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お互いのことをもっと知って

 秋のよく晴れた日。

 穏やかで暖かい日差しが降り注ぐ、ブレデローデ公爵領の栄た街。

 そんな街を歩く一組の男女がいた。

 リーフェとディルクである。

 ディルクの護衛がいるので、完全に二人きりというわけではない。

 しかし、リーフェにとって隣にディルクがいる状況はドキドキしていた。

「リーフェ嬢、このお店はブレデローデ公爵領の女性達に人気のアクセサリーショップだ。寄ってみるかい?」

「……はい」

 リーフェはディルクにそう聞かれ、控えめに頷いた。


 アクセサリーショップはネックレス、ブローチ、髪飾りなど、キラキラしていた。

 リーフェはヘーゼルの目を輝かせている。

(素敵だわ……! こんなお店があったなんて、知らなかった)

 色々なアクセサリーを見ていたリーフェはふとあるものが目に留まる。


 シンプルで上品なジェードのネックレス。


(綺麗……)

 リーフェは思わず手に取ってみる。

 しかし、値段を見てヘーゼルの目を見開いた。

(やっぱり高いわね。だけど、行儀見習いのお給金を数ヶ月貯めたら買えそうだわ。頑張って貯めましょう)

 リーフェはそう決意し、ネックレスを元の場所に戻した。

 ディルクはそんなリーフェの様子を見て優しげに微笑んでいたが、リーフェはそれに気付かなかった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 その後、リーフェはディルクに連れられてブレデローデ公爵領の街で人気のカフェに入る。

 丁度昼食の時間である。

「リーフェ嬢、何を頼むかい? お勧めはえんどう豆をベースに玉ねぎ、じゃがいも、ソーセージ、ベーコンを煮込んだエルテンスープ。それからクロケットだけど」

「では……お勧めのエルテンスープとクロケットにします」

 リーフェはどちらも美味しそうだと思いながら、ディルクから勧められるがままメニューを選ぶ。

「俺のお勧めを選んでくれて嬉しいよ、リーフェ嬢」

 ディルクのジェードの目は、心なしか輝いているように見えた。

 その後、すぐにディルクが注文してくれて、食事は比較的すぐに運ばれて来た。

 リーフェは具材たっぷりで彩り鮮やかなスープをゆっくりと一口飲んでみた。

 口の中に野菜の旨味とじゃがいものまろやかさ、そして溶け出したソーセージやベーコンの肉汁が広がる。

「美味しいです」

 リーフェはヘーゼルの目をキラキラと輝かせた。

「リーフェ嬢の口に合ったようで何よりだ」

 ディルクは嬉しそうにニッと笑い、スープを飲む。

 子爵令息だが流石はブレデローデ公爵家に連なる者であり、その所作は品があった。

(私も奥様の所作を見習って、もっと品良くなりたいわ)

 リーフェはディルクに恥をかかせないよう、いつも以上に所作に気を付けた。

 クロケットを器用にナイフで切り、口まで運ぶ。

 表面はカリッとしており、中はクリーミー。ホワイトソースのまろやかさと牛ひき肉の旨味が口の中に広がった。

「こちらも美味しいですわ」

 リーフェはマナーに気を付けながら舌鼓を打つ。思わず表情が柔らかく綻ぶリーフェだ。

「美味しそうに食べてくれて、俺まで嬉しくなる」

 ディルクは満足そうな表情でクロケットを一口運んでいた。

 食事をしながら、二人はお互いのことを話していた。

「つまり、リーフェ嬢は今十四歳。三つ上の姉君がアールセン男爵家を継ぐことになっている。そして君はブレデローデ公爵城に行儀見習いに来て三ヶ月になるのか」

「ええ。旦那様や奥様にはとても良くしていただいております。礼儀作法も、現在練習中ですわ」

 リーフェは控えめに微笑んだ。

「ディルク様はもう十六歳になられていて、社交界デビューもなさっているのですね。そして弟がお二人もいらっしゃる」

「ああ。社交界デビューは今年だった。ブレデローデ子爵家と関係のある貴族達の顔と名前を覚えるのに必死だ。弟達も子爵邸で必死に勉強している」

 ディルクは思い出したように苦笑した。


 かつて社交界デビューは令息は各家の判断で十三歳から十五歳くらい、令嬢は一律十五歳の成人(デビュタント)の儀に出席してからだった。

 しかし最近では近隣諸国が社交界デビューを令嬢令息一律十六歳に設定している。それにより、ドレンダレン王国も数年前から社交界デビューを一律十六歳からにしているのだ。


「ブレデローデ子爵家が経営している商会のことも、もっと色々と覚えないといけない」

「あら、商会を営んでいらっしゃるのですね」

 リーフェはヘーゼルの目を丸くする。

「ああ。ブレデローデ子爵家は、ブレデローデ公爵家の分家。父上の代からなんだ。だから領地を持たずブレデローデ公爵領を拠点にしている。父上としては、もう少し公爵家に頼らず自力でやっていきたいらしい」

