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公爵令嬢の取り巻き~寄ってくる悪い虫は全て私が払いま――あれ?~  作者: 九傷


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公爵令嬢の取り巻き~寄ってくる悪い虫は全て私が払いま――あれ?~④

 


「っ!?」


「……流石はマーガレットさん、学年的にまだ習っていないだろうに、その反応を見る限りしっかりと魔眼について予習済みのようだ」



 確かに私の学年ではまだ魔力学の分野は習っていないが、別に予習をしたから知っているというワケではない。

 ただ、純粋な興味から調べたことがあるというだけである。



 魔眼――、それは魔力的特質が宿った眼の総称だ。

 魔力は未だにどういった条件で発生しているか判っていない謎のエネルギーだが、その性質や利用方法自体は研究が進んでおり、今となってはあらゆる分野で活用されている。

 その性質の一つに「特定の物質と融合する」というものがあるが、ごく(まれ)に人間を含む動物の体の部位と融合するケースがある。

 この現象は生体融合と呼ばれているが、一般的には眼以外と融合することはあまり知られていない。

 理由は不明だが魔力は特に眼と融合されやすいらしく、正式に名称が付けられているものが魔眼しか存在しないからだ。


 その魔眼にしてもこの国――グリールでは非常に珍しく、純粋な国民で発現した者は歴史上5人も存在していないと言われている。

 こちらの理由は単純で、グリールの国民はほぼ全て魔力を持っていないからだ。

 融合する魔力がなければ当然生体融合は発生しないため、魔眼が発現することもないというワケである。

 だから普通に考えればマルスさんに魔眼が発現することはないハズなのだが、わざわざ片目を押さえたり魔眼という単語を出したのだから、自分は魔眼持ちだとアピールする意図があるのは間違いない。

 しかし、もし本当に発現したというのであれば――



「……人身売買に手を染めていたとは、コーデリア家も落ちぶれたものですね」


「いやいやいや! そう思う気持ちは理解できるけど、流石に確認もせずに決めつけるのはどうかと思うよ!?」


「それは失礼しました」



 疑いが晴れたワケではないが、私もそこまで本気で言ったワケではないので素直に謝っておく。

 どの道今この状況で確認するすべはないので、まずはマルスさんの言い分――目的を聞いた方がいいだろう。



「……一応説明しておくと、私の母は元々ステラの貴族だったんだ」


「ステラ……」



 聖女国家ステラ――、確かにそれが本当なら、マルスさんに魔眼が発現したとしても不思議ではない。

 ……ただ正直、にわかには信じ難い話だ。



 魔眼が発現する条件はほとんどの場合先天的な資質であり、血の影響が非常に大きいと言われている。

 ……つまり魔眼が発現した者の子は、同じように魔眼が遺伝する可能性があるということだ。


 魔眼は系統にもよるが大抵の場合優れた性質を持っているため、魔眼持ちの血族はその存在だけでも絶大な価値があると言われている。

 グリール以外の国の貴族に魔眼持ちが多いのも、そういった背景があるためだ。

 そして、それゆえにその血は門外不出とされることが多く、他家に嫁ぐ場合でも同じ系統の家系に限定されるらしい。


 もちろん政略的、あるいは金銭的な取引で血を交えることもあるようだが、技能や技術というものは一度外に流出してしまうと拡散し続けることになる。

 だから余程の――、それこそ命に関わるような事態でもなければ、他家や他国の手に渡ることはなかった。


 そんな背景もあり、人間同士の争いが盛んだった当時は魔眼の血族を取り合うためだけ(・・)に戦争が起きたこともあったそうだ。

 そこまでいくと、人間国宝のような存在だと言っても過言ではないだろう。

 今は各国で条約が結ばれたため魔眼を起因とした戦争は禁じられているが、それがなければ今でも人間同士の争いは続いていたかもしれない……



 そんな魔眼持ちの血族が、果たして他国の魔眼も持たぬ貴族に嫁ぐことなどあるのだろうか?

