第弍話 人類の危機
※注意 本作品で出場する人物、国、地名、財団名などは全て創作世界での話です。 実際の人物、国、地名、財団名とは全くの関係はございませんので、ご了承ください。
「よし! 今日の演習はここまで! 悠人 お前最近調子いいな!! 今日の演習全項目1位じゃないか!」
教官の中でも、特に屈強で強面のこの教官は悠人の担当教官上林である。
「ありがとうございます! これからも精進してまいります!」
悠人は誇らしく声を張って答えた。
顔についている水の宝石が夏の日差しに照らされ輝いた。汗が服に滲むようになって来た8月。悠人は軍の所有地である竹山演習場で、フラッグ訓練をしていた。(フラッグ訓練とは2チームに分かれ、実戦形式の戦闘を行う訓練である。)
「お前すごいな! 1ヶ月前の不調はどこいった もう うちの部隊エースじゃねーか!」
多くの同期は1ヶ月前から随分と変わった悠人に驚いていた。 もちろん悠人が成長した第一の理由は華美の存在であったが、彼自身この1ヶ月血の滲むような努力をしていた。毎日の演習後にランニング、筋トレ、食事や睡眠、健康面にも意識をし自分を本気で変えた。
宿舎に戻り、夕食までの時間同部屋の仲間たちと談笑していると放送が入ってきた。
ーー第一戦闘部隊育成過程 榊原 悠人 至急学長室まで来ること。 繰り返す。……
「やべっ やらかしたかもしれん」
「お前何やらかしたw 行ってらっしゃい!」
突然の招集放送に悠人は自分が何をしたかかなり深刻に考えを巡らせていたが、同部屋の仲間たちは小馬鹿にするように送り出して来た。
学長室は宿舎の近くある別棟の最上階に位置している。 学長室の入り口は威圧的なオーラを発し、まるで部外者は入らせまいと語りかけているようだ。 この扉を開けるのは、ここ1ヶ月一番緊張したといってもいいほど手に汗を握っていた。
「入ります!! 第一戦闘部隊育成過程 榊原 悠人! 学長より呼び出しを受けてまいりました!」
覚悟を決め、扉を力強く開けると、強面で初老の学長と担当教官上林の2人が待っていた。
「待っていたよ 座ってくれ」
学長からそう言われると、少し緊張が解け、縄の拘束を取られたような感覚であった。
学長は腕を組み机に肘をついてから、試すような目で悠人を見つめて言い放った。
「それじゃ 単刀直入に言おう。 君を教官生に任命しようと思う。」
突然の事に悠人は蛇に睨まれているカエルのような状態になっていた。
ーーいや 待てよ一ヶ月前劣等生だったこの俺が!? おかしいおかしい 教官生なんて名誉なこと俺なんかにできるのか?
学長室にはただ時計の歯車が回る音だけが響いていた。
「どうかな? お前随分頑張ってるし良いかなって思うんだけど」
上林は、思い沈黙を切り裂くべく助言をして来た。
もちろん悠人は学長のお願いとあれば、ぜひこの名誉な役職を担いたいと考えていた。
「……ぜひ ぜひやらせてください!!」
「よし じゃあ君は今日から教官生だ! よろしく!」
悠人は、思い切ってこの重役を担う事にした。
学長室から出るとやっと縄の拘束がとけ、膝から崩れ落ちそうになった。 窓から夕陽が差し込み、先程までの禍々しい学長室の扉は教官生になった悠人を認めるように柔らかい雰囲気を纏わせていた。
つばが半円に近い形をした紺色の制帽。 帽子の前面には新大和帝国軍の紋章が金色で飾られ、朝日に輝いている。 朝日を鏡のように写し、黄金に輝いている黒い革靴。 悠人は右足を堂々と前へ出し、教官生として威厳を示すような面持ちで朝礼場へと向かっていった。
教官生となった悠人は、純分満帆な生活を送っていた。 しかし、そんな平和な新大和帝国を鋭い刃によって切り裂かれる日はそう遠くはなかった。
ーー南アメリカ連合ブラジル帝国 南部
「いやー ブラジル帝国も大きくなりましたなぁ」
「かつて 大アメリカの支配を受けていた国が 南アフリカ大陸を統一するとは夢にも思わないであろう」
連合ブラジル軍ICT本部でいつものようにブラックコーヒーを啜りながら談笑をしているいつもの風景。 そんな中ICT本部室内ではサイレンが鳴り始めた。
