リーフェのピンチ、そして……
(う……ここは?)
何者かに後頭部を殴られ意識を失ったリーフェ。
目を覚ますと薄暗い小屋にいることが分かった。
(さっきと同じ小屋……)
リーフェは体を起こそうとするが、体が縛られて身動きが取れなくなっていた。
(え……!? どういうこと!?)
リーフェは何が起こっているのか理解するのに時間がかかった。
「ようやくお目覚めね」
刺々しい声が響く。
(この声は……!)
リーフェはハッとしてヘーゼルの目を見開いた。
薄暗いがはっきり見えた。
そこにいたのはローン子爵令嬢アレイダである。
「ローン嬢……」
「全て貴女が悪いのよ。ディルク様と婚約解消しないのだから。アールセン商会に何か起きれば婚約解消すると思ったのだけど」
アレイダは忌々しげにため息をつく。
「……やはりあの記事はローン嬢が」
リーフェの目は怒りに染まる。
「だったら何? 家同士のことだから簡単には解消出来ないのだと言ったのは貴女。だから相応の理由を用意してあげたのに」
キッとリーフェを睨むアレイダ。しかしリーフェは怯まない。
「虚偽の情報で陥れようとするなんて……それこそディルク様と釣り合うわけがありません」
リーフェのヘーゼルの目は力強く真っ直ぐだった。
「何ですって……!?」
アレイダの声がスッと低くなる。
「……そう。それなら仕方がないわ。全て貴女が悪いのよ」
アレイダはナイフを取り出しゆっくりとリーフェに近付く。
(まさか……!)
リーフェは冷や汗をかく。
アレイダはリーフェを殺すつもりなのだ。
彼女の目は異常だった。
どうにかして逃げようとするリーフェだが、体を縛られていて上手く身動きが取れない。
いよいよアレイダに距離を詰められてナイフを振り上げられた。
避けられないことを悟り、リーフェはギュッと目を瞑る。
しかし、いつまで経っても痛みが襲って来ない。
リーフェは不思議に思い恐る恐る目を開ける。
リーフェは目の前の光景にヘーゼルの目を大きく見開いた。
「ディルク様……!」
「リーフェ、間に合って良かった」
何とディルクがアレイダのナイフを持つ手を押さえていた。
「あ……そんな……ディルク様……」
アレイダは顔を真っ青にしている。
その時、小屋の外から複数の足音が聞こえた。
「リーフェ嬢、ディルク!」
「無事ですの!?」
エリアスとクラジーナである。そして彼らの護衛もいる。
クラジーナは昨日からブレデローデ公爵城に泊まっているのだ。
「さて、ローン嬢、俺の婚約者に何をしようとしていた?」
ディルクはギロリとアレイダを睨む。
「リーフェ嬢はブレデローデ公爵城で行儀見習いとして預かっている。そんな彼女を害そうとしているということは、ブレデローデ公爵家と敵対する意思があると見なして良いね?」
エリアスは低い声でアレイダに迫る。
「先程ディルク様から聞きましたわ。アレイダ様、貴女は私が主催したお茶会でもリーフェ様を害そうとしたそうね」
クラジーナのアクアマリンの目はスッと冷えていた。
「そんな……私は……」
アレイダは悔しそうに表情を歪める。
「私は、何も悪くない! 悪いのはディルク様を横取りしたこの女よ! それに、私は上級貴族と縁続きの男性と出会う為にクラジーナ様に取り入ったのに、台無しじゃない!」
逃げられないと悟ったアレイダは醜くそう喚いた。
それには全員呆れ顔である。
アレイダがリーフェに対してやったことは殺人未遂。断じて許されることではないので呆気なくエリアス達の護衛に拘束されて警吏へ引き渡されたのであった。
「それにしてもディルク様、どうしてここが分かったのです?」
リーフェはホッとしたような表情になる。
「エリアスが、君が夜にブレデローデ公爵城かる出るところを見たんだ。それに、君はこの場所を指定されたメモを落としたみたいだし」
「あ……」
リーフェはドレスの腰の部分を確認する。そこにメモを入れていたのだが、どうやら落ちていたようだ。
「それを拾ったエリアスが不審に思ったみたいだ」
「確かにディルクの筆跡に見えたけど、今日ブレデローデ公爵城にディルクは来ていないから、おかしいと思ってね」
「それに、実は今日ブレデローデ公爵城に侵入者がいて、問い詰めてみたらアレイダ様の侍女だったそうよ。多分リーフェ様の部屋にメモを置いたのは彼女ね」
クラジーナは肩をすくめる。
「左様でございましたが」
リーフェは苦笑した。
その後、アレイダは裁判でアールセン商会の評判を落とそうと虚偽の記事を新聞社に書かせたこと、リーフェを殺そうとしたことを認めた。
アールセン商会の記事でリーフェとディルクの婚約を解消させ、自分がディルクの婚約者になるよう目論んでいたが失敗し、今回最終手段に走ったようである。
アレイダは上昇志向が強く、上級貴族との結婚を夢見ていた。
しかしドレンダレン王国では下級貴族と上級貴族の結婚は認められない。
そこでアレイダは上級貴族と縁続きの子爵家に狙いを定めたそうだ。上級貴族のクラジーナに擦り寄れば他の上級貴族や上級貴族と縁続きの子爵令息と知り合えると目論んだらしい。そしてその中でもアレイダが一番気に入ったのがディルクということだった。
裁判結果でアレイダは終身労働徒刑となり、貴族としての人生を終えることになった。
ちなみにローン子爵家はアールセン男爵家への賠償金を支払うことのみで許されるのであった。
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