成人前のお茶会にて
リーフェはクラジーナと交流を深め、彼女からお茶会に誘われた。
このお茶会にはディルクとエリアスも参加するようだ。
ちなみに通常なら成人の儀に出て正式に社交界デビューしてからお茶会や夜会に参加出来る。
しかし、こうして時々上級貴族の令嬢が主催するお茶会には、主催者からの誘いがあればまだ社交界デビューをしていなくても参加出来るのだ。
リーフェは主催者であるクラジーナから直接誘われたので、このお茶会に参加出来る。
もちろん、ディルクの婚約者として参加する予定だ。
リーフェ以外にもまだ社交界デビューしていない者が複数名いるので、リーフェは少し胸をワクワクとさせながらお茶会の日を待っていた。
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お茶会当日。
リーフェはディルクと共に会場であるビューレン侯爵城へ行く。
ビューレン侯爵領はブレデローデ公爵領と隣接しているので、ビューレン侯爵城とブレデローデ公爵城間なら比較的すぐに行き来出来るのだ。
ビューレン侯爵城には既に複数人の令嬢、令息達が集まっている。
(わあ……。結構来ているのね)
リーフェは他の令嬢や令息達を見て少し緊張した。
「リーフェ、大丈夫か?」
ディルクはジェードの目を優しくリーフェに向けている。
「はい。ディルク様、エリアス卿、クラジーナ様以外の方には初めてお会いするので、上手く話せるか少し緊張しております」
リーフェは肩をすくめた。
「リーフェ、君なら大丈夫だ」
ディルクはフッと笑った。
ジェードの目は真っ直ぐである。
「ありがとうございます、ディルク様」
リーフェはディルクの目に、勇気付けられた。
「まあ、ディルク様、リーフェ様」
主催者であるクラジーナは、リーフェとディルクの元へアクアマリンの目を嬉しそうに細めてやって来た。
「クラジーナ嬢」
「お招きありがとうございます」
リーフェはディルクと一緒にクラジーナに挨拶をした。
「エリアス様もあちらにいるから、一緒に話しましょう。それに、他の方々にもリーフェ様を紹介したいの」
リーフェ達はそう言うクラジーナに連れられ、他の令嬢や令息達の元へ向かう。
「皆様、こちらはアールセン男爵家のリーフェ様。ディルク様のご婚約者よ」
「お初にお目にかかります。アールセン男爵家次女、リーフェ・ヤコミナ・ファン・アールセンと申します」
「俺の婚約者をよろしくお願いします」
クラジーナに紹介されて、リーフェは少し緊張しつつもブレデローデ公爵城の行儀見習いで身につけた所作だったので、気品があった。
「流石は我が従弟の婚約者だ」
エリアスは明るく笑う。
そのお陰でリーフェは他の者達から受け入れられつつあった。
皆リーフェに対して好意的に声をかけてくれている。
(良かったわ。皆様、良い方々ばかりね)
リーフェはホッと肩を撫で下ろした。
しかし、先程からずっとこちらを睨んでいる視線にリーフェは全く気付かなかった。
「あんな子がディルク様の婚約者だなんて……」
その者は忌々しげに呟くのであった。
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リーフェはディルクやクラジーナ達と談笑し、紅茶とお菓子を楽しんでいた。
しばらくすると、ディルクはエリアスと話し込み、クラジーナも他の令嬢と何やら夢中で話していたのでリーフェは一人になった。
(どなたに話しかけようかしら?)
