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第122話 防犯機能と『アホ・カス』

 親父からの刺客。

 俺を排除し、グリムロック家の嫡男の地位を狙う――

 アカホルスという名のガキが現れた。


 応接室にて、俺は招かれざる来訪者から、一方的に情報を収集しているところだ。



 ***


 なるほどな。

 東の帝国との終わらない争いで、我がグリムロック家がここ最近、優勢に戦いを進めているという話は聞いていた。

 どうやら、この目の前の頭の悪そうなクソガキ――アカホルスが、その最大の要因らしい。


 親父が惚れ込むわけだ。


「へっへ~ん。どうだ、すごいだろ! ボクはな、お前みたいな、ただ親の七光りだけで生きてる無能とは、違うんだよ! 前世の記憶を思い出してから、死ぬ気で努力して、この膨大な魔力と、複数の魔力属性を手に入れたんだ! それに比べて、お前はどうだ? 努力もせずに、怠けている。皆の足を引っ張ることしかできない落ちこぼれの出来損ない! そのくせ、名門貴族に生まれたからって、無意味にえらそーにしている! それが、お前だッ!! ばーか、ばーか!」


 本来であれば、もっと工夫して聞き出さなければならないような重要な情報を、こいつは勝手に、べらべらと喋ってくれる。


(……えらく迂闊な奴だな)


 どうやら、こいつは――

 このゲームの世界に、ただのモブキャラとして生まれた『転生者』らしい。


 努力チートタイプ。

 そして、この世界で実力を示し、成り上がりを志向している。


 まともな性格の奴だったら、友好的にコミュニケーションを取っていたんだが……。こいつとは、分かり合える気がしなかった。


 戦場で華々しい活躍をしたらしいが、身のこなしは大したことはない。

 おそらく、動かない固定砲台として、その自慢の莫大な魔力量で、敵を一方的に圧倒していただけなのだろう。


 人殺しの経験は豊富のようだが――

 本当の意味での戦闘経験は、驚くほど浅そうだ。



 ***


「いいか~? ボクが、お前を追い出して次期当主になるのはな、ボクが、お前よりも努力して、そして実力があるからだ! ボクが強いから、お前のような弱い奴から奪うんだ! お前が地位と屋敷を奪われるのは、お前が弱いからだ! 努力しなかったお前が悪いんだからな! 悔しいか? でも、お前は弱いから、何もできないだろう? これから、ボクに大切なものを奪われていくのを、ただ黙って指をくわえて見ているしかないんだ!」


(こいつと戦う前に、聞き出しておきたい情報がある。このまま、しばらく泳がせておくか――)


 俺がそう考えていた時だった。

 リーリアのお茶の準備ができたらしい。


 彼女は、それをまずは客人であるアカホルスへと、優雅な所作で差し出した。


 と、そこで――

 クソガキが、およそ貴族の、いや、人としてあるまじき言語道断の行動に出た。



「……ああ、ちょうどいい。まずは手始めに、お前の目の前で、こいつを、ボクのものにしてやるよ! さっき、ボクのことをいきなり殴った、仕返しだ~~!」


 奴は、そう言うと、お茶を配っていたリーリアの豊かな胸を、メイド服の上から、その小汚い手で――ぐにゅ、と鷲掴みにしたのだ。


 ……この『アホ・カス』を殺す理由が、また一つ増えた。


 俺がアカホルスの腕を切り落とそうと、剣の柄に手をかけ立ち上がった。

 次の瞬間だった。


 アカホルスのその手が、何の前触れもなく――

 ぱんっ! という乾いた破裂音と共に、爆発四散した。



 ***


「うぎゃぁぁあああああああ~~~ッ!!」


 手首から先が一瞬にして赤い霧となって消し飛んだアカホルスは、甲高い絶叫を上げている。

 煩わしい叫び声を無視して、俺はリーリアの元へと動き出す。


 飛び散った血と肉片が、白いテーブルクロスと磨き上げられた床、そしてリーリアの純白のエプロンを無惨に汚していた。


 このあまりにも突然の出来事は、完全に予想外だ。

 俺にとっても、あの鉄面皮のオスカーにとっても、そしてもちろん、被害者であるリーリアにとっても。


「きゃあっ!」


 彼女も小さく叫び、後ずさりした。


 一瞬の硬直の後、動いたのはオスカーだった。

 爆発からほんの少し遅れて、懐に忍ばせていた護身用の短剣を抜き放ち、リーリアに襲いかかる。


 彼女が何らかの方法で、アカホルスを攻撃したと勘違いしたようだ。

 その鋭い切っ先が、彼女の細い首を正確に突き刺そうとする――


 ガキィイインッ!!


