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ラビの漁夫の利作戦  作者: あ
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道中

「dさlkmgcdrlkghjsdfk・gなprst@wくぇ」

 左右の腕を交互に天へと振り上げ、奇声を上げながらスキップしつつ、轟々と燃える火を時計回りに回る仮面をつけた男。人族の街の門を出たすぐ側で彼は踊る。人通りの多い朝の時間帯。周囲の人の視線を気にせず、ただ一心不乱に奇行を繰り返す。

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 明らかに挙動がおかしく、誰もが関わりたくなさそうにいそいそと歩を進める中、彼を見つめるのは私を含めて三人の少女。

 ある者は、笑いを必死にこらえながら。

 ある者は、心の底から軽蔑しながら。

 そして私は・・・・・・。

「jごいpせjhg@おえrwhg!!!!!」

 ラビ様の頭が良くなる薬を探そうと決めた。


「あはははははは!!!!! あ、あんた最高!」

 儀式も無事終わり、目的地への道中、ユーリはずっと爆笑していた。

「ちょ、ちょっとユーリ、笑っちゃだめだよ! そういう宗派なんだから!」

 ユーリをたしなめるリリア。

 俺は付けた仮面の下でしめしめと、口角をつり上げる。

 我ながら完璧な作戦だ。魔族と戦う日は、朝に祈りを捧げ、一日中仮面を付ける。そんな宗教上の理由であれば、なんとかなる。

「・・・・・・」

 だからそんなに睨まないで欲しい。

 エレンは不機嫌そうにこちらを見た後、俺の耳元でささやいてくる。

「ラビ様は何がしたいんですか?」

「いや、昨日も話した通り、魔族と会う度に顔隠してたら変だろ? だから、宗教という合理的な理由を付けて、変に思われないようにした」

「踊ったせいで完全にキチガイ認定を受けてますけどね!」

 ひそひそと話をする俺たちに気がついたのか、ユーリはまだ、笑いが収まっていないのか、にやにやとした顔で、こちらに向き直る。

「あんた達面白いわねー。確か、ラボとエルンだっけ? 出身はどこなの? どこであれは流行ってるの?」

「あれは北の方に伝わる邪教です。信者はラボだけなので、流行ってはいないです」

「じゃ、邪教・・・・・・」

 リリアは引き気味につぶやく。

「邪教とはなんだ邪教とは。あれは偉大なるランラン様を称える踊りで、信者は百万人を超える、素晴ら」

「ラボの妄言はここまでにして、お二人の事を聞きたいです」

 昨日徹夜で設定を考えたのに・・・・・・。

 いじける俺を無視して、三人の間では自己紹介が始まっていた。

「私はユーリ。出身は王都よ。ちなみにどこの宗派にも属してないから勧誘は受け付けるわ!」

「あんなのに入ったら絶交だからね? えっと、私はリリアだよ。出身はユーリと同じで、王都だよ」

「へえー、お二人とも王都の出身なんですね!」

 問いかけるエレンに、笑顔で答えるリリアとユーリ。

 魔族の中でも人間族への憎悪を強く持っているエレンが彼女達と上手くやれるか心配だったが、これなら問題なさそうだ。

 女子共がきゃっきゃと騒ぎながら、道中は特に問題もなく、順調に目的地までの行程を消化していく。

どうやら彼女達は子供の頃からの幼馴染みらしい。リリアは十五歳の誕生日を迎えると共に、勇者として覚醒。その後二年間ほど鍛錬を積み、勇者として動きだすために、仲間を募ったのがつい先日。しかし、ユーリ以外の仲間が思うように集まらず、悩んでいたところに俺たちが現れたとのことだ。

「いやー本当に助かったわ。あんた達がいなかったら二人で魔王倒しに行かなきゃいけなかったからね」

 可憐な見た目とは裏腹に、ユーリは王都の魔法学校を飛び級で、さらに主席で卒業したらしい。彼女の言葉や態度には、そういったものに基づいた自信が見て取れた。

「も、元々私は一人で行くつもりだったから」

 そんなユーリにリリアは少しばつの悪そうに答える。

「ええ!? 魔王さ、魔王を一人で倒すつもりだったなんてバカなんですか?」

「倒す気もないのよこの子。勇者なのにすごく弱っちいから。歴代最弱の勇者って言われてるのよ? 大方怖くて、一人で逃げようとしたのね」

「・・・・・・」

 何も言い返せないリリア。

 歴代最弱ねえ・・・・・・。

 少し低めの身長に不釣り合いなほど大きい勇者の剣は彼女には振り回す事などできないのか、腰にはもう一つ、短剣が下げられている。確かに観察すれば、彼女がそこらの戦士どころか、一般人よりも弱そうな事が見て取れる。

「ちなみに弱いってどれ位弱いんですか?」

「剣を使ってやっと一人でコボルトを倒せる位」

 それを聞いたリリアは、俺の耳元でこそこそとささやく。

「・・・・・・弱い。弱いですよ勇者。コボルトなんて武器を使えばひ弱な人間族の小さな子供でも倒せるほどの雑魚に苦戦するなんて。ラビ様、やっぱりここは次の勇者に期待しましょうよ」

