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第123話 魔人はうそつきで、人を騙すのが上手い

 俺の屋敷を我が物顔で訪ねてきた、次期当主候補のアカホルス。

 その再生したばかりの不気味な手のひらに、人間の口が付いたかと思えば、その口が今度は自我を持って、ぺらぺらと喋り出した。


 『ぎょへへへへ~』


 洞窟の奥底から響くような、実に下品な笑い声だ。


「……なんだ、お前。体内に魔人を飼っていたのか?」


 俺は、あてずっぽうでそう聞いてみる。


「へぇ~! 無能の癖に、よくこいつが魔人だって気づいたな! そうさ、この偉大なるボクは、魔法の深淵を極めるために、わざわざ魔人を召喚して、そいつと融合したんだ! 強くなるためにな。すごいだろ~! これで、お前に万に一つも、勝ち目はないって分かったか?」


 俺は後ろで小さく震えるリーリアを、そっとかばいながら、奴にさらに問いかける。どうやら、この底なしの馬鹿は、自慢話が心底大好きらしい。


 きっと、こちらが聞けば、何でもアホみたいに喋ってくれるだろう。


「俺が、お前に勝てない? それは一体どういうことだ?」


「ぷ~~っ! そんな簡単なことも分からないのか? やっぱりお前は、救いようのない馬鹿だな! いいか、よーく聞けよ! お前が、天才だった兄、レオンに、決闘で勝てた、その、『からくり』――それは、このボクには、もうぜーんぶ、お見通しなんだよ!」


 からくり、か。


 親父は、俺の能力を知らない。

 魔力を問答無用で霧散させてしまう【魔封印】の能力を――


 この目の前のクソガキが、あのレオンに匹敵するか、あるいは、それ以上の実力者だとしても。俺がレオンとの決闘に勝利した、その勝因が分からなければ――さすがの親父も、こいつを、こうして王都まで送り込んでは来ないだろう。


 レオンの二の舞になる可能性があるからな。

 アカホルスが俺に勝てるという『確信』があったからこそ、親父は動いた。


 俺が聞き出したかったのは、そこだ。



 ***


 『ぎょへへへへ、そいつは、この俺様が教えてやったんだ。――いいか、よく聞け、魔力ゼロの無能! 魔人ってのはな、根っからのうそつきで、人を騙すのが上手いんだ。そして、人間ってのは、自分が一番賢いと思っているから、ころりと簡単に騙される』


 『特別にいいことを教えてやる。【転移の魔人】なんて大層な二つ名を持つ奴は、存在しねーんだよ。そんな奴、魔界で聞いたこともねーからな。それは『はったり』だ。――おそらく、そいつは、人間の世界に自分で作った、嘘の情報が書かれた自作の魔導書を、巧妙に流布させて、自分を誰かに召喚させるように仕向けたんだろうよ』


 『で、そいつは、魔力も多くて扱いづらそうな兄のレオンではなく、魔力ゼロで御しやすい、お前に召喚されたかったんだ。そこで『決闘の前から』、お前にこっそりと力を貸して、兄のレオンを打ち負かしたんだ』


 ……ふむ。

 「魔人はうそつきで、人を騙すのが上手い」というその部分は、全面的に賛同する。しかし、それ以外の、もっともらしい解説は、残念ながら、完全に的外れだ。


 だが、俺がレオンを倒した、その本当の勝因が全く分からない、親父やオスカーにとっては、この魔人の「推理」は説得力がある。

 それで、コイツの言うことを鵜呑みにしてしまっているようだ。


 確かに、騙すのが上手い。

 いや、この場合は、コイツ自身が勘違いをしているのか。


「無能なお前を、上手く利用して、この人間界に召喚された、その『アシュラフ』ってやつが、今回の決闘でも、お前の味方をするだろうけど……。この偉大なるボクは、召喚した魔人と完全に融合しているんだ。条件が同じどころか、こっちの方が圧倒的に上なんだよ! 分かるか? この意味が! ば~か、ば~か!」


 魔人と融合したことによって、その魔力量が飛躍的に増したのだろうか?


