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File.22:神の名の残滓(ざんし) (4/4)

【記録者:久住 瑛一】

【記録日:20XX年 XX月XX日】


 東都新聞を辞めて、一週間が経った。


 計画通り、由香里とは書類上の離婚を成立させた。離れ離れになるのを敏感に察した陽は、玄関で俺の服の裾を掴み、顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくっていた。


「……すまないな、陽。ママの言うことをきちんと聞くんだぞ」


「……っく……な、なんでー? ぱ、パパは……っく……ママを嫌いになっちゃったの……? ……っく」


「違うよ、そうじゃないんだ……パパと一緒にいると、陽とママが嫌な思いをしちゃうからね」


 俺が膝をついて目線を合わせると、陽はさらに声を張り上げた。


「やだー! ……っく……パパ、一緒じゃなきゃ……っく……やだーああぁー!」


「すまない……」


 どうなだめても泣き止まない陽を、由香里が痛ましそうな表情で抱きしめた。陽が落ち着くのを待ち、2人は最低限の荷物を持って家を出て行った。


「……3人でいる時は狭いと思ったリビングも……1人だと広いな……」


 静まり返った家の中に、俺の独り言が空虚に響く。


 少し前まで聞こえていた笑い声も、おもちゃが散らかった床の温もりも、今はもうどこにもない。


 ***


 報道の加熱が世論を動かし、遂に行政が動く時が来た。


 全国各地でクオリア・メソッド被害者の会が結成され、一つ、また一つと裁判が始まった。東都新聞のスクープから半年、遂にNPO法人クオリア・メソッドに対して解散命令が出された。


 その報道が出てから、真壁からの着信が何度も繰り返された。だが、今の俺には誰かと話す力など残っていなかった。


 世間がクオリア・メソッドを注目するたびに、俺の心は削られていった。テレビに映るあの河川敷……。それを見るたび、凛の屈託のない笑顔が思い出され、何度も胸が締め付けられた。


 俺は何のためにあの記事を書いたのか、1人の少女を救うこともできず、自問自答を繰り返す--。


 部屋は暗く、ただ一人、生きているだけの毎日。


 食欲はないが、食べねば生きてはいけない。近所に買い物に出ようと玄関を開けた時だった。


「久住瑛一さん、ですよね?」


 一人の男が、俺の家の前に立っていた。


 他社の記者か、それとも教団の刺客か。俺が身構えると、男はバタバタと手を振りながら一枚の名刺を差し出した。


「私、こういう者で……」


 名刺には、『オカルトニュースサイト:トワイライト・ニュース 編集長 狗飼 潤(いぬかい じゅん)』の文字。


「東都新聞のエースがフリーになったのなら、ぜひうちで書きませんか?」


「オカルト……? なぜ、俺みたいな不良債権を……」


「真実ばかり追い求めて転落した記者が、真実とは遠いオカルトの世界で嘘を並べる……なかなか面白いと思いませんか? その『真実』を、オカルトという名の『嘘』で書き換えてほしいのです」


「……悪いが、他を当たってくれ。俺はもう、何も書くつもりはない」


「そうかい。だが、あんたみたいな男が筆を折るのを、あの子は喜ぶかね?」


 狗飼の言葉に、心臓が跳ねた。


「……何を知っている」


「クオリア・メソッド。そして、羽鳥凛という一人の少女の末路。……あんたの書いた記事が、教団を壊滅させるきっかけになった。それは紛れもない事実だ」


 狗飼はタバコを咥え、火をつけずに続けた。


「東都新聞のような『清い』新聞じゃあ、もう何も書けないだろ。世間はあんたを叩き、会社はあんたを切り捨てた。だがな、久住さん。真実ってのは、光の当たる場所だけに転がってるもんじゃない」


「……何が言いたい」


「オカルトニュースは『嘘』の塊だ。幽霊、呪い、陰謀論……。世間はそれを笑い飛ばすか、あるいは娯楽として消費する。だがな、そうやって『嘘』という皮を被せないと、世に出せない真実ってのがこの世には山ほどあるんだよ」