「・・・・・・俺は剣使ってやっとスライム倒せるレベルなんだが」

「・・・・・・そうでしたね。本当に、なんで四天王なんですか?」

 本当に、なんでなんだろうなあ・・・・・・。いや、魔法を使えば余裕だよ? ただちょっと近接戦闘が苦手なだけで。というより、他の奴らが強すぎるんじゃないだろうか。

「ねえ、ラビ様? 今回の作戦大丈夫なんですか? 私は魔法が使えないんですよ?」

 そう不安そうに言いながら、エレンは俺の腰に下げられた剣と、自らが持っている杖を交互に見る。

「まあ、大丈夫だろ。お前にだって魔力はあるんだし。しかも結構な量が。俺には及ばんが、大体の魔族より多い。今までは扱い方が下手くそ過ぎただけで、ちゃんと使いこなせれば魔法使いとしても活躍できるはずだ」

 今日の作戦の要は二つ。まず一つは今朝の踊りと仮面。これで事前に魔族と戦う事が分かっていれば、合理的に正体を隠すことが出来る。

 そして、もう一つ。それは、俺とエレンの武器を交換すること。

 俺が魔法を使って、エレンが剣で暴れ回れば大概の敵はなんとかなる。いとも簡単に。ただ、それだけでは魔王を倒すなんてことはできない。ユーリと、なにより勇者リリアの成長が不可欠だ。武器交換で俺とエレンの戦力ダウン。必然的にリリアとユーリの戦う場面が増えて成長を促し、ついでに俺たちも苦手な事を克服するという完璧な作戦だ。

 まったく、自分の才能が恐ろしい。

「ねえ、そういえばラボとエルンは結構旅には慣れてるの? 北の方の邪教に入ってるなら当然そっちの方の出身なんでしょ? ノスとかカイドウとか、結構離れてない?」

「実は私達――」

 俺たちの事について興味津々に質問するユーリとそれに答えるエレン。自然と列は組み変わり、俺とリリア、その後方にユーリとエレンが続く形となった。

「ねえ、ラボ君」

 リリアは手持ち無沙汰になったのか、それともこの機会を待っていたのか、真意は分からないが、俺へ話しかけてくる。

「君はどうして魔王を倒したいの?」

 どうしてか。そう聞かれてしまえば魔王になりたいからとしか言えないのだが、相手は人間族の勇者。そんなことを言ってしまえば異端者としてつるし上げられるのは目に見えている。

「魔王に苦しめられた人々を助けたい。その一心で動く勇者様の心意気に感動し、そんな御方の元で働きたいと思いあな」

「嘘つき」

 まだ最後まで言ってない。

 リリアは俺うさんくさそうに俺を見つめたあと、少しうつむきながらリリアは言う。

「まあ理由なんてどうでも良いんだけどね。ただ、さっきユーリが言った通り私は弱いの。魔王なんて倒しに行きたくない。だから、ラボ君には魔王討伐を諦めてほしいかなーって」

「やだ」

「えー」

「えーって、お前・・・・・・ていうか、魔王討伐に行く行かないとかそんな先の心配するより今日の心配をした方が良いんじゃないか?」

「今日?」

 きょとんとした顔で首を傾げるリリア。

「あのなあ、今日の相手は魔族だぞ? 魔物と違って言葉を話す知能があるし、人間よりも力も魔力も強いんだよ。最悪今日負けて死ぬぞ」

 魔族の俺が言うのも何だが、人間族とは戦闘能力において決定的な差がある。もちろん個体にもよるだろうが、腕力や魔力など基礎的な力が人間族の何十倍もある奴などもいる。

 今回のターゲットがどんな奴かも分からない以上、俺とユーリがいても命を落とす可能性は十分にある。

 そんな俺の心配を知ってか知らずかリリアは暢気に話し出す。

「あー、そのことね。多分大丈夫だと思うよ? ユーリがいるし。エルンちゃんとラボ君もそこそこ旅に慣れてそうだし、強いんでしょ? 三人でかかればなんとかなるんじゃない?」

「お前はカウントに入ってないのかよ・・・・・・」

「だって、怖いし。私本当に弱いんだよー」 

 まったく、コボルトを単体で倒すほどの武勇を持つ勇者様が何を言っているのか。

「安心しろ。俺はもっと弱い。スライムに泣かされるくらい弱い」

「安心できないよ!? ていうかスライムに泣かされるって何? どうやったら泣かされるの!」

「いや、昔知り合いにスライムを食わされてな。知ってるか? スライムって消化されずにそのままち○こから出てくるんだぜ? いやーあの時は痛みで死ぬかと思った」

「そ、そんな変な知識教えないでよ!」

 恥ずかしさのあまり赤面しながら睨み付けてくるリリア。元々の顔立ちがかなり可愛いいせいか、少しドキリとしてしまう。下ネタを言いまくるおっさんの気持ちが少し分かってしまった。昔この話をしたときに「え、ホントですか? ちょっともう一回やってくださいよ」などとほざいたエレンに、爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。

