Phase.96 『未玖の畑』
未玖に連れられて、丸太小屋の裏手へ行く。井戸や薬草畑のある方だ。
そこへ行くと、薬草畑の隣にまた新しい畑が2つ並んでいた。未玖は、たった一日でこの作業をやったのか。小規模の畑ではあるけれど、何でもない土地の土を耕して、石やらを取り除いて畑として使えるよう整えるという作業は大変なはずだ。
「これは凄いな!! 一人でここまでできるなんて……本当に凄いよ、未玖」
「え……えへへ」
もじもじと照れる未玖。一応、小説や漫画など暇つぶしのアイテムはなんかしら持ってきてはいたんだけどな。
きっと未玖の事だから、俺達が日中働いているから、自分も何かこの拠点で役に立てる事をと思って頑張ったのだろう。
「それで畑が二つも増えているけど、土がこんもりしている所をみると……もう何か植えてみたんだろ? 何を植えたんだ? トマト?」
「最初にトマトと西瓜を植えようかなって思いました。でも、ゆきひろさんが持ってきてくれた種の入ったバックを覗いたらお芋が普通に入っていたから」
確かに入れた。小学校の時に、理科だったかな? 授業で種芋を使ってジャガイモを育てた。最後には、自分達で収穫して食べてみたんだけど、意外と美味しかった記憶がある。しかも簡単だったんだ。
だからジャガイモとサツマイモを買って、そのままここへ持ってきたんだけど……そうか。
「なるほど。2つの畑は、ジャガイモとサツマイモか」
「はい、正解です。ゆきひろさんが持ってきてくれたお芋さん、とても美味しそうだったんですけど……折角持ってきてもらったから、もっと増やせたらって思って」
「いいと思う。ジャガイモもサツマイモも育てるのは簡単だったと思うから、まず最初に野菜の栽培を始めるのには最適この上ないかもしれない。流石だな」
ポンポンと未玖の頭を撫でて褒めると、未玖は更にもじもじと嬉しそうに顔を赤らめて照れた。そんな未玖を見ていて、ある事をひらめく。
「未玖!」
「は、はい! ど、どうしました? ゆきひろさん」
「この丸太小屋の裏――っていうか、この畑近くに新たに作業場を作ろうか?」
「さ、作業場ですか?」
「野良仕事って言っても、農具の手入れとか色々と作業できる場所があった方がいいだろ? それに収穫物の置き場もいるだろうし、作物の種とか農具とか置いておく小屋みたいなのも欲しいよな」
「え? え? もしかして作るんですか?」
「ああ。直ぐ完成って訳にはいかないだろうけど、今この拠点には俺達含めて6人もいるし――実際にそういうのを作り始めれば、意外とさっと完成するんじゃないかな。勿論、その管理は未玖にやってもらおう」
農具置き場に作業場、収穫物の貯蔵庫。それを作ると聞いて、未玖は物凄く喜んだ。
すっかり未玖は、野良仕事にハマってしまったようだ。本当の事を言うと、俺も野良仕事には凄く興味があった。しかもこの『異世界』で畑を耕して、何かを収穫して暮らすなんてそんな異世界スローライフみたいなこと……凄く憧れる。想像するだけで、なんだか胸が弾む感覚がある。
勿論、異世界ならではの冒険にも出たい。だけど同じように、野良仕事も大変だとは解っているけど魅力絶大だった。
「本当は俺も野良仕事をしたり、コケトリスを追っかけたりしたいんだけどな。一応こんなんでもリーダーだし、拠点の防衛もあるからな。畑の事はとりあえず、未玖にお願いしたいんだけど」
「はい! わたし、やりたいです! もっと畑を耕して色々と育ててみたいです!」
「そうか。それじゃ頼む。作業場や貯蔵庫は、後で皆にも声をかけるから徐々に作っていこう。あと、野良仕事は俺もしたいから、たまにでも手伝わせて欲しい」
「はい、勿論です。いいですよ! 一緒に畑を耕して種を植えて作物を育ててみましょう!」
未玖と和やかに微笑み合うと、薬草畑、ジャガイモ畑、サツマイモ畑をまた眺めた。そしてこれが上手く行ったら次に何を育てようかとか、次はどの辺りに畑を増やそうかなどと話をして盛り上がった。
あと……そう、未玖が今必要だと思う農具など、そう言うのがあれば、もとの世界へ戻った時に『jungle』などネット通販で買って持ってこなければならないので、そういった必要な物も聞いてみた。
まあ必要だと思うものは、後で未玖にメモにまとめてリストにしてもらった方が早いかもしれない。解りやすいしな。
「それじゃ、未玖。皆の所に行こうか。北上さんがカレーを作ってくれているっていうし、食べに行こう。仕事終わってから何も食わないで来たから、いい加減腹が減って」
「はい、それじゃ行きましょう」
丸太小屋の正面、焚火場所に行くと皆集まっていた。翔太と北上さんと大井さんの3人は、焚火の前で作ったカレーと炊いている米の様子を見ている。
鈴森は自分で作ったウッドチェアに座って、持ってきている改造エアガンの手入れをしていた。
翔太が俺と未玖に気づいて手を挙げる。
「おっ、腹が減ってやってきたな。ユキー、今日はカレーだぞ」
「それもう言った。それにこのカレーは私と海で作ったんだからね」
北上さんはそう言って、翔太の肩を軽く叩いた。「おっと、いけねえ」みたいな感じで、舌をペロっと出す翔太。なんだよそれ、昭和のギャグかよ。
しかもそんな寒い翔太のギャグに気づいているのは、俺と未玖だけ。未玖は、恐ろしいものを見てしまったとでもいいたげな顔で翔太を見ている。ははは。
北上さんと大井さんが、俺と未玖に向かって手招きした。
「さあさあ、お米も炊けたよ。二人ともこっちに来て坐って食べよう」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
北上さんと大井さんの間に俺と未玖が座ると、のけ者だと言って翔太も割り込んできた。
邪魔だと言って翔太を押し出そうとしても、全力で抵抗してくる翔太。その光景を見ていた皆の笑い声が、辺りに広がった。




