより早く起きてマスターより遅く眠る私は、とんだ良妻だと思う。


センティーレも寝たので、何かある可能性はない。ランタンを脇に置いて私は紙を前に頭を捻る。




「私の弟どうしようかな?」


あれから考えて、結局男の子を作ってもらうことにした。


だって考えてみて欲しい、此処は辺境の山奥。可愛い女の子が、こんな変人工生命体と偏屈老人と変竜しかいない、娯楽も何もない場所に押し込められたら可哀相過ぎる。


リンリンさんが居て、買い物が自由に出来るから自覚は薄いけど、此処は流刑地なんだ。


流石に女の子には酷だろう。


だから、男の子に決定。


マスターに聞いたら作成出来る年齢は決まっているらしく、最初は私が生まれた七歳程度の外見になるらしい。


新しい家族かー。


なら、翼は必要だ。私もセンティーレも空を飛べる事が出来る。この三年間で私は大分飛行技術が上達し、飛行レベル4になり2階程度まで飛べるようになった。まだ鳥達には負けるが、素晴らしく進歩した。


そして、私とセンティーレが飛んで戯れ合う度に、マスターが羨ましそうに見つめてくるようになった。(マスターは全力で否定するが)


新しい仲間に淋しい思いをさせる訳にはいかない。マスターのボッチ度は上がるが三人で飛行ライフを楽しむのだ!


だから、翼は必須だ。


私は鉛筆を動かしてマネキンのような絵を簡単に描き、それに翼を書き足す。


うーん、何かつまんない。私が唇を尖らせて唸っていると、サラリと自分の金髪が滑り落ち視界を塞いだ。


「もー!」


私は髪をひとまとめにして紐で括った。三年間伸ばしっぱなしの私の髪は、既に背中を覆う位伸びている。


本当は切りたいのだが、マスターが言うには、歌姫は髪は長くした方が良いらしい。


ぶっちゃけ、神は長髪が好き。だから、歌姫達は全員長髪にして美しさを競い神に気に入られようとするのだ。私も頑張って髪を伸ばしてますわよ。


そんな自分の金髪を見て閃いた。


そうだ!悪魔にしよう!


現在まるで天使みたいな外見の私だが、私はどちらかと言うと天使やエルフより、悪魔や吸血鬼のダークな感じが好きなんだ。


ちょうど対みたいな感じでカッコイイし!


自分を補う対の存在って王道だよね!マイナー好きな私だけど、王道も時と場合によっては良いと思う!


私は鉛筆で黒髪を書き込む。私はユルフワだから、この子はストレート。肌は健康的なチョコレート色で、瞳も黒い切れ長な瞳。


細かい部分を書き込み、翼を黒く塗り潰す。


「出来た!」


細かい部分を修正して出来上がったのは、クールな外見の堕天使の少年。


サラサラの黒髪は流れるようで艶があり、チョコレート色の肌は少年にエキゾチックな魅力を醸し出している。こちらを下げずむように見つめる黒い瞳からは、ドSのオーラが滲み出ている。


ふう…夢中になりすぎて私の匠心が荒れ狂ってしまった。フフフ…腐活動で鍛えた画力が、こんな所で役立つとは!


綺麗だけど気が強くて捻くれた雰囲気の少年を見て、顔がデロリと崩れる。


こんな、他人を屑としか思っていない少年がツンデレだったらマジ萌える。


恥ずかしそうに「あ…兄上」とか呼ばれたら、ウフフフフフ!おおっと!鼻血が!


性格は分からないらしく、理想の性格になるとは限らない。(何故か、そう言ったマスターは私を生暖かい瞳で見つめていた)


よし!頑張ってツンデレ教育しよ!


私は弟を書き込んだ画用紙を収納スペースにしまって、机を片付けると眠りについた。





------------------------


翌日の朝、カリダからデザイン画を見せられた老人は問題なしと判断して、その日から製作にかかった。


一週間後、カリダは画用紙に文字を書き込んでいた。


「キュー?」(何これ?)

「もうすぐできる新しい仲間の名前でございますよ」


リンリンから素材を買った老人は、現在あの研究室に篭っている。ノウハウがあるから、手探り状態であったカリダを作る時よりは製作期間は短くなる予定だが、それでも一年は掛かると言われていた。


今日から篭ると伝えられていたカリダは、名前を先に考えてくれるように老人に前もって頼んでいたのだ。


何故かと言うと、製作に夢中になって名前を考える事をどうせ忘れるからだ。


「きゅ!」

「フォルテス・パクス君です!」


誇り高い感じで画用紙をドーンと掲げ持つカリダを前に、ドンドンパフパフと太鼓と笛を鳴らすセンティーレ。


「楽しみでございますね!センティーレ!」

「キュー!」


二人は手を繋いでクルクル回りながら、新しい仲間が来る事に対する興奮を表していた。


和やかに響く笑い声と老人の叱り声に竜の鳴き声。流刑地である山には明るい光が満ちて、樹児達が微笑んでいた。


幸せな時間。




だけども、穏やかに流れる時は今晩終わる。





遠い未来、カリダが描いた絵を見て涙を流す少年がいた。


「これが、俺の名前……」


少年は両手を血に濡らし、片割れであるカリダを思い涙を流す。


「絶対助けるから…。」


そう呟いた黒い翼を持つ少年は、剣を握った手に力を込めて走り出した。


少年は駆ける。


片割れを手に入れて仲間を絶望の未来から守る為に。俺達は決して消耗品なんかじゃない!


そう叫んだ少年は、王と共に国に刃を突き付けた。

次回から急展開だよ!

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