 物事に絶対などないのであり得ないとまでは思わないが、簡単に信じられるような話でもない。

 本気で言ったワケではないが、人身売買で手に入れたと言われた方がまだ説得力があると思っている。



「簡単に信じてもらえないことはわかっているさ。だが、何も問題は無い。私の言葉が真実であることは、この魔眼が証明してくれるからね」


「証明……? っ! まさか――」


「そう、『真理の魔眼』だよ」



 マルスさんは言うと同時に片目を覆っていた手を下ろし、閉じた目をゆっくりと開眼する。

 現れたその瞳には、美しい紫色の光が灯っていた。



「ふむ、どうやらコレが本物の『真理の魔眼』であることを証明する必要は、なさそうだね?」


「……はい。実物を、見たことがあるので」



 実際私は、教会で本物の『真理の魔眼』を見たことがある。

 魔力無しであの光を再現することは困難だし、私が疑っていない(・・・・・・)ことを見抜かれたことからも、まず本物と思って間違いないだろう。



 その瞳に映したあらゆるもの(・・・・・・)の本質を見抜くと言われている『真理の魔眼』は、主に教会や法廷などで偽証を見破る際に利用されることが多い。

 代えの利かない有用な能力であるがゆえに、このグリールでも『真理の魔眼』の発現者については他国から例外的に派遣されてきており、正式な手順で申請を行えば実物を目にすることも不可能ではなかったりする。

 特に貴族や商人であれば真贋(しんがん)を確認する機会が多いため、魔眼の中でも『真理の魔眼』は比較的ポピュラーと言えるかもしれない。



「魔力の発光色は偽れない――という説明も不要なようだ。話が早くて助かるよ」



 魔力は、付加された性質により発する色が変化する。

 これは化学反応のようにパターンが決まっており、発する色さえ確認できればその性質を特定することが可能だ。

 ただ、魔力は基本的にエネルギーとして利用されるため、普通であれば発光色を目にすることはあまりないらしい。

 確認できるのは身体強化系の術や、魔眼のような生体融合といった直接何らかの効果を付与するものに限られるのだそうだ。



「知っての通り、『真理の魔眼』には本質を見抜く力がある。そしてその制約として、噓をつくことができなくなる。つまり、今から私が話す内容は全て真実ということだ」


「……」



 その性質についても制約についても、実際に教本に書かれていた通りの内容である。

 にわかには信じ難い話ではあるが、今もなお真偽を確認する場で利用されていることから、その信憑性はかなり高いと言えるだろう。

 恐らく過去に実証実験なども行われているだろうから、ここで信じたくないと思うのは私のエゴでしかない。



「さて、この状態を維持するのは中々に大変でね……、手短に説明させてもらうよ。まず私の家――コーデリア家の一族は、二代ほど前からステラのとある貴族と交流があって、技術の提供や売買などで持ちつ持たれつの関係だったんだ」



 グリールは人間同士の戦争が盛んだった頃から技術大国として名をはせており、科学技術や生産技術などにおいては他の追従を許さないほどに発展しいる。

 この発展は国民のほとんどが魔力を持たないことに起因しているが、だからこそ技術力の高さについては強い自負があり、技術の流出については慎重だ。


 ……しかしそうか、魔眼の血もまた、同じように他国への流出を恐れる存在である。

 価値観のすり合わせさえできれば、等価交換も夢ではない――のかもしれない。



「まあ、それはあくまでもきっかけに過ぎず、母は自分の意思でコーデリア家に嫁いで来たらしいけどね。そして、父も魔眼に対しては執着はなかったようなので、私に『真理の魔眼』が発現したのもただの偶然に過ぎないのだそうだ。ここは勘違いして欲しくないから、(あらかじ)め言っておくよ」


「勘違い……? っ! ああ……、そういうことですか……」



 正直言われるまで考えてすらいなかったが、魔眼の血族を娶ったのであれば確かにあり得る話ではある。

 マルスさんは要するに、自分の母親は不当な扱いなどされていない――と言いたいのだ。



 マルスさんの言い回しから察するに、恐らくマルスさんのお母様は『真理の魔眼』の発現者ではない。

 もし魔眼が発現していたのであれば、それはもう両家だけの問題ではなく、国家間の問題となるからだ。

 教会や法廷に派遣されることですら例外的扱いなのだから、普通に考えれば他国の貴族へ嫁ぐなどという行為を国が許すとは思えない。

 実際、どの国であっても魔眼の発現者の出国に関しては法律が定められており、法的手続きをしたうえで審査が通らなければ国外旅行にすら行けないくらい制限が厳しくなっている。