 狗飼が、俺の目の前に一歩踏み込む。その瞳には、怪しげなメディアの編集長とは思えないほど、鋭く重い光が宿っていた。


「あんたのペンを貸してくれ。真実をそのまま書けば、また誰かが傷つくかもしれない。だったら、俺のところで『嘘』として書いてくれ。嘘のベールで真実を包み隠し、闇の中から、光の連中には裁けない奴らを撃ち抜く……。そんな生き方、悪くないと思わないか?」


 俺は沈黙した。そんな都合のいい話があるものか。 だが、狗飼は俺の迷いを見透かしたように、最後の一押しを口にした。


「……あんたがクオリアをぐちゃぐちゃにしてくれたおかげで、俺の身内が助かったんだ」


「え……」


「教団にのめり込んでいた俺の妹が、あんたの記事を読んで、ようやく目を覚ました。……礼を言わせてくれ。ありがとう。あんたが救ったのは、数字やデータじゃない。生身の人間だ」


『救われた人もたくさんいたと思う』


 ――由香里の言葉が、耳の奥でリフレインした。


 あの日々は、無駄ではなかったのか。俺が失ったすべてに、ほんの少しでも報いがあったというのか。 込み上げてくる熱いものを飲み込み、俺は狗飼の差し出された名刺を見つめた。


 もはや、日向の道を歩むことはできない。ならば、この男の言う通り、闇の中に潜り、嘘を纏って戦うしかない。


「……分かった。その『嘘』……俺に書かせろ」


「いい返事だ。……歓迎するよ。ようこそ、トワイライト・ニュースへ」


 俺は狗飼の手を握った。その手の平は、驚くほど温かかった。


 これからは、嘘の中に真実を隠し、闇から闇を裁く。すべては、あの子の魂を弔い、いつかまた「共犯者」を迎えに行くために。


 ***


 遠くから、微かな声が聞こえる。


「……さん! ……みさん! ……住さん! 久住さん!」


「……っ」


 意識が急激に浮上する。体中が鉛のように重く、頭に鈍い痛みが走った。


 PCモニターの中で、相棒の『アイ』が眉をひそめ、心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「大丈夫ですか? 久住さん。10分ほど意識がありませんでしたよ」


「……ああ、大丈夫だ……」


 掠れた声で答え、俺は周囲を見渡した。


 あれから5年。俺はここ、新宿歌舞伎町の一角にある雑居ビルの事務所で、オカルトライターとして生きている。この事務所も狗飼の紹介だ。窓の外には不夜城の喧騒があるが、かつて俺を追い詰めた鳴り止まない電話の音は、もうここにはない。


