第93話 捜索の終焉と積極的な彼女たち
リアム王子たちは、二手に分かれて、俺の劇場を隅々まで捜索した。
だが、攫われたというリリアーナ姫と、ザハラ王国の二人の姫君は発見されなかった。
当たり前だ。
ザハラ王国の王女であるファーマとリーラは、俺が開発した魔道具【変身の指輪】で、その姿を全くの別人に変えている。そして、リリアーナ姫に至っては、そもそも、この劇場にはいないのだから。
彼女をさらったのは、俺とは全く関係のない、どこぞの犯罪組織だ。
「……これで、気は済みましたか、皆様?」
捜索を終え、徒労感に満ちた顔でエントランスに戻ってきたメンバーに、
俺はソファからゆっくりと立ち上がり、静かに声をかけた。
エリオットの額には、隠しきれない苛立ちが浮かんでいた。
「ま、まだだっ! この程度の人数では、この広大な劇場の隅々まで丹念に捜索することなど、到底不可能だ! もっと人数をかけて、徹底的に探さなくては白とは言えん! それに、隠し部屋がある可能性も……!」
エリオットが、未練がましく、そんな無理筋な文句を言ってくる。
だが、さすがに彼のその見苦しい言い分に、賛同する者は誰もいなかった。
たしかに、この劇場は広い。
しかし、人を隠すとなれば、必ず何らかの痕跡が残るし、隠せる場所も、おのずと限られてくる。
まったく、何の手がかりもなかったのだ。
これ以上の捜索は、もはやただの言いがかりにしかならない。
俺は、エリオットを諭すように言葉をかけた。
こいつはそれでも納得しないだろうが、他のメンバーは説得できるはず。
「貴殿の仰るように、人数をかけなければ隅々まで探すことはできないでしょう。ですが今、そこに貴重な人手と時間を費やすのは、間違っています。考え違いをしてはいけません。――皆様の本来の目的は、攫われたリリアーナ姫を、一刻も早く救出することのはず。ここにリリアーナ姫がいなかったのであれば、彼女は別の場所に幽閉されているということ。あなたがたは、今すぐ次の場所を探すべきです」
「……エリオット。ここは、彼の言うとおりだ。――私としても、何よりも、リリアーナの救出を最優先にしたい」
リアム王子も、俺と同じ意見のようだ。
彼は、まだ何か言いたそうにしているエリオットを、静かに――しかし、有無を言わせぬ口調でたしなめた。
「――だな。ここには、反乱の準備の痕跡も何もなかったしよ。どっちも、外れだったってわけだ」
アルドリックが、悪気なく、そんな気になることを口にした。
『反乱の準備』?
そして、『どっちも』……ということは、リリアーナ姫の捜索以外にも、この劇場の捜索には、別の狙いがあったということか?
