EP11〜ジュース・ワイド〜
俺は今幸せだ。
この幸せは他人にとってはごく当たり前な事だろう、だか関係無い。笑って、仕事して、一緒に居てくれる人がいれば俺は幸せなのだ。
ピンポーン。
「はーい」
ウィーン
ドアを開けるとそこにはジュースがいた。
「どうした?」
「先輩とネェさんに会いたくて来ました」
「ハッ、そうか。まぁゆっくりしていけよ」
「はい、ありがとうございやす」
ジュースとは一時期一緒に3人で暮らしていた時期がある。ジュースにとって俺の家は第二の実家の様な物だ。
「ジュース、お前また喧嘩したのか?」
ジュースの口元には青く変色した痣があった。
「まぁ、ええ」
「勝ったか?」
「もちろんす」
「魔法は使って無いよな?」
「…………………」
「おいおい、前から言ってるだろ。魔法は使ったら警察から目つけられるって」
「……………すいません」
「まぁ、過ぎたことをどうこう言っても仕方ないな。ジュース、飯食べてくよな」
「はい…………それよりネェさんは何やってんすか?」
「まだ寝てるよ………俺は飯作っとくから起こしてきてくれ」
「っす」
ジュースは寝室に向かった。
「おはよう、ステイ」
「おはようクレン」
「ジュース君もおはよ」
「おはようございます、ネェさん」
「よし!飯が出来たぞ」
クレン程料理は上手くないが、それなりに腕には自信がある。
「いただきます」
こうして3人で食べるのも久々だな。
「なんだか懐かしいわ。ジュース君と3人でご飯食べるの」
「っすね」
「……………そういえば、ジュースと初めて一緒に飯食べた時お前泣いてたよな」
「あー………覚えてたんですか」
「まぁな、理由聞いても『目にゴミが入った』の一点張りだったからな」
「違うわよステイ。嬉しかったのよ、私たちと食べれる事が」
クレンは半分冗談のつもりで言ったのだろうがジュースは答えた。
「はい、嬉しかったんです。あの時が俺の人生で一番」
………………13年前、俺は4歳だった。
俺の両親はいわゆるネグレクトというやつで食事も床に落ちているカビの生えかかった食パンを食べる毎日だった。母親は昼間は家で寝ているだけで夜になったら俺をベランダに投げ捨て、知らない男と性行為を繰り返しお金を稼いでいた。父親はそんな母親からお金を奪い、一日中ギャンブルをしていた。もちろんそんな家庭に生まれてしまった俺はろくな人生を歩めるはずもなく、学校ではいじめられ先生からも酷い扱いを受けていた。唯一の楽しみはそんな学校での給食だった。周りの子より少し量は少なかったが俺にとっては最高の時間だった。
だがそんな幸せも不幸には勝てなかった。いじめは歳を取るごとにエスカレートしていき、危うく死ぬんじゃないかと思ったことが多々あった。あの時は本当に死んだ方が楽なんじゃないかと思ったが、給食以上の幸せを感じた事の無い俺は死ぬことで『幸せになる』と考えられなかった。
俺は10歳になった、この頃になると俺の顔立ちは徐々に母親に似てきた。ある日、父は酔っ払った勢いでそんな俺を犯した。もちろん俺は何が起きたかわからなかった、ただいつも通りの事をされたのだと理解していた。父はそれからも何度か俺を犯した、父は俺が上手に奉仕をすると褒めてくれた、この時俺は人生で初めて他人から褒められた。
ある日、父が「金稼いでこい」と言ってきた。最初は何のことかわからなかったが、仕事場に行くと普段父にしていることをやるだけであった。俺はこの仕事が好きだった。客は褒めてくれるし優しくしてくれるし何より俺だけを見てくれるからだ。客から貰ったお金は全て父に渡していた、不満は無かった、その時だけ父は俺に笑顔を見せるからだ。
そんな日々が続き、俺は14歳になった。いつも通り家に帰ると母が泣いていた。理由を聞くと母は俺を殴り「お前が!全部悪い゛!!」と言って家を出て行った。次の日母が死んだと警察から連絡がきた、ビルから飛び降りたらしい。父は母が死んだことより保険に入って無かったことに腹を立てていた。
この歳になると客がつきにくくなっていった。そうなると父は俺を家から追い出した。もちろん家に泊めてくれる知り合いがいるはずもなく、俺は路上で暮らし始めた。最初は慣れなかったが、同じような暮らしをしている人はそこら中にいたので不安は少なかった。
そんな俺にも転機が訪れた。ある日、誰もいない静かな所で寝ようとしたら2人の男たちの会話が耳に入ってきた。
「なぁ、今回の仕事。事前に聞いてた内容と全然違うぞ」
「仕方ないだろぅ、私だってこんな結果になると思っていなかったんだ」
「だったら報酬上乗せしろよ」
「無理だ」
「何でだよ?」
「私の取り分が少なくなってしまうからな」
「ざっけんな!」
金髪の男がもう1人の男を壁に押し付けた。
「いいじゃないか、君はどこも怪我してる訳じゃ無いんだから」
「俺は怪我してねぇけど、こっちはお前らの不手際で仲間が怪我してんだよ!」
「わ、わかった。とりあえず手を離してくれ」
「……………逃げんなよ」
「も、もちろん」
金髪の男が手を離すともう1人の男は俺の方に向かってきて銃を突きつけられた。俺は人質にされてしまった。
「おい、このガキを殺したく無いなら今すぐその金だけ持ってどっか行け!そしてもうこれ以上私の前に現れるんじゃねえ!」
「おいおい、そんななんも関係ないガキが人質になると思ってんのか?」
「なるさ、お前は案外優しいからな」
「………………おいガキ!」
俺の事だよな。
「動くなよ………」
「へ?」
「土中級魔法『スリング』」
金髪の男は指先から鉄の塊を高速で発射した。その鉄の塊は俺を人質にとっている男の眉間に食い込み、男は倒れ込んだ。
「こ、殺したんですか?」
「いや、死んでは無いだろ…………………あーあ、これからの生活費どうしよ」
「た、助けて頂きありがとうございます」
「今のは俺の失態だ。こちらこそ巻き込んでしまってすまなかった」
「いえ………………」
「この街は危ないから子供は早く家に帰れよ」
「……………………」
金髪の男は俺の状態でなんとなく察したようだ。
「…………良かったら家来るか?」
「………………良いんですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます。………すいませんがお名前は?」
「ステイ・セントだ。お前は?」
「ジュース・ワイドです」
これが俺と先輩との出会いだった。
それから俺は先輩の家に居候させてもらった。そうして先輩とネェさんと暮らしていく内に俺はいかに今までの生活が異常だったのかを思い知らされていった。食事をする、風呂に入る、くつろぐ、笑う、これらが当たり前だという現実を知り俺は絶望した、だがそれと同時に歓喜した。
先輩は暇な時に俺に魔法を教えてくれた。先輩は俺がその時インプラントをつけていなかったので魔法の取得が可能だと言っていた。
すっかり居候生活が身に染みついて心も体も通常になった頃、ふと思い出すことがある。
「あのクソ親父、今何してんだろ………」
俺は1年ぶりに家に帰った。
「…………………………」
そこには『入居者募集』の張り紙があった。
父の現在は知ったことでは無い、生きてようが死んでいようがどうでもいい。
だが何故か俺の心に穴が空いた気分になった。
「……………………帰ろ」