 PCモニターには、過去の新聞記事、SNSの動向、「真壁圭」の襲撃事件、そして「真壁真依」の死に関する最新情報が、無数のウィンドウとなって展開されていた。


「大丈夫じゃありません。心拍数も不安定です。今は睡眠をとることを強く推奨します」


 椅子から立ち上がろうとした瞬間、激しい立ちくらみに襲われ、俺はデスクに手をついた。視界が白く明滅する。


「……悪いな、アイ。少しだけ、横になる」


 俺はアイの忠告に従い、事務所の使い古されたソファに身を投げ出した。


 目を閉じると、モニターの光が瞼の裏に残像として焼き付いている。


 ……この事務所に辿り着くまでに、色々なことがありすぎた。


 ***


「おはようございます、久住さん。眠れましたか?」


 スピーカーから、アイの平坦だがどこか温かみのある声が響いた。重い瞼を押し上げると、ブラインドの隙間から歌舞伎町の濁った朝光が差し込んでいる。


「……ああ、もう朝か……」


「本日は第2土曜日です。久住さん、お時間はよろしいのですか?」


「……っ! しまった!」


 アイの言葉に、弾かれたようにソファから飛び起きた。カレンダーを確認するまでもない。今日は――一ヵ月に一度、世界で一番大切な『宝物』と会うための聖域の日だ。


「っ……! い、行ってくるっ!」


 ネクタイを締め直し、ヨレヨレのジャケットを羽織る。洗面台で顔を洗う暇さえ惜しんで、俺は事務所を飛び出した。


「お気をつけて……」


 主を失った事務所では、舞い上がった埃がゆっくりと光の中を降りていき、再び元の静寂が戻る。無人になったデスクのモニターに、アイが一つの記事を映し出した。


「……これは、久住さんが帰って来たら見てもらいましょう」


 それは、東都新聞の今朝の朝刊。そこには三好が、かつての師への贖罪を込めて書き上げた「社説」が、力強く掲載されていた。


 ***


 待ち合わせ場所の大きなケヤキの木の下に着いた時、俺の心臓は破裂しそうだった。


「パパー! おそーい!」


 遠くから、聞き慣れた、しかし少しずつ大人びてきた声が響いた。そこには、不満げに頬を膨らませた陽が立っていた。


「はぁ……はぁ……っ……すまない……はぁ……」


「大丈夫? あれ? パパ、なんかいつもよりヨレヨレ? いつもより隈ひどいよ?」


「……うるさいな。なんだか言い方がママに似て来たんじゃないのか?」


「そりゃ、ママの子ですから」


 にこりと笑った陽の顔は、成長するにつれてますます由香里に似てきた。その笑顔を見るだけで、一ヵ月分の泥のような疲れが浄化されていくのが分かった。


「今日はね、パパにチョコ持ってきたんだけど……その前に、パパ、私に何か……ないのかな?」


 陽が期待を込めた目で俺を見つめる。


 俺は記憶の引き出しを猛烈な勢いでひっくり返し、血の気が引くのを感じた。


「え……と……!(今日は……2月14日……?)……しまった……っ!」


「え! ……まさか、パパ、私の誕生日忘れてたの!?」


「……すまない……」


「うそー! 信じられなーい! ママー!」


 陽が背後の木立ちに向かって叫ぶ。その瞬間、木の陰から動揺した様子の由香里が姿を現した。


「ど、どうしたの? 大きな声出して……」


 いつも、俺と陽の面会を「バレていない」と思いながら遠くから見守っている彼女。今日もやはり、「バレていない」と思って来ていたらしい。


「どうしたのって、パパひどいの! 私の誕生日プレゼント忘れたって! ……これは買ってもらうまでは帰れない、よね?」


 陽が計算高い目でチラリと俺を見る。その視線の鋭さは、間違いなく俺の血を引いていた。


「……わかった、これから買いに行くか」


「やったー! 久しぶりに一緒に買い物だね! ほら! ママも!」


 陽が由香里の背中を押し、俺の方へと近付ける。由香里は照れたように俯き、俺は気恥ずかしさに視線を泳がせた。周囲から見れば、どこにでもある幸せな家族の光景にしか見えないだろう。


――カシャッ!


『え……?』


 不意に響いたシャッター音に、俺と由香里の声が重なった。


「いい写真!」


 陽が、首から下げたピンク色のトイカメラを構えていた。


「……そのカメラ……まだ持っていたのか」


「もちろん! たくさん写真撮ったんだよ。私の宝物なんだから」


 キラキラした笑顔で答える陽。その姿が、あの日―― 偽装離婚する直前の誕生日パーティーで、カメラを構えて「はい、チーズ!」とはしゃいでいた彼女の姿に完璧に重なった。


