ブレデローデ公爵令息とその婚約者
リーフェとディルクは正式に婚約者同士になった。
嬉しくて少し浮かれることもあったリーフェだが、ブレデローデ公爵城の行儀見習いとしての仕事やマナーレッスンは真面目に向き合っていた。
イェニフィルはリーフェとディルクの婚約を心から喜んでくれていた。
そんなある日。
リーフェは行儀見習いが休みでブレデローデ子爵邸に来ていた。
「そうだ、リーフェ。ブレデローデ公爵家長男のエリアスは知っているだろうか?」
婚約者同士になったのでディルクは今までのようにリーフェ嬢ではなくリーフェと呼んでいた。
「はい。行儀見習いに来たばかりの時、一度だけご挨拶をいたしました。ブレデローデ公爵城で何度かお姿を見かけたことがあります」
リーフェはディルクに問われ、ヘーゼルの目を上に向けて思い出す。
(ブレデローデ公爵家のご長男は、確かディルク様よりも一つ年上の十七歳だった気がするわ。私のお姉様と同い年ね)
「そうか。実はリーフェと俺が婚約したことをエリアスも知って、祝わせてくれと頼まれたんだ。それに、エリアスの婚約者であるビューレン侯爵令嬢も君に会ってみたいって言っているらしい」
「まあ、ブレデローデ公爵家のご長男とビューレン侯爵令嬢が……」
上級貴族二人の名前を聞き、リーフェはヘーゼルの目を丸くした。
(そういえば、私はまだ成人前だし、行儀見習いの仲間やディルク様以外とは話したことがないわ)
ふとリーフェはそんなことを思った。
「リーフェ、どうだろうか?」
「緊張しますが、せっかくの機会ですしお会いしてみたいですわ」
リーフェはふわりと表情を綻ばせた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
そしてリーフェがエリアス達と会う日がやって来た。
リーフェの目の前にいるのは、ブロンドの髪にジェードのような緑の目の令息。顔立ちはディルクとほんの少し似ている。そして、彼の隣にいるのはウェーブがかった艶やかな赤毛にアクアマリンのような青い目の令嬢。スラリと長身で、華のある顔立ちだ。
リーフェは落ち着いてカーテシーで礼を執る。
「これはご丁寧に」
「楽になさってちょうだい」
頭上から穏やかな男女の声が降って来たので、リーフェはゆっくりと頭を上げる。
「改めまして、アールセン男爵家次女、リーフェ・ヤコミナ・ファン・アールセンと申します。ブレデローデ卿、ビューレン嬢、本日はありがとうございます」
行儀見習いの時に身につけた所作は洗練されていた。以前よりも堂々とした様子のリーフェである。
ディルクはそんなリーフェを見守っていた。リーフェを見つめるジェードの目は優しい。
「改めて、ディルクの従兄でブレデローデ公爵家長男、エリアス・ヘンドリック・ファン・ブレデローデだ」
「ビューレン侯爵家長女、クラジーナ・フェールケ・ファン・ビューレンよ。お会い出来て嬉しいわ」
エリアスと彼の婚約者クラジーナは優しくリーフェに微笑みかける。
その表情にリーフェは少し安心した。
「こちらこそ、お会い出来て光栄です。ブレデローデ卿、ビューレン嬢、よろしくお願いします」
「ブレデローデ卿だなんて、ディルクもブレデローデなのだから、私のことはエリアスと呼んでくれて構わない」
「私のことは、是非クラジーナと呼んでちょうだい。その代わり、貴女のこともリーフェ様と呼ばせてもらうわ」
クラジーナはクスクスと笑っている。
彼女はリーフェより三つ年上の十七歳。エリアスと同い年なのだ。
「承知いたしました。エリアス卿、クラジーナ様」
リーフェはふわりと微笑んだ。
「エリアスもクラジーナ嬢も、俺の婚約者と仲良くして欲しい」
ディルクは明るく笑う。
ディルクはエリアス、クラジーナと仲が良いようなので、砕けた態度である。
こうして、リーフェはエリアスとクラジーナと交流を始めるのであった。
リーフェ達四人はブレデローデ公爵城の庭で紅茶やお菓子を楽しんでいる。
秋の心地良い風が吹き抜け、リーフェの赤茶色の髪をなびかせた。
「つまり、ブレデローデ商会とアールセン商会は現在薬用成分が入った美容クリームを開発しているのね」
リーフェとディルクが現在お互いの商会の様子を話すと、クラジーナがアクアマリンの目を輝かせた。
ちなみにリーフェもディルクも話してはいけない情報は漏らしていないので大丈夫である。
「ええ、左様でございます」
「リーフェと話していたら、共同事業に出来ないかと思ってね」
ハハっと笑うディルク。
「完成したら恐らく母上も広告塔になるだろうな」
「確かに、奥様はそのようなことを仰っておりました。光栄なことです」
リーフェはイェニフィルのことを思い出し、楽しそうな表情になる。
「そういえばリーフェ様はブレデローデ公爵城で行儀見習いをしているのだったわね。成人前から親元を離れて立派だわ」
「そんな、とんでもないことでございます」
クラジーナに褒められてリーフェは恐縮してしまう。
「謙遜することはないわ」
クラジーナは品良く微笑み紅茶を飲む。
その所作は非常に絵になるので、リーフェは思わず見惚れてしまった。
(やっぱり上級貴族の令嬢は所作の一つ一つが洗練されている。私ももっと見習わないと。自分の為にも、ディルク様の為にも)
リーフェは密かに決意した。
その後も四人は談笑し、穏やかで有意義な時間を過ごした。
リーフェはクラジーナと仲良くなるのであった。
読んでくださりありがとうございます!
少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!
皆様の応援が励みになります!