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ラビの漁夫の利作戦  作者: あ
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ゴリラ誘拐事件

 キラキラと陽の光を反射して輝く真っ青な海と白い街並み。港町として栄え、人々の喧騒とカモメの鳴き声が絶え間なく鳴り響く。

 ルルル王国を出立して北へ歩くこと二週間、その後に一ヶ月の船旅を終えた俺たちは、魔族と人間族の熾烈な戦いの主戦場がある大陸へと到着した。とはいえ、実際に戦場となっているのはこの街から大分離れたところなので、ここは平和そのものなのだが。

 人間族の領地の中でも特に栄えたこの街の雰囲気に当てられたのか、エレンとユーリも陽気な様子で会話をしている。

「やっと着いたわねエルン! これからどうする? 正直ここにくるのは初めてだから今日は観光したいんだけど、どう?」

 ユーリは辺りをキョロキョロと見回しながら、エレンに尋ねる。

「そうですね! 私もなかなか来れない場所なので観光したいです!」

 同様に首を回して周りを観察しながら答えるエレン。

「「おえぇぇぇぇぇぇぇ」」

 俺とリリアも地面に倒れ伏し、くるくると回る世界を見ながら答える。

 今まで転移か空を飛んで長距離を移動していたため、船に乗ったのは今回が初めてだったが、まさかあんなにも揺れるものだとは思っていなかった。途中何度か補給のために寄港したものの、一ヶ月もの間ほとんど海上にいたのだ。目的地についた途端こうなってしまってもしょうがないだろう。

「……あんまりちょうど良いところがなさそうね」

「……あそこはどうですか?」

 船酔いでグロッキー状態の俺とリリアを無視して淡々と会話をする彼女達。

「うーん、どうしようかしら」

「早く決めましょうよー、そろそろお腹が減ってきたんですが・・・・・・」

 時刻は正午を少し過ぎた頃、昼食にはちょうど良い時間だ。彼女達はどうやら昼食がとれる店を探しているようだった。

「お、おい・・・・・・お前達、ちゅ、昼食の前に俺たちをどこか休める場所に・・・・・・」

「そ、そうだよ・・・・・・も、もう限界・・・・・・うえっ」

「どうすれば良いのかしら。うーん、初めて来た土地で勝手やるのも気が進まないし」

「そうですね・・・・・・あ! あの人に聞いて見ましょうよ」

 俺たちの懇願を無視して、そう言うや否や二人はそそくさと駆けだしていく。

 い、いや待って。俺とリリアもう限界だから。ご飯なんて食べられないから・・・・・・。

 そんな俺の声にならない叫びも虚しく彼女達には届かない。そそくさと走る彼女達は、通りかかるいかにも海の男といった格好をしている人に声を掛ける。

「「すみませーん。あの二人海に捨ててもいいですか?」」

 どうやらお昼ご飯の話ではなかったようだ。


「あの二人普通に私達を置いて観光に行ったね」

 俺の部屋へ来るなり、むっとした顔で言うリリア。

 エレンとユーリはあの後、海の男に熱心に諭され、渋々俺たちを宿屋まで運び、うんうんと唸っているにもかかわらず、それぞれのベッドへ放り投げた挙句、あろうことか速攻街へと出かけていった。ちなみに部屋は俺一人とその他三人に分かれている。

 人間嫌いのエレンと魔族嫌いのユーリが一緒に遊びに行くのは、少し嬉しくはあるが、苦しんでいる仲間を放ってどこかへ行くというのはどうなの、と文句を言いたい気持ちが大半だ。

「あーあ、もう夕方だよー。やっと気分が落ち着いて、私もどこかに行きたかったのに……」

 リリアも俺と同意見のようで、適当な椅子に腰掛けながらぶーぶーと文句を言う。

「まあ、あいつらは大分自由人だしなあ」

 俺は読んでいた本を畳み、苦笑しながら言葉を返すとリリアも同じく苦笑する。

「まさかユーリに匹敵するほど自由な人がいるとは思わなかったよ私。エルンってば見た目はすごくしっかりした女の子っぽいのに中身はすっごいちゃらんぽらんだし。昔からあんなだったの?」

 昔のエレンか……。

エレンと出会ったのは俺が九歳の頃だった。あの頃のエレンは常に熊のぬいぐるみを抱えてて、ちょっとしたことで泣く普通の可愛い女の子だったはずだ。それがどうして今は……。

「どうしてああなったんだろうなあ……」

「す、すごく悲しい顔するんだね」

 当たり前だ。昔はいつも俺の後ろをちょこちょこ着いて回ってきて、子猫のような可愛らしさがあったというのに、今では俺を後ろから蹴飛ばして魔物だらけの谷に落とすようなライオンみたいな存在になってしまった。あの時は本当に死を覚悟したぞ。