「ばか、アルドリック! その話を、ここで出すな!」
エリオットが、小声で――
しかし鋭く注意する。
これは、聞き逃してやるわけにはいかない。
俺は、リアム王子にその真意を尋ねた。
「リリアーナ姫を探す、そのついでに、我がグリムロック家の“反乱の準備”の捜査、ですか。随分と手厳しいですな。私が、何かお疑いをかけられるようなことでも?」
「……君自身を疑っているわけではない。だが、戦争継続派の筆頭である君の父君、ガイウス・グリムロックは、常に我々が最重要警戒対象としている人物だ。悪く思うな。これも、この国の治安を守るためだ。だが、少なくともこの施設には、反乱の備えは何もなかったようだ。疑って、済まなかった」
まあ、そこは理解できる。
和平推進派と戦争継続派の対立は、すでに表面化してきている。
反乱を疑うのも無理はない。
それに、ゲームをもとにこの世界が作られているのなら――
必ず、大規模な戦争は起きるだろう。
(リアム王子の側も、ただの馬鹿ではない、ということか。こちらの反乱計画を、すでにある程度は察知しているか、あるいは、それを深く危惧して、こうして動いているようだな)
「殿下、謝る必要などありません! 魔力ゼロのこの男が、重要な“反乱計画”からは最初から外されていて、何も関わっていない――というだけの可能性が高いのです! おい、グリムロック! この先、貴様が父親から反乱計画を手伝え、などと言われたなら――速やかに、この私に報告するんだ。いいな!」
エリオットが、俺を睨みつけながら、脅しをかけてきた。
「そのような要請が父からあるとは思えませんが――もし万が一、そのようなことがあれば、リアム殿下に直接ご報告すると、お約束しますよ」
ちょっとムカついたので、エリオットではなく、その主君であるリアムに直接報告してやると、そう言っておいた。
その後で、俺はエレノアの側に、さりげなく移動し、その豊かな尻をドレスの上から、きゅっと、つねってやった。
「くっ♡ こ、こら、貴様っ!」
エレノアは、小さな声で俺に抗議する。
その様子を見て、何があったのかを即座に察したエリオットが、憤怒の形相で俺を睨みつけてきた。
はははっ。
糞メガネが悔しそうで、なによりだ。
***
こうして、リリアーナ姫誘拐に端を発した、俺の劇場への強制捜査騒動は、一旦、その幕を閉じることになった。
何の成果もあげられず、リアム王子は、疲労の色を隠せない騎士団を率いて、夜の闇へと帰っていった。
その別れ際、俺はリリアーナ姫の護衛騎士――
セレナ・クリスタルライトに、そっと声をかける。
彼女の顔が街灯の光に照らされ、わずかに上気しているのがわかった。
「私も微力ながら、リリアーナ姫の捜索に協力したいと思います。よろしければ――私と共に、協力しては頂けませんか?」
リリアーナの捜索は、今後、護衛騎士たちと王宮の警備兵、そしてリアム王子率いる騎士団によって、個別に行われることになっている。
俺は捜査状況を知るため、そのどこかに食い込んでおきたい。
「グリムロック様……。あなたほどの御方が、お力を貸してくださるのであれば、これほど心強いことはありません。はい。よろしくお願いします」
セレナは、その白い頬をわずかに赤らめながら、そう言った。
(よし。やはり、脈があると見て、間違いないな)
俺は、お姫様捜索と並行して、このうぶな護衛騎士を完全に落とすことにした。
俺たちの、そんな甘い雰囲気のやり取りを――セシリアとリゼル、そしてエレノアが、ひどく憮然とした表情で、じっと見ていた。
***
さて、夜も、もう遅い。
リアムたちは帰ったが、この騒ぎだ。今から、セシリアとリゼルを、それぞれの屋敷に送り届けるのも、何かと物騒だろう。
結局、俺たちは、今夜、この劇場に泊まることになった。
ミナとカイの兄妹と、獣人のクーコとルミアは、地下にある従業員用の清潔な仮眠室で、もうとっくに寝ている。
専属メイドのリーリアは、二階にある専用のVIPルームを、豪華な寝室として完璧に整えてくれていた。
そして、俺は、そこで、セシリアとリゼルとの、久しぶりの夜の営みに入る。
「旦那様には、わたくしたちがいるということを、今夜、そのお体で、思い知っていただきますわ」
セレナを誘惑する俺の姿に、嫉妬の炎を燃やした二人が、今夜は驚くほど積極的にアタックしてきた。
俺は忠実なる専用メイド、リーリアの完璧なサポートを得て、そんな可愛い二人を愛とテクニックで返り討ちにしてやった。
たまには、積極的な彼女たちも悪くない。
激しくも甘い夜――。
事が済んでから、そそくさと従業員用の部屋に戻ろうとするリーリアの細い腕を、俺はそっと引き止めた。
そして、そのまま彼女を、俺たちのベッドへと誘う。
「今日は、俺の隣で寝かせてやる」
俺は三人の魅力的な美しい女性たちに囲まれて、深い満足感と共に眠りについた。
安らぎの中で、夜は静かに更けていく。