リーフェは他の令嬢、令息達に目を向ける。
するとリーフェはお茶会に参加している令嬢から話しかけられた。
「ねえ、アールセン嬢よね?」
黒褐色のウェーブがかった髪にサファイアのような青い目。少し気の強そうな顔立ちの令嬢だ。
「はい。アールセン男爵家次女、リーフェ・ヤコミナ・ファン・アールセンでございます」
リーフェはふわりと微笑み挨拶をする。
「私はローン子爵家長女、アレイダ・トルディ・ファン・ローンよ」
令嬢――アレイダは口角を上げる。
「アールセン嬢、少しお話があるの。来てもらえるかしら?」
「……はい」
リーフェは不思議に思いつつも、アレイダについて行った。
連れてこられたのは、お茶会会場から少し離れた庭園。お茶会会場にいるディルク達の声が聞こえない場所だ。
「あの、ローン嬢、お話とは?」
リーフェはきょとんと首を傾げる。
「貴女、本当に自分がディルク様と釣り合うと思っているの?」
アレイダは刺々しい口調になる。
「……え?」
突然のことで、リーフェは何を言われているのか理解するのに数秒かかった。
「ディルク様はね、子爵令息だけどブレデローデ公爵家と縁続きなのよ。そんな彼が、貴女のような歴史の浅い男爵家の娘と釣り合うわけないでしょう。私のように歴史ある子爵家ならともかく」
アレイダは相変わらず刺々しい口調で、サファイアの目は吊り上がっている。
(……なるほど。ローン嬢はディルク様に想いを寄せている。だからディルク様の婚約者になった私が気に入らないのね)
リーフェはそう理解した。
しかし、それで引き下がるリーフェではない。
少し体が震えるが、深呼吸をして背筋を伸ばすリーフェ。
「確かに、私にはまだ未熟な部分があります。しかし、このままでいるつもりはありません。努力して、ディルク様の隣に堂々といられるような女性になるつもりです」
そう言うリーフェは堂々とした様子だ。
「そういうことを言っているんじゃないわよ!」
忌々しげに声を荒らげるアレイダ。
リーフェは思わず肩をピクリと震わせる。
「貴女、ディルク様との婚約を解消しなさい」
「それは……出来ません。家同士のことが絡みますから。それに、私自身ディルク様のお側にいたいのです」
リーフェは怯まずに言い切った。
「貴女……歴史の浅い男爵家の娘の癖に生意気ね!」
アレイダは激昂して手を振り上げた。
顔を打たれると思い、咄嗟に自身の腕で顔を庇うリーフェ。
しかし一向に痛みは襲って来ない。
不思議に思いリーフェは恐る恐る腕を退けた。
すると、目の前にいた人物にヘーゼルの目を大きく見開く。
「ディルク様……」
ディルクがアレイダの振り上げた手を止めていた。
「リーフェ、大丈夫か? 君が彼女と会場を離れたと聞いて心配になったんだ」
ディルクのジェードの目は優しげにリーフェに向けられている。
「ありがとうございます、ディルク様」
リーフェはホッと肩を撫で下ろした。
「さて、ローン嬢。俺の婚約者に何をしてくれているんだ?」
その声には鋭く怒りが含まれていた。
「あの……これは……」
アレイダは焦ったような表情である。
「ここで身を引くのなら、クラジーナ嬢には言わないでおいてあげよう。君も来年の成人の儀に出たいだろう? もし俺がクラジーナにこのことを言えば、ビューレン侯爵家から苦情が入り君の社交界デビューはほとんど不可能になるだろう」
ディルクはアレイダに脅しをかけた。
成人の儀に出られなければ社交界デビューを失敗したようなもの。貴族としてまともな人生を送れなくなるのである。
(ディルク様……私の為にそこまで……)
リーフェは初めて見るディルクの怒りに驚いていた。
アレイダは悔しそうにリーフェを睨み、その場から去るのであった。
「リーフェ、怪我はないか? 俺が目を離した隙にこんなことになってしまって済まない」
アレイダがいなくなるなりすぐにディルクはリーフェの元へ駆け寄る。
「大丈夫です。ありがとうございます、ディルク様」
リーフェはようやく表情を綻ばせることが出来た。
「さあ、クラジーナ嬢達の所に戻ろう」
「はい」
リーフェは何事もなかったかのようにディルクと戻るのであった。
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一方、ディルクに責められ一度は身を引いたアレイダはというと……。
「どうして……!? どうしてディルク様はあんな子を……!? 絶対にこのままで終わってなるものですか!」
拳を握り締め、何か良からぬことを決意するのであった。
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