 建前上は魔眼の発現者にも亡命や国籍を移す権利が認められているが、余程の理由が無い限りは許可が下りることはないと思った方がいいだろう。


 ……しかし、実は魔眼の血族であっても、魔眼が発現していない者については出国に大きな制限が設けられていなかったりする。

 これは、制限を厳しくし過ぎた結果再び戦争を強行する国が出てくることや、拉致などの犯罪が横行する可能性が危惧されたためだ。

 強い制限は不満や反感を(つの)らせ、逆効果となる――それは歴史上様々な事例で証明されている。


 つまり、魔眼が発現していない者の出国に大きな制限が設けられていないのは、意図的にリスクの少ない抜け道を用意しているということだ。

 安全な道があるのに、わざわざ危険な道を選ぶ者は滅多にいない。

 いたとしても少数派であるため、取り締まるのは容易――というワケである。


 ……とはいえ、そもそも魔眼の血は門外不出とされていることがほとんどであるため、たとえ魔眼が発現していなくともその血が外部に出回ることはほとんどない。

 しかも魔眼が発現する確率は一割以下と言われており、狙ったタイミングで魔眼の発現者を手に入れることも困難だ。

 苦労の割に成果が得られるとは限らないため、魔眼をビジネスに利用するのはギャンブルだとまで言われている。


 ただ、得られた場合の影響は絶大であるため、機会さえあれば狙うという者は一定数存在する。

 そして、ギャンブルの成功率を上げる最も単純で効果的な方法は……、試行回数を増やすことだ。



「要するに、マルスさんの両親が結ばれたのは互いに想い合った結果であり、そこに悪意や他意などはない、と言いたいのですね」


「その通り。ちなみに私は長男だが、兄弟は私を含めても3人しかいないよ」



 試行回数を増やす――それはつまり、産む子どもの数を増やすということだ。

 それ自体は誰もが思いつくことだし、貴族であればそこまで抵抗のある話でもない。

 しかし実際はそんな生易しい話ではなく、酷いケースだと絶え間なく産むことを強要されるのだという。

 健康面どころか、()さえも考慮せず、ただひたすらに……


 娶った妻を文字通りの消耗品として扱う非道な行為だが、婚約が成立している時点で妻側の一族が弱い立場にある場合が多く黙認せざるを得ないため、現状は事件や問題として取り扱われていないらしい。

 貴族が積極的に子を儲けるのも珍しいことではないため、黒い噂話としてしか伝わってこないのだ。

 だから実際のところ真偽はわからないのだが、火のない所に煙は立たぬと言う言葉もあるし、人が容易(たやす)く想像できることは大抵どこかで既に行われているものである。


 そこから考えるとコーデリア家に魔眼を利用する狙いがあったとしたら、確かに3人という数字は少ないと言えるだろう。

 隠し子がいる可能性も考えられないではないが、『真理の魔眼』の制約により少なくともマルスさんの認識としては存在していないということになる。

 いや、『真理の魔眼』であれば、たとえ一族に何か秘め事があったとしても見破れるだろうし、それもないか……



「……だとしても、よく許されたものです」



 基本的な話ではあるが、貴族に結婚の自由はない。

 たとえ互いに想い合っていたとしても本来であれば認められるハズがないし、経緯によっては発現者でなくとも国際問題に発展する可能性だってある。

 ……しかし、現実にそうなっていないということは、本当に許されたということだ。



「母の一族の当主が『真理の魔眼』の発現者であり、素晴らしい人格者でね。父と母の心に偽りがないことを視た(・・)うえで、認めてくれたのだそうだ」


「……なるほど」



 マルスさんのお母様が『真理の魔眼』の血族だからこそ、逆にあっさりと許された――ということなのかもしれない。

 恐らくだが、当主本人が『真理の魔眼』の発現者であったことも関係ありそうだ。



「しかし、そんな重要なことを私に話してしまってもいいのですか?」


「マーガレットさんは、他人の秘密を誰かに吹聴するような人じゃないだろう?」


「……」



 他人の秘密を暴露するという行為は、暴露された側だけではなく暴露した側にもそれなりのリスクが付きまとう。

 それでなくともあまり褒められた行為ではないため、仮にメリットが勝ったとしても私が誰かにこの情報を売ることはないだろう。

 マルスさんには私を魔眼で観察する機会などいくらでもあったろうから、そのくらいは見抜かれていたとしても不思議ではない。


 しかし、私に情報を洩らす意思がなくとも、私から情報が洩れる可能性はゼロではない。

 拷問や洗脳、魔力を用いた読心術など、私の意思に反して情報を抜き取る手段などいくらでも思いつく。

 どの手段も違法か違法スレスレのリスクある行為ではあるが、魔眼にはそれをするだけの価値が十分にある。

 もしこの会話を誰かが盗み聞いてたとしたら、私にもマルスさんにも確実に魔の手が迫ることになるだろう。



(……まあ、そんなリスクを冒すとは思えませんが)



 魔眼の発言者であるマルスさんであればそんなリスクは百も承知だろうし、何よりクレアさんが協力しているのであれば心配するだけ無駄とも思える。

 ……恐らく、この状況は彼女が計画したものだ。

 であれば、そのくらいの手回しは当然しているだろう。



(クレアさん……、貴女は私に、何を望んでいるのですか……?)




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 え~っと、口説かれてるってことでいいのかしら?
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