ルート選択
「納得いかない!」
王都に帰ってきた時にはすでに日は暮れ、戦利品(あっくんの牙。二束三文)を換金し終わる頃には皆お腹がペコペコだった。そこで、ユーリの提案で俺たちの合格祝い兼打ち上げを開くこととなり、酒場に入ったのだが、席についた途端リリアはそんなことを言い出す。
「はあ? 何が」
円形のテーブル対面に座るリリアに対しユーリは口をへの字に曲げて問う。
「ラボとエルンは本当に私たちが気絶した後にあの魔族を倒したの? 起きたら猪魔族がいなくて、なんか牙持ってたけど、そこら辺の動物から取ったんじゃないの?」
「おいおい、何を言ってんだ。俺たちはちゃんとあっくんをぶちのめして、牙を折ったぞ?」
「ラボの言う通りですよ! 大体私たちがあっくんをボコボコにしてなかったら今頃みんな……ラボ以外は天国ですよ!」
さりげなく俺を地獄に落とすな。
「……まあそうかもしれないけど」
少し悔しそうに言うリリア。あっくんで通じるのかよ。
「いや、あっくんて誰よ」
ユーリには通じなかったようで、都合よく改変されたあっくん討伐話が始まる。
「――と、そこで私の渾身の魔法があっくんに炸裂して、無事倒せたのでしたー。ちなみに木っ端微塵になったので死体はありません。めでたしめでたし」
「うう、でもー」
正直ツッコミどころが多すぎる話なのだが、現に目の前にはあっくんの牙があり、魔族と戦って全員無事であるため、俺とエレンの話を信じざるを得ない。ユーリもどこか腑に落ちない部分はあるのだろうが、リリアを黙らせにかかる。
「うっさいわねー、大体戦う前からダウンして何の役にもたってないあんたなんかよりも断然活躍してるんだから文句言わないの」
「うう……」
痛いところをつかれ、リリアはもうこれ以上反論できない様子で項垂れる。
「それで、打ち上げの前に軽く今後について軽く打ち合わせをしたいんだけどいいかしら」
そんなユーリの提案に、俺とエレンが賛成を示したことを確認すると、彼女は鞄から地図を取り出し、テーブルの上に広げる。
六つの大陸の名前に七つの海の名前が記された世界地図だ。
とん、と彼女は一つの大陸に指を立てる。海の上にポカンと浮かぶ大きな島。どの大陸とも接しておらず、ルルル王国が支配する土地だ。
「ここが、今私達が今居る大陸。そしてこっちが・・・・・・」
するするとユーリは地図に沿わせて北東に指を動かし、とある一点でその動きを止める。そこはこの世で三番目に大きい大陸で、俺たち魔族が支配する大陸だ。
「忌々しい魔王の城がある大陸よ。私達の目指すところ。勇者パーティも四人になった訳だし、近日中に旅立とうと思うんだけど」
「え、もう行くの? やだやだやだ、って痛い!」
「うっさい!」
ユーリの説明を遮ったリリアはげんこつを食らう。
「それでね? どうやってここまで行こうかあんた達の意見も聞きたいのよ」
「ふむふむ、ルートですか。正直私はどこからでも良いので、ラボとユーリで決めてもらって良いですよー」
興味がなさそうにエレンは言う。というより本当に興味がないのだろう。そんなエレンの心情を察してか、ユーリはそれ以上エレンに何か言うことはなかった。
「そう、じゃあ、私とラボで話し合うから、あんた達は何か適当に料理頼んどいて。あ、私ビールね」
私の意見は!? などと叫ぶリリアにデコピンをかましてメニューを押し付けた後、ユーリは地図をこちらへとたぐり寄せる。
「それでラボ、あんたの意見を聞かせてもらえる?」
正直、一番楽なルートは俺の領地を通る事なんだが、ちょっと人間には無理そうなルートなんだよなあ。ユーリはともかく、リリアは確実に死ぬ。
俺は地図をじっと見つめて考える。俺には他の四天王の位置や軍の配置その他もろもろの情報があるため、おそらくそこそこ安全なルートを考案できるだろう。
まず第一に避けるべきは他の四天王との接触。こいつらとは同僚に当たるため、いくらぼっちの俺でも、何度も話したことがある。仮面をつけて髪色を変えても、バレるかもしれない。
となると、一番まともなルートは・・・・・・。
「こんな感じの行き方はどうだ?」
俺はするすると地図上に指を這わせていく。
「うーん、確かにそのルートは早いかもしれないけど、四天王がメデスとラキ、二人も居る大陸を通るわよ? それならこうやって行った方が良いんじゃない? これなら四天王はモニカしかいないし」
地図上で指を動かしながら、ユーリは俺の示したルートに難色を示す。
確かに俺のルートでは四天王が二人いる大陸を通るのだが、メデスとラキは仲が悪い。勇者なんて格好の獲物が近くにいたら、手柄を争って喧嘩するだろう。その間に何とかすり抜けられるかもしれない。さらに、その大陸は世界で一番大きい大陸だ。転移魔法の使えないあいつらをやり過ごすのは、そこまで難しいことではない。
ただ、そんな情報をどうやって伝えるか。
ここで、下手に情報を漏らせば魔王軍に多大な被害が出るかもしれない。最悪の場合は俺が魔族だとバレてしまう。
あれ、でもこいつは四天王がどの大陸にいるか知ってるんだよな。だったら……。
「いや、そのルートは四天王最強のラビの領地が近いから辞めた方がいいんじゃないか?」
「え、ラビ? 誰それ?」
・・・・・・え?
「・・・・・・・・・・・・なあユーリ。魔王軍四天王の名前を全員言ってみてくれないか?」
「えーと、鉄槌のモニカに、豪腕のメデス、神剣のラキと、後は穀潰しのザコでしょ?」
「はい最後! 最後なんかおかしいだろ!?」
なんだそいつ。穀潰しなんて四天王にしてる魔王軍なんて、それ全部で五人しかいないだろ。
「まあ確かにそうだけど、人間と交戦した記録もないしどんな奴なのか分からないらしいのよね。で、捕らえた魔族を拷問して聞き出したら、いろんな悪口が出てきたから一番まともなのが選ばれたのよ」
全員口を揃えて俺の悪口を言ってるのか。というより一番マシなのが穀潰しのザコかよ。
もう本当に寝返ってしまおうか、でもそんなことしたら一瞬で魔王に殺されるよなあ、などと考えていると、ユーリはこちらを不思議そうに見ていた。
「何で最後の四天王の名前がラビだって知ってるの?」
「え? えーと、それはだな、あっ、あれだ、今日あっくんに聞いたんだよ」
「はあ? あんたそれを早く言いなさいよ。どこ? そのラビって奴はどこを守ってるの?」
「ここ」
ルルル王国の真南にある大陸を指さす。
「こんなとこで何してんのよラビって奴は! 寒すぎて人間も魔族も近寄らない場所じゃない」
「え、いやー、ぶ、部下とキャッチボールとかしてるって」
「そいつはバカなのかしら?」
・・・・・・だって他にやることないんだもん。
「で? そのラビって奴が四天王の最強なのね?」
「お、おう! 四天王最強でイケメンで器が大きくて将来魔王になるだろうって言ってたぞ!」
「へえ、あんたとは正反対ね」
・・・・・・・・・・・・。
「どこまでが本当なのか怪しいけれど、こんなところで引きこもってる頭おかしそうな奴の近くは通りたくないわね・・・・・・。分かったわ、詳しい道順は追々決めて行くとして、大枠はあんたのルートで行きましょう」
・・・・・・わーい。