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Phase.92 『大井さんの願い』



 晩御飯は米を炊いてカレーを作った。レトルトカレーでなく、ちゃんと野菜と肉を入れてルーを投入して作るカレー。


 時間も時間だし、カップ麺か何かでもと思っていたけど、北上さんと大井さん達が食材を持ってきてくれたのだ。しかも6人もいると作業が早い。これが仲間のいる強みの一つだと思った。


 意外な事に鈴森は、酒があまり好きではないらしい。そんな訳で俺と翔太と北上さんと大井さん、4人で酒を楽しむ。


 カレーを食べながら、新しく今日ここへやってきた3人の自己紹介と、俺と翔太の事、そして未玖との出会いやこの拠点についての事などを話した。


 北上さんと大井さんは、すっかりと未玖の事を気に入ってしまって、ずっと未玖にくっついていた。未玖はかなり動揺しているようだけど、逃げはしないのでそれ程嫌ではないんじゃないかと思った。


 俺と翔太、二人のおじさんだけじゃ年頃の女の子の未玖にとってつらいかなと思っていたので、北上さんと大井さんがここへ来て俺達の仲間になってくれたのは、かなりありがたく思った。


 食事が終わると、北上さんと大井さんは大きなテントを張った。かなり大きなテント。そこで未玖も入れて3人で寝るらしい。安全を考えると、丸太小屋で寝た方がとも思ったけれど、未玖も嫌じゃなさそうだったし親睦を深める事はいい事だから、二人に未玖をお願いした。


 ――――腕時計を見ると、もう1時を回っていた。


 俺は井戸の方へ行き、歯を磨くと丸太小屋に移動して眠る事にした。翔太と鈴森は焚火の前でまだなにやら楽しそうに喋っているようだったので、明日も仕事だぞと翔太を脅して眠りについた。


 




 ――――翌朝、5時半に目が覚める。いや、流石に眠い。だけど6時過ぎにはここを出てまたもとの世界の生活に戻らなくてはならなかったので、起きる事にした。


 丸太小屋を出て井戸の方へ行き、顔を洗う。空を見上げると明るくなってきている。はあ、このままこの世界にいたいな――そんな事を呟くと小屋に戻って、カセットコンロと鍋を用意しそれを使って珈琲を入れた。


「うん、美味い」


 珈琲を片手にウッドデッキに腰かけて黄昏ていると、向こうから誰かが近づいてきた。大井さん。


「おはよう、椎名さん」

「おはよう、大井さん。大井さん早いね、一緒に珈琲を飲む?」

「いいわね。それじゃ頂いていいかしら?」

「ちょっとここで待ってて」


 マグカップを出して、大井さんの珈琲を入れた。彼女に手渡すと、一緒にウッドデッキに座って早朝の珈琲を楽しんだ。


「ありがとう」

「え?」

「私と美幸を、椎名さんのこの拠点に迎え入れてくれてありがとうって」

「ああ、そう言う事。いいよ別に。俺や翔太や未玖も、大井さん達がここへ来てくれて喜んでいるよ」

「そうなんだ、そう言ってくれると嬉しい。それと、お願いがあるんだけど」

「お願い? 何?」

「昨日の夜、未玖ちゃんが寝ちゃった後もちょっと美幸と話していたんだけど、私と美幸を椎名さんの仲間……『勇者連合(ブレイブアライアンス)』って名前のクランだよね。そのクランの正式なメンバーに入れて欲しいなって思って」


 『勇者連合(ブレイブアライアンス)』。名前を決めた時は、かっこいいと思ったんだけどな。こんな感じで言われるとなんか、中二病全開って感じで恥ずかしい。でも佐竹さん達も『竜殺旅団』とか名乗っていたしな。こんなものだろうか。


「それは俺達も嬉しいし、願ったりだけど大井さん達は『幻想旅団(げんそうりょだん)』ってクランに入っているんじゃなかったっけ? 掛け持ちになるって事だよね、それって問題にならないのかな」


 大井さんは、珈琲を一口飲むと俯いた。


「美幸が言ったと思うけど、その『幻想旅団(げんそうりょだん)』のリーダーがちょっと嫌な人で……それで辞めるって言ったんだけど、なかなか辞めさせてくれなくて」


 そういう事か。なんとなく、理解した。


「椎名さんも秋山君ともそうだし、秋山君が連れて来た鈴森さんって人ともうまくやっていけそうだなって思って。それに未玖ちゃんは物凄く可愛い子だし。未玖ちゃん、もとの世界へ戻れないし、例えそうでなくても戻る気も無いって言っていたわ。私も美幸も、未玖ちゃんの力になりたい。それに『異世界(アストリア)』でもっと冒険を続けて、この世界の事をもっとよく知りたい。だけどあのクランじゃこれ以上上手くやっていけないし、だからといって二人だけでじゃ危険すぎるし」


 俯いていた大井さんは、急に顔をあげると俺の顔をじっと見つめた。北上さんも綺麗な人だけど、大井さんもとても綺麗な人だと思った。


 もといたクランのリーダーっていうのは男なのだろうか? だとしたら、二人を引き留めたいっていう気持ちも少しは解るかもしれない。


「私、人が死ぬのを見た」

「え?」

「私と美幸の目の前で人が死んだの。同じクランの仲間だったんだけど、魔物に襲われて殺された。私達はその時散り散りに逃げて助かったけど……それから一週間程、眠れなくなって『異世界(アストリア)』からも離れた。凄く恐ろしくなって……でも、無理だった。この世界に魅了された私と美幸は、またこの『異世界(アストリア)』に戻って来たの。やっぱりこの世界から離れられない。でも仲間がいないと私達だけじゃ……」


 俺は、大井さんの肩に手をポンと置いた。


「俺や翔太……未玖は大井さん達をいつでも歓迎するから。正式なメンバーになりたいって言うのなら、それはそれでぜんぜん俺達も嬉しいよ。俺達のクランにようこそ、大井さん」

「ありがとう!! 椎名さん!!」


 大井さんはそう言っていきなり、俺に抱き着いた。あまりの予想外の展開に俺はつい「ひゃっ!!」っと情けない声をあげてしまった。大井さんは慌てて俺から離れると、大笑いした。


 そしていつの間にか起きて傍までやってきていた北上さんと未玖が、何事かと慌てて俺達の方へ駆けてきた。俺と大井さんは、頭を摩りながら言い訳をして二人の誤解を解いた。

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