「何事だ!」
「何者かによる侵略です! 南部拠点が襲撃されました!!」
「何!? 反乱軍か?」
「未だ敵詳細は不明。」
「急げ 何をしている! お前らはなんのためにいるのだ! 働け!」
ICT本部内はカエルが飛び込んだ池のような状態から一転し、大きな津波のような騒ぎになっていた。
「南部拠点ICTから敵軍と思われる者の画像を入手!!」
「見せてみろ!」
その画像には、まるで人間に肌を全て溶かしたようなただれた何かで身を包み、手には熱して溶かされた鉄のように赤く輝いている刀のようなものを持っていた。 まるで人ではないようだった。 いや これは人ではない何かであることは明白だった。 顔に目はなく、触覚のようなものがついていた。 これを見た職員の数名は気分を悪くし、医務室へと搬送された。
「なんだこの気持ち悪いのは」
「おそらく人外生物かと」
「この写真と南部拠点の現状報告書を各国の長に届けるのだ! 今すぐ そして大アメリカに救援を求め、全世界に停戦するように伝えろ! この人外生物に戦うには、人間同士が争っていては勝ち目はない!」
「承知いたしました!」
ICT職員たちは、各々の重役をこなすべくPCへと向かい懸命に仕事をこなしていた。
その頃大アメリカ帝国では、予想だにしていない状況に対応を追われていた。 帝王は、停戦命令と招集命令を出し、軍や警備隊は南アメリカへと派遣されていた。
ーー新大和帝国
「忙しい中ごめんな 南アメリカで起きた惨事知ってるだろ? あの生物なんなんだよ 綾井なら知ってるんじゃないか?」
「俺はサイバー大隊で中隊長に就いたけどあの生物の正体はわかってない…… ただお前にはあいつらと戦って死んでほしくない そのために俺は今から画像解析を急ぐ。 また生きて会おう」
「そうか 頑張れよ! 生きてあうぞ! 約束な」
悠人と綾井はこの惨事の中でもコンタクトを取りあいお互いの安否を確認しようとしていた。 しかし、お互いここ数ヶ月は忙しく会うことができていなかった。 そのため、悠人はこのまま綾井に会えずに人生が終わるのではないかという不安が心の中で捨てきれずにいた。
ワシントンDCでは、対策審議会が始まろうとしていた。
「それでは もう時期始めよう。
まずこの生物に対して、軍事対抗をする国を決めようと思う。 我々大アメリカと南アメリカ連合はこの生物に対抗する事を決定した。」
大アメリカは議長席に座り、頭におもりを乗せているように俯いる各国の代表者を見回した。
時刻は午前2時を回ろうとしていた。
2時を知らせる議会場の鐘が鳴り響くとほぼ同時に新大和帝国は名乗りをあげた。
「我ら新大和帝国は大アメリカに続こうと思う。」
議会場内には拍手が油で何かを揚げているような音を鳴らしていた。
以降新大和に続き、オーストリア王国、南アフリカ王国などの国が対応国として名乗りを挙げていた。
議会も終わりに近づいていた頃、重々しい雰囲気の議場に、扉を開ける音が響き渡った。
「報告! 南アメリカに発生した謎の生物は午前3時ちょうどに突然消滅し、それらしき生物は全ての場所から消えました!」
「何!?」
南アメリカの南部拠点を侵略していた謎の生物は、まるで存在がなかったかのように消えた。 まるで夢を見ていたかのような光景だったそうだ。
しかし、壊された建物や人は全てそのままであくまでも謎の生命体だけが存在を消したようであった。
議場にいた者たちの頭に乗っているおもりはさらに重くなっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
作者の 安馬内 棋位です!
突然現れた謎の生命体!しかしその生命体は朝になると忽然と姿を消した!? 果たしてこの生命体はなんなのでしょう? そもそも生命体なのでしょうかね!
さて 今回は 地底戦争第弐話人類の危機と題しまして地底戦争シリーズ第3作目をお送りいたしました!
感想やアドバイス 批判 なんでもじゃんじゃんバリバリ書いていってください!!
それでは次作 第参話でお会いしましょう!
作者の安馬内 棋位でした!