 ディルクはフッと笑う。

「左様でございますのね。実は、アールセン男爵家も商会を経営しております。領地も小さいですが、観光業にも力を入れている土地です。夏は避暑地として上級貴族の方々を呼び込もうとしております」

 リーフェは自身の家の情報を思い出しながら話した。

「そうなのか」

 ディルクは興味津々な様子である。

「私も現在アールセン男爵家のことを勉強中ですが、商会は主に薬品を取り扱っております。塗り薬など。少しだけでしたらアールセン男爵領で薬品の開発もしておりますわ」

「薬品か!」

 ディルクは身を乗り出した。

「ディルク様?」

 リーフェはそんなディルクに少し肩をピクリと震わせ驚いてしまう。

「ああ、済まないリーフェ嬢。ブレデローデ商会は香水や美容系の商品を主に取り扱っていて、薬品には手を出していなかったんだ。だけど香水や美容品は少しだけ薬品と分野が被る。だから、何と言うか……アールセン商会とブレデローデ商会、何か共同事業を出来たらと思ってしまって」

「共同事業……」

 リーフェは再びヘーゼルの目を丸くした。

「ああ、済まない。せっかく君と出かけているのに、堅苦しい話になったね」

 ディルクは申し訳なさそうに肩をすくめた。

「いえ、お気になさらないでください。その、共同事業のお話ですが、お父様に相談してみてもよろしいでしょうか? アールセン商会も、新しいことを始めてみようとしておりますので」

 リーフェはおずおずとした様子である。

「それは是非とも。俺の方も父上に提案してみようと思う」

 ディルクの表情がパアッと輝いた。

 それを見たリーフェは思わず表情を綻ばせた。


 丁度その時、デザートのアップルタルトが運ばれて来た。

「リーフェ嬢。まさか家業の話でここまで盛り上がるとは思わなかった」

「ええ。私もですわ。ですが、ディルク様の家のことが知れて、嬉しいです」

 リーフェはアップルタルトを食べながら、ほんのり頬を赤く染めた。

「ああ。俺もだよ」

 ディルクもアップルタルトを一口食べ、口角を上げる。

「そうだ、リーフェ嬢。君に渡したいものがあるんだ」

 ディルクは持っていたフォークを置き、おもむろに何かを取り出した。


 丁寧にラッピングされた袋である。


「これを君に」

「まあ、よろしいのですか?」

「ああ。是非受け取って欲しい」

 ディルクのジェードの目は、真っ直ぐリーフェに向けられている。

「……ありがとうございます」

 リーフェは少し恐縮しながら受け取った。

「開けてみて」

 ディルクにそう促され、リーフェは丁寧に袋を開ける。

 すると、アクセサリショップでこの日買うのを諦めたシンプルで上品なジェードのネックレスが入っていた。

「ディルク様……!」

 リーフェはヘーゼルの目を大きく見開いていた。

「アクセサリーショップで気に入ったような表情をしていたから。……もしかして、欲しくないものだっただろうか?」

 ディルクは後半少し不安そうで合った。

「いいえ。欲しいと思っていたものです。お金を貯めて買おうとしておりましたが、ディルク様、本当にありがとうございます。大切に使います」

 リーフェの笑みはキラキラとしていた。

 その表情にディルクはホッとし、今日一番の笑みを浮かべる。

「リーフェ嬢に喜んでもらえて嬉しい」

 ディルクはスッとリーフェからネックレスを取り、彼女の首に着けた。

「ディルク様」

 リーフェは首元のジェードにそっと触れる。

「うん、似合っている」

 ディルクは真っ直ぐリーフェを見つめ、表情を綻ばせた。

「……ありがとうございます」

 リーフェは再び頬を赤く染め、はにかむのであった。


 この日はリーフェにとって特別な一日になったのである。

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― 新着の感想 ―
やっぱりー!(歓喜 ディルクさん、素敵です。ありがとうございます。これは嬉しいサプライズです。 特別かつ本当に素敵な一日でしたね♪
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