転校したら隣の席の女の子が覇王だった!?
「えー、今日は転校生を紹介する。さあ、自己紹介して」
「は、はい、田中実といいます。よろしくお願いします」
「「「よろしくー!」」」
ホッ、よかった。
みんなイイ人っぽくて。
初めての転校で内心凄く不安だったけど、これならやっていけそうだ。
「田中の席は窓際の一番後ろの席だ」
「あ、は……い!?」
その時だった。
僕の目は、僕の席の隣に座っている、一人の女の子に釘付けになった。
その子がまるで絵画に描かれている女神みたいに綺麗だったのもあるが、それ以上に僕を驚かせたのは、その子が鋭い二本の角が生えた兜を被り、背中には真っ赤なマントを羽織っていることだ。
どこの覇王様ですか!?!?!?
「どうした田中、早く席に着きなさい」
「は……はい」
え?
なんでみんな、あの子の格好に対してノーリアクションなの?
このクラスでは、日常の風景なのあれ??
くっ、致し方ない……。
ここで変に波風を立てて、クラスで孤立してしまったら本末転倒。
郷に入っては郷に従えの精神だ。
何も気にしていませんよという風を装って、自然と席に座ろう。
僕が内心ドキドキしながら、そっと自分の席に座った、その時だった――。
「フッ、ようこそ田中、我のクラスへ。我の名は覇王統子。今日からよろしくな」
「――!」
本当に覇王だった???
覇王が名字なの???
そんな名字の人、日本にいたんだ……。
しかも今、「我のクラス」って言ったよね?
覇王さんは、このクラスの覇王でもあるの……?
「こ、こちらこそ、よろしく……」
「ウム! ハッハッハ! 田中からはなかなかの強者のオーラが出ているな!」
「そ、そうかな……?」
そういうの見えるんだ?
流石覇王……。
何だろう、確かにこの人からは、思わず頭を垂れたくなってしまうような、カリスマ性を感じる……。
「覇王様、今日は田中に教科書を見せてやってください」
「ウム! 承知した!」
先生まで覇王さんに敬語を!?
マジで覇王さんは、このクラスの覇王なんだッ!
「田中よ、我に机を寄せるがよい」
「あ、うん」
おずおずと少しだけ机を寄せる僕。
が――。
「ハッハッハ! そう照れるでない! このように、もっとガッと寄せんか!」
「っ!?」
覇王さんは自分の机を、ピッタリと僕に密着させてきたのである。
う、うおおおおお!?
覇王さんのご尊顔が、こんな近くに……!
長いまつ毛に、整った鼻筋……。
何て美しいんだ……。
……頭の兜が、全てを台無しにしているけど。
「さあ、一時間目は国語だ! 見るがよい、我のこの国語の教科書を!」
「あ、ありがとう」
グイグイと教科書を見せてくる覇王さん。
あの、覇王さん、あんまり密着されると、兜の角が顔に刺さりそうで怖いんですが……。
「覇王おおおおおお!!! 出てこんかいオラアアアアアアア!!!」
「「「――!!」」」
その時だった。
校庭のほうから、大層ドスの利いた女の子の声が響いてきた。
今度は何???
思わず窓の外に目線を向けると、校庭の中央に、全身を金色の鎧で包んだ女の子と、その子を取り囲んだ、無数の他校の生徒らしき人たちが仁王立ちしていた。
えーーー!?!?!?
「フッ、性懲りもなくまた来おったか」
覇王さん!?
もしかしてお知り合いですか!?
「者共、出合うぞ! 我の辞書に、『撤退』の二文字はない!」
「「「オー!!!」」」
いや授業は????
「クックック、逃げずに出て来たことだけは褒めてやろう、覇王よ」
「ハッハッハ、うぬこそ、いい加減我には敵わぬと諦めたらどうだ、帝王よ」
あの女の子は帝王なの???
それにしても、マジでみんな授業そっちのけで校庭まで出て来ちゃったけど、本当に大丈夫なのかな、これ?
まあ、先生も一緒にノリノリでついて来てるから、多分そういうことなんだろうけど……。
「ヒャッハー! あの女の名前は帝王征子。覇王様の宿命のライバルよ」
「――!?」
その時だった。
モヒカン刈りで、トゲトゲ付きの肩パットを装着した生徒が、僕の肩に手を置いてきた。
誰、君???
うちのクラスにいたっけ???
覇王さんのインパクトが強すぎて、見落としてたのか……。
どこの雑魚キャラだよ……。
そしてあの女の子も、帝王って名前なんだ……。
「ヒャッハー! 俺の名前は雑魚一。よろしくな、田中」
「よ、よろしく……」
雑魚が名字なの???
みんなヒロ○カのキャラ並みに、名は体を表してるじゃん???
