EP26〜副将戦〜
ザカート・キシャ。彼は21歳という若さでプラチナランク冒険者になった天才である。天才といっても様々な天才がいる、神が彼に与えた才能は本来この世界では決して開花するものではなかった、だが奇跡が起こった。ある人物との出会いが彼の才能を開花させたのだ。
「ザカート・キシャ、これは契約だ。この副将戦、必ず勝て」
大司教との契約の儀式。キシャさんの額に紋様が浮かび上がってきた。
「はい」
悪魔族は契約絶対主義者、僕がジケイ大戦の2回戦で戦ったミロ・マーチもこの契約の儀式で自身の能力を限界まで高めていた。だが「勝て」という契約内容はたとえ本人が死んでも体が存在する限り動き続ける。まさに悪魔の所業だ。
「やぁステイ君、クレンちゃん」
ホーキンさんが後ろから話しかけて来た。
「ホーキンさん、体の方はもう大丈夫なんですか?」
「うん、問題ないよ。それにしても昨日の死合い見てて思ったんだけど、ステイ君ってさぁー本当はヴァンパイヤだよね」
「…………違いますよ。死なない呪いです」
「フーン、そっ。それにしてもあの鬼人強かったね」
「ええ、僕の先輩ですから」
あの時は考える時間が無かったとはいえやはりこの設定は無理があったな、ただでさえ他にも特徴があるのに。まぁ最悪ホーキンさんにならバレてもいいか。
クレンがキシャさんによっていった。
「ねぇねぇ、キシャさん」
「なんですか?クレンさん」
「あんたが持ってるそれ何?」
「……あぁ、これは俺の武器だ」
キシャさんが持っていた物は拳くらいの大きさをした黒い球であった。
「これが武器ってどういうことよ」
「まぁ説明するより死合い見てたらわかるよ」
「わかったわ、頑張ってね」
「お、おう」
キシャさんの頬が少し赤くなっている。それを見逃すほど僕は優しくない。
「キシャさんクレンは僕のものですから」
「ハッわかってるって、こんな俺にクレンさんみたいな良い女がなびくわけねぇだろ」
「……そうですね」
そこまで自分を卑下しなくても。
「肯定するなよ、失礼な奴だな」
「……すいません」
「じゃ行ってくるわ」
「………はい」
僕は何をやっているのだろう、負けたくせに女の前で見栄張って。これから戦ってくる仲間に対して「がんばれ」の一言も言えないなんて、情け無い。
「ではこれよりナタス・アイワナ戦争、副将戦。ナタス教陣営ザカート・キシャ対アイワナ教陣営マハ・ヴィーラの死合いを始めます」
キシャさんの相手は人間とエルフのハーフであるマハ・ヴィーラ、聞いた話だと彼はアイワナ教専属部隊「アイワナ自警団」の総団長だという。
「フン、こんな餓鬼が私の相手とは…舐められたものだな」
「みんなそろって酷いこと言うな」
「事実であろう」
「まぁ事実だな」
「まぁこの戦争、私で終わりだ。あの筋肉達磨のカインが敗れ、死ねない死に損ないも負けた」
「だから、自分も負けないって?」
「フッそうだ、なにせ私はアイワナ教陣営の中で1番強い、そんな私が負けるはずないだろう」
「そうか……」
「フッ怖気付いたか………」
そう言うヴィーラの手には薙刀が握られている。
「では……………始め」
結局あの黒い球はなんなのだろう、死合いが始まったらわかると言っていたが。
「『変化、デザートイーグル』」
するとキシャさんの手元には黒い球が変形し、銃が握られていた。
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!
会場に響くわたる銃声、銃弾は右肩、左肩、両膝と両肘に綺麗に当たった。そう彼は銃の天才である。
「ゔっ………なっ、なんだそれ」
ヴィーラはたまらず倒れた。
「どうだっていいでしょ、もうあんたには関係無いんだから………『変化、カーンアームズ』」
銃が散弾銃の形に変形した。
バンッ
そしてヴィーラの頭が粉々に吹き飛んだ。
僕はあっという間すぎる出来事に混乱していた。
ナタス・アイワナ戦争、副将戦。ナタス教陣営、ザカート・キシャの勝利
「よくやった、キシャ」
「大司教、やっぱり契約の儀式する必要なかったじゃないですか」
「ほっほっほ、念には念をじゃ」
「ちょっとなんなのよそれ、強すぎじゃないの」
クレンが興奮している。
「これは「黒のレガリア」って名前の武器で、ある人から貰った物なんだ」
「ある人って誰よ?」
「うーん、言ってもわからないと思うけど……………「クリス・カイル」っていう人なんだけど…」
「クリス・カイル⁉︎」
思わず声がでた。
「知ってるのステイ?」
「ま、まぁ」
クリス・カイル。間違っていなければ彼はアメリカの軍人だ、伝説と呼ばれた彼は「ラマディの悪魔」と恐れられ生涯で250人も殺したとされている。この世界に僕が居るということはカイルさんが居たとしても不思議じゃない、だがカイルさんの場合は転生では無く転移したことになる。この「黒のレガリア」はおそらく転移特典だろう。
「知ってるのか、ステイ⁉︎」
「ま、まぁ名前だけですよ、他は何も知りませんし………」
「なんだよ……」
勝ったばかりというのにとても残念そうな顔をしている。
「クリス・カイルさんとはどういう関係なんですか?」
「俺の恩人だ、あの人がいなかったら俺は今ここに居ない」
「どういうことですか?」
「あー……俺は10年前、人生に絶望していて死のうと思って樹海に居たんだ」
重い…。
「死に場所を探してると近くから聞いたことの無い大きな音がしたんだ。音の方に向かってみると棒のようななにかを持った男が立っていたんだ………
『何か用か少年?』
『え、いや……大きな音がしたから………』
『そうか、驚かしてしまったようだな』
『ねぇおじさん、その大きな音のなるやつ何?』
『………これはな、MK18 MOD 0 Field M4だ』
『エ?………モッ………フォー?』
『そうか、この世界は銃が無いのだったな』
『銃?』
『あぁ、この先端から金属を発射する武器だ』
『へぇー』
『少年、撃ってみるか?』
『うん』
『「変化、SIG SAUER P220」。持ってみろ』
『結構重い』
『いいか、ここを持って肘をちゃんと伸ばすんだ。顎を引いて、最後にここの引き金を引くんだ』
ダンッ
『うおっ衝撃が…すげぇ………手が痺れる』
『これが銃だ』
『す、すげぇ。おじさんっこれやりたい!』
…………………まぁこんな感じでカイルさんは俺の面倒を見てくれたんだ。でも5年前、いつもの樹海に行くとこの「黒のレガリア」だけが置いてあって、いつまでたってもカイルさんは樹海にこなかったんだ。だから俺はカイルさんにもう一度会うため冒険者になったんだ」
「……そうなんですか……………」
「あぁ、だからお前が知っていると言ったときは焦っちまった」
「すいません、ややこしくて」
「まぁつまり今の俺が生きてるのはカイルさんのおかげなんだ」
そう言うキシャさんの顔はいつもより幼く見えた。
ナタス・アイワナ戦争、ナタス教勝利まで後1勝。




