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奇妙な記事

 クラジーナのお茶会から数日後。

 リーフェはブレデローデ子爵邸に来ていた。

 ディルクとの婚約準備やブレデローデ商会のことを勉強しているのだ。

「勉強熱心だし、リーフェ嬢が来てくれたらブレデローデ子爵家も安泰だな」

 ディルクの父であり、ブレデローデ子爵家当主ヴェッセルはリーフェの様子を見て満足そうな表情である。

「ええ。リーフェ嬢がいるのなら、私達が隠居した後も安心して任せられそうだわ」

 ディルクの母であり、ブレデローデ子爵夫人ハブリエレも嬉しそうである。

「ありがとうございます。これからも精一杯頑張ります」

 リーフェは二人からそう評価されて自信が付いた。

「リーフェ、紅茶とお菓子の準備が出来ている。休憩にしよう」

 ディルクはジェードの目を優しげに細めていた。

 リーフェはディルクの言葉に「はい」と頷く。


 リーフェとディルクの結婚は、リーフェが成人(デビュタント)してから一年後の予定だ。

 ブレデローデ公爵城での行儀見習いは来年に辞め、その後はアールセン男爵邸とブレデローデ子爵邸を行き来する生活になりそうだ。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 しかしそんなある日、異変が起こる。

 それはリーフェがブレデローデ公爵城で行儀見習いをしていた日のこと。

「リーフェ、これを見てくれ!」

 ディルクが慌てた様子でやって来て、リーフェに新聞を見せる。

「まあ……! アールセン商会が……取り扱う薬品の成分を偽っていたですって……!? ……きっと何かの間違いのはずよ」

 リーフェは新聞の記事を見てヘーゼルの目を見開いた。


 アールセン男爵家の両親やアールセン商会で働く者をずっと見て来たリーフェ。正直両親や彼らがそのような不正をするとは到底信じられなかった。


「ああ、俺もそう思う。君のご両親やアールセン商会で働く者達の人柄を知っているからね」

 ディルクはそう言い切った。ジェードの目は真っ直ぐである。

「ディルク様、ありがとうございます」

 リーフェはディルクの反応に少し安心した。

「ただ、この記事の影響でアールセン商会と共同事業をしているブレデローデ商会にご迷惑がかかってしまいますわ」

 リーフェは肩を落としため息をつく。

「俺の両親も、この記事は信じていないのは確かだ。だが、この記事は少し妙なんだ」

 ディルクは少し考える素振りだった。

「妙とは?」

「普通、薬品系の不正が発覚したら王都マドレスタムの新聞社から中心に記事が書かれる。健康や命に関わることがあるからね。でも、今回の件はブレデローデ公爵領にしか記事が出回っていないんだ」

「そう言われてみると、確かにそうですわね」

 リーフェはハッとする。

「例えば、もしも誰かがアールセン商会を潰そうとした場合、ブレデローデ公爵領の新聞社ではなく王都の新聞社から攻めるはずだ。それに、もっと多くの新聞社を買収してアールセン商会を貶める記事を書くはずだし」

 ディルクは不可思議なことに頭を抱える。

 その時、リーフェはある人物を思い出す。

(……まさか、ローン子爵令嬢? ディルク様と私の婚約を解消させる為に……? だとしたら、確かにこんな中途半端な真似は納得出来るわ。あのお方はアールセン商会を潰す気概はなさそうだもの)

 リーフェは軽くため息をつく。

(まだ憶測の域だけれど、まさかこんなことをするとはね。でも、負けるわけにはいかないわ)

 リーフェはディルクを見る。

「ディルク様、とにかくこの記事が出回ってしまったのなら、ブレデローデ公爵領の方々の中には信じてしまう人も出て来ますわ。この記事が嘘であることを証明する必要はありますわね」

「ああ、リーフェの言う通りだ。俺も両親もこの件は協力する。それから、ブレデローデ公爵家の方にも協力を頼もう」

「ありがとうございます」

 ディルクからの申し出は心強かった。

 その後、リーフェが両親に記事のことを伝えるとすぐに動いてくれた。

 外部の薬品の専門家など、第三者にもアールセン商会の薬品事業を見てもらい、成分表示の不正などを行なっていないことを証明し、それをブレデローデ商会や関係者に示した。

 また、ディルクの方もブレデローデ公爵家の方に働きかけてくれたおかげですぐにアールセン商会の訂正記事が出た。更に、ブレデローデ公爵家長男エリアスと彼の婚約者クラジーナも協力してくれた。


 それにより、アールセン商会への被害は最小限に留まるのであった。


「大変だったけれど、アールセン商会のことが何とかなって良かった」

 ディルクはまるで自分のことのように安心した表情である。

「ええ。ディルク様のお陰ですわ。本当にありがとうございます」

 リーフェはふわりと微笑んだ。

 再びいつもの平穏な日々が戻り、少しホッとするリーフェである。

(……結局、誰の指示であの記事が書かれたのかは分からなかったけれど、仮にローン子爵令嬢だったとしてもこれ以上は何もして来ないわよね……?)

 リーフェはそう考えていた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 数日後。

 いつものようにリーフェがブレデローデ公爵城で行儀見習いの仕事をしていた時のこと。

 休憩時に与えられている自室に戻るとテーブルにメモが置いてあった。

(まあ、ディルク様からだわ。今日ブレデローデ公爵城へ来られていたのね)

 メモを手に取ったリーフェはヘーゼルの目を丸くする。

 ディルクの筆跡だったのだ。


《リーフェ、今晩ブレデローデ公爵城の裏にある小屋に来て欲しい。面白いものを見つけたんだ》


(ブレデローデ公爵城にある小屋……。一体何かしら? それにしても、妙な場所よね。でもディルク様がそう仰るのだし、何か意味があるはずだわ)

 リーフェは不思議そうに首を傾げるが、普段のディルクの様子を思い浮かべて微笑むのであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 その日の夜。

 リーフェはディルクからのメモに書いてあった場所まで来ていた。

「ディルク様……? いらっしゃいますか?」

 そっと小屋に入るが、誰もいない。

(ディルク様? 一体どういうことかしら……?)

 少し不審に思ったリーフェは小屋から出ようとした。


 その時、背後から何者かに殴られ、リーフェは意識を失ってしまった。

読んでくださりありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
うわ、物理だ。 フィジカルでアタックしてきましたね。 間違いなくアレイダさんの仕業だと思いますがついに実力行使できたとは〜! でもリーフェさんのこの危機もディルクさんがきっと救ってくださるはず(期待
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