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Phase.98 『何かいる その1』



「とりあえず、以上だ。また定期的にこうやって集会を開くから、皆も何かあれば遠慮なく言って欲しい」


 また各自、寝るまで自由時間に戻る。時計を見ると、もういい時間になっていた。さて、どうするかな。


 丸太小屋の前のウッドデッキに置いてあるクーラーボックスを開けて、その中から酒を取り出した。好きなメーカーのハイボール。おもむろにハイボールの蓋を開けると、一口飲んだ。うん、うまい。


 さてと――


 周囲をくるっと見て回ると、皆も好きな事に時間を使い始めていた。


 未玖は、焚火の前に転がって俺と翔太が持ってきた漫画か小説を読み始めている。傍らには、北上さん達の持ってきたお菓子とジュース。未玖の幸せそうな顔をみて、俺もなんだか幸せに感じる。


 鈴森は改造エアガンなど武器の手入れが終わると、それを片付けてまた何処かに行ってしまった。柵から外には絶対に出るなと言ってあるので、拠点内を見て回るのかも。


 翔太は自分で張った大きなテントへ戻ると、そこで持ってきた大量の荷物を広げて色々となんかやっている。


 大井さんも、未玖と一緒に焚火の前で何か本のようなものを読んだりしながら、俺と同じく持ってきた酒を飲んで楽しんでいた。


 北上さんは……あれ? 北上さんは⁉


「椎名さん」


 いきなり後ろで声がしたので振り返る。北上さんだった。


「な、なに? 北上さん」

「椎名さんは、これから何をするの?」

「え? あー、俺? そうだな……もう夜も遅くなってきたし、明日はまた仕事だからな。もうちょっと何かしたら、もう寝ないとって感じだからな」

「それで?」

「さっき翔太と鈴森が拠点内のパトロールをしてくれたみたいなんだけど、俺もちょっと柵とか見てこようかなってな。今も鈴森がその辺を歩いて見回ってくれているんだけど、未玖と二人だった時には俺がやっていた事だから……気になっちゃって」

「えーー、そうなんだ。じゃあ、それ私もついて行っていい?」

「え? いいけど」

「海はなんか未玖ちゃんと一緒に読書しちゃってるし、私一人どうしようかなって思って。それで椎名さんに声をかけたんだけど」

「そうなんだ。それじゃ、ちょっと歩く? 一応柵の内側だけど、武器も持ってね」


 北上さんは、頷くと腰に差しているナイフを抜いて見せてくれた。


 確か滑車みたいなのがついたコンパウントボウっていうんだっけか……なにやら大きくて凄い弓を持っていたけど、流石にかさばるし拠点内をうろつくだけで物々しい感じがするからか、それは置いていくようだった。


 一番距離のある柵を目指して、北上さんと並んで歩く。丸太小屋やテント周辺は、ランタンやら焚火やらで明るいけどこちら側は月明かりだけ。俺と北上さんは懐中電灯を周囲に照らして歩いた。


 ふと見ると、向こうの方の柵の手前、馬防柵をずらっと設置している所――そこに灯りが見えた。あそこいるのは、鈴森だな。


「ねえ、椎名さん」

「何?」

「私達を仲間に迎え入れてくれてありがとう」

「いいよ。俺達も仲間を募集していたしね。もう知っていると思うけど、鈴森も翔太の友達で頼りになる男だって紹介してもらった。普段はニートらしいから日中もここにいてくれるみたいだし、未玖も安心だ」

「鈴森さん、凄く頼りになりそうだもんね。あんなに武器を持ってきているし、全身迷彩だし」


 北上さんと顔を見合わせて笑った。


「本当に北上さんと大井さんが仲間に入ってくれて良かったと思っているよ。こちらこそ、ありがとうって言いたい。北上さんも大井さんもとてもいい人だし、未玖も他に女の子の仲間ができたから、物凄く喜んでいるみたいだったし」

「確かにそうだね。未玖ちゃん、物凄い勢いでお菓子食べてたから。沢山食べさしても良かったのか解らなかったんだけど、クッキーとか夢中になって食べている姿が可愛くてどんどんあげちゃった。今度は、美味しいお店のケーキを買って持ってきてあげようかな」

「ははは。それはきっと喜ぶよ」


 何気ない話で北上さんと盛り上がっていた。『異世界(アストリア)』にやってくる前までは、こんな可愛い女の子と友達になる事すらなかったからな。ここへ来たのは、本当に俺にとっての転機だったのかもしれないな。


 そんな思いに耽りながら、北上さんと会話を続ける。続けつつも、柵のすぐ手前までやってきて柵に手をかけた。森の方をじっと見る。


 柵のこちら側は、皆がいて焚火があってテントや小屋もあって暖かい。だけどこんな柵一つ跨いだその先、森の中は真っ暗で何やらとても恐ろしい空気が満ちあふれているような気がした。


「ここも特に異常はないみたいね」

「ああ……そうだな。それじゃ、折角だから鈴森の方へ……」


 !!!!


 鈴森のいる方へ移動しようとしたその時、森の中で何かが動いたような気がした。森の中の茂み。


「ど、どうしたの椎名さん? 森に何かいた?」

「うん、何かいる! 北上さん、じっとして!」


 小声でそう言うと、身を少し低くして何か気配のした方をよく見てみる。だが暗くて解らない。


「北上さん、森に何かいる気配がするんだ。でも暗くてよく見えない。だから懐中電灯で照らしてみる。ゴブリンか何かだったら、灯りで照らせば襲い掛かってくるかもしれない。確認したら北上さんは直ぐに、鈴森……そして翔太と大井さんの順で知らせに行ってくれ」

「椎名さんは」

「勿論喰いとめる。それができそうならだけど」


 北上さんが頷いたのを確認すると、俺は懐中電灯を森の中へと向けた。気配を感じた場所。


 するとやはり俺の感じた気配は、本物だったと悟った。だけど、魔物じゃない――灯りで照らし出すと、そこには誰か人が倒れていた。

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