EP3〜私の魔法〜
リッキー・グランド・ケーキ、彼はエルフである。彼はこの世界で1番門下生が多い道場「ジケイ会館」の総師範であり、長年にわたりこの道場で門下生を育て上げ、その門下生は道場を出た後、その多くが王様の私兵や貴族の護衛として雇われている。1000年以上生きている彼は、多くの戦争で得た経験と知識、武具術、魔法も基本属性である炎、水、土、風、光、闇魔法はいずれも神級に到達していて、回復魔法をはじめとした希少魔法を複数持っている。さらにリッキー・グランド・ケーキには固有魔法である「雷撃魔法」がある。はっきり言ってチートだ。
家に帰ってからのクレンはあからさまに元気が無かった。
「な、なぁお菓子でも食べようぜクレン」
「………もうそんな気分じゃないわ」
「………」
「…」
当然といえば当然か幼い頃の記憶とはいえ自分を無理矢理犯してきた奴なんて見ただけでトラウマが蘇ってしまう。私も実父にレイプされた時は本当に死にたかった、何を食べても味がしない、何を考えても父のあの時の顔を思い出してしまう。もういっそほんとに死んでしまった方が楽なんじゃないかって、だからこそ私がこの結論にいたるまでそう時間はかからなかった。
殺そう。
リッキー・グランド・ケーキを殺そうと決意したはいいのだが、奴をどうやったら殺せるか検討をもつかない。そもそも奴に僕の魔法ごときで殺せる訳がない、つまり奴と真正面から戦って勝てる可能性は0だ。
「どうすればいい、なぁラロイなんかいい案ないか?」
「………」
「ラロイ?」
「あ?なんだよ」
「……なんだいるなら初めから出てきてよ」
「うるせぇな、こっちにだって色々あんだよ」
「そ、そう、なんかごめん」
「はっ、わかりゃいいんだよ」
「ところでラロイ今までの状況わかってる?」
「リッキーを殺すんだろ」
「そうなんだ、でも奴を殺すために何をしたらいいかわかんないんだ」
「お前馬鹿か?相当なアホなのか?」
「なんだよ急に」
「お前よぉ今まで何してたんだ?異世界楽しみすぎて本当にアホになったのか?」
「だからなんなんだよ!」
「お前なんでこの世界に来た?」
「2度目の人生エンジョイするためだけど…」
「この世界に来る直前何してた?」
もちろんハンドスピナーではない。
「……………そうか!」
どうして私はこんな大事なことを忘れていたんだろう、これもこの世界に来た大事な理由の1つじゃないか、僕だけの固有魔法、転生特典『脳内点検』を使うんだ。
『脳内点検』技名はダサいが、性能はかなり強い。この魔法は自分が触れている対象の脳内に侵入し、対象の秘密や感情、対象すらも忘れているような古い記憶すらも自由自在にすることができる。例えば脳内に侵入し、全ての記憶を消すと対象は何も出来ずに赤子になってしまう。
「でもさ、この魔法使えなくないか?」
「なんでだよ?」
「この魔法、リッキーに触れないと発動できないじゃん」
「そうだな」
「そうだなじゃないよ」
私がこの魔法を選んだ理由は戦うためではない、何か自分に不都合があった場合や相手に自分に対する好意の感情を抱かせるためである。
「で?ステイ、どうすんだ?」
「ファンのふりして握手した時に、記憶全消しするとか…」
「無理だな、まず警備兵がそれを許さないだろう。全消ししたとしてもお前が犯人だってすぐにわかってお終いだな。」
…その時、ステイに電流が走る。
「…これならいけるかも」
「聞かせろ」
「『ジケイ会館』に入門しよう」
「……なるほどな」
『ジケイ会館』とはリッキーの先先代が初め創設2000年の歴史があり、生徒の数は現在50万人にものぼる。ジケイ会館は様々な武具を取り扱っており世界から集めた優れた武人が師範となり日々稽古している。
ジケイ会館は武器術がメインだが、素手どうしの戦いを主軸とした戦い方を教えてくれる場所もある。私の狙いはここだ、ジケイ会館は4年に一度総師範と決闘する権利を賭け各武器ごとに予選トーナメント戦がおこなわれる。さらにそこから各トーナメントで勝ち上がった選手同士で決勝トーナメントがおこなわれる、優勝者は総師範と決闘する権利を受け取ることが出来る。つまり私はこの大会で優勝し、決闘で奴に触れて記憶を消し赤子にして抵抗出来ない状態にして殺す。もちろん外見は大人のままなので罪悪感は一切ないだろう。
「なぁラロイいけると思うか?」
「まぁーほぼ無理だな、だがこの方法が1番成功率が高い」
「じゃあやるしかないね」
「がんばれよ」
「うん」
『ジケイ会館ステゴロ部』はここから遠くはなれた別の街にあり、その町に行くには最低でも半年はかかる。クレンも連れて行こう、別の街ならば少しでも楽になるだろう。
なにはともあれまずは親に相談だ。
「ねぇお母さん大事な話があるんだ」
「なぁにステイちゃん」
「僕、ジケイ会館に入りたいんだ」
「…いいわよ」
「本当にいいの?」
こんなにあっさり認めてくれるとは思わなかった。
「ええ、私もステイちゃんにはいずれお父さんみたいな立派な冒険者になって欲しいもの。それに自分から強くあろうとする我が子を止める親なんていないわ。ところで、どの部に入るの?」
「ステゴロ部」
「ステゴロ部?」
母の顔が少し曇った。
「わ、わかったわ、でもいつでも他の部に入り直してもいいわよ、刀部や刀部なんかに」
お父さんが刀使ってるからってそこまで好きなのか、そういえばお父さんの顔どんなんだっけ?
次の問題は肝心のクレン、少し不安だ。
「なぁクレン、話があるんだ」
「なによ」
「ブロウ町に行かないか?」
「なんでよ?」
「あの町にあるジケイ会館のステゴロ部に修行しに行くんだ、一緒に来ないか?」
「……………いく」
「ありがとう、明日の朝一でいく準備しておいて」
「わかったわ」
やった。
次の日
「いってきます、お母さん」
「いってらっしゃいステイちゃん、クレンちゃんもいってらっしゃい」
「いってきますわ、おばさま」
そして僕たちはブロウ町に向かうため、歩きだした。