「あ、あんなアホのことより、ユーリはどうだったんだ?」

 やはり昔からあんな我の強い奴だったんだろうか。

「ユーリも昔は可愛かったんだよね。皆からいじめられて、泣きながらお母さんの胸に飛び込んでたんだよ。・・・・・・それがどうしてああなっちゃたんだろ」

 すごく悲しそうな顔をするリリア。

 こいつも苦労してるんだなあ・・・・・・。

 俺とリリアは残念な成長を遂げた相方の顔を思い出し、しばし暗い雰囲気になってしまう。

「って、こんな悲しい話はやめて何か楽しいことしようよ! あ、そうだ。ねえ、ラボはもう船酔い大丈夫? 大丈夫なら一緒に街を見に行ってみない?」

 俺たちの間に流れるどんよりとした空気を払拭しようとリリアは、質問を投げかけてくる。

 俺は部屋で一人になった瞬間に魔法を使って体調は回復していたので、体は全く問題ないのだが、正直こいつと二人でどこかに行くのは気が進まない。エレンとユーリはかなり性格に難はあるがリリアよりは大分マシだ。

 ここに来るまでの道中、リリアは迷子になり、魔物に食われかけ、山賊に攫われる等、問題ばかり起こしている。エレンとユーリがいたからなんとかなったものの、こんな奴と二人きりで街を歩くなど、どんな面倒臭い事になるか考えただけでも気が萎える。

「すまんリリア。俺はまだちょっと気分が悪くてな、観光は一人で行ってくれ」

「私に死ねと?」

「一体どこに行くつもりなんだお前は」

 大真面目な顔をして言うリリア。一体どうしてこんなポンコツを勇者が勇者に・・・・・・。

「だって知らない街だよ? おまけにすっごく広いんだよ? 私が一人で遊びに行った挙句、迷子になってそのまま餓死するのくらい想像できるでしょ?」

 とんでもなく情けないことを言うリリア。そんなことを自信満々に言われても困るし、裏路地で泣き喚くこいつの姿を容易に想像できてしまい、さらに困る。

 こいつ本当に魔王とまともに戦えるようになるのか?

 じーっと目の前の少女を見て考える。

 細長い手足に小さめの身長。どこにでもいるような女の子にしか見えない。会う前はゴリラみたいな女だったら嫌だなあ、などと想像していたが、これならゴリラそのものだった方がマシだった。

「何? そんなに私の可愛い顔を見つめて。あっもしかして告白? 告白するの? 私のことが好きなの?」

「・・・・・・いや、髪の毛の色はゴリラと同じだなあって」

「ゴリラ!? なんでいきなりゴリラが出てきたの!?」

「お前じゃなくてゴリラと旅がしたかったと、ふと思ってな。・・・・・・なあ、この街に動物園はあるのか?」

「交換する気!? 私とゴリラを交換する気!? 嫌だよ私! ゴリラと交換だなんて! 今後動物園でバナナ食べて寝るだけの生活なんて私・・・・・・バナナ食べて寝るだけ? ・・・・・・・・・・・・バナナを食べて、寝るだけ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねえラボ。動物園行こっか」

 こうして俺たちは街へ繰り出したのだった。


 初めは人間と旅をするなんて死ぬほど嫌だった。

 ラビ様と一緒だから仕方なくついて来たものの、どうやったらラビ様のアホな計画を止められるか、そればかりを考えていた。

 まあ、ラビ様を止めることができずに、こんなところまで来てしまったのだが・・・・・・。

「おお! 美味しい! 美味しいですよユーリ!」

 そんな私は今、ユーリと街の探索に出て、屋台で買った串焼きに舌鼓を打っていた。

 まさか人間族のご飯がこんなに美味しいとは! ラビ様と旅をするまでは虫か何かを焼いて食べるだけだと思っていましたが、意外とちゃんとした物食べてるんですね!

