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第109話 夜の森と月光草

 俺は今、エルフの森『シルヴァン』に来ている。

 これから作る予定の専用武器に、強力な魔法効果を付与するための「特別な素材」を採集するのが目的だ。


 ドワーフの姫・エイルたちが、俺の屋敷の庭に本格的な鍛冶場を作ってくれている間に、俺は必要な魔法素材を集めておく算段だ。


 エルフ族の長、エリュシオン・エルフヘイムに直々に許可をもらい、俺は今、夜の森の探索へと足を踏み入れている。


 一緒に探索を行うのは――

 エルフ族のお姫様、リフィア・エルフヘイム。

 弓の扱いに長けた、少し人見知りのシルフィア。

 エルフ族随一の腕利き薬師、フローラ。

 そして、偵察を得意とする俊敏なルナール。


 四人とも、俺の愛すべき恋人たちだ。


 普段は俺の劇場の警備を担当してもらっているが、この広大で危険な森を探索するには、彼女たちの専門的な力が不可欠だ。

 だからこそ、こうして同行してもらっている。


 ちなみに、彼女たちと一緒に劇場で働いているエルフ族のカイルも、「自分も一緒に行く!」と駄々をこねていたが――邪魔なので置いてきた。


 男の手など、好き好んで握りたくはない。


 学校帰りに一度劇場へ寄り、彼女たちを連れて転移魔法で一瞬にしてエルフの里へ移動。必要な手続きを済ませてから、探索を開始した。


 日はとっくに落ち、辺りは深い闇に包まれている。


 夜のエルフの森は、昼間の穏やかで生命力に満ちた姿とはまた違い、どこか神秘的で荘厳な雰囲気を漂わせている。

 天蓋のように生い茂る木々の隙間から、銀色の月光が筋となって静かに降り注ぐ。

 足元の柔らかな苔が、その光を浴びて、ぼんやりと青白く光っていた。


 俺は闇魔法で夜目が利く。

 そして、エルフである彼女たちも、月の光だけで十分だと言う。

 明かりなど必要ないというので、俺たちが持つ光源は、道中の備えとして用意した最小限のランプだけだ。


 身もふたもないことを言えば――

 俺の下僕である転移の魔人・アシュラフに、「森の奥にある貴重な素材を片っ端から取って来い」と命じれば、それが一番早い。


 だが、エルフの長・エリュシオンから、その探索許可は下りなかった。


 まあ、得体の知れない不気味な魔人に、自分たちの神聖な森を好き勝手に歩き回られたくはない――という彼らの気持ちも、分からなくはない。


 エルフ族の心情に納得した俺は、大人しく自分で探索することにした。


 もちろん、魔法素材を金で買うという選択肢もあった。

 だが、王都の魔道具店にずらりと並んでいる素材は、冒険者がその辺の森で採集してきたような、ありふれたものばかり。


 そのくせ、値段だけは足元を見たような、とんでもない値付けがされている。

 そんなものに大金を払う気は起きなかった。


 この俺のように、エルフの長の正式な許可を得て、神聖な森の奥深くまで堂々と探索できる人間など、他に一人もいない。


 しかも、この森を知り尽くしたエルフ族の四人の美女たちによる、献身的なサポート付きだ。


 その圧倒的なアドバンテージを考えれば――

 やはり、こうして俺自身が自らの足で探索するのが、最良の選択だろう。


 俺たちは、エルフの集落を出て、森の中を北東へと静かに、そして慎重に進んでいた。

 この広大な森の中で、どこに、どんな貴重な素材が眠っているのか――

 その大まかな場所は、彼女たちがすべて把握している。


 もちろん、そこに行けば必ず採れるというわけではない。

 最後は運しだいだ。

 だが、やみくもに歩き回るよりも、はるかに効率よく目的の素材を採集できるはずだ。


「ゼノス様。少し、休憩しましょうか?」


 三時間ほど歩いたところで、リフィアがそう提案した。


