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プロローグ

3年後…


底知れぬ深淵に隠された秘密研究所を、静寂が支配していた。 制御パネルから放たれる淡い青色の光が、一定のリズムで明滅し、冷たい金属の壁に反射している。室内の空気は清浄かつ極低温に保たれ、まるで時間そのものを凍結させようとしているかのようだった。


その部屋の中央に、巨大なカプセルがそびえ立っていた。 内部は微かに発光する透明な液体で満たされ、一人の少女が静かに漂っている。初雪のように純白な髪が、重力から解き放たれて彼女の周囲に広がっていた。 ガラス細工の人形のように美しいその顔は、安らかな眠りについている。呼吸はあまりに浅く、生きているのかどうかさえ定かではない。生命維持装置が刻む規則的な電子音だけが、彼女の微かな鼓動とリンクしていた。


突然、壁面の巨大なモニターが閃光を放ち、起動した。 深紅の波形が激しく振動し、威圧的で、そして聞き覚えのある声が響き渡った。


「『検体』の状態はどうだ?」


その声の主は、インワン帝国皇帝、ジャック1世。冷徹で断固とした口調には、一抹の迷いもない。


機器を監視していた白衣の科学者が、慌てて深々と頭を下げ、緊張した声で答えた。 「全て基準値内で推移しております、陛下。バイタルは安定、脳波は完全な休眠状態にあります…陛下の御意志があれば、いつでも覚醒可能です」


「よろしい…」ジャックの声が応じた。「『プロジェクト』を続行せよ。失敗は許さん。これは私の帝国を完全なものにするための鍵だ…彼女が目覚めた時、この世界が私の望む形になっているように手配せよ」


モニターが消え、部屋は再び静寂に包まれた。 カプセルから漏れる青い光だけが、眠れる少女を照らし続けていた。彼女は希望なのか、それとも破滅なのか…今はまだ、深い眠りの中にある。


時は流れ、宇宙の様相は一変していた。 3年前の激しい戦争と大いなる裏切りは、シンスロインの女王マキの勝利によって幕を閉じた。 今や文明はかつてない繁栄を極めていた。摩天楼は天を突き、色鮮やかなネオンサインが輝く。最新鋭の航空機が空を行き交い、その光景は揺るぎない富と権力を象徴していた。


だが…その繁栄の影、首都から遠く離れたある惑星の片隅に、重苦しい空気が漂う地下バーがあった。


紫煙が立ち込め、安酒の臭いが充満している。 古いジャズ音楽が静かに流れ、傭兵、密売人、無法者たちの喧騒と混じり合っていた。


店の最も奥まったテーブルに、一人の男が座っていた。 つぎはぎだらけの古びたコートをまとい、フードを目深に被って顔の半分を隠している。しかし、その全身から滲み出る危険な気配までは隠しきれていない。 目の前のテーブルには、空になった酒瓶が何本も並んでいた。荒れた手がグラスを持ち上げ、琥珀色の液体を水のように喉へ流し込む。


男の名はライト。かつての英雄であり、今は反逆者の烙印を押された男。


ライトは酔いで霞む目で店内を見回した。 目に入ってくる光景に、吐き気を催す。壁には巨大なプロパガンダポスターが貼られ、そこには威厳に満ちたジャック1世が、国民に向けて(偽りの)慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。バーカウンターの後ろにも、金縁の額縁に入ったジャックの写真が、まるで信者を見守る神のように飾られている。


「クソが…」ライトは低く吐き捨てた。


その時、店の中央にあるホログラムテレビの音声が大きくなり、客たちの注目を集めた。


「本日のトップニュースです…」純白のスーツに身を包んだ美しいニュースキャスターが、営業スマイルで報じる。「帝国議会は、宇宙海賊およびテロリスト集団の掃討作戦のため、軍事予算として5000億クレジットの追加を承認しました。この集団を率いるのは、宇宙規模の指名手配犯…ライトです」


画面が切り替わり、ライトの顔写真(戦争当時の古いものだ)が大写しにされた。その上には、赤字で大きく「DEAD OR ALIVE(生死問わず)」と記されている。


「そして本日、最高指導者よりお言葉を頂いております…」


画面には、インタビューに応じるジャック1世の姿が映し出された。彼は冷静沈着な態度を崩さない。


「ライトは、我々の平和を蝕むガンである」ジャックは、いかにも憂慮しているといった(偽りの)口調で語った。「彼は我々がこれまでに直面したいかなる脅威よりも危険な反逆者だ。市民の安全のため…ライトは死なねばならない。例外はない」


「では、シンスロイン族についてはどうでしょうか、陛下?」キャスターが尋ねた。「一部の噂では…」


ガシャーン!!!


突如、凄まじい破砕音が店内に響き渡り、テレビの音声を遮断した。 ライトが投げた空の酒瓶が、正確無比にホログラムの発生装置を直撃したのだ。画面は火花とともに消え失せ、ガラスの破片が床に散らばった。


店内の喧騒が一瞬にして消えた。客たちは動きを止め、一斉に奥の暗がりへと視線を向けた。


ライトはゆっくりと立ち上がった。足元は少しふらついていたが、フードの下の瞳は、3年間抑え込んできた復讐の炎で燃え上がっていた。


「うるせえ…耳障りだ」彼は歯を食いしばり、低い声で唸った。


店内の人々は、困惑と恐怖の入り混じった顔を見合わせた。この酔っ払いがなぜそんなことをしたのかは分からない。だが、本能が告げていた――この目覚めつつある悪魔には関わらない方がいい、と。


「モニター代だ…新品が二台は買えるだろう」


ドン!


重たい金属製のクレジット硬貨が、カウンターに叩きつけられた。その衝撃で、隣の客のグラスが揺れる。 「インワン帝国」の紋章が刻まれた硬貨が、ネオンの光を反射しながら回転し、やがて静寂の中で音を立てて止まった。


ライトは返事も罵声も待たず、出口へと歩き出した。 ボロボロのロングコートを翻し、アルコールの微かな匂いと、強烈な殺気を後に残して。


自動ドアが開き、彼の背後で閉まる。店内の騒音が遮断され、代わりに背後からひそひそ話が聞こえ始めた。


「あいつ、一体何なんだ?」客の一人が囁いた。視線はまだ、火花を散らすモニターの残骸に釘付けだ。 「二日酔いか…あるいは現実を受け入れられない元軍人の成れの果てだろう」バーテンダーは首を振りながら、カウンターの上の硬貨を無造作に引き出しへ掃き入れた。「まあいい、これだけの金があれば、何台壊してくれても構わんさ」


……


店の外。 汚染されたスモッグと摩天楼に覆われた灰色の空から、細かい酸性雨が降り注いでいた。 ライトはフードを深く被り直した。 巨大なホログラム看板から放たれるネオンの光が、濡れた路面を照らし、孤独な男の影を映し出す。


『恒久的な平和を…人類の未来のために』


頭上を通過するパトロール・ドローンから、プロパガンダのアナウンスが聞こえてくる。 ライトは喉の奥で冷笑した。ポケットに手を入れ、ある冷たい感触を確かめる…宇宙船の起動キーだ。


フードの下の鋭い瞳が、星の見えない空を見上げた。そこにあるのは、低軌道ステーションの人工的な光と、虫のように飛び交う輸送船の群れだけ。


「偽りの平和め…」


彼は痛みと決意の入り混じった声で呟いた。


「この世界は、もう手遅れなほど腐りきっている」


決めた。 この薄汚い地面を踏むのは、今夜で最後だ。 帰るべき場所へ戻る時が来たのだ…星々と、戦いの待つ場所へ。

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