「ていうか、それはスライムに泣かされたんじゃなくて、そのお知り合いに泣かされたんじゃ・・・・・・」

「いや違う俺はスライムに泣かされたんだ。あいつに泣かされたわけじゃない」

「スライムより泣かされたくない人がいるんだ・・・・・・」

 すこし呆れた顔をしながらリリアは言ったかと思うと、はっと何かに気づいたような表情で語り出す。

「ねえ、もしかしてその人ってラボ君の好きな人?」

「・・・・・・一体どんな思考回路をしてたらそんな突拍子もないことを言い出すんだ?」

「あ、図星っぽい。だって、子供でも倒せるスライムに泣かされるなんて恥を背負ってでもその子に負けたくないんでしょ? 好きな子に泣かされるなんて男の子は嫌そうだし」

「・・・・・・」

 正直ズバリと言い当てられてぐうの音も出ない。

「で、その相手はずばりエルンちゃん・・・・・・ではなさそうだね。どんな人なの?」

 またしても、俺の好きな奴がエレンではないことに気づくリリア。俺ってそんなにわかりやすいのだろうか。今まで誰にも気づかれた事はないのだが。

「いや、誰でもいいだろ」

「えー、ケチ」

 そう笑いながら言うリリアに、俺も苦笑しながら返す。

「いや、ケチってお前・・・・・・」

 何の中身もない不毛な会話だったが、俺には心地が良かった。今俺たちがこうしているように、いつか人間と魔族も笑い会える日が――。

「ねえ、リリア! ラボとエルンは毎日エッチなことしてて、今妊娠三ヶ月目なんだって!」

 ――来るのは遠い事を、リリアが俺に向ける軽蔑の表情は語っていた。


「いやーごめんごめん。まさかエルンが嘘を言ってたなんて!」

 俺の背中をバンバンと叩きながら爆笑するユーリ。

 あの後、必死にリリアの誤解を解いた頃には、昼食にはちょうど良い時間になっていたので、俺たちは各々持ってきた弁当を食べていた。ちなみにエレンは嘘を吐いた事について、リリアから説教を受けている。

「そういえば、三歳の子供がいるって本当なの?」

「おーいリリア。そいつもうぶっ殺して良いぞー」

 エレンが「ええ!?」などと言っているが、無視だ無視。

「あはははは!」

 爆笑するユーリ。上品な見た目からは信じられないほど、腹を抱えて笑っている。

「あんた達仲が良いのねー」

 やっと笑いが収まってきたのか、目に涙を浮かべて、そんな馬鹿げたことを言い出すユーリ。

「おい、一体どうやったらそういう風に見える」

「でも、エルンはラボの事を話す時すごく楽しそうだったわよ? 恋する女の子ってこんな感じなのかーって思ったもの」

「楽しそうに毎日ヤってるなどと語る奴がそう見えるのかお前は」

「うーん、普通だったらそうは思わないけど、あの子の場合は本当にそう見えるのよねー」

 笑顔で語るユーリ。おそらくエレンが魔族であると知っていたならば、決してそうは思わないのだろうが、現状は仲良く出来ていて何よりだ。人間嫌いのエレンにしては頑張った方だろう。

「そういえば装備はちゃんと調えてきた? いくら面白くても強くなかったら連れて行かないからね?」

 ふと気づいたように、ユーリはそんな確認をしてくる。

「まあなんとかなるんじゃないか?」

「へえ、余裕そうじゃない。もしかして魔族と戦ったことあるの?」

「まあ、あるっちゃあるが・・・・・・」

 といっても、ただの喧嘩だったり、試合だったりで命のやり取りまではしていないのだが。ただ、ユーリにとっては重大な事だったらしく、身を乗り出しながらながら聞いてくる。

「ほんと!? どうだったの!? 勝った? 殺した?」

 どうやらユーリは魔族に対して強烈な憎悪を抱いているらしい。そんな物騒な言葉を吐く。

 エレンに聞かれたら面倒な事になりそうだ。そう思い、エレンの様子を伺ってみるが、たこ焼きをおいしそうに頬張っている為大丈夫だろう。

「いや、殺してはいないが・・・・・・」

「はあ? ちゃんとぶっ殺しなさいよ。魔族なんてゴミよゴミ。生きてる価値もないうんこみたいな存在よ」

 うわー、怖いよこの人。うんこと会話しちゃってるよー。

「そんなに魔族が嫌いなのか?」

 正直ここまで憎しみを表す奴なんて初めて見た。

「ええ、そうよ。ぶっちゃけ今日のテストだって、私が独断で決めたんだし」

「いや知ってるよ。リリアの意見も聞かずに勝手に宣言してたからな」

 なんとなく昨日の会話からこいつらの関係性を察してしまう。

「まあ、とにかく、今日の働き次第であなたたちを連れて行くかどうか判断するんだからがんばりなさい」

 そうにこやかに言ったユーリは卵焼きの最後の一切れを頬張った。


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