 彼女の長く流れるようなプラチナブロンドの髪と、透き通るような白い肌。

 そして、気品あふれるエメラルドグリーンの瞳が――木々の隙間から差し込む柔らかな月の光を受けて、まるで森の女神そのもののように神秘的な輝きを帯びていた。


 俺は、そのあまりの美しさに見とれながら、彼女に返事を返す。


「ああ。そうだな」


 学校帰りにそのままここへ来たので、森に入ったのはだいたい十八時ごろ。

 そして今は、二十一時くらいになるだろう。


 腹も空いてきたので、俺たちはここで少し長めの休憩を取ることにした。

 休憩後、さらに二時間ほど森を探索してから屋敷に帰れば、十分な睡眠時間も確保できるだろう。


 明日からは、今日探索を終えた場所から、転移魔法で探索を再開できる。

 武器製作も、それほど急を要するものではない。


 素材集めは、あまり無理をせず、こうしてじっくり進めていけばいい。


 食事を終えてから、リフィアがすっかり甘えん坊になった。

 ここには気心の知れた者しかいない。

 そして、幼い頃から過ごしてきた馴染みの森の中――彼女は、プライベートな恋人モードになったのだろう。


 その華奢な体を抱きしめて、優しくあやしていると――

 ふと、彼女が何かに気づいたようだった。


 美しい尖った耳が、ぴくりと動く。


「……ゼノス様。あの、奥の方。わずかに、開けた場所があります」


 彼女がその白い指先で指摘した場所へと行ってみると。

 そこには、小さな窪地があり、その底一面が、まるで夜空から天の川をそのままこぼしてしまったかのように、無数の銀色の光で満たされていた。


 その窪地には、銀色に淡く、そして美しく光り輝く、不思議な草が群生していたのだ。


 昼間は、ただの何の変哲もない草と、見た目はほとんど変わらない。

 だが、日中にその葉にたっぷりと太陽の光を吸収し、夜になると、まるで淡い月光のように自ら発光するのだという。


 その名は――『月光草げっこうそう』。


 精神系の魔法、とくに幻覚や幻惑に対して非常に効果的とされており、相手に魔力的な錯乱を引き起こしたり、逆に荒ぶる心を穏やかに鎮める高級ポーションの原料にもなるらしい。


 さらにこの薬草は、長い時間をかけてゆっくりと成長するため、“時”に関する魔法的な効果――若返りも期待できるという。


 もっとも、それはほんの数時間程度、肉体がわずかに若返るというだけで、その効果は実感しにくいのだそうだ。


「……これは、かなり貴重な薬草ですわ」


 フローラが、薬草を傷つけないように、特別な銀のナイフで、一本一本丁寧にその根元から切り取っていく。俺たちは、その幻想的な光を放つ月光草を慎重に採取して、再び森の探索を再開した。


 そして、予定通り、さらに二時間、森の奥へと進んでから、その日の探索を終えた。


 俺は、転移魔法で四人を劇場へと送り届け、そして、俺自身もまた、自らの屋敷へと帰宅した。



 ***


 寝る支度を整えて使用人用の寝室の扉を開けると、そこにはリーリアとミナが、一つのベッドで仲良く寄り添って眠っていた。リーリアには、俺の帰りを待たずにちゃんと寝ているように、と厳命してある。


 部屋の隅では、クーコとルミアが、可愛らしい猫とライオンの姿で丸くなり、静かな寝息を立てている。


「……お帰りなさいませ、ご主人様」


 俺がドアを開けたせいで、リーリアがうっすらと目を覚ましたらしい。


「ああ。起こしてしまったか。悪いな」

「いえ。こうして一日の最後にゼノス様とお話ができて、とても嬉しいです」


 俺は、そんな健気なリーリアの髪を優しく撫でてから、自分の部屋へと向かい、ベッドの中へ静かに滑り込んだ。

 そしてそのまま、目を閉じる。


 森を探索した後の、心地よい疲労感。

 穏やかで、深い眠りについた。

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