ひょっとして僕、漫画の世界に迷い込んでたりする???
「クッ、そうイキがっていられるのも今のうちだぞ、覇王よ! 今日こそは俺様が、真の帝王だということを証明してやるからよぉ!!」
「グオオオオオオオオ!!!!」
なっ!?
帝王さんのすぐ後ろで、身長2メートル近くはある、熊みたいな体型のゴツい男が吠えた。
「ヒャッハー! あいつは熊強。帝王の右腕よ」
名字が熊???
もう何でもアリじゃんッ!
あと雑魚君は、最初に「ヒャッハー!」って言ってからじゃないと喋れない病気なの??
「フッ、で? 今日はなにで勝負するのだ、帝王よ」
「クックック、聞いて驚け! 『しりとり』だ!」
「ホウ」
小学生かな???
もっとこう、血みどろの殴り合いとかに発展するのかと思ったら、存外平和!
「ヒャッハー! 覇王様も帝王も、箸より重いものは持ったことがない淑女だからな! 勝負は専ら頭脳戦よ!」
「そ、そうなんだ」
それは淑女の意味にアプデが必要だね。
あと、覇王さんの兜も、帝王さんの鎧も明らかに箸より重そうだけど、もしかして発泡スチロールで出来てたりする?
「クックック、では早速俺様からいくぞ! 『しりとり』の『り』から! 『理数系が得意な人喰いマントヒヒ』!」
文章もアリなの????
そんなの一生決着つかないじゃん!
そもそも文章も意味不明だし!
理数系が得意な人喰いマントヒヒがいたら、おちおち外も歩けないよ!
巧妙な罠を仕掛けてそうだし!
「ハッハッハ、なかなかやるではないか、帝王よ。では次は我の番だな。『昼寝をしていたらいつの間にか夕方になっていた。そんな休日の遠藤千春』」
誰だよ????
人名までアリだったら、いよいよ無限ループ突入だよッ!
「クックック、まだまだ! 『留守番電話がちゃんと録音されたか気になる人喰いマントヒヒ』!」
意外と繊細な一面も???
「ハッハッハ、盛り上がってきたな! 『暇人と思われるのが嫌で、会社の同僚には、休みの日はヨガスクールに通っていると噓をついている遠藤千春』」
遠藤千春の解像度随分高くない???
身近な誰かをモデルにしてません???
「クッ……! 『ルーヴル美術館に来たものの、モナ・リザがどこにあるのかわからないまま三年が経過したファッションオタク』!」
そこは人喰いマントヒヒじゃないのかよッ!!?
こっちは完全に人喰いマントヒヒの口だったよッ!
「ハッハー! 『苦しい時に助けてくれたのは、いつも酒と推しの2.5次元俳優だけだった。最近母親から、早く孫の顔が見たいとせっつかれている遠藤千春』」
――!
こ、これは――!
「グググ……! る……『ルービックキューブを初めて揃えた時の感動が、未だに忘れられない人喰いマントヒヒ』!」
人喰いマントヒヒ復活ッッ!!
それで理数系にハマったんだね!?
……そうか、覇王さんの狙いがわかったぞ。
これはしりとりの基本中の基本、『る攻め』だ。
『る』から始まるワードはあまり多くない。
なので、自分はなるべく『る』で終わるワードを返せば有利なのはしりとりの定石。
――流石覇王。
知略でも覇道を征っている。
とはいえ、文章もアリな以上、まだまだ決着は先になりそうだが……。
「クッ……! えーっと……えーっと……る……る……る……」
あれ??
意外ともう追い込まれてる??
もしかして、テンパると頭が真っ白になっちゃうタイプ??
「ヒャッハー! どうしたどうした! もう降参なのかぁ、帝王よぉ!?」
「う、うるさい! 今考えてるから黙ってて! 幼馴染だからって、馴れ馴れしくしないでよ!」
この二人幼馴染だったの????
帝王さんも完全にキャラ変わってるし!(こっちが素なのか?)
絶対最終回手前でくっつくやつだ。
「うーんと……うーんと……る……る……る……、あっ、わかった! 『ルームランナーを買ったものの、結局何回か使っただけで放置しがちな卓球部のキャプテン』! …………あっ!!」
「「「――!!」」」
終わったーーー!!!!
決着ッッ!!!!
まさかこのルールでこんなに早く終わるとは。
「う、うわああああああん!!!! また負けたああああああ!!!!」
漫画みたいに滝のような涙を流す帝王さん。
うぅん、多分こんな感じで、いつも返り討ちに遭ってるんだろうな。
そりゃ勝てないわけだよ。
「ヒャッハー! さすが覇王様! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。そこにしびれる! あこがれるゥ!」
雑魚君ほどその台詞が似合う人いないね。
「ハッハッハ! これにて一件落着!」
ガイナ立ちで高らかに笑う覇王さん。
……カッコイイ。
みんなが覇王さんを覇王と崇める理由が、何となくわかった気がするよ。
「グ、グオオオオオオオオ!!!!」
「「「――!!?」」」
その時だった。
激高した熊君が、覇王さんに殴り掛かってきた。
そ、そんな――!?