「ふふっ、はしゃぎすぎよエルン。でも確かに美味しいわねこれ。あーあ、魔族ってほんと可哀想。こんなに美味しい物も食べられないなんて。どうせ虫か何かを焼いて食べてるのよあいつら」

 この子はなんて酷いことを言うんだろうか。人格を疑ってしまう。

 心の中ではかなりムッとしたが、今の私は串焼きを食べて上機嫌だし、喧嘩したらラビ様に怒られるから、突っかかるのは辞めておこう。うん、そうしよう。

 私は一心不乱に串焼きにかぶりつく。滴る肉汁で手が油塗れになるが、それが気にならないほど美味しい料理だった。

 港町のメインストリート。たくさんの屋台や店舗が立ち並び、人間族を初めとしてエルフやドワーフなどの様々な種族でごった返していた。

学校を卒業してからずっとラビ様と寒いお城に篭り、たまのお出かけは邪竜の討伐や除霊等の仕事で、人が寄り付きもしないような土地ばかりに赴いていた。だからこんなに人がたくさんいる場所に来るのは本当に久しぶりだ。

 人間族の街というのがかなり癪ではあるが、賑やかなところにいると私の心までウキウキしてくる。

 あーあ、ラビ様も来れば良いのに。

 ユーリと一緒でも楽しいことは楽しいのだが、やっぱり好きな人と街を回ったり、こうやってご飯を食べることに比べてしまえば少し物足りない。

「リリアも船酔いじゃなかったらなあ・・・・・・」

 同じようなことを考えていたのか、ユーリもそんなことを言い出す。

「エルンも残念だったんじゃない? ラボが船酔いで一緒に来てくれなくて」

 ニヤニヤとしながら話しかけてくるユーリ。

 この子は私のラビ様への思いに気付いており、時折こうやってからかったり、気を利かせて二人きりにしてくれたりする。人間族にしてはなかなか気が効く子だ。

「まあそうですけど、ラボはこういうこと一緒にしてくれませんから」

 あの人のことだ。きっと今頃は魔法でとっくに船酔いから覚めて、悠々自適に部屋で本でも読んでいるのだろう。

「そうなの? あいつは女心ってもんが全然わかってないのね」

 口をへの字に曲げながら言うユーリ。

 見た目はお姫様のように上品なので、そんな表情はどことなくちぐはぐな印象を受けるが、元々の顔立ちが抜群に良いせいか、すごく可愛らしい。

「うーん、分かってはいると思いますよ? たぶん」

 言いながら、私の心は少しだけチクリと痛む。

「そうなの?」

 ユーリはきょとんとした顔で小首を傾げながら聞いてくる。

 私には今まで友達と呼べる存在がいなかったせいか、こういった恋愛話をしたことがない。だからこの先の言葉を話すのは初めてだし、気が進まない。というより、絶対に誰にも話したくないのだが。

「どうしたの?」

 無言の私の態度が気になったのか、ユーリは心配そうに私の顔を覗き込むようにして尋ねてくる。

 そんなユーリの仕草を少し卑怯だと思う。そういう風に聞かれたら答えないわけにはいかないじゃないか。

 私は浅く深呼吸をして、覚悟を決めながら口を開く。

「ラボには他に好きな人がいますから。私に気を持たせないようにしてるんですよ」

 ズキリと先ほどとは比にならないくらいの痛み。脳裏には紫色の髪のあの人の姿が思い浮かぶ。

 たまに訪ねてくる彼女にラビ様は私には見せない笑顔を見せる。

 たまに喧嘩をする彼女にラビ様は私と喧嘩する時とは全く違う、真剣な顔をする。

 たまに訪ねてきた彼女が帰った後、ラビ様はすごく寂しそうな顔をする。

 どうして私にはそんな顔を見せてくれないのだろうか。何度も考え何度も同じ結論にたどり着く。

「・・・・・・なんかごめん」

 そんな私の心中を察したのか、ユーリはそれ以上聞いてこようとせず、ただ謝るばかり。

 本当に、人間族にしておくにはもったいない女の子だと私は思う。もしこの子が人間などではなかったら、親友になれたはずだ。

 ユーリの優しさに触れ、少しだけ、ほんの少しだけ私の心は軽くなった気がする。

 いっそのこと、ラビ様が魔王になったあかつきには一夫多妻にしてもらおうと名案が浮かぶくらいには。

「ま、まあ、そんなことより! あの屋台美味しそうですよ! 食べましょう!」

 気まずい空気を払拭するため、私は駆け出す。

 目的は棒にテカテカしたリンゴが刺さったものを売っている屋台だ。

「ちょ、ちょっと待ちなさい! あんたお金持ってないでしょ!?」

 焦りながら、そして少し笑顔で追いかけてくるユーリを見ながら、私はもう少しだけこのままでも良いかと、もう少しだけこの楽しい時間が続けば良いなと、少しだけ、ほんの少しだけそう思う。


『ユーリ・オレンジ様、エルン様。お連れの方々が動物園からゴリラを誘拐しようとしたため、現在勾留されております。至急迎えに来てください。繰り返します――』

 こんな放送を聞くまでの話だが。


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