 単純な足し算か、それともお互いの魔力を増幅させる掛け算か。

 それは分からないが、すごい自信だ。

 魔人なんぞと融合するなんて気色の悪い真似は、決してしたいとは思わないが。


 あらかた情報は聞き出せた。

 そろそろ次の段階に進むとしよう。


「それで、話を戻すが。お前らは、この俺をこの屋敷から追い出したいんだろ。――そして、俺はそれを断った。ならば、ここは貴族らしく、決闘で決着を付けようじゃないか」


「ぷひゃひゃひゃ! お前は、本当にどうしようもない馬鹿だな~! お前がそのアシュラフっていう、うさん臭い魔人を呼び出したって、このボクたちに勝てるわけないって、まだわかんない? お前の頭、脳みそが入ってないんじゃないの~~?」


 『ぎょへへへ、その通りだ。だがな、アカホルスよ。油断は禁物だぞ。あの人間のメスを、俺たちの魔力から守っていた、あの不可解な術式は、厄介だ。膨大な魔力をもってしても、突破できなかった。――そのアシュラフってヤローは、どうやら、術式の構築、という点では、この俺よりも一枚上手らしい』


「なんだよ。じゃあボクたちが、そいつに勝てないっていうのかよ?」


 『いや、小賢しい手段で人間にこそこそと取り入っているところを見ると、直接的な戦闘能力は大したことなさそうだ。そいつとの戦いでは、術式を使った搦手からめてにだけ注意しろ』


 リーリアを、お前たちの薄汚い魔力から守ったのは、別に、アシュラフの術式ではないのだが……。


 まあ、それをわざわざ訂正してやる必要もないか。


「ふぅーん。じゃあ、そいつの対処はお前に任せた。作戦会議、終了! よーし、じゃあ、決闘で、このグリムロック家の次期当主は、どっちがふさわしいか、はっきりと決めようじゃないか! といっても、戦場で大活躍していたボクたちの敵じゃないだろうけどね。うぇ~い!」


 よし、乗ってきた。

 向こうも最初から、決闘は頭にあったのだろう。


「じゃあ、中庭に出ろ。そこで、けりをつけてやる。ここで戦って、部屋が壊れるといかんからな」


「はぁ~~? そこまでの激しい戦いになるとは、思えないんですけどぉ~。でも、まあ、いっか。お前をぶっ殺せば、その汚い血が、そこら中に飛び散るだろうしな。そしたら、これからボクのものになる、この部屋が汚れちゃうもんね」


 アカホルスは、俺のその提案にあっさり乗り、中庭へと移動する。


 その途中。

 玄関から外に出る、その前に。


 俺は、オスカーに静かに命令を出した。


「ああ、そうだ、オスカー。お前は、応接室の掃除をしておけ。お前が連れてきた、その躾のなっていない駄犬の汚い血で、あの部屋はすっかり汚れてしまったんだ。その責任を取って、元の状態に戻しておけ」


 俺は屋敷の警備員を呼び出し、オスカーからその懐の短剣を取り上げる。


 グリムロック家の家令、オスカー・ブラックウェル。

 親父が王都の屋敷にいる間は、あの広大な辺境の領地の、その一切を取り仕切っている影の支配者。


 その男が、這いつくばって血で汚れた床の掃除をするように、と命じられた。

 ありえないような屈辱だろう。


 オスカーは鉄面皮の下で、憤怒に打ち震えている。


「……かしこまりました」


 文句の一つも言いたそうだが、それをぐっと押し殺して、命じられた掃除をするため、その場を去った。


 あいつには、これから始まる決闘の詳細は見せたくない。

 手の内は、なるべく隠しておく。


 さて。

 準備はすべて整った。


 いよいよ、決闘だ。

 俺は静かに、口の端を吊り上げた。

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