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第70話 シスコン王子と姫君の決意

 ザハラの王女、ファティマとレイラ。


 二人の告白は、乾いた大地に雷が落ちたような衝撃だった。

 俺の頭の中では、いくつもの思考が嵐のように渦を巻いている。


 もし、あの時、俺が気まぐれで闇オークションに参加していなければ、この姉妹を落札していたのは、間違いなく情報王イグナツィオか、ブランシュフォール辺境伯のどちらかだったはずだ。


 イグナツィオが落札していれば、彼は妹のレイラ姫を手放すことはなかっただろう。そうなれば、シスコンだというアジーム王子は妹を追ってこの国に留学し、情報網を駆使するイグナツィオとの間で、水面下、あるいは公然と、激しい衝突が起きていた可能性が高い。


 ゲームにアジーム王子が登場しなかったことから、本来の歴史においてもイグナツィオがレイラ姫を手に入れていた可能性は低い。


 一方、ブランシュフォール辺境伯が落札した場合――

 彼はこの姉妹を、どう使っていただろうか。


 反和平派の中心人物の一人である彼にとって、和平推進派のアジーム王子に対する交渉のカード、つまり人質として使うのが最も、ありそうな考えだ。


 姉妹を人質にすることでアジーム王子の動きを封じれば、彼がゲームのシナリオに登場しなかったことにも合点がいく。


 不可解なのは、ブランシュフォールが俺に暗殺者を送り込んできたことだ。


 俺は彼と同じ、反和平派の筆頭貴族の跡継ぎ。

 オークションで競り負けた腹いせだけで、暗殺という過激な手段を取るのは飛躍しすぎている。俺が魔力ゼロの落ちこぼれだと思われているから、この機会に戦力外として排除しようと考えたのかもしれない。


 あるいは、もっと別のよこしまな可能性も考えられる。


 姉のファティマ姫を自身の配偶者として迎え入れ、妹のレイラ姫の返却と引き換えに、ザハラ王国での権益を要求する。手元にファティマ姫がいれば、アジーム王子の動きを封じやすい。辺境伯のブランシュフォールであれば、隣国の姫を嫁にすることもできるだろう。


 そういった使い方を想定していたのなら、俺を殺してでも姉妹を手に入れようとする動機になる。


 いずれにしても詳細な事情は、ブランシュフォール本人に聞かなければ分からない。だが、この俺の推測が、大きく外れてはいないはずだ。


「まあ、何はともあれ、今の俺にとって重要なのは……」


 俺は腕の中にいるファティマとレイラを改めて強く抱き寄せた。ただの踊り子と歌姫だと思っていた時でさえ、彼女たちの存在は華やかで、この劇場を彩っていた。


 だが、その正体が気高き王女だと知ると、その愛おしさはさらに増す。

 彼女たちの髪から、砂漠の風と、異国の花の香りが微かに漂うような気がした。


「二人は、これからどうしたい? 故郷に帰りたいか? 俺がアジーム王子に引き合わせてもいいぞ。……あっ、でも、できれば、銀行から借りた金をきっちり返済してからにしてもらえると、助かるんだが……」


 反乱の軍資金は闘技場の収入でなんとかなりそうだが、劇場を買い取った際の借金はまだ残っている。


 いかん、いかん。


 こうして、二人と肌を合わせてしまったのは失敗だったかもしれない。

 情が湧いてしまって、つい甘い対応をしてしまう。


 俺の言葉を聞いて、姉妹はさらに強く俺に抱き着いてきた。


「故郷には、いつか帰りたいです。でも、ゼノス様と離れたくありません」


 レイラが甘えるように言う。

 その小さな声は、俺の胸にじんわりと染み込んでくる。


「それに今、私たちがザハラに帰っても、王国の実権は悪徳大臣カリム・アルハキムが握っています。私たちの身の安全は決して保障されません」


 姉のファティマの見解は冷静で、もっともだった。

 その透き通った瞳は、今の現実をしっかりと見据えている。


「ふむ。情勢次第だが、しばらくは現状維持の方が、お互いにとって良さそうだな。正直、俺もその方が助かる。……それで、二人の無事くらいはアジーム王子に報告しておいてやるか?」


 俺がそう尋ねると、二人は揃って激しく首を横に振った。

 その仕草は、まるで同じ糸で操られた人形のようだ。


 理由を聞いてみると、二人はザハラ王国の政治情勢の悪化を危惧しているようだ。あの兄王子は、姉妹のこととなると、どんな暴走をするかわかったものではないらしい。

 留学中の他国(アースガルド王国)で暴走する危険性と、二人の誘拐を企てた悪徳大臣に対して暴走する危険性――その、いずれもが懸念されるようだ。


 二人の、アジーム王子に対する評価は散々だった。


 「シスコン過ぎて本当に困る」「いざという時に頼りにならない、ただの理想主義者」「姉妹のこととなると、後先考えずに突っ走る見境のない男」。


 先日、俺が会談した時は、理性的でしっかりした王子だと思ったのだが、身内から見るとそうでもないようだ。


 家族にしか見せない顔というのは、誰にでもあるものだろう。


 俺は腕の中で幸せそうにしている二人の髪を優しく撫でながら、そう結論付けた。

 その柔らかい感触が、俺の思考を少しだけ穏やかにする。

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