Phase.93 『甘いもの好き』
――――火曜日。
「じゃあ、本当に任せてもいいんだな? 孫いっちゃんを信じるぞ俺」
「未玖の事は俺に任せろ。魔物? 俺がこの拠点にいるからには、未玖に指一本触らせやしない。だから4人ともさっさとあくせくと働いてこい」
翔太の言にイラっとして答える鈴森。だけど、この強気な性格はなんだか心強い。
「じゃあね、未玖ちゃん。仕事終わったらまたすぐにここに戻って来るからね」
「魔物が出たら、鈴森さんをおとりにして丸太小屋に避難してね」
「……は、はい」
「おい!!」
北上さんと大井さん。大井さんのジョークに、すかさず鈴森が突っ込んだ。大井さんって会社じゃ大人しい感じのイメージだけど、結構こんなジョークを言ったりするんだな。俺も未玖に言った。
「じゃあ行ってくる。直ぐに戻るから」
「は、はい。早く戻ってきてくださいね」
未玖の頭をポンと撫でた。その光景に翔太はうんうんと頷き、北上さんは未玖のその様子にデレデレになってしまっている。
さあて、それじゃ出勤しますか!!
俺達4人は拠点に未玖と鈴森を残して、草原地帯にある女神像に移動しもとの世界へ戻った。そう会社に出勤する為に。
こうなってくると、もうなんだか抑えられない気持ちになってくる。早く週末にならないかな。
出社し、仕事をこなす。昼食は今日はラーメン屋に行った。しかも、北上さんと大井さんも加えて四人で。
どうも口を開けば嫌味の山根が、北上さんと大井さんを昼食に誘おうとしていたらしく、俺と翔太と昼ご飯に行くと断られた山根は呆然としていた。ざまあみろだ。
人に優しくされたければ、まず自分が人に優しくする事だ。今からでも山根はそれを学ぶがいい。そんな偉そうな事を思ってしまった。翔太はそんな俺の心の中を呼んでいるのか隣で、うんうんと頷いている。なんだこいつ。
ラーメン屋に行った後、喫茶店に入る。もちろん4人で入った。終始お喋りに花を咲かせ、内容は『異世界』の事ばかり。
昼食を終えて仕事に戻ると、再び耐えて夕方に――
退社時間になると、翔太と北上さんと大井さんに、向こうでまた合流しようと約束をして帰宅した。
帰る途中、色々とまた買い物。家に着くと、注文していた追加の有刺鉄線や着替え、食糧や必要な物等が届いていたのでそれを纏めると『異世界』へ転移した。
――――拠点へ戻ると、既に皆集まっていた。もう皆、ノリノリじゃないか。
最初は、ここは丸太小屋と井戸だけだった。草もボーボーだったし。だけど今は、活気があっていい。不思議な事に、俺にとって物凄く落ち着く場所になっていた。
特に平日は会社があるから夜からしか参加できないけれど、真っ暗で肌寒いはずなのにここは、今は来ると暖かみを感じる。きっと、未玖や翔太に鈴森、北上さんや大井さんがいるからだろうと思う。
「ユキー、やっときたかー!!」
「おう、やっときたぞ!」
翔太と鈴森は、自分達のテントの前で二人何やらごそごそとやっている。鈴森の座り込んでいるシートの周りには、いくつものエアガンが並べられている。更にボウガンやボウガンの矢――いくつものナイフ。
「随分とものものしいなあ。これは全部、鈴森が持ってきた武器か?」
「ああ、俺のだ。とりあえず……って感じでこっちの世界で使えそうな奴を見繕って持ってきたんだがな。ひょっとして駄目だったか?」
「い、いや。別にいいよ。鈴森はミリオタなんだろ? しかもこんなにエアガンも持ってるんだし、今更人に向けないようにって注意しなくても当然解っているだろうしな」
「当然だ」
「とりあえず、鈴森は俺達の中で一番戦闘力高そうだからな。しっかりとこの拠点を守って欲しい」
「任せろ。俺がここへ来たからにはもう大丈夫だ。ゴブリン? そんなの俺が殲滅してやるからな。フハハ」
そう言ってエアガンをいくつか手に取って立ち上がる鈴森。翔太も一緒に立ち上がる。
「とりあえず、ユキーは未玖ちゃん所に行って来いよ。俺と孫いっちゃんは、これから柵の周りを異常が無いか見てくるよ」
「そ、そうか、解った。くれぐれも勝手に柵の外には出るなよ。いくら鈴森が自信があるからと言っても、駄目だぞ。どうしてもそうしたい理由がある時は、まず俺に言ってくれ」
「解ってるって。それじゃ孫いっちゃん、パトロールに行こうぜ」
「了解だ」
鈴森は本当にここへ来てから楽しそうだった。ずっと薄ら笑いをしている感じだ。
翔太が鈴森の事を性格に難があるって言っていたけども、ミリオタで戦闘が大好きな感じがするだけで、なんだかとても心強い感じ仲間ができた感じだ。
パトロールに出かける二人を見送り、俺は丸太小屋の近くでタープを大きく張った場所へ移動した。なぜそこに向かったかというと、焚火がメラメラと燃えていて人の声もするからだ。
近づいてみると、北上さんに大井さん……そして未玖もいた。3人で何やらお茶をしながらお菓子を食べてお喋りしているようだった。北上さんがまず俺に気づくと声をあげた。
「あーー!! 椎名さん!! やっときたーー、遅いよー」
「え? あ、うん。皆が早いんじゃないかな」
「椎名さんも女子トークに入る? もしくは、何かする事があれば言ってくれればやるよ」
大井さんも北上さんの意見に賛成しているのか、頷いている。未玖は、必死になって北上さん達が持ってきた美味しそうなクッキーなどを貪っていた。未玖……と言うか、女子は甘い物に目がないからなー。
「いや、何かあったら言うから……今日は皆、各自好きに過ごしてくれ。だから今日の所は、晩飯も各自で思い思いにとろう」
「うん、解った。それじゃ未玖ちゃんの分は私達が用意するから。いいよね?」
「もちろん。ありがとう、北上さん、大井さん」
二人はにっこりと笑う。それにしても、いい感じの女子が仲間に入ってきてくれたなと思った。
未玖は、変わらず夢中になってクッキーを食べていた。




