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公爵令嬢の取り巻き~寄ってくる悪い虫は全て私が払いま――あれ?~  作者: 九傷


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公爵令嬢の取り巻き~寄ってくる悪い虫は全て私が払いま――あれ?~⑥

 


 兄――アッシュ・クロムウェルが変人だと言われる理由は、主にその行動原理にある。

 元々クロムウェル家の人間は変人が多く、世間的にも変人の一族だと認識されているのだが、兄は同じ一族から見ても変人と認識されていた。


 そもそもクロムウェル家の人間が変人と言われるのは、他人との関わりにあまり興味を持たないことにある。

 興味の方向性が発明や研究に偏っているため、他人とコミュニケーションを取ろうとする意識が希薄なのだ。

 これについては私も自覚があるので、世間の認識に対し異論はない。


 しかし兄は、そんなクロムウェル家の人間でありながら他人に対し強い興味を示したのである。

 その相手は、兄の婚約者であるカレン・アイスブランド子爵令嬢――



 アイスブランド家は、大昔は名家として名を轟かせていた大貴族だったが、現代は落ち目の貴族であり子爵まで降爵されている。

 それに危機感を持ったためか、当代のアイスブランド家当主は積極的に生産技術に特化した貴族との交流を進めているらしい。

 クロムウェル男爵家に声がかかったのもその一環のようだが、我が家は本当に政略結婚などを気にしないため、兄とカレンさんの婚約はあっさりと決まった。


 兄は一応長男なのだからもう少し慎重に考えるべきだったろうとは思ったが、どうにも過去に恩があるなどの事情はあるらしい。

 ただ、一番の決め手となったのは、兄がカレンさんに一目惚れしたからなのだそうだ。

 クロムウェル家の人間が異性に興味を持つことなどほとんどないため、兄の異端性はそこから発揮され始めたと言ってもいいかもしれない。


 以来、兄の行動原理は全てカレンさんが中心となった。

 発明や研究は全てカレンさんのために行われ、今となっては私生活さえもカレンさんを基準に調整されているらしい。

 しかも兄は、優れた身体能力を誇るアイスブランド家の人間に少しでも相応しい男になるべく、走り込みなどをして体作りにも励んでいる。

 そのせいもあって、体を動かすことに一切興味を持たない我が家の中では一番体力があり、今では率先して力仕事を請け負うようにまでなっていた。

 カレンさんと出会うまでは無口で黙々と一人遊びをしているようなちょっと変わった――我が家の中では珍しくないタイプの子どもだったというのに、脳内で一体どんな化学反応が起きたのか……



 そんな兄はクロムウェル家の中でも埒外の存在と言えるのだが、決して頭がおかしいだとか、狂人というワケではない。

 むしろ、その行動原理が単純――純粋であるからこそ、その行動パターンを読むのは容易だ。

 そしてだからこそ、兄がカレンさん以外のために何かをするとは思えないのである。


 ……ただ、もしあの手鏡が兄以外(・・・)から提供されたものだとしたら――



「フフ♪ 不安が顔に出ていますよ?」


「っ!」


「安心してください。別にアイスブランド家に圧力をかけて奪った、というワケではありませんから」


「……お見通し、ですか。流石はクレアさんです」



 ここでアイスブランド家の名前が出てくるということは、兄とカレンさんの関係もしっかりと把握しているということだ。

 兄とカレンさんが婚約関係にあることについては貴族であれば耳に入っていてもおかしくない情報だが、兄がカレンさんにベタ惚れしていることについては自然と耳に入るような内容ではない。

 ……つまり、クロムウェル家の情報は既に調査済みということでもある。



「買いかぶり過ぎですよ、マーガレットさん。私が貴女のお兄様について知っているのは、単純にマルスさんから教えていただいたというだけです」


「……? 何故マルスさんが、兄のことを?」


「それは君の兄、アッシュ・クロムウェルもまた、私のお得意様だからだよ」


「???」



 増々わからなくなってきた。

 考えるのはもう少し話を聞いてからが方がいいかもしれない。



「クレアさんと私の関係は先程説明してもらった通りだが、私が何を研究しているかについては私自身の口から説明させていただこう」



 そう言ってマルスさんは懐から小箱を取り出し、さらにその中から取り出した物を顔に装着する。



「『真理の魔眼』は脳だけでなく眼にも負担がかかる。この眼鏡は、眼の負担を軽減するために私が自ら設計したものだ」


「眼鏡の、設計――――っ!? まさか……」



 思わず自分の眼鏡のフレームに触れる。

 そこにはEyesと知らない名前が刻まれているのだが、私はてっきりヴァーツラフ家御用達(ごようたし)の高級なメーカーだと思っていた。

 しかし、今の話の流れがら察するに、この眼鏡は――



「ああ、それも私がクレアさんからの依頼で制作したものだよ。私の研究内容とは、『真理の魔眼』の性質を技術に落とし込むことなんだが、その過程で培われたノウハウを駆使して眼鏡作りも行っていてね。それが思いのほか評判が良くて、今ではちょっとした商売として成立している」



 そういう、ことか……

 バラバラに散らばっていた断片的な情報が、頭の中で次々に繋がっていく。



「つまり、兄のモノクルもマルスさんが作ったもの――ということですね?」


「その通り。アッシュは私の初めてのお客様であり、親友とも呼べる存在だ」



 兄には一人だけ、友と呼べる存在がいると聞いたことがある。

 それが恐らく、マルスさんなのだろう。

 兄がモノクルを付け始めたのは確か10歳になる前くらいだったので、それなりに長い付き合いなのだと思われる。

 子どもがあのモノクルを作れるのだろうか? と一瞬疑念を抱いたが、兄も幼少時から大人顔負けの発明をしていたことを思い出す。

 ……想像するに、お互い天才同士であり、だからこそ波長があった――ということなのだろう。



「……マルスさんは知る人ぞ知る腕利きの眼鏡職人であり、クレアさんと兄はその顧客だった。二人には接点がなかったが、マルスさんが橋渡しをするかたちで繋がりをもった、と?」


「概ねあっているが、そこが少し複雑でね。当たり前だが、いくら同じ顧客でも許可なく個人情報を他者に伝えることは違法行為だし、そもそも私ごときがクレアさんと直接接触することなど許されるワケがない。それはマーガレットさんが一番わかっているだろう?」



 ……それもそうか。

 学校で接触がなかったことは私が把握しているし、学園外でクレアさんに接触することは極めて困難だ。

 社交界などで接触する機会はあるだろうが、監視下にある中で同年代の異性が個人的に交流関係を結ぶことなど、ヴァーツラフ公爵が許さないだろう。

 恐らくクレアさんが私の眼鏡の作成を依頼した際も、直接個人間で取り引きしたワケではないハズだ。


 それにまだ、兄が何故心変わりをしたのかまでは推察できていない。


 なんらかの圧力がかかって奪われた――あるいは差し押さえられたのでなければ、あの手鏡は兄が自ら売り込んだか、提供したものである可能性が高い。


 ……ダメだ。

 やはり、兄がカレンさん以外の人間に自分の発明品を提供する姿が想像できない。



「確かに私は全員を繋ぐ中継点になりはしたが、結局全てはこの『魔法の鏡』がなければ関係が成立することはなかった。本当に君の兄、アッシュは天才だよ……」



 そう言ったマルスさんの瞳からは、憧れや嫉妬を含む複雑な感情が読み取れた。




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