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Phase.95 『DIY』



 日付は変わり水曜日。


 いつものように『異世界(アストリア)』で朝を迎えると、俺達は往生際悪く嫌だ嫌だと駄々をこねながらも、もとの世界へ戻った。会社に出勤する為だ。


 俺達の拠点には、未玖の他に鈴森を残した。俺はまだ鈴森孫一という男の事を何も知らないけれど、翔太が信頼できると言ったので、俺は鈴森に未玖を任せる事にした。


 鈴森は真顔で了解してくれた。


 未玖は、俺が持ってきた野菜の種を撒くための畑を耕したいと言っていたので、日中に丸太小屋から出てもいいかと鈴森に聞いた。鈴森は、自分の目の届く範囲であれば守ってやれると言っていたので、それを未玖に伝えた。


 そんなこんな後ろ髪を引かれる思いで、拠点を後にする。





 俺、翔太、北上さんと大井さんが、再び『異世界(アストリア)』に転移し拠点に戻る頃には19時半位になっていた。


 やっぱり定時が18時だと、どうあがいてもこれ位の時間にはなってしまう。今の仕事は惰性で続けているだけだし、生活の為の稼ぎっていう問題がなければ完全に会社を辞めて、長野さんみたいにずっとこっちの世界中心に生きていくのになと思った。


「ゆきひろさーーん!」

「ユキーー!」

『椎名さん!!』

「椎名、帰ってきやがったな」


 皆が出迎えてくれる。これはこれでなんだか恥ずかしい。だけど、まったく嬉しくないと言えば嘘になるかな。


 しかし翔太の家も、それ程会社から離れていないと言っても、北上さんや大井さんもかなり早い。確か、住まいが中野区だったっけ。中野なら高円寺の隣だもんな。羨ましい。


「ゆきひろさん、ちょっと見て欲しいものがあるんです!」

「ユキー! ちょっと来てくれ! 孫いっちゃんからの提案なんだけどよ」

「椎名君、お疲れ様―。未玖ちゃんがカレーが好きだって聞いたから、今日は私と海でカレーを作ってみたんだ。クリームシチューもいいかもって思ったんだけど、それは次回作ってもいいしね。とりあえず、もうできたから味見をして欲しいんだけど」


 まるで、マシンガンで撃たれたみたい。


「うわーー!! ちょ、ちょっと待って! 今到着した所だから。ちょっとだけ休ませて。それから、一人ずつ話を聞くよ」


 リーダーに任命された時は、そりゃ嬉しかった。でもなってみて思うのが、人をまとめるのって結構大変なんだなって思う。


 俺は昔から、リーダーとかそういうのになれるような人間ではなかったし、なった事もない。だから戸惑いだってある。


 だけどここで上手くやっていく為にはリーダーはいる訳だし……俺が皆の望むような感じにやれるかは正直自信がない。でも努力はするし、真面なリーダーにならなくちゃなと励んでいる。


 丸太小屋の正面、今ではそこに日光や雨除けになる大きなタープが張っているけど、そこに見慣れない物があった。


 大きめのウッドテーブルにウッドチェア。丸太小屋の中にあった物とは比べ物にならないくらいチープで、如何にも初めて作った手作り品って感じだけど……だけど味がある。いったいこれは……


「どうだ? 俺が作ってやった」

「え?」


 鈴森だった。


「朝、お前らが会社に行った後、ずっと俺は警戒して拠点を守っていた。だがな、結構のんびりした穏やかな時間が続いていたんで、ちょっとここにある木材なんかを使って作ってやったんだ。見た目はちょっとアレだがな、ちゃんと使えるぜ。試しに座ってみろよ」


 そ、そうなんだ。意外だなと、鈴森の顔を見る。


 鈴森が言ったように座ってみると、これはこれで中々良かった。しかも手作り特有の味がある。でもこのデカいテーブルに椅子が6脚か。


「確かに座ってみると、案外いいな」

「案外は余計だ。素晴らしいと付け加えろ」

「椅子が6脚って事は、俺と鈴森と翔太、それに未玖に北上さんに大井さんって事か。よく一日で作り上げられたな」

「お前らが行った後、凄まじく時間があったからな。未玖と何かしようと思ったが、畑を作るのに夢中だったようだし、俺も一緒になって畑を耕してたら見張りが手薄になるしな。DIYなら一人でできるし、見張りしながらのんびりとマイペースにできるかなと思ってな。気が付いたら、テーブルと全員分の椅子が完成していた訳だ」

「いいな、これは。これから何か皆で話し合う時とか、ここに集まってするとかいいかもしれない」


 思いつきでそう言ってしまったのだけど、そう聞いた鈴森は真剣な顔で考え込みだした。


「あの……鈴森?」

「いや、ちょっと待て。とりあえず、暫定でって事でいいか?」

「ざ、暫定? なんだそれ?」

「今、椎名が言ったろ? 今後何か話し合う場合にここに集まって、俺の作ったこのテーブルと椅子セットを使用するって。それならもっといい物を作らなくちゃいけない。これはまだプロトタイプだからな。だからこれはそれまで使ってもいいが、暫定でって事だ」

「あ? ああ、も、勿論いいよ。じゃあそれで頼む」

「任せろ! 武器の手入れや、他にもやらないといけない事は山積みなんだがな。かまわんさ。これは明日から忙しくなってきたぞ。まあ、俺ほどの者なら見張りとちゃんと両立もできるがな。フハハハ」


 さっき、日中のんびりしてたからDIYを始めた的な事を言っていたのにと思った。でも皆の為に何かやるって事は、とてもいい事だ。鈴森にはこのまま頑張ってもらおう。


 周囲を見回す。ここに、未玖はいない。今度は未玖の様子を覗きにいってみよう。


 未玖のいる場所はきっと畑だ。さっき会った時に、俺に見て欲しい物があるって言っていたけど、何か成果があったのだろうか。

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