Phase.91 『初お目見え』
先頭に俺と翔太。その後ろに北上さんと大井さん。一番後ろに鈴森と、フォーメーションを組んで真っ暗な森の中を歩いた。
懐中電灯で辺りを照らす。流石というべきか、全員ちゃんと懐中電灯を持参してきている。5人で固まって歩いていると、心強さが尋常じゃなかった。いつもは、1人か翔太と二人だけで歩く道。
森を抜けると、俺達の拠点が見えた。北上さんと大井さんは、おおーーっと声をあげて驚き、鈴森も目を見開いている。
「こ、ここ、ここがお前達の拠点なのか……」
「ははは、驚いただろ孫いっちゃん! ここが俺とユキーと未玖ちゃんて子の拠点さー。さあ、入ろうぜ」
…………?
あれ? おかしいな。いつもなら、ここで丸太小屋から未玖が飛び出してくるんだけど……
ま、まさか俺達のいない間に何かあったか? でも周囲を見渡してみても柵にも異常はないように見えるし、敷地内も特に荒らされていない。
「椎名さん、秋山君! あそこに魔物が!!」
「な、なんだと⁉ 魔物!!」
柵を抜けると北上さんの指さした方を見る。魔物が拠点内にいるって事はやっぱり……っと思ったら、北上さんが指したのは俺と未玖で捕まえたコケトリスだった。翔太が溜息をついて説明した。
「あれは俺達がここで飼っているコケトリス。害はないよー。間違ってその厳つい弓で射殺したりしないでくれよ」
「コ、コケトリス……そんなものを飼っているなんて……私達なんて、普通に冒険の旅をしているだけだけど、椎名さん達は凄い事をしているのね」
「ああ、まあ……でもそんな事よりも――未玖!! 未玖いるかーー!! 俺だ!! 帰って来たぞ!!」
大声で呼びかける。すると、丸太小屋の扉が少し開いた。隙間から未玖の顔が見えた。こちらの様子を見ている。
はあーーーー。
俺はそれを見て安堵の溜息をついた。なんだ、北上さん達を連れて来たから隠れたんだ。そう言えば俺や翔太にはすっかり慣れてしまって忘れていたけど、未玖は相当な人見知りだった。
「だ、誰あの子!! 可愛いーー!!」
北上さんと大井さんは未玖を見つけるなりそう言った。丸太小屋に近づいて行く。俺は二人……というか鈴森にも未玖を紹介した。
「俺と翔太の仲間、菅野未玖だ。とてもいい子で、ああ見えて頼りになる。俺も一度ゴブリンに殺されかけたけど、あの子に助けられた」
「可愛いーー!! 未玖ちゃん!!」
未玖の方へ走っていく北上さんと大井さん。未玖は驚いて丸太小屋の中へ逃げ込んだ。だけど二人も未玖を追って丸太小屋に入って行く。未玖の悲鳴。翔太が笑い転げた。
「あはははは。俺達のマスコットキャラが大人気だな」
「お、おい。マスコットキャラなんて言ったら、未玖に怒られるぞ。そんな事より、もういい時間だ。晩飯にしようぜ。鈴森も手伝ってくれ、まず焚火を熾そう。この人数なら3人と3人に別れた方がいいだろうが、焚火は近い場所で二カ所作ろう」
「わ、わかった。に、荷物は何処に置けばいい?」
「それなら自由にしてくれていい。だけど柵の外は駄目だ、魔物が出るし危険だから。敷地内なら、何処でも置いて好きにしてくれていい」
俺は佐竹さん達に、手伝ってもらって作り上げた3つある小屋のうちの一つを指さした。
「とりあえずあの小屋、使っていいからそこで寝泊まりしてくれていい。あとさっき秋葉原のバニーズでこれまでの事を話したつもりだけど、この拠点は一度ゴブリンに襲撃された事もある。柵の内側にいても、武器は携帯するようにしてくれ」
「ああ、了解した」
鈴森はそう言って使っていいと言った小屋に入り、大量の荷物を置くと暫くして物々しい姿で再登場した。
長めの髪を後ろで縛って迷彩服に身を包み、俺のようにナイフを腰にいくつも差して携帯している。そして銃⁉ 銃も持っているが……
驚きを隠せず鈴森の姿を見て仰天していると、翔太が笑った。
「孫いっちゃんは、ミリオタなんだよ。知り合ったネトゲもFPSゲームだしな。孫いっちゃんの持っている銃は、皆エアガンだよ」
「な、なんだエアガンか」
ホッとしたのも束の間。俺と翔太の会話を聞いた鈴森は装備したホルスターから銃を抜くと、近くに転がっていた薪を撃った。
すると木片が舞い散って、薪に弾丸がめり込んでいだ。驚き固まっている俺と翔太に、鈴森は不敵に笑ってみせた。
「フフン。エアガンと言って改造銃だ。本物には程遠いが、十分に殺傷能力はあるぞ。弾もサバゲーで使用したりするスポーツ向けのBB弾じゃなく、スチール製だしな。空缶なんて簡単に両面貫通するぞ。あと、正確に言うとガスを使用して弾を飛ばすガス銃だ」
これはなんというか、とても頼もしい。もとの世界なら完全に銃刀法違反だし危ない奴かもしれないけれど、この『異世界』じゃとんでもなく心強い感じがする。
「あとボウガンも持ってきている。ボウガンも今じゃ銃刀法違反になるし、通常販売されていないものだが……なぜか俺の家にはある。それを持ってきた」
「なるほど、これは心強いな。まあそれでも魔物は危険だ。十分注意して欲しい。それじゃ、晩飯の準備をしよう」
ようやく焚火の起こして晩御飯の支度をし始める。すると丸太小屋から未玖を挟んで、北上さんと大井さんもこちらにやってきた。
未玖の表情はなんだかちょっと引きつっているけど、北上さんと大井さんはニッコニコ。未玖も北上さん達と仲良くなれたようで良かった。




