タイムカプセル
短編企画『秋風月に花束を』に参加させていただきました。企画主は、そうじたかひろさんです。
○企画概要
・表テーマ 『感謝』。感謝の解釈は自由。
・裏テーマ 読者に少なからず驚きを与える。
・ジャンルは自由。
○文字数
2000文字以内(空白改行含めず)
「どんな思い出詰めるんだ?」
「埋める方じゃないのよ」
レイカはそう言って、小さな粒状のものを取り出した。錠剤にしか見えないそれを、彼女はタイムカプセルと呼んだ。
「飲む方なのか?」
「冴えてるじゃない」
「見りゃ分かる」
馬鹿にされたようで、俺は憮然と答えた。
レイカとは知り合って一年になる。こいつは時々得体の知れないものを持ってきては俺に自慢する変人で、正直俺はうんざりしている。持ってくるものも、大抵ががらくた同然だ。
だが、薬など持ってこられた例はない。
「どうしたんだよそれ」
「作ったの」
「嘘言うな」
「飲まないの?」
「飲まん。……その顔やめろ」
「私だって飲みたくないの」
「それを俺に飲ます気か」
「え、ホントに!?ありがとう!」
「飲まねーよ!」
俺はレイカから目を逸らした。飲まされないように口を堅く結ぶ。
「そっか、残念」
レイカが諦めたように呟いたのが聞こえた。
「まあいいか。もう飲ませたし」
「へ?」
俺は驚いてレイカを見た。それが悪かった。
レイカの姿より先に錠剤が視界に入る。迫る錠剤に戸惑った瞬間、それはわずかに開いた唇の隙間にするりと入った。喉の異物感に驚き、反射的に呑み込んでしまう。
「んぐ、グフン!お、おま……」
ふざけんな。そう言おうとした途端に眩暈がした。同時に頭の中に針がもぐりこんでくるような激痛と不快感。膝をつき、まともに目を開けられずうずくまってしまう……。
痛みが治まり目を開くと視界が白んだ。光に目が慣れた頃、見えたものに目を疑った。
そこは俺の住む白い壁のワンルームではなかった。木製の机がいくつも並ぶ、学校の教室だ。教室のあちこちには制服姿の学生が何人もおり、俺は思わず座っていた椅子から転げ落ちた。尻を打った上、教室中の喧騒が途切れて俺に視線が集中する。その顔には全て見覚えがあった。俺が高校三年の時の同級生ばかりだ。彼等の背後にある黒板には、でかでかと書かれた「卒業式」の字の周りにいくつも寄せ書きが並んでいる。
ありえない。高校の卒業式からは5年は経っているはずだ。
「……夢、か?」
呆然とする俺を、すぐ近くにいた男子生徒が変なものを見る目で見下ろしてきた。
「何言ってんだお前?寝ボケか?」
そいつの言葉で、初めて違和感に気付く。なぜ俺に驚かない?
理由はすぐに分かった。
俺も制服姿なのだ。
どうもレイカのタイムカプセルで、意識だけが過去に戻ったらしい。
我ながら信じがたいが、俺の奇行に対する周囲の視線は非常に冷ややかで、それが俺に現実を容赦なく伝えた。夢にしては俺に都合が悪過ぎるし、尻の痛みと制服の違和感もあって正直居辛い。
察するにあの錠剤と同じものをこの時代に飲んだのだろうが、まるで覚えがない。そもそも、レイカとはこの時期に知り合ってもないはずだ。
椅子に座り直し、考えをまとめようとする。そこでふと、別の事を思い出した。すぐさま席を立ち教室を出る。
卒業式自体は終わっているようだ。ならばチャンスは今しかない。
隣の教室を覗くと、すぐに彼女の姿が見えた。息が詰まりそうになったが、それを堪える。昔ならともかく、今の俺は彼女よりも年上だ。
「あ、あの!」
やや声を張ってしまったが、彼女は驚いた様子もなく俺を見る。
「あ、どうしたの?」
彼女は俺が覚えていた通りの笑顔を俺に向けてくれた。
彼女と会えるのは、この日が最後だ。言いたかった事を言えるチャンスは、今しかない。青臭いかもしれないが、もう後悔はしたくなかった。
「そそ、その……さ」
言いかけた瞬間、また眩暈が俺を襲った。
眼前の光景は俺の部屋に戻っていた。レイカが俺のベッドに寝転がって俺を見ている。俺の服も、Tシャツと短パンに戻っていた。
「お、帰ったか」
レイカは全部知っているのか、対して驚いた様子もない。
「お前……すごいな。昔に戻れたぞ」
「ふーん」
つれない返事だが、俺の興奮は次第に高まった。
「高校の卒業式に戻ったんだ」
「だろうね。その時期に飲ませないと効果がないし」
察するに最初の錠剤はマーカーのようなものらしい。だが、理屈は俺にはどうでもいい。いい夢を見たような気分だった。
「本当にタイムカプセルだったのか?」
「解釈はあなたの自由よ。説明したら二千字に収まらないし」
「?……まあいいか。礼を言うよ、ありがとう。ずっと会いたかった子に会えた」
「そう」
「もう一歩ってところで今に戻ったんだ。ところで、錠剤残ってないか?」
「もうないよ。……もう使わせないし」
「ケチだな」
「アンタの意気地がないのよ。薬に頼って言いたい事を言おうだなんて、恥ずかしいと思わない?」
「もうあの子がどこにいるかも分からんぞ。今さら何ができるってんだ」
「言えばいいでしょ、今」
「は?……、は、え?」
言ってることを理解しかねた後、ある可能性が思い浮かびその内容に呆気に取られた。
「ねぇ、何て言おうとしてたの?」
そう言い微笑むレイカの顔は、少し前に見たあの子によく似ていた。
ドラスティックによろしく。
……遅れてしまいました。