 2人を守るために偽りの離婚という形で別れてから5年。


 真実という日の当たる世界から離れ、嘘という闇に潜って生きることになったが、この笑顔のためなら後悔はない。


 この「宝物」を守るためなら、俺はなんだってやってやる。


「さあ、何が欲しいか、今のうちに考えておけよ」


 俺は陽の頭を乱暴に撫で、隣を歩く由香里と視線を交わした。由香里は少しだけ困ったように、けれどどこか安堵したような柔らかな微笑みを返してくる。


 束の間の幸福。


 嘘で塗り固めた生活の中で、この時間だけが唯一、俺を「久住瑛一」という人間に引き戻してくれる。たとえそれが、期限付きの、借り物の平穏だとしても。


「えっ、パパ、本当に!? 本当に何でもいいの?」


 陽が俺の手を力強く引き、駅の方へと歩き出す。その足取りは驚くほど軽く、弾んでいた。


 公園の冬枯れの土を踏みしめる感触が、いつの間にか駅前の舗装されたアスファルトへと変わっていく。


 雑踏を抜け、眩いばかりの照明と喧騒に彩られた駅前の大型家電量販店へと、俺たちは吸い込まれるように向かった。


 5年前、三好に勧められるがままに買ったのは、手のひらサイズのピンク色のトイカメラだった。だが、目の前を歩く陽はもう、あの頃の小さな子供ではない。


 カメラ売り場で陽が足を止めたのは、初心者向けのミラーレス一眼のコーナーだった。


「パパ、これがいい! これならパパとママの顔、もっと綺麗に撮れるでしょ?」


 陽の真っ直ぐな言葉に、俺と由香里と顔を見合わせる。決して安くはない買い物だが、誕生日を忘れていた負い目もあり、俺は苦笑いしながらカードを出した。店員から手渡された新品の箱を、陽はまるで壊れ物を扱うように、大切に、大切に胸に抱きしめた。


「パパ! ありがとう! 大事に使うね!」


 陽は箱を抱えたまま、弾けるような笑顔で俺を見上げた。その瞳には、店内の照明以上にキラキラとした光が宿っている。


「ああ……次の面会日に、撮った写真を見せてくれ」


 俺がそう言って頭を撫でると、陽は誇らしげに胸を張った。


「楽しみにしててね! ママのスクープ、撮っちゃうから!」


 陽は早速、箱越しに構えるポーズをとって由香里にカメラ(の入った箱)を向ける。


「やだぁ! 陽、やめてよー!」


 由香里は顔を真っ赤にして、両手で顔を隠しながら逃げ回る。そんな二人のやり取りが、今の俺には直視できないほどに眩しかった。


 これまでの面会では、由香里はいつも遠くの木の陰から様子を伺っているだけで、俺の元に来るのは陽一人だけだった。こうやって、手の届く距離で二人が楽しそうに笑い合っている姿を見るのは、一体いつ以来だろうか。


 偽装離婚という「嘘」で家族をバラバラにしてから、俺がずっと失っていた景色が、今ここにある。


「ほら、お腹空いただろ。何か食べに行こう」


 俺の言葉に、二人は顔を見合わせて元気よく頷いた。


 その後の食事中も、陽は料理そっちのけで新しいカメラの設定に夢中だった。「このボタンは何?」「ピントが合わないよ!」とはしゃぐ陽を、由香里が「もう、ご飯食べてからにしなさい」と優しく窘める。


 その光景を眺めながら、俺は冷え切っていた心の奥底が、ゆっくりと、確実に解けていくのを感じていた。


 駅の改札で見送る際、陽はさっそく新しいカメラを構えて、照れる俺と由香里を一枚に収めた。


 隣に立つ由香里が俺を見つめ、控え目に言った。


「……今日はありがとう、本当に、本当に楽しかった」


「……ああ……そうだな」


 久しぶりすぎる由香里とだけの会話に気の利いた言葉が出てこず、ただただ照れる情けない俺は陽に手を振る。


「パパ、来月までに腕を上げとくからね!」


 そう言って何度も手を振る陽。


 改札で別れる際、由香里は一瞬だけ足を止め、言葉にできない想いを視線に込めて小さく頷いた。その温もりを背中に感じながら事務所へ戻る道すがら、肺に吸い込む歌舞伎町の夜気はいつもより冷たく、けれど心地よく胸に響いた。


