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第74話 決勝の終焉と勝利の喝采

「さて、第二ラウンドと、行くとしようか」


 俺のその言葉を合図に、鉄と血の祭典『アビス・コロシアム』、その決勝戦の最後の戦いが、再開される。観客席を埋め尽くす人々のざわめきと熱気が、闘技場全体に渦巻いているのが肌で感じられた。


 『さあ、戦闘再開だ! 次で勝負が決まるかァ!!』


 実況の咆哮が、俺たちの戦いを告げた。


 

 戦場は、三つに分かれている。


 俺は、ケルベロスの残った頭の一つ、雷の魔法を操る首と、一対一で対峙していた。敵の魔法によって、俺たちの周囲の空間には、青白い電流のスパークが不規則に弾け飛んでいる。火花が散るたびに、チリチリと空気が焦げるような匂いが微かに漂ってくる。


 だが、俺の身に纏う【魔封印】の領域がある限り、その雷が俺の体に届くことはない。


 俺は、雷鳴のような轟音と共に繰り出される牙による噛みつき攻撃を、冷静に剣で捌きながら、再び、あの爆裂魔法を叩き込むための隙を、虎視眈々と探っていた。


 一方、ケルベロスのもう一つの頭、氷の魔法を操る首とは、巨大な黒豹と化したクーコが、激しい戦いを繰り広げている。


 天から降り注ぐ、無数の氷の矢の雨。


 鋭い氷の粒が降り注ぐ音が、クーコの硬い体毛を叩くたびに響く。

 その攻撃を、クーコは一切怯むことなく強靭な肉体で受けながら、ケルベロスの氷の頭に巨大な爪と牙で、猛然と攻めかかっていた。


 『魔獣クーコ、氷の矢の雨に怯まない! 攻め続けている! なんと、あのケルベロス相手に一歩も引かないぞ!』


 実況が興奮気味に叫ぶ。


 そしてエレノアは、この魔獣の主。操り主である重戦士ヴァルカンに、苛烈な攻撃を仕掛け、ケルベロスの的確な制御を見事に乱してくれていた。


 ヴァルカンの鋼鉄の鎧による圧倒的な防御力を、彼女の剣で完全に攻め崩すことは難しい。だが、彼女の、まるで流れる水のような、途切れることのない華麗な連続攻撃によって、ヴァルカンの意識は、完全に彼女へと釘付けにされていた。


 エレノアの剣が鎧の隙間を狙って放たれるたびに、金属が擦れるキンッという高い音が響く。


「おぉおおお!」「エレノア様ぁ!」「ヴァルカン、踏ん張れぇ!」「お前らに全財産、賭けてんだ!」「絶対勝て!!」


 観客席から、ひいきの選手への声援が飛び交う。


 

 ***


 魔獣使いヴァルカンに対するエレノアの猛攻の結果、ケルベロスの動きが徐々に、しかし明らかに、チグハグになっていくのが分かった。


 俺に雷の攻撃を集中させたい頭と、自分に歯向かうクーコを先に倒してしまいたい氷の頭。二つの頭の間で、その方針がまったく噛み合わなくなっていく。


 こちらとの間合いの詰め方一つをとっても、その意思統一が、まったくできていない。


 例えば、俺がわざと後ろに大きく下がれば、俺と戦っている雷の頭は、当然、こちらを追いかけたいと考える。だが、クーコと激しく戦っている氷の頭は、その場にとどまり、目の前の敵を排除したいと考える。


 本来であれば、どちらの方針に合わせるかは、司令塔である重戦士ヴァルカンが決めるのだろう。だが、彼は今、エレノアの猛攻に対応することで手一杯。


 そこまで、細やかなフォローがまったく追いついていないのだ。


 『ケルベロスの動きが鈍っている! 『ロイヤル・ファントム』の連携が、見事に【奈落の底】の支配者を翻弄しているぞ!』


 実況の声が、状況を正確に観客に伝える。


 ――好機。


 敵の動きが、完全に乱れた、その一瞬。

 俺は、その隙を見逃さなかった。身体能力を強化し、かみつき攻撃を避け、敵の側面へと移動する。雷魔法を使うケルベロスの頭に、爆裂魔法を込めた手刀を、その顔の真横から深々と突き入れた。


 ずぶっ!!


 骨が砕けるような鈍い感触が、手を通して伝わってくる。

 爆発するのは、一秒後。


 この時限式という俺の魔法の特性は、まだ隠しておきたい。

 その上で、爆発の巻き添えで受けるダメージは最小限に抑えたい。そのため、突き入れると、ほぼ同時に爆発するように、ギリギリの調整をしている。


 爆発の瞬間。

 俺は、ごく短距離の転移魔法を使い、わずかに後方へと下がり、爆風の直撃を、コンマ数秒の差で避けた。


 そして、俺は転移を終えた直後、あえて爆風に身をさらし、リングの上を派手に転がった。


 なるべくダメージを軽減したかったのだが、微調整は上手くいったようだ。

 前回よりも体の損傷は少ない。


 ドゴォォォンッ!!


 爆発の轟音が、闘技場を揺るがす。

 ケルベロスの雷を使う頭が、先ほどと同じように、内側から爆発四散する。焼けた肉と血の匂いが、観客席にまで届いたようだ。彼らの歓声と悲鳴が闘技場を震わせた。


 二つの頭の内の一つを爆破された衝撃と痛みで、最後の頭となった、氷魔法を使う首も、その動きを大きく乱した。


 その、決定的な隙を、クーコは見逃さなかった。


「うにゃぁぁぁああ!!!!」


 彼女は、獣の咆哮を上げると、ケルベロスの最後の首の喉笛に、その巨大な牙で深々と噛みついた。


 この闘技場において最強の魔獣、地獄の門番・ケルベロスは、ついに、その巨体をリングへと横たえ、完全に沈黙した。


「うぉぉおおおおお!」「すげええええ!」「マジで仕留めたのか……」「嘘だろ、おい! このままだと、俺の全財産が!!」


 観客の歓声が、会場全体を揺らす。


 そして。


 主戦力である魔獣が倒されたことによる、司令塔ヴァルカンの、ほんの一瞬の動揺。

 その隙を、エレノアが見逃すはずもなかった。


「せりゃぁぁあ!!」


 彼女の渾身の一撃が、ヴァルカンの鎧の隙間を正確に捉え、最後に残った重戦士を行動不能にした。


 『ヴァルカン、ついにダウン!』


 実況の叫びが、闘技場にこだまする。


 『なんと最強の魔獣を倒し優勝したのは、初参加チーム! 『ロイヤル・ファントム』。可憐なる姫君の勝利だぁぁああ!!!!』


 カン、カン、カン、カン、カーンッ!!


「うぉおおおおおお!!!!」


 高らかに鳴り響く勝利のゴング。

 そして、観客の雄たけび――。


 試合の最後を、この闘技場で絶大な人気を誇る剣闘士、『王女エレノア』が決めたことで、闘技場の興奮と熱狂は、この日、最高潮に達した。


 俺たちの、完全な勝利。


 鉄と血の祭典、『アビス・コロシアム』の決勝戦は――

 こうして、その幕を閉じたのだった。

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