表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/70

第69話 踊り子と歌姫の告白

 ザハラ王国のアジーム王子、そして同席していたリアム王子との、奇妙な会談を終えた。その日の夜。俺は一人、所有する劇場型レストラン【砂漠のデザート・スター】にいた。


 砂漠の国の王子と話したせいだろうか、無性にファーマとリーラの姉妹に会いたくなったのだ。屋敷で夕食を済ませ、転移魔法で一瞬にして劇場の地下オフィスへと移動する。


 劇場は現在、ショーの休演期間だ。


 夜は食事を提供するレストランとして営業しているが、次の演目の準備や練習があるため、メインキャストの彼女たちが暇なわけではない。

 それでも、連日満員の観客の前でパフォーマンスをしていた公演期間に比べれば、体力的な余裕はあるはずだ。


 事前に連絡を入れていた俺は、二人が待つプライベートルームへと向かった。


 廊下の絨毯が足音を吸い込み、静寂が支配する。扉を開けると、ほのかに甘い香りが漂い、二人は少し上気した頬で俺を迎えてくれた。


「お待ちしておりましたわ、ゼノス様」

「いらっしゃいませ、ゼノス様」


 俺は劇場の経営に、熱心に取り組んでいる。


 最高のパフォーマンスを生み出すには、演者とオーナーが密にコミュニケーションを取り、お互いの理解を深めることが不可欠だ。その一環として、こうして夜に彼女たちと「打ち合わせ」をすることも多い。


 彼女たちを奴隷として購入した当初は、ひどく警戒されていた。

 だが、裏社会の情報王イグナツィオ・ヴァラキアが放った獣人の刺客を俺が撃退して以来、彼女たちは完全に俺に心を開いてくれている。


 そして、その直後くらいだろうか、彼女たちの褐色の滑らかな下腹部に、俺の『専用奴隷』の証が、いつの間にか、淡い光を放って浮かび上がったのだ。


 豪華な部屋には今、俺たち三人しかいない。


 シャンデリアの柔らかな光が、部屋を幻想的に照らしている。


 踊り子のファーマは今宵、ただ一人、俺のためだけにその情熱的で官能的なダンスを披露してくれた。鈴のついたアクセサリーが軽快な音を立て、しなやかな肢体が描く曲線が、俺の視線を捉えて離さない。


 そして、歌姫のリーラは、俺の耳元で囁くように優しく甘い愛の歌を歌ってくれた。繊細な絹糸のように紡がれる声が、部屋の空気に溶け込み、俺の心を震わせる。


 王都随一の劇場で、頂点に立つパフォーマーが――

 俺のためだけに、磨き上げた芸を披露してくれた。


 これ以上の贅沢が、果たしてこの世に存在するだろうか。


 有意義な「打ち合わせ」を終え、夜も更けてきたので、俺はそのまま部屋に泊まることにした。


 ベッドの上で何気なく、今日の出来事を話す。


「……砂漠の国の王子、アジームと会談を行ってな」


 その言葉を聞いたファーマとリーラは、顔を見合わせた。

 一瞬、二人の間に緊張が走る。やがて、あらたまった様子で俺に向き直ると、姉のファーマが震える唇を開いた。


「……ゼノス様。私どもから、ずっと、お伝えしなければならないと、思っていたことが、ございます」


 彼女たちは、俺に自分たちの本当の秘密を打ち明けてくれた。

 自分たちは、砂漠の王国ザハラの正真正銘の姫君であると。


 姉は第一王女『ファティマ・アミラ・ザハラ』、妹は第二王女『レイラ・ヌーラ・ザハラ』。


 かの国の悪徳大臣カリム・アルハキムが差し向けた盗賊団『サンド・ファング』に攫われ、奴隷としてあの闇オークションにかけられたのだそうだ。


 衝撃的な告白を聞き、俺の中でこれまで点と点だった情報が、一本の線となって繋がっていく。


 まず、あの異常なまでの落札価格について。

 非合法な闇オークションとはいえ、他国の王族をそのまま競りにかけるなど危険すぎる。

 そこで彼女たちを「伝説の歌姫と踊り子」というもっともらしい肩書きで出品し、彼女たちを購入しそうだと予想されたイグナツィオ・ヴァラキアとアルビオン・ディ・ブランシュフォールの二人にだけ、極秘情報として「攫われたザハラの王女姉妹だ」と流したのだろう。


 その二人に、金額を競わせるためだ。


 結果として全く予想外の俺が購入してしまったが、犯罪組織としては莫大な金が手に入れば問題なかったというわけだ。


 では、なぜイグナツィオとブランシュフォールは彼女たちを手に入れたかったのか?


 イグナツィオは妹のリーラ(レイラ姫)だけを異常に欲しがっていた。

 きっと、好みのお姫様をコレクションに加えたいだけの、ただの変態に違いないな。


 だが、ブランシュフォールの目的はまだ分からない。


 いずれにせよ、この国の闇オークションに参加するはずのない俺が、気まぐれで関わってしまったことで、本来のゲームの歴史にはなかった、未知のシナリオが今、この世界で進行している。


 そして、ゲームシナリオには存在しない、最大の要素。


 それが、アジーム王子だ。


「……兄さまは、昔から、かなりのシスコンでいらっしゃいますから……」


 俺の腕の中で、リーラ、いや、レイラ姫が少し呆れたように貴重な情報を教えてくれた。


 なるほど、そういうことか。


 ゲームには登場しなかった彼が、和平の機運が高まる重要な時期に、この国にわざわざ留学に来た本当の理由。ザハラのアジーム王子が来た真の目的は、和平交渉の行方を探るためだけではなかった。


 ――悪徳大臣に攫われた、愛する二人の姉妹をこの手で探し出し、救い出すため、か。


 すべてのピースが、完璧にはまった。

 俺は静かにそう確信する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