 ***


 事務所のドアを開けると、いつものように無機質な電子機器の動作音だけが俺を迎え入れた。


「おかえりなさい、久住さん。バイタルデータが安定しています。今日はなんだか、とても楽しかったようですね」


 メインモニターにアイのアイコンが浮かび上がり、茶化すような、けれどどこか嬉しそうな声が響いた。


「……まあ、その、な。色々あったが、『幸せ』の定義を再確認できた1日だったよ」


「久住さんにとっての『幸せ』の定義、とても気になりますね」


 ソファの前にあるローテーブルの上に陽と由香里から受け取ったバレンタインのチョコをそっと置く。


「久住さん、それは?」


「これも『幸せ』を具現化した1つだ」


 愛おしそうにチョコを眺める。


「『幸せ』には色々な形があるのですね」


 俺はソファに深く身を沈めた。陽の新しいカメラが、これから彼女の目に映る世界を少しでも明るく切り取ってくれることを願わずにはいられない。


「そういえば、久住さん。今朝の朝刊はご覧になりましたか? 面白い記事がありましたよ」


 アイがそう言って、web版のあるページをメインモニターに提示した。


【東都新聞・特別コラム:報道の責任と事実の境界】


近年、SNSや一部のメディアにおいて、数年前に発生した「NPO法人クオリア・メソッド事件(通称:神の子事件)」と、現在捜査が進行している「真壁圭による襲撃事件」から、クオリア・メソッド跡地から見つかった白骨遺体事件が、あたかも一連の陰謀であるかのように結びつける言説が散見される。


結論から述べれば、これら二つの事案に直接の因果関係を裏付ける事実は、現時点において一切存在しない。


過去の事件において、当社の記者が批判の矢面に立たされたことは事実であり、我々はその真摯な反省を忘れてはいない。しかし、過去の過ちを理由に、現在の悲劇を「物語」の燃料として消費することは、今なお深い悲しみの中にいる遺族への冒涜に他ならない。


憶測に基づいた情報の拡散は、真実を追求する捜査の妨げとなり、さらには罪のない人々に「第二の冤罪」を着せる凶器となる。我々報道機関は、感情的な熱狂に流されることなく、あくまで「事実」のみを積み上げる責務を全うする所存である。読者諸兄におかれても、根拠なき流言に惑わされることなく、冷静な判断を願いたい。


(東都新聞 社会部記者・三好 駆)


 記事を読み終え、俺の口元には自然と微かな笑みが浮かんでいた。あの日、「俺のようにはなるな」と突き放した青臭い後輩が、今や立派に「言葉の盾」を構え、俺の背中を守ろうとしている。


「……あいつ、俺が教えなかった『引き際』を、自分なりに見つけやがったな。……いい記事だ、三好。お前はもう、俺の後ろを歩いてるだけのガキじゃない」


 俺は一人、静かに呟いた。


 三好が照らす「光の当たる正義」のすぐ隣。そこにある、誰にも見向きもされない深い暗がりの真実を、俺はこれからも拾い集めていくだろう。


「……さて、アイ。次の仕事だ。今度はどんな『嘘』で、この歪んだ世界を書き換えてやろうか」


「了解しました。久住さん。……準備は、いつでもできています」


 眠らない街・新宿の片隅。


 古い雑居ビルの一室にある事務所。


 かつての東都新聞のデスクとは似ても似つかない、澱んだ、けれど落ち着く俺の居場所。


 今日も相棒の『アイ』と共に、俺はこれからも『優しい嘘』で現実を書き換え続ける。 陽の新しいカメラが、いつか俺たちの「本当の姿」を堂々と写せる日が来るまで。


(File.22 完)

あとがき


全22話をもって、一旦完結となります。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


本作は私にとって初めての小説執筆であり、気づけば10万字を超える長い旅路となりました。執筆の苦労は、そのまま主人公・久住瑛一が背負う『未稿箱』の重みであったようにも感じています。


本作のテーマは、残酷な真実を、『優しい嘘』でどう包むかでした。


久住が書くオカルト記事は、決して世の中を欺くためのものではありません。そのままでは人を壊してしまう鋭利な真実を、誰も傷つかない形へと書き換えるための『優しい嘘』です。それは、彼が数々の困難な壁にぶつかり、たどり着いた結果だと思います。基本的に彼は優しいので、最後まで面倒を見てあげたいと思うくらい相手の未来を見ているのでしょう。


相棒のAI・アイも最初は「非効率」だと人間の不合理な感情を否定していましたが、次第に成長していき、感情豊かになっている姿は人間よりも人間らしくなっていきました。


本作はまだまだ発展途上ですので、今後も物語を続けていきたいと思っています。三好や仙崎の話はもちろん、アイの秘密もまだまだ語りたい話は沢山あります。

皆様の応援次第で物語の続きが作られる…かもしれませんので、フォローやレビューを何卒よろしくお願いします。

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