ラウンド3:成長戦略と格差――経済は誰のために?
(スタジオ。照明が静かに戻り、再びコの字型のテーブルが浮かび上がる。
モニターには「成長率」「格差指数」「実質賃金」の推移を示すグラフが、淡い光で表示される)
(あすかが中央に立ち、少し落ち着いた語り口で口を開く)
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あすか
「おかえりなさい、《歴史バトルロワイヤル》。
ここからはラウンド3。“経済の果実”がテーマです。」
(あすかが一歩踏み出し、観客をゆっくり見渡す)
あすか
「アベノミクス第三の矢――成長戦略。
規制緩和、企業支援、インバウンド強化、女性活躍推進、雇用制度改革……数々の改革が打ち出されました。」
(モニターに「成長戦略キーワード」として、主要な施策が表示される)
あすか(少しトーンを落として)
「けれど、こんな声もありました。
“豊かになったのは、一部の人だけじゃないか?”と。
“成長の果実を、誰が手にしたのか”――その問いに、皆さんと向き合いたいと思います。」
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◆ ケインズの発言(静かに怒りを含む)
ケインズ(両手を組みながら、低く)
「“成長”――それは魔法の言葉です。人々を期待させ、政権を支え、市場を躍らせる。
しかし、それが“誰のための成長”なのかが、曖昧になると……幻想は、やがて怒りに変わる。」
あすか(そっと)
「ケインズさん、それは“格差”の話でしょうか?」
ケインズ
「ええ。私は、企業の利益が過去最高を更新する一方で、労働者の実質賃金がほとんど伸びなかったことを問題視しています。
成長が“上”に集中しているなら、それは“膨張”であって、“成熟”ではない。」
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安倍(少し身を乗り出して)
「そのご指摘は理解しています。ですが、構造改革というのは、即効性のある“万能薬”ではありません。
まず企業が体力を取り戻し、そこで生まれた余裕が、やがて雇用や賃金に波及する。
私は、その“順番”を信じていました。」
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ハイエク(鼻を鳴らしながら)
「“波及”――聞き慣れた言葉だ。まるで雨のように“自然に”落ちてくるものとされている。
だが実際には、“雲”を所有する者が、降らせる気にならねば、雨など降らぬ。」
(ケインズがニヤリとする)
ケインズ
「今のは……私の比喩より詩的だな。」
ハイエク
「皮肉を込めたまでです。
私は、格差そのものを問題だとは思っていません。“自由な競争”があるならば、違いが生まれるのは自然のこと。
問題は、“競争の入り口”が開かれているかどうか――だ。」
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◆ 渋沢の発言(人間中心の視点)
渋沢(手を胸に置いて)
「私も、成長を否定はしません。挑戦し、切り拓く心は尊い。
ですが……利益は、人の手から人の手へと“渡って”こそ、社会の血流となる。
それが“一部の器”にしか溜まらないなら、体は冷えるばかりです。」
あすか
「“血流”というたとえ、温かくて、痛いですね……。」
渋沢
「私は、道徳のない成長を“暴走”と呼びます。
企業が利益を得ることは良い。しかし、その利益が従業員や地域社会に還元されねば、やがてその“企業”自体が、信を失う。」
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安倍(真剣なまなざしで)
「私の願いも、そこにありました。
“働き方改革”や“地方創生”は、その“還元の道筋”をつくるための挑戦だった。
結果がまだ追いついていない部分があるとすれば、それは私の力不足です。」
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◆ ハイエクとケインズの火種、再び
ハイエク(眉をひそめ)
「私は、“配分”を政治家が決めるという考えに、根本的な懐疑を持ちます。
人々が自由に選び、取引し、失敗と成功を経験する――それこそが、持続可能な社会です。」
ケインズ(鋭く)
「だがその自由市場の中で、“誰にもチャンスがある”と信じられる社会が、現代にどれほど残っている?
教育、医療、住居……“スタート地点”すら奪われている人々に、“努力せよ”とは言えないだろう。」
ハイエク(反論せず、しばし沈黙)
「……だからこそ、“誰が再配分を担うか”が問われる。
私は、それを国家に任せすぎることを恐れている。」
(あすかが、一歩前へ出る)
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◆ あすかのまとめと転換
あすか
「“成長”の果実は、甘い蜜だけではなく、鋭い棘も含んでいたのかもしれません。
“誰のための経済か”。――その答えは、今日の議論でも、まだ見えてきませんね。」
(少しだけ微笑み、観客に問いかけるように)
あすか
「あなたが今日、隣で会う人は、豊かになりましたか?
あなた自身は、経済のどこに立っていると感じますか?」
(ふっと静けさが降りる)
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あすか
「さあ、幕間を挟んで、次はいよいよ――ラストラウンド。
ここまでの議論を踏まえ、《アベノミクス》という物語に、一つの“終止符”を打ちます。」
(照明が落ち、モニターにラストラウンドのタイトルが浮かび上がる)
《Final Round:アベノミクスの評価と未来への提言》