 目に眩しい火花が散る。

 俺は腰に差していた剣を抜き放ち、その凶悪な一撃を寸でのところで防いでいた。


「……どういうつもりですかな? ゼノス様」

「そりゃあ、こっちのセリフだ。オスカー」


 俺にも、今、一体何が起こったのか――

 まったく理解不能なのだ。


 俺とオスカーが至近距離で睨み合う。


 時が止まったかのような静寂。

 その張り詰めた空気の中、俺たちの側面では――アカホルスの腕の断面から、血がまるで噴水のように吹き出している音だけが、やけに生々しく響いていた。


 アカホルスは、手首から先のない腕を、無事な方の手で必死に押さえながら、回復魔法をかけている。


「うっ、うぅ……! い、いでぇぇ~~!」

 徐々に血が止まり、見るも無残な傷口が塞がっていく。


「くっそう! なんだよ、これ、一体どうなってやがる! はぁはぁ、なんで、こいつを魔力奴隷にできなかったんだ? ボクが叩き込んだ魔力を、逆に跳ね返したのか? こんな事、初めてだぞ……!」


 そのセリフから推察するに――

 アカホルスは、リーリアのことを自らの『魔力奴隷』にしようと、その胸に触れ、魔力を無理やり流し込んだらしい。


 そういえば、『お前の目の前で、こいつを、このボクのものにしてやるよ』と、言っていたな。


 そして、リーリアの胸を触っていたその手が、爆発四散した――と。

 ……俺は、リーリアの胸に、そんな物騒な『防犯機能』を付けた覚えは、まったくないのだが?


 まあ、それはともかく。


「どうやら、そのお前のところの『アホ・カス』が、勝手に自爆したらしいな。剣を引け、オスカー」


 オスカーは、ちらりとアカホルスの方に冷たい目をやった後、大人しく短剣を引き、「……失礼いたしました」と形だけの謝罪を述べ、アカホルスの背後へと移動する。


 もはや、俺に対する敵対心を隠す気もないらしい。


「リーリア。お前の方に、何か問題はないか?」


 俺は、敵から決して目をそらさずに、隣にいるリーリアの巨乳を、そっと指で這うように触って、何か異変がないか確かめる。


「は、はい。私は大丈夫です、ご主人様……んっ♡」


 よかった。


「お茶は、もういい。俺の後ろにいろ」


 俺はリーリアを下がらせる。


「ぼっちゃま。お体は大丈夫で?」

「うぇ~ん。大丈夫なわけないだろ! 腕の先が完全になくなったんだぞ! 回復魔法じゃ再生できないし、どうしよ、え……あ、あれれ……?? ひゃえええええ、何だ、これぇぇぇぇ~~~?」


 アカホルスの、失われたはずの腕の先が――

 その断面が、ぶくぶくとまるで生き物のように不気味に脈動している。


 今度は何だ?


 赤黒い肉のうごめきは、徐々に大きさを増し、次第に膨れ上がり、やがて人の手の形をゆっくりと形作った。


 実に不気味な現象だ。


 そして――

 その異形の手のひらの中には、なんと、人間の口がついていた。


『ぎょへへへへ。いやはや、してやられたな。まさか、あのメイドから呪詛返しをくらうとはなぁ~~。ビックリ仰天!! あの女にかかっている魔法契約は、俺たちの膨大な魔力をもってしても塗り替えることは不可能だった、という訳だ。これほど強固な魔法契約は初めて見たぜぇ~~~』


 その手のひらの口が、勝手にぺらぺらとしゃべりだす。

 アカホルスは、自分の手のひらに向かって会話を始めた。


「お前ぇ~! 勝手に出てくるなよ、いつも言ってるだろ!」


 『ぎょへへ~』


 俺は、そいつから放たれる魔力に覚えがあった。

 この、薄気味悪く、どこまでも不吉な魔力は――


 間違いない。


 魔人の、ものだ。

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