ラウンド1:金融緩和は“魔法の杖”か“毒薬”か?
(スタジオ内の照明が再び灯る。コの字型のテーブルには4人の賢人たち。あすかは中央で台本を軽く手に取りつつ、会話の糸口を探るように一歩前へ出る)
あすか
「それでは最初の議題に入りましょう。アベノミクスの第一の矢――大胆な金融緩和。
日本銀行による国債の大量購入、マイナス金利政策、インフレ目標の導入……まさに“異次元”の名にふさわしい施策でした。」
(背後のモニターに「金融緩和政策の図解」が浮かび、簡潔なグラフとキーワードが並ぶ)
あすか(ややいたずらっぽく)
「さて、この“金融の魔法”――夢を叶える杖だったのか、それとも副作用付きの呪文だったのか……
まずはケインズさん、お得意の分野ですね?」
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◆ ケインズの発言
ケインズ(優雅に片手を上げ)
「魔法というのはね、使用者の知性と慎重さにかかっているものです。
金融緩和は確かに、短期的には効果がありました――円安、株高、そして企業収益の改善。
ですが、私はこう問いたい。“実体経済にまで、その魔法は届いたのか?”」
安倍
「届きましたよ。雇用は改善し、有効求人倍率は戦後最高の水準に。若者が就職できる時代になった。それは現場の実績です。」
ケインズ(にこりと笑って)
「それは結構。だが、雇用の“質”は?“非正規”が増えていませんでしたか?それをもって“成果”というのは……やや強引では?」
(スタジオがざわつき始める。あすかがすかさず口を挟む)
あすか
「ほうほう、さっそく火花がちらついてきましたね。では、ハイエクさん。魔法に対する“理性の盾”として、一言お願いします!」
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◆ ハイエクの発言
ハイエク(指を組みながら冷静に)
「まず言っておくと、私は“魔法”という言葉自体に警戒します。金融政策は、本来、抑制的でなければならない。
通貨の価値は“信頼”で成り立っています。人為的に金利を操作し、市場を歪めることは、いずれ大きな反動を招く。」
安倍(やや表情を曇らせ)
「反動、ですか……ですが、当時は必要だったのです。景気が停滞し、消費も投資も動かない。何かを“動かす”力が要りました。」
ハイエク(視線を鋭く)
「ならば、なぜ“中央銀行”がそれを担うのか?なぜ“自由な市場”ではなく、“計画的な刺激”なのか?
金融緩和は、“選ばれた者による操作”だ。それは、経済の民主主義を損なう危険すら孕んでいる。」
ケインズ(やや挑発気味に)
「ハイエク君、君のその“自由市場信仰”は、時として“現実逃避”に近いよ。
人々が不安に震えている時、通貨を抱いて眠れと言うのかい?」
ハイエク(静かに)
「不安の根源は、過去の過剰な介入だ。君のやり方は“火消し”のふりをした“放火”だ。」
(スタジオ内が少しざわつく。あすかは空気を読み、あえてスッと身を引いて傍観モードに入る)
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◆ 渋沢栄一の発言(調停のように)
渋沢(静かに手を挙げる)
「皆さま、ご議論が深まるのはありがたいのですが、もしよろしければ、一つだけ申し上げたい。
私は、金融緩和それ自体が良いか悪いかというより、“それが人をどう動かすか”を重視します。」
(あすかが目を輝かせる)
あすか
「渋沢さん、まさに“人間中心の経済観”ですね。どうぞ、続けてください!」
渋沢
「安倍さんがおっしゃった通り、“安心感”が社会に灯ったのは、確かに一つの成果でしょう。
しかし……数字だけが前に進み、人の心が置き去りにされる政策は、私は危ういと感じます。
株価が上がっても、街の八百屋の声が届かなければ、本当の意味では“回復”とは言えません。」
安倍(小さく頷く)
「その点は私も反省しています。“数字”を越えて、“暮らし”にどう届くか。そこが最大の課題だった。」
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◆ 火種の伏線
ケインズ(静かに)
「それを言うなら、成長の果実を分かち合う“仕組み”こそが必要だった。
だが現実には、株主と企業に偏った恩恵だったと私は感じる。
労働者の取り分は……それに見合っていましたか?」
安倍(やや目を細めて)
「構造改革は進行中だった。“分配”についても、これから……」
ハイエク(遮るように)
「“これから”など、何度聞いたことか。政治家は“先送り”の名人だ。」
(ピリッとした空気。ケインズの口元が吊り上がる。渋沢がグラスの水をそっと口にする)
あすか(スッと立ち上がって)
「……と、ここでラウンド1のタイムアップです!
魔法の杖か、毒薬か――その答えはまだ霧の中。しかし、熱は確実に帯びてまいりましたね。
次回は、いよいよ“財政出動”がテーマ。皆さん、覚悟はよろしいですか?」
ケインズ(口元に手を当てて)
「ああ、私の“戦場”がようやく来たようだ。」
ハイエク(静かに背を伸ばす)
「ならば、私は“反論の剣”を研いでおきましょう。」
安倍(やや笑みを取り戻して)
「では私も、覚悟をもって受けて立ちますよ。」
渋沢(目を閉じて)
「私は……皆さまの熱に、消されぬように心を整えておきます。」
あすか(にっこり)
「“言葉の炎”がいよいよ燃え上がる、ラウンド2――どうぞ、お楽しみに!」
(カメラが引き、赤い光に包まれたタイトル《Round 2:財政出動は未来への投資か、ツケの先送りか?》が、静かに現れる)