覇王さんはああ見えて、箸より重いものは持ったことがない淑女なのに――!
「フッ」
「――!」
覇王さんがチラリと、僕に意味深な目線を投げてきた。
は、覇王さん……!
まさか君は――。
――やれやれ、しょうがないか。
「――怪我はないかい、覇王さん?」
「グオアッ!!?」
「「「っ!!?」」」
覇王さんの前に立った僕は、熊君の巨岩みたいな右拳を、左手だけで受け止めた。
「フッ、この通り、我は何ともない。うぬのお陰だ、田中よ」
それはよかった。
やっぱり覇王さんは、僕が強いことをわかってたんだね?
さっき僕に「強者のオーラが出ている」と言ったのは、ハッタリじゃなかったんだ。
「先生、これは正当防衛ですよね?」
一応確認しておかないとな。
「え? あ、ああ、そうだな」
よし、言質は取った。
「グ、グオオオオオオオオ!!!!」
今度は左の拳を僕に突き出してくる熊君。
――そっちがその気なら、僕も手加減はしないよ。
「セイッ!」
「グボアアアアアアアア!?!?!?」
「「「っ!?!?!?」」」
僕の放った鉄山靠が、モロに熊君のボディに入った。
熊君はそのまま、十メートル近く吹っ飛んで白目を剥いてしまった。
あ、やっべ。
ちょっとやりすぎてしまった。
「ヒ、ヒイイイイ!?!? お、覚えてやがれよおおお!!!」
そんな熊君をみんなで担いで帰って行く帝王さんたち。
うん、百点満点の捨て台詞だね。
帝王さんたちは帝王さんたちで、みんな仲良さそうだな。
――さて、残念だけど、これでまた僕も転校かな。
僕の父さんは生粋の格闘漫画オタクで、僕が物心ついた時から、ありとあらゆる格闘技を独学で仕込んできた。
その結果僕は、高校生になる頃にはすっかり格闘マシーンになってしまったのである。
そんなある日、事件は起こった。
前の学校を仕切っていたヤンキーの先輩に誤ってぶつかってしまい、僕はその先輩から喧嘩を売られてしまったのだ。
だが、その先輩を一方的に返り討ちにしたことで、僕は学校中から恐れられる存在になってしまった。
そうしてその学校にいられなくなった僕は、転校を余儀なくされたのである。
あーあ、せっかくみんなイイ人っぽいクラスだったのにな。
これでもう、さよなら、か……。
「ハッハッハ! 見事だ田中!」
「え?」
覇王さん?
「ヒャッハー! やるじゃねえか田中! お前こそ、覇王様の右腕に相応しいぜ!」
ざ、雑魚君??
「そうそう、メッチャカッコよかったぜ!」
「うんうん! まるで漫画みたいだった!」
「今度俺にもさっきの技教えてくれよ!」
……みんな。
「フッ、我のクラスに、うぬのことを白い目で見るようなやつはおらん。何故なら我が覇王を務めるクラスだからだ!」
「――!」
覇王さん――!
――いや、覇王様。
僕にも今、やっとわかりました。
何故あなた様が、このクラスの覇王であらせられるのかが。
「ありがとうございます。――不肖田中実、覇王様の右腕として、生涯あなた様をお側でお守りすることを、ここに誓います」
僕は覇王様の前で片膝をついて、忠誠を誓った。
「ウム! 苦しゅうない!」
――こうしてこの日から、僕の覇王様の右腕としての日々が始まったのであった。
「ああ、因みに言い忘れてたが、私の名前は教師学だ。よろしくな」
先生!?
名字が教師???
よかったですね、名前にピッタリの職業に就けて!
拙作、『「私たちは友達ですもんね」が口癖の男爵令嬢 』がcomic スピラ様より配信される『一途に溺愛されて、幸せを掴み取ってみせますわ!異世界アンソロジーコミック 6巻』に収録されます。
・アンソロジー版
2024年9月26日(木)…コミックシーモア様で2ヶ月先行配信
・アンソロジー版_他社書店解禁&単話版
2024年11月21日(木)
よろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)
2024.9.24追記
「みこと」様から覇王様のAIイラストをいただきました!
誠にありがとうございます!!!
みこと様の
「宇宙航空戦艦サーシャ」
https://ncode.syosetu.com/n9948iy/
も、是非ご高覧ください!