僕だけが主人公になれない、僕が主人公の話
死にたい。
死ねない。
いや、実際は死にたいなんて心から思っていない。思っていないから死ねない。若しくは、死にたいなんて心から思ってても、それ以上に死ぬ勇気がない。
人が怖い、世界が怖い、世間が、君が、僕が、全部が、何もかもが怖い。
そんな、なんの取り柄もない、なんの才能もない、価値もない、面白みもない、脇役が主人公の物語だ───
僕だけが主人公になれない、僕が主人公の話
僕はいつだって脇役だ。どんな時も他人と比べられ、どんな時も他人と比べてしまう。その癖、たった1つの事で自分より下だと分かった人間を悉く叩き倒す。自分の方が圧倒的に下の癖に。
友達も居ない。正確には居た。でも、こんな性根の腐った性格の、更には他人が惹かれるような取り柄の1つも無い人間を好きになる人間なんて居ない。中学入った頃には段々と周りの奴らは消えていき、やがてはいじめの対象になっていた。
そこからだった。僕の人生の歯車が、崩れ去っていく音が聞こえ始めたのは。
いじめられてから不登校になるまでは早かった。元々生ぬるい環境で生きてきた僕は、そんな環境に耐えられる筈もなく、すぐに不登校に。
なんとなく、地元から遠くの高校に行けば友人の1つや2つ位作れると楽観視していた。
でも、現実は違った。地元から遠くの高校に通ったとしても環境は変わらない。それはそうだ。問題なのは場所でも他人でもない。自分自身なのだから。
でも、2つ違う事はあった。1つ目は、虐められ無かった事、2つ目は、1人だけ友達だと思えるような人が出来た事。
嬉しかった。何よりも、久しぶりに人と喋って仲良くなって、友達を作れた事が。
そいつは俺と正反対のチャラい見た目のやつ。金髪でピアスも付けてて、でも話が合う。そんなやつ。
だから、ある日あんな事をそいつに口にしてしまったんだ。
「隣のクラスの○○ちゃんが好き。」
そいつを信頼した。信頼してしまったんだ。それがいけなかったんだ。人を、ましてや見た目からチャラいそいつを。
見た目は人を表すと聞くが、その時本当にそう思った。あいつは、やったんだ。やりやがったんだ。
「なあ、こいつ隣のクラスの○○好きらしいぜ。気持ち悪ぃ。」
最悪だった。クラス中に知られた事がじゃない。唯一信じてたそいつが、俺を裏切った事が。
その日から人間不信になった。誰も信じない。信じれない。信じたくない。信じてはいけない。
それでも高校は行った。行かざるを得なかった。高い学費を払って、しかも遠くの学校を選んだせいで、電車賃も無駄になってしまう。だから、渋々高校は通った。
居心地は最悪だった。まだ中学の奴らがいる高校で虐められてた方がマシだった。どこに行っても陰口を叩かれているようだった。笑い声が自分の事ではないかと不安になった。どこに居ても、どこを見ても、怖かった。何かされるんじゃないかビクビクしながら生きていた。生きた心地なんてしたもんじゃなかった。
それからなんとか高校を卒業した。酷い3年間だった。大学は当然行く訳もなく、代わりに高卒でも入れる、誰でも知っているような大企業に就職した。
でも、ダメだった。就職して直ぐの日は、先輩達や同期達と話せた。だけど、段々と僕が置いてかれ、挙句の果てには、僕に対して同期が分かりやすく陰口を叩いたり、上司は僕にだけあたりが強くなっていった。
高校でそんなのは散々慣れたと思っていたが、社会はそんな所より更に怖かった。責任や上司からの重圧、周りからの期待、そして、それら全てを裏切ってしまった時の失望、幻滅……色々、怖かった。人間の恐ろしい部分を見た。社会が、世界が怖い。怖くなった。
何度か死にたくなった。メンタルも何もかもやられ、帰りの電車を待つ地下鉄のホームで、何度死のうと考えたか数え切れない。だが、最近のホームはそういう奴らの対策がしっかりしており、殆どの地下鉄は可動作によって防止されていた。
だが、所詮は人の胸辺りしかない物だ。乗り越えようと思えば余裕で乗り越えられる。それでも、僕はしなかった。出来なかった。弱かった。勇気が無かった。いや、ある種の強さなのかもしれない。
そんな僕を両親は見逃さなかった。久々の休みで、家族と夕飯を食べていた時、ふたりは優しく「もう休んでいい。頑張らなくていい。」と言ってくれた。
その時、初めて僕は泣いた。沢山泣いた。それこそ本当に涙が枯れてしまうのではないかと思う程泣いた。
それからは、その会社を退職した。退職する時も上司や他の人間からかなり罵られた。それでも自分の意思をしっかり持って退職した。
そこからは、人間として底辺な生活を続けている。でも、これでいい。これしか選択が無いんだ。僕という、オチも何もない、面白みも無い、僕だけが主人公になれない、僕が主人公の話は。