第壱話 妹天使
※注意 本作品で出場する人物、国、地名、財団名などは全て創作世界での話です。 実際の人物、国、地名、財団名とは全くの関係はございませんので、ご了承ください。
午前10:00 「試験始め!」
試験監督がそう言うと皆一斉に問題をめくり、各々のペンを解答用紙の上で踊らせ始めた。
緊張で朝食べたフレンチトーストが口から出てきそうになっていた悠人はこの日、ついに長年の夢を叶えるための試験を受けに来ていた。
3070年新大和帝国(旧日本)は、第5次世界大戦に突入する可能性が高まっていた。
遡る事3000年日本は、交戦権の否定を守っていたがために中華帝国の侵略により領海を多く奪われていた。 そのため、日本は憲法改正に乗り出した。
もちろん日本国内では、大きな論争が起きたが、憲法改正派の内閣総理大臣が当選したため、日本は国名を改め「新大和帝国」とし、天皇を中心とした帝国として、軍事行動をできるようになった。
それに伴い、新大和帝国軍が結成され中華帝国の侵攻に対応した。
これは中華新大和戦争と呼ばれ、歴史に残る大きな出来事となった。
この戦争に勝利した新大和帝国は、中華帝国を植民地とし、軍事国家として名を挙げた。
そして今日新大和帝国は、領土拡大を目指しアジアの征服を目論んでいた。
悠人は、自分の妹がいる国なら守らなければならないという使命を感じ、入隊を決めたのであった。
「やめ!」
試験監督は大きな声で言うと、受験者たちによるペンのダンス会は終わりを告げた。
建物内に協会の大きな鐘の音が響き渡った。
食堂にやってきた悠人は先ほどの試験を振り返っていた。
「いやー むずかったなぁ 過去問と全く違う部分が結構あったよな」
「そうだな 正直この出来なら普通科大隊だな」
悠人とその友人綾井は話していた。
綾井とは入隊を希望する者が入塾する鉄板塾「新大和入隊塾」で出会ったのであった。
気が合う2人は休みの日は一緒に筋トレをするほど仲が良くなっていた。
「お前は何処の大隊志望にした?」
悠人は綾井が何処に入りたいのか知っていなかった。
「まぁ 機械が得意だから、サイバー大隊とか入れたらいいよなぁ まあでもあそこは偏差値72あんな出来では微妙だよなぁ」
そう自信のなさそうにいう綾井の目は、どこか悲しそうな目をしていた。
「お前なら大丈夫だろ 俺は第一戦闘部隊を志望したよ」
悠人はお世辞ではなく、本気でそう考えていた。
「おまっ 第一戦闘部隊って 第一線で戦う部隊じゃないか 怖くないのか?」
「まぁ 怖いけどさ 一番最初に戦って勝ったら かっこいいじゃん!!」
悠人は堂々と答えた。 確かに普通なら怖いと思うだろうしかし悠人にとって妹を守るためなら命なんて軽いもんだ。
「お前 妹のためなんて俺の命なんて うじゅうじゅうじゅとか思ってんだろ」
「お前占い師になれよ」
見事に心中を見破られた悠人は、綾井が人間なのかを疑うレベルであった。
ーー館内に教会の鐘が鳴り響いた。
2人は、遅刻ギリギリに各自の実技試験会場に到着した。
「それでは今から第一戦闘部隊志望者実技試験を開始します。 まず最初に体力テストから始めます。」
試験監督からの三時間強続いた鬼の試験を受験者たちは、必死に食らいついた。
この試験を乗り越えた者たちは皆清々しく凛々しい顔立ちになっていた。
試験から1週間 入隊試験を終えてのんびりとした生活を送っていた中、合否通知が発表された。
「-もしもし 綾井? お前入隊テストどうだったよ」
「受かってたぜ 俺にかかれば余裕だよ」
いつも変わらぬ陽気な声が耳に飛び込んできた。
「俺も受かったぜ 明日から入隊だからなお互い頑張ろうぜ!」
そう2人は言葉を交わし、親交をより深められた気がした。
「榊原! お前やる気あるのか!? なんのために入隊したんだ! やる気ないならとっとと失せろ!」
教官に怒鳴られている悠人。
ー俺ってなんで入隊したんだろう… 何のために生きてるんだっけ…
成績が悪く、結果を出せていなかった悠人は毎日怒鳴られ、虐げられていた。 それによって悠人は自分の存在意義を見失っていた。
2ヶ月前悠人は第一戦闘部隊隊員育成学校へ入学した。
入隊試験では好成績を残した悠人であったが、入隊後生活環境の変化のせいか成績が上手く出せなかった。
いつものように落ち込んで自室に眠り込んでいた悠人に電話がかかってきた。
「もしもし お兄ちゃん? 入隊したんでしょ?最近どう 来週時間できたから遊びにいってもいい?」
それは悠人の愛する妹、華美からの電話であった
「そっか ありがとう 待ってるね」
悠人は蚊が耳元を通るような弱々しい声で答えた。
ああ 妹を守るために入隊したんだっけ… それなのに妹からの電話に何も喜びを感じる事ができなかった。
ああ なんて愚かなのだろうか。悠人は自分を責め、かつては正義だと思って進んできた道を全否定するようになってしまっていた。
1週間後 ここ数ヶ月まともに休みも取れず、連日のストレスから悠人は、道端に落ちている干からびたみみずのような気分だった。
そんな中、第一戦闘部隊隊員育成学校に華美が訪れた。
「お兄ちゃん 久しぶり!! 元気に頑張ってる?」
久しぶりに会った妹は格別に可愛く愛おしかった。まるで白い花の中に一輪のピンク色の花のように群衆の中で目立っていた。
「まっかせろ お兄ちゃんを誰だと思ってるんだ! はっはぁーー」
消沈し切っていた悠人だったが妹のために元気を無理に出していた。 しかし妹に嘘をほとんどついてこなかった人生であったため、悠人は嘘をついている事が申し訳ないと心の底から思っていた。
「そっか 私を守るために頑張ってね!!」
しかしそんな事は一切関係ないというような妹の明るい言葉が返ってきた。
その言葉を聞いた時悠人に、命の水のような者が全身を駆け巡った。
-よし 諦めないで頑張ろう!
悠人はこの負のスパイラルに終止符を打った。
「華美 ありがとう!!救われた!」
華美は何を救ったのかわからず頭にはてなを浮かべていた。 しかしその姿も悠人には天使に見えていた。
おはこんにちばんは! 作者の安馬内棋位です!
最後まで読んでくださいありがとうございます!
いやー シスコンの悠人 そして妹の華美 こんなに愛されてるならさぞかし美人なんだろうと想像して書いております!
さて 前作は第零話で、悠人が中学生の時のお話でした。今作品はその続作 悠人の入隊編を第壱話としてお送りいたしました! いかがだったでしょうか 是非感想やアドバイス書いていただけると嬉しいです!
では次作 第弍話でお会いしましょう!
作者の安